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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Beginning time/5

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 電気という技術が外国から最近きたが、まだまだ普及率は低く、国の役所街だけだった。

 休憩室のすぐ隣にあるタバコの自動販売機の前で、国立はジーパンのポケットから皮の小銭入れを出した。

 無造作にお金をつかみ、ジャラジャラと硬貨投入口に入れてゆく。購入ボタンが赤く点灯し、野郎どもがよく口にする銘柄をつぶやく。

「赤マル。セッタ……どれでも一緒だろ。葉巻には敵わねぇぜ」

 カタンと出てきたタバコの箱を取り出し口から引き上げた。

 不思議と人が通らない治安省の広い廊下。窓際に斜めにもたれかかるのは、二メートル近くもあるガタイのいい男の体。映画のワンシーンみたいに男のロマンを語った。

 斜めに寄り掛かったまま、タバコを手に持ったまま、シガー用のジェットライターを葉巻と同じ要領で近づけた。そこではたと気づき、

「……葉巻と違って、口で吸いながら火ぃつけんだよな」

 タバコを口にくわえて、ライターの炎をその先端へ合わせるのに慣れない神経を使う。イラッとしながらも何とか火がついた。

 口の中でくゆらせる。肺に入れずそのまま吐き出して、国立は激しい後悔に襲われた。

「いつ吸ってもまずぃな。プラスチックみてえな味しやがる。葉っぱのうまさ半減だっつうの」

 あまりにもひどい代替え品を前にして、まったくリラックスできないでいた。人工的な匂いと味に侵されてしまった、口内を洗浄しようとする。

「甘いもんほしいな……」

 長い廊下なのに、未だに誰ひとり通らない。不自然なくらい静まり返った、誰もいない休憩室。

 締め殺される人がもだえ苦しんで、爪で引き裂いたような破れがあちこち目出つソファー。それを背にして国立は陣取った。

 ポケットからコインケースを再び出して、ブルーグレーの鋭い眼光が向けられる。

「……小銭、さっきのでオール使っちまったぜ」

 理不尽な理由で、能力もまったく活かせない仕事へいきなり回された。霊感のない自分にはどうすることもできない案件ばかりが、毎日舞い込んでくる。

 誰も事件だと思うこともなく、事故だと判断し、解決責任など同じ寮の人間は誰も持っていない。

「墓標建てられちまったぜ。何でこんな機関があんだ? この国は宗教国家ってか。洒落しゃらくせえ……」

 うなるように吐き捨てると、ストレスでトゲトゲしている、心はとうとうリミットオーバーした。国立は口の端をにやりとさせ、へどが出るというように、

「ここもかよ!」

 吠えるように言って、慣れた仕草で自動販売機へジーパンの長い足で、回し蹴りを見事に決めた。

 ドガーン!

 衝撃でへこんだ自動販売機から、カラカラと缶がひとつ転がり出てきた。無償で手に入れたオレンジジュースを手に取って、胡散臭そうに眺める。

「天のお恵ってか? オレはそんなん信じねえ――!」

 視線を感じて、手のひらでポンポンと投げていた缶を握りしめた。

 衣擦れや人の話し声は聞こえない。それでも、こっちを見ている。それはわかる。日頃の生活の中で感じる視線と一緒だ。

「誰かいんのか?」

 くわえタバコのまま後ろへ一歩あとずさり、遠近法を感じるほど長い廊下を眺めた。

 人ではない何かに、空間を切り取られてしまったような、薄気味悪い静寂が漂うだけ。

「気のせえか……ん?」

 今度は反対側から、人の気配というか、やはり視線を感じた。国立はそっちへ素早く顔を向けるが、不自然なほど静かな廊下が広がるだけ。鋭いブルーグレーの瞳には誰も映っていない。

 しかし、人混みの中で自分にたくさんの視線が集中しているような感覚があった。

 実態のない得体の知れないもの。国立はタバコを灰皿の上にポイッと投げ捨てた。

「また、オレの目がおかしくなってんのか? 誰もいねえのに、何か感じるっつうのは……霊感? なかったもんが急に出てくるってあんのか?」

 神経を研ぎ澄ましてみると、何も聞こえないどころか、

 キーン……。

 耳鳴りみたいなとがった音が広がってきた。

 キーン、キーキー……。

 ひとつが鳴り終わらないうちに次、次。

 キーキーキー……キ、キ、キ、キ……。

 その次、そのまた次……その音で、自分という輪郭がかき消されてしまうような不協和音。

 もし今ここで何かが起きて、自分が死に陥れられたとしても、誰も気づかないだろう。それどころか、自身が存在していたことも、人々の記憶から抹消されてしまう。

 本当の闇に葬り去られるような人気のない廊下――。

 それでも、野郎どもに慕われる兄貴はひるむことなく、鋭い眼光をあちこちに向ける続ける。

「一体何人いやがんだ? はっきりとは見えねえから数えられねえけど……。囲まれてんのはわかんぜ」
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