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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Disturbed information/5
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それが邪神界の常套手段だった。崇剛のような千里眼は持っていないが、刑事の勘がガッチリ食らいついて離さなかった。
顔面蒼白で、息も絶え絶えだったが、元は必死に訴え続ける。
「つ、ついてません!」
「ヘッドロックすっか? 口利けねえぐらい、顔殴ってやるぜ」
国立は口の端でニヤリとし、シルバーリングという狂気を持つ拳を、元の顔面へ向かって大きく振りかぶって、素早く殴りかかった。
「っ!」
元は思わず目を閉じたが、痛みも振動も何も起きなかった。不思議に思って、目を開けてみると、国立の拳が鼻先で寸止めされていた。
心霊刑事は百九十七センチの長身を生かして、鋭い眼光を思いっきり上から目線で、容疑者に浴びせた。
「ジョークだ」
抵抗することもすっかり忘れさせられた、元は店から簡単に引きずり出されていった。国立はずれてしまったカウボーイハットをかぶり直しながら、ひとりごちる。
「本気でボコれるわけねえだろ。罪状が固まってねえのによ。こんなん駆け引きだろ? お互い楽にやれるようによ。抵抗したままじゃ、てめえも野郎どもも疲れんだろ」
店に一人残された女の心配そうな顔に振り返ると、鋭いブルーグレーの瞳は少しだけ陰りを見せた。
「邪魔したな」
しゃがれた国立の声だけが店に居残り、閉まった扉を女は神妙な面持ちで凝視していたが、
「うっ!」
突然頭を押さえ、糸が切れたようにその場に座り込んでしまった。
(頭が痛い……。めまいが……)
体の異変を感じて、今度は苦しそうに胸を押さえると、近くにあったペン立てが着物の裾に引っかかって落ちた。
(心臓がひどくドキドキする……)
そのまま崩れ落ちるように、畳の上に横向きに倒れ込んだ。
*
店の扉の外にまだいた、国立のブルーグレーの鋭い眼光は、店の白いドアを突き刺すようににらんでいた。強風がビューッと頬を切り、近くの空き家がバザバザと大きな騒音を立てて暴れ出す。
カウボーイハットが飛ばされないように、節々のはっきりした大きな手で押さえながら、国立はさっき見た女の姿を思い出した。
「心ってやつは、男より女のほうがその実ストロングだ。このご時世、媚び売るために弱え振りする女郎は、ゴロゴロといやがる。ずいぶんまともな女だ」
フィルターも何もついていない葉巻はどこまでも燃えてきて、国立の厚みのある唇を焼き尽くすように熱くなっていた。
口からつまみ出して、足元へポトリと落とすと、ウェスタンブーツのスパーを鳴らしながら、土の上ですり消した。
そうして、シガーケースをジーパンから取り出し、新しいミニシガリロに火をつける。心霊刑事はくわえ葉巻のままきた道を戻り出した。
人気のない建物が立ち並ぶ細い路地を、砂埃が舞う中で、ウェスタンブーツのスパーがかちゃかちゃと言いながら遠ざかってゆく。
国立の男らしい大きな背中はどんどん小さくなっていき、かなり先にある大通りへ出ると、右へと消えた――
*
柔らかさも温かみもない、黒い鉄格子に囲まれた殺風景な空間。あたりに人の気配はなく、物音がひどく少ない。粗末な布団が折り畳まれていて、扉のないトイレと、小さな窓が天井近くにひとつきりだった。
満ち足りた普通の生活から、いきなり拘束された元は力なく膝を床に落とし、牢屋の中で暗い顔をしていた。
「邪神界……? 霊……? 何のことだ、さっぱりで……。あの夢と関係する――」
その時だった、かちゃかちゃというウェスタンブーツのスパーの音と、カツンカツンと細く硬いものが当たるそれが響いたのは。
心霊現象など信じていない、元は両腕に力を入れて身構えた。
(な、何が起きるんだ? これから)
カツンカツンと尖った硬いものが当たるような音はなくなったが、ウェスタンブールの足音だけがスパーをかちゃかちゃさせながら近づいてきた。
ジーパンの長い足が見えると、頭上からガサツな声が降り注いだ。
「恩田、おっ始めんぜ。まずは一人目だ」
顔面蒼白で、息も絶え絶えだったが、元は必死に訴え続ける。
「つ、ついてません!」
「ヘッドロックすっか? 口利けねえぐらい、顔殴ってやるぜ」
国立は口の端でニヤリとし、シルバーリングという狂気を持つ拳を、元の顔面へ向かって大きく振りかぶって、素早く殴りかかった。
「っ!」
元は思わず目を閉じたが、痛みも振動も何も起きなかった。不思議に思って、目を開けてみると、国立の拳が鼻先で寸止めされていた。
心霊刑事は百九十七センチの長身を生かして、鋭い眼光を思いっきり上から目線で、容疑者に浴びせた。
「ジョークだ」
抵抗することもすっかり忘れさせられた、元は店から簡単に引きずり出されていった。国立はずれてしまったカウボーイハットをかぶり直しながら、ひとりごちる。
「本気でボコれるわけねえだろ。罪状が固まってねえのによ。こんなん駆け引きだろ? お互い楽にやれるようによ。抵抗したままじゃ、てめえも野郎どもも疲れんだろ」
店に一人残された女の心配そうな顔に振り返ると、鋭いブルーグレーの瞳は少しだけ陰りを見せた。
「邪魔したな」
しゃがれた国立の声だけが店に居残り、閉まった扉を女は神妙な面持ちで凝視していたが、
「うっ!」
突然頭を押さえ、糸が切れたようにその場に座り込んでしまった。
(頭が痛い……。めまいが……)
体の異変を感じて、今度は苦しそうに胸を押さえると、近くにあったペン立てが着物の裾に引っかかって落ちた。
(心臓がひどくドキドキする……)
そのまま崩れ落ちるように、畳の上に横向きに倒れ込んだ。
*
店の扉の外にまだいた、国立のブルーグレーの鋭い眼光は、店の白いドアを突き刺すようににらんでいた。強風がビューッと頬を切り、近くの空き家がバザバザと大きな騒音を立てて暴れ出す。
カウボーイハットが飛ばされないように、節々のはっきりした大きな手で押さえながら、国立はさっき見た女の姿を思い出した。
「心ってやつは、男より女のほうがその実ストロングだ。このご時世、媚び売るために弱え振りする女郎は、ゴロゴロといやがる。ずいぶんまともな女だ」
フィルターも何もついていない葉巻はどこまでも燃えてきて、国立の厚みのある唇を焼き尽くすように熱くなっていた。
口からつまみ出して、足元へポトリと落とすと、ウェスタンブーツのスパーを鳴らしながら、土の上ですり消した。
そうして、シガーケースをジーパンから取り出し、新しいミニシガリロに火をつける。心霊刑事はくわえ葉巻のままきた道を戻り出した。
人気のない建物が立ち並ぶ細い路地を、砂埃が舞う中で、ウェスタンブーツのスパーがかちゃかちゃと言いながら遠ざかってゆく。
国立の男らしい大きな背中はどんどん小さくなっていき、かなり先にある大通りへ出ると、右へと消えた――
*
柔らかさも温かみもない、黒い鉄格子に囲まれた殺風景な空間。あたりに人の気配はなく、物音がひどく少ない。粗末な布団が折り畳まれていて、扉のないトイレと、小さな窓が天井近くにひとつきりだった。
満ち足りた普通の生活から、いきなり拘束された元は力なく膝を床に落とし、牢屋の中で暗い顔をしていた。
「邪神界……? 霊……? 何のことだ、さっぱりで……。あの夢と関係する――」
その時だった、かちゃかちゃというウェスタンブーツのスパーの音と、カツンカツンと細く硬いものが当たるそれが響いたのは。
心霊現象など信じていない、元は両腕に力を入れて身構えた。
(な、何が起きるんだ? これから)
カツンカツンと尖った硬いものが当たるような音はなくなったが、ウェスタンブールの足音だけがスパーをかちゃかちゃさせながら近づいてきた。
ジーパンの長い足が見えると、頭上からガサツな声が降り注いだ。
「恩田、おっ始めんぜ。まずは一人目だ」
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