明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
534 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Disturbed information/10

しおりを挟む
「ど、どういうことですか?」

 治安省で一番端の日がよく当たらない部屋が聖霊寮。逮捕状を取るのだって、四苦八苦で、まともな会話も同僚たちにはない。

 そこで唯一真正面から事件に立ち向かっている国立は、シルバーリングを鉄格子へガラガラガランと、順番に滑るようになすりつけて、口の端でニヤリとした。

「墓場だからよ、法律がねえんだ。何もかもが穴だらけってか?」
「ま、まさか、それって……!?」

 容疑者と心霊刑事は無言のまましばらく対峙する。

「…………」
「…………」

 元の顔が青くなってゆくのを十分堪能した、国立は吐き捨てるように事実を突きつけた。

「オレが解放しねえ限り、てめえは出れねえってことだ。聖霊寮は無法地帯なんだよ」
「そ、そんな……」

 床に再び平伏した元の姿を横目で見ながら、国立は出入り口へ向かって歩き出した。ウェスタンブーツのスパーを、かちゃかちゃ鳴らしながら口笛を吹く。

「~~♪ ~~♪」

 物腰全てが貴族的。紺の長い髪と線の細い体が中性的なイメージを強く匂わせ、冷静な頭脳で流暢に話してくる、あの男を思い浮かべる。

(メシアってのはワンダフルだ。触れなくても見えやがる。憑依なんざ、レベルの低い霊視の仕方だろ。てめえの体をお化けさんに明け渡すんだからよ)

 神経質な指先があごに当てられ、ロングブーツの足をスマートに組み替える、あの男が脳裏をチラつく。

(崇剛の野郎はてめえをキープしたまま見やがる。道具も使いやがらねえ。邪さんを引き剥がすためだけだろ、ダガー使うのは。敵うやつはいねえだ、やっこさんにはよ)

 鉄でできた扉のドアノブの冷たさに、国立のシルバーリングが触れると、口笛はふと止んだ。

「からよ、崇剛にオレはそそられっぱなしなんだよ――」

 誰にも聞こえないようにつぶやいた、国立の顔は真剣そのものだった。ドアの開く音はギギーッと悲鳴を上げ、ガチャガチャと鍵のかかる金属のノイズが響いたあと、また静かになった。

    *

 ――――暗闇、静音。古い映画でも見ているように、不意にブツンブツンと切るようなノイズが入る。

 それは自身が斬られている衝撃だった。切り裂かれる苦痛なのに声が出ない、何度も繰り返し見る悪夢。

 紅血の波紋がひとつ、ふたつ、みっつ……。ぽたりぽたりと広がってゆき、お互いが重なり合い、最後に自分の口元がニヤリと笑った。

「いい……だ……」

 雑音で途切れ途切れの言葉を満足げに言うと、夢はプツリと途切れた――――

    *

「うわっ!」

 あたりに突如響き渡った、自分の大声にびっくりして、元は目を覚ました。折りたたんだ布団の上に、横向きでもたれかかったまま、いつの間にかウトウトしていたようだった。

「はぁ……はぁ……」

 ゼイゼイと息をしていると、鉄格子の向こう側に誰かの姿が映り込んだ。死神みたいな執念深さを持つ、男のしゃがれた声が響き渡る。

「てめえ、今何の夢見やがった?」
「え……」
「夢の話なんか、聖霊師は誰も言っていやがらなかったぜ。れって、怪しすぎんだろ」

 焦点が合うと、床に片膝を立てて、地べた座りをしている国立がいた。射殺すようなブルーグレーの眼光を浴びせている。

 ウェスタンスタイルで決めている男の片腕は膝にけだるくかけられ、脅迫するようなシルバーリングが指三本で鈍い光を発していた。

 同じ床の上で、鉄格子を境界線として、心霊刑事と犯人は対峙する。

「え、え……?」

 元が返事を返さないでいると、

「見たこと、正直に言いやがれ!」

 ドスの効いた声が静かな空間を破壊するように炸裂した。腕を肘から床へ落とし、腰のあたりへ着くと同時に、立てていた膝を一旦自分へ引きつけ、鉄格子へ向かって勢いよく押し蹴りした。

 ズシャン!

 国立の鉄格子へのキックの嵐は毎日のように起こされ、元の手はガタガタと震え出し、唇は真っ青になった。頭を抱え込んで、

(も、もう……。あの夢は見たくない……)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...