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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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「ど、どういうことですか?」
治安省で一番端の日がよく当たらない部屋が聖霊寮。逮捕状を取るのだって、四苦八苦で、まともな会話も同僚たちにはない。
そこで唯一真正面から事件に立ち向かっている国立は、シルバーリングを鉄格子へガラガラガランと、順番に滑るようになすりつけて、口の端でニヤリとした。
「墓場だからよ、法律がねえんだ。何もかもが穴だらけってか?」
「ま、まさか、それって……!?」
容疑者と心霊刑事は無言のまましばらく対峙する。
「…………」
「…………」
元の顔が青くなってゆくのを十分堪能した、国立は吐き捨てるように事実を突きつけた。
「オレが解放しねえ限り、てめえは出れねえってことだ。聖霊寮は無法地帯なんだよ」
「そ、そんな……」
床に再び平伏した元の姿を横目で見ながら、国立は出入り口へ向かって歩き出した。ウェスタンブーツのスパーを、かちゃかちゃ鳴らしながら口笛を吹く。
「~~♪ ~~♪」
物腰全てが貴族的。紺の長い髪と線の細い体が中性的なイメージを強く匂わせ、冷静な頭脳で流暢に話してくる、あの男を思い浮かべる。
(メシアってのはワンダフルだ。触れなくても見えやがる。憑依なんざ、レベルの低い霊視の仕方だろ。てめえの体をお化けさんに明け渡すんだからよ)
神経質な指先があごに当てられ、ロングブーツの足をスマートに組み替える、あの男が脳裏をチラつく。
(崇剛の野郎はてめえをキープしたまま見やがる。道具も使いやがらねえ。邪さんを引き剥がすためだけだろ、ダガー使うのは。敵うやつはいねえだ、やっこさんにはよ)
鉄でできた扉のドアノブの冷たさに、国立のシルバーリングが触れると、口笛はふと止んだ。
「からよ、崇剛にオレはそそられっぱなしなんだよ――」
誰にも聞こえないようにつぶやいた、国立の顔は真剣そのものだった。ドアの開く音はギギーッと悲鳴を上げ、ガチャガチャと鍵のかかる金属のノイズが響いたあと、また静かになった。
*
――――暗闇、静音。古い映画でも見ているように、不意にブツンブツンと切るようなノイズが入る。
それは自身が斬られている衝撃だった。切り裂かれる苦痛なのに声が出ない、何度も繰り返し見る悪夢。
紅血の波紋がひとつ、ふたつ、みっつ……。ぽたりぽたりと広がってゆき、お互いが重なり合い、最後に自分の口元がニヤリと笑った。
「いい……だ……」
雑音で途切れ途切れの言葉を満足げに言うと、夢はプツリと途切れた――――
*
「うわっ!」
あたりに突如響き渡った、自分の大声にびっくりして、元は目を覚ました。折りたたんだ布団の上に、横向きでもたれかかったまま、いつの間にかウトウトしていたようだった。
「はぁ……はぁ……」
ゼイゼイと息をしていると、鉄格子の向こう側に誰かの姿が映り込んだ。死神みたいな執念深さを持つ、男のしゃがれた声が響き渡る。
「てめえ、今何の夢見やがった?」
「え……」
「夢の話なんか、聖霊師は誰も言っていやがらなかったぜ。れって、怪しすぎんだろ」
焦点が合うと、床に片膝を立てて、地べた座りをしている国立がいた。射殺すようなブルーグレーの眼光を浴びせている。
ウェスタンスタイルで決めている男の片腕は膝にけだるくかけられ、脅迫するようなシルバーリングが指三本で鈍い光を発していた。
同じ床の上で、鉄格子を境界線として、心霊刑事と犯人は対峙する。
「え、え……?」
元が返事を返さないでいると、
「見たこと、正直に言いやがれ!」
ドスの効いた声が静かな空間を破壊するように炸裂した。腕を肘から床へ落とし、腰のあたりへ着くと同時に、立てていた膝を一旦自分へ引きつけ、鉄格子へ向かって勢いよく押し蹴りした。
ズシャン!
国立の鉄格子へのキックの嵐は毎日のように起こされ、元の手はガタガタと震え出し、唇は真っ青になった。頭を抱え込んで、
(も、もう……。あの夢は見たくない……)
治安省で一番端の日がよく当たらない部屋が聖霊寮。逮捕状を取るのだって、四苦八苦で、まともな会話も同僚たちにはない。
そこで唯一真正面から事件に立ち向かっている国立は、シルバーリングを鉄格子へガラガラガランと、順番に滑るようになすりつけて、口の端でニヤリとした。
「墓場だからよ、法律がねえんだ。何もかもが穴だらけってか?」
「ま、まさか、それって……!?」
容疑者と心霊刑事は無言のまましばらく対峙する。
「…………」
「…………」
元の顔が青くなってゆくのを十分堪能した、国立は吐き捨てるように事実を突きつけた。
「オレが解放しねえ限り、てめえは出れねえってことだ。聖霊寮は無法地帯なんだよ」
「そ、そんな……」
床に再び平伏した元の姿を横目で見ながら、国立は出入り口へ向かって歩き出した。ウェスタンブーツのスパーを、かちゃかちゃ鳴らしながら口笛を吹く。
「~~♪ ~~♪」
物腰全てが貴族的。紺の長い髪と線の細い体が中性的なイメージを強く匂わせ、冷静な頭脳で流暢に話してくる、あの男を思い浮かべる。
(メシアってのはワンダフルだ。触れなくても見えやがる。憑依なんざ、レベルの低い霊視の仕方だろ。てめえの体をお化けさんに明け渡すんだからよ)
神経質な指先があごに当てられ、ロングブーツの足をスマートに組み替える、あの男が脳裏をチラつく。
(崇剛の野郎はてめえをキープしたまま見やがる。道具も使いやがらねえ。邪さんを引き剥がすためだけだろ、ダガー使うのは。敵うやつはいねえだ、やっこさんにはよ)
鉄でできた扉のドアノブの冷たさに、国立のシルバーリングが触れると、口笛はふと止んだ。
「からよ、崇剛にオレはそそられっぱなしなんだよ――」
誰にも聞こえないようにつぶやいた、国立の顔は真剣そのものだった。ドアの開く音はギギーッと悲鳴を上げ、ガチャガチャと鍵のかかる金属のノイズが響いたあと、また静かになった。
*
――――暗闇、静音。古い映画でも見ているように、不意にブツンブツンと切るようなノイズが入る。
それは自身が斬られている衝撃だった。切り裂かれる苦痛なのに声が出ない、何度も繰り返し見る悪夢。
紅血の波紋がひとつ、ふたつ、みっつ……。ぽたりぽたりと広がってゆき、お互いが重なり合い、最後に自分の口元がニヤリと笑った。
「いい……だ……」
雑音で途切れ途切れの言葉を満足げに言うと、夢はプツリと途切れた――――
*
「うわっ!」
あたりに突如響き渡った、自分の大声にびっくりして、元は目を覚ました。折りたたんだ布団の上に、横向きでもたれかかったまま、いつの間にかウトウトしていたようだった。
「はぁ……はぁ……」
ゼイゼイと息をしていると、鉄格子の向こう側に誰かの姿が映り込んだ。死神みたいな執念深さを持つ、男のしゃがれた声が響き渡る。
「てめえ、今何の夢見やがった?」
「え……」
「夢の話なんか、聖霊師は誰も言っていやがらなかったぜ。れって、怪しすぎんだろ」
焦点が合うと、床に片膝を立てて、地べた座りをしている国立がいた。射殺すようなブルーグレーの眼光を浴びせている。
ウェスタンスタイルで決めている男の片腕は膝にけだるくかけられ、脅迫するようなシルバーリングが指三本で鈍い光を発していた。
同じ床の上で、鉄格子を境界線として、心霊刑事と犯人は対峙する。
「え、え……?」
元が返事を返さないでいると、
「見たこと、正直に言いやがれ!」
ドスの効いた声が静かな空間を破壊するように炸裂した。腕を肘から床へ落とし、腰のあたりへ着くと同時に、立てていた膝を一旦自分へ引きつけ、鉄格子へ向かって勢いよく押し蹴りした。
ズシャン!
国立の鉄格子へのキックの嵐は毎日のように起こされ、元の手はガタガタと震え出し、唇は真っ青になった。頭を抱え込んで、
(も、もう……。あの夢は見たくない……)
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