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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
血塗られた夜の宴/12
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冷静な水色の瞳がついっと細められると、今まで見てきた映画や小説などから、今必要なアクションを引っ張り出してきた。
左足と大鎌の一番奥で突っ掛かったままになっているダガーの二点を軸にする。右足を地面から自分の体へ引き上げ、敵の腹めがけて力強く蹴り――ミドルキックを放った。
「っ!」
「ぐっ!」
敵の力が緩んだところで、大鎌の刃先をダガーでさけるように擦りながら、
ズリズリズリッッ!!
聖なるダガーを抜き取る。鉄同士がすれ合う火花が、闇にまた鋭くバチバチと浮かび上がった。
大鎌の間合いから抜けたした、崇剛は戻した右足を地面につけざまに、強く蹴って手を使わず、両腕を胸の前でクロスさせたまま、バク転するように悪霊の頭上を超え始めた。
線の細い体は真っ直ぐだが、傾いているコマのようにくるくると空中を回転して、敵の背後に回り込もうとする。
紺の長い髪は遠心力で、下に落ちることもなく、崇剛のまわりで垂直に円を艶やかに描いた。
聖霊師は大鎌を持つ敵の眼前から一瞬にして消え、次に現れると、背後の地面に線の細い背中を見せた体勢でストンと、芝生の上に優雅にロングブーツの足で降り立っていた。
髪を縛っていたターコイズブルーのリボンが外れ、雰囲気は一気に女性的に。
神父が素早く悪霊へ振り返ると、頭にかけられたベールのように長い髪が広がる。両手に持っていたダガーを、大鎌を持つ幽霊の背中に向かって、容赦なく次々と放った。
しかし――
大鎌を持った悪霊の体は揺れ消えるどころか、無傷のままだった。崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められ、霊界のルールを紐解く。
(倒せない……。すなわち、相手の方が霊層が上ということです)
暗い夜が一瞬にして真っ白になった――。タイミングを待っていたかのように、大量の敵が現れ、神父の両腕や体をつかんだ。そのまま後ろへ無理やり引っ張っていき、樫の木に崇剛の背中は押しつけられた。
「っ!」
聖霊師は思わず、衝撃で声をもらしたが、それを消し去るように、悪霊が次々と同じ言葉を浴びせてくる。
「返して……」
「返して……」
逃げようとするが、そのまま我先にと悪霊たちが神父の上に乗ってきて、崇剛は木の幹を背にしたまま、幽霊たちの重さに耐えられず、ずるずると滑り落ちてゆく。
「っ……っ!」
そうしてとうとう、芝生の上に仰向けに倒され、両腕を体と水平に持っていかれた。ちょうど十字架のような形で、優雅な神父は地面に磔にされてしまった。
屋敷の主人の紺色をした長い髪が四方八方へ淫らに流れ落ちた。体中を拘束され、女性が穢されそうな光景ができ上がった。
死という恍惚とさせるものと重なる不浄が、自宅の庭で繰り広げられることとなってしまった。
未だに雲がかかったままの月。夜空ににじみ出ている光を、冷静な水色の瞳に映しながら、崇剛は自身が見逃したミスがどれだけ重大なことだったのか今頃気づいた。
いけませんね。
私は感情に流され、間違った可能性を導き出したみたいです。
四月十八日、月曜日。二十時四分五十七秒以前の、瑠璃の言葉――。
『他にも、除霊の札を二百作れと申しておったわ――!』
こちらから導き出せること、そちらは……。
二百もの霊を支配下に置くには、それなりの地位――霊層が必要です。
すなわち、相手は天使のランク以上が関係しているのかもしれません。
漆黒のサラサラとした髪を持ち、若草色の瞳を持つ少女を守れるナイトは、自身ではなかったのだと、崇剛は思った。
本当のナイトは、お遊び言葉を口にしながら、金の長い髪を女性的に揺らし、白いローブに身を包んだ男――天使で、邪悪なサファイアブルーの瞳がはっきりと蘇った。
同じレベルである、ラジュ天使でないと倒せない。
私ひとりでは太刀打ちできない……かもしれない。
打つ手立てがなくても、冷静な頭脳はまだあきらめずに稼働し続けるが、地面に近くなった神父の耳へ、最後の審判を下すように、
ズズーッ、ズズーッ!
左足と大鎌の一番奥で突っ掛かったままになっているダガーの二点を軸にする。右足を地面から自分の体へ引き上げ、敵の腹めがけて力強く蹴り――ミドルキックを放った。
「っ!」
「ぐっ!」
敵の力が緩んだところで、大鎌の刃先をダガーでさけるように擦りながら、
ズリズリズリッッ!!
聖なるダガーを抜き取る。鉄同士がすれ合う火花が、闇にまた鋭くバチバチと浮かび上がった。
大鎌の間合いから抜けたした、崇剛は戻した右足を地面につけざまに、強く蹴って手を使わず、両腕を胸の前でクロスさせたまま、バク転するように悪霊の頭上を超え始めた。
線の細い体は真っ直ぐだが、傾いているコマのようにくるくると空中を回転して、敵の背後に回り込もうとする。
紺の長い髪は遠心力で、下に落ちることもなく、崇剛のまわりで垂直に円を艶やかに描いた。
聖霊師は大鎌を持つ敵の眼前から一瞬にして消え、次に現れると、背後の地面に線の細い背中を見せた体勢でストンと、芝生の上に優雅にロングブーツの足で降り立っていた。
髪を縛っていたターコイズブルーのリボンが外れ、雰囲気は一気に女性的に。
神父が素早く悪霊へ振り返ると、頭にかけられたベールのように長い髪が広がる。両手に持っていたダガーを、大鎌を持つ幽霊の背中に向かって、容赦なく次々と放った。
しかし――
大鎌を持った悪霊の体は揺れ消えるどころか、無傷のままだった。崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められ、霊界のルールを紐解く。
(倒せない……。すなわち、相手の方が霊層が上ということです)
暗い夜が一瞬にして真っ白になった――。タイミングを待っていたかのように、大量の敵が現れ、神父の両腕や体をつかんだ。そのまま後ろへ無理やり引っ張っていき、樫の木に崇剛の背中は押しつけられた。
「っ!」
聖霊師は思わず、衝撃で声をもらしたが、それを消し去るように、悪霊が次々と同じ言葉を浴びせてくる。
「返して……」
「返して……」
逃げようとするが、そのまま我先にと悪霊たちが神父の上に乗ってきて、崇剛は木の幹を背にしたまま、幽霊たちの重さに耐えられず、ずるずると滑り落ちてゆく。
「っ……っ!」
そうしてとうとう、芝生の上に仰向けに倒され、両腕を体と水平に持っていかれた。ちょうど十字架のような形で、優雅な神父は地面に磔にされてしまった。
屋敷の主人の紺色をした長い髪が四方八方へ淫らに流れ落ちた。体中を拘束され、女性が穢されそうな光景ができ上がった。
死という恍惚とさせるものと重なる不浄が、自宅の庭で繰り広げられることとなってしまった。
未だに雲がかかったままの月。夜空ににじみ出ている光を、冷静な水色の瞳に映しながら、崇剛は自身が見逃したミスがどれだけ重大なことだったのか今頃気づいた。
いけませんね。
私は感情に流され、間違った可能性を導き出したみたいです。
四月十八日、月曜日。二十時四分五十七秒以前の、瑠璃の言葉――。
『他にも、除霊の札を二百作れと申しておったわ――!』
こちらから導き出せること、そちらは……。
二百もの霊を支配下に置くには、それなりの地位――霊層が必要です。
すなわち、相手は天使のランク以上が関係しているのかもしれません。
漆黒のサラサラとした髪を持ち、若草色の瞳を持つ少女を守れるナイトは、自身ではなかったのだと、崇剛は思った。
本当のナイトは、お遊び言葉を口にしながら、金の長い髪を女性的に揺らし、白いローブに身を包んだ男――天使で、邪悪なサファイアブルーの瞳がはっきりと蘇った。
同じレベルである、ラジュ天使でないと倒せない。
私ひとりでは太刀打ちできない……かもしれない。
打つ手立てがなくても、冷静な頭脳はまだあきらめずに稼働し続けるが、地面に近くなった神父の耳へ、最後の審判を下すように、
ズズーッ、ズズーッ!
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