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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
心霊探偵と心霊刑事/17
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国立が身を乗り出すと、長さの違うペンダントのチェーンがチャラチャラと歪む。
「瑠璃お嬢のことは、トラップ天使が守んじゃねえのか? 縦社会だろ、霊界ってよ。お前さんが一番下だろうが」
心が痛まないと言ったら嘘になる。だが、恋愛感情で崩れるほど、柔な冷静という名の盾ではない。
三十二年間という月日で、激情の獣が雄叫びを上げる時などいくらでもあった。それは崇剛にとっては、かけがえのない経験だった。
それらの結果を使って策略的に、目の前にいる男の話に耳を傾ける振りをして、情報が欲しいのだ。だから、崇剛はぎこちな言い方をする。
「そう……ですね」
「かよ、その上の守護神、てめえの何て言ったか?」
「光命ですか?」
ミズリーは多神教の宗教で、ラジュから聞かされた守護神の名を、慎み深く口にした。
「そいつが守んじゃねえのか?」
「そうかもしれませんね」
さっきから逃げ道ばかり作りやがって――。国立は全力で回り込んで、退路を絶ってやった。
「てめえみてえなの、何て言うか知ってっか? 何でも、てめえだけでできてると思ってるやつをよ」
今回ばかりは、崇剛の心の奥底に深く、国立のパンチは響いた。策略家にしては珍しく言葉を失う。
「…………」
(私は……そちらを間違ったみたいです)
可能性とかそういうことではなく、人の心の弱さが要因だった。それはいつからだったのかと、崇剛は記憶を追いかけ始める。
この男が冷静でいて、神の言葉を残してゆくのが、強烈なパンチで、面白かったのに、なんてザマだと国立はカウンターパンチを放ってやった。
「傲慢って言うんだぜ。てめえが説教してやがっただろ。忘れるんじゃねえ」
「そう……ですね」
水色の瞳はまだしっかりと前を向いていた。取り乱してなるものかと、意地になって。
いつから、私は冷静な判断を欠いていたのでしょう――?
問いかける、自身に問いかける。
ラジュが幼い頃言っていた言葉が、また抗力を発するのだ。
『悪に染まっていることに、自覚症状はないんです。ですから、たくさんの人が邪神界へ行ってしまったんです~。人間の多くは、自身が悪者にはなりたくないんですから。自身や他人が気づこうとすると、言い訳をして、悪の部分を見ないようにするんです。従って、恐怖心も悪なんです~。ですから、人の心は――』
凛とした澄んだ女性的な声をかき消すように、目の前に座っているガタイのいい男はトドメを差すように言った。
「その手の怪我、守護霊の仕事増やしてんじゃねえ。ダガーが使えねえってことは、そういうことになんだろ」
(惚れた相手、困らせるようなことすんじゃねえ)
そそられっぱなしの男にだったら、本当のことを言ってやる――。相手がどう思うとかそういうのは関係なく、乾いた大地の上で向かい風にも負けず歯を食いしばって、両足でしっかりと立ったまま何度でも言ってやる。国立はそう思っていた。
この男の言っていることは真実で、誠意があって、こんな幸運はそうそうないのだ。まるで神が降臨したようで……。ルールはルールだ。順番は順番だ。
「……そうかもしれませんね」
厳しい本当の優しさが身にしみて、崇剛の視界は涙でにじみそうになるが、優雅な笑みに隠した。
「指摘してくださって、ありがとうございます。心から感謝しますよ」
頭を深く下げて、紅茶を飲み干し、瑠璃色の上着を自分へ引き寄せた。スマートに立ち上がり、ローテーブルから横へ抜ける頃には、冷静な頭脳で激情の獣は完全に押さえ込まれていた。
「それでは、失礼――」
出口へと歩き出した、線の細い背中に、国立は声をかける。
「じゃあな。死ぬんじゃねえぜ、今回のヤマでよ」
神の領域が関わっているのなら、大袈裟なことでもなかった。それでも、崇剛は振り向かずに、廊下へ出て、魔除のローズマリーの香りは完全に消え去った。
相変わらずの合理主義者の男だと、あきれたため息をつこうとすると、国立は今の会話がおかしかったことに、やっと気づいた。
「あぁ?」
指に挟んでいたミニシガリロが、思わず握りしめられた手の中で、真っ二つに折れた。
「崇剛の野郎……」
「瑠璃お嬢のことは、トラップ天使が守んじゃねえのか? 縦社会だろ、霊界ってよ。お前さんが一番下だろうが」
心が痛まないと言ったら嘘になる。だが、恋愛感情で崩れるほど、柔な冷静という名の盾ではない。
三十二年間という月日で、激情の獣が雄叫びを上げる時などいくらでもあった。それは崇剛にとっては、かけがえのない経験だった。
それらの結果を使って策略的に、目の前にいる男の話に耳を傾ける振りをして、情報が欲しいのだ。だから、崇剛はぎこちな言い方をする。
「そう……ですね」
「かよ、その上の守護神、てめえの何て言ったか?」
「光命ですか?」
ミズリーは多神教の宗教で、ラジュから聞かされた守護神の名を、慎み深く口にした。
「そいつが守んじゃねえのか?」
「そうかもしれませんね」
さっきから逃げ道ばかり作りやがって――。国立は全力で回り込んで、退路を絶ってやった。
「てめえみてえなの、何て言うか知ってっか? 何でも、てめえだけでできてると思ってるやつをよ」
今回ばかりは、崇剛の心の奥底に深く、国立のパンチは響いた。策略家にしては珍しく言葉を失う。
「…………」
(私は……そちらを間違ったみたいです)
可能性とかそういうことではなく、人の心の弱さが要因だった。それはいつからだったのかと、崇剛は記憶を追いかけ始める。
この男が冷静でいて、神の言葉を残してゆくのが、強烈なパンチで、面白かったのに、なんてザマだと国立はカウンターパンチを放ってやった。
「傲慢って言うんだぜ。てめえが説教してやがっただろ。忘れるんじゃねえ」
「そう……ですね」
水色の瞳はまだしっかりと前を向いていた。取り乱してなるものかと、意地になって。
いつから、私は冷静な判断を欠いていたのでしょう――?
問いかける、自身に問いかける。
ラジュが幼い頃言っていた言葉が、また抗力を発するのだ。
『悪に染まっていることに、自覚症状はないんです。ですから、たくさんの人が邪神界へ行ってしまったんです~。人間の多くは、自身が悪者にはなりたくないんですから。自身や他人が気づこうとすると、言い訳をして、悪の部分を見ないようにするんです。従って、恐怖心も悪なんです~。ですから、人の心は――』
凛とした澄んだ女性的な声をかき消すように、目の前に座っているガタイのいい男はトドメを差すように言った。
「その手の怪我、守護霊の仕事増やしてんじゃねえ。ダガーが使えねえってことは、そういうことになんだろ」
(惚れた相手、困らせるようなことすんじゃねえ)
そそられっぱなしの男にだったら、本当のことを言ってやる――。相手がどう思うとかそういうのは関係なく、乾いた大地の上で向かい風にも負けず歯を食いしばって、両足でしっかりと立ったまま何度でも言ってやる。国立はそう思っていた。
この男の言っていることは真実で、誠意があって、こんな幸運はそうそうないのだ。まるで神が降臨したようで……。ルールはルールだ。順番は順番だ。
「……そうかもしれませんね」
厳しい本当の優しさが身にしみて、崇剛の視界は涙でにじみそうになるが、優雅な笑みに隠した。
「指摘してくださって、ありがとうございます。心から感謝しますよ」
頭を深く下げて、紅茶を飲み干し、瑠璃色の上着を自分へ引き寄せた。スマートに立ち上がり、ローテーブルから横へ抜ける頃には、冷静な頭脳で激情の獣は完全に押さえ込まれていた。
「それでは、失礼――」
出口へと歩き出した、線の細い背中に、国立は声をかける。
「じゃあな。死ぬんじゃねえぜ、今回のヤマでよ」
神の領域が関わっているのなら、大袈裟なことでもなかった。それでも、崇剛は振り向かずに、廊下へ出て、魔除のローズマリーの香りは完全に消え去った。
相変わらずの合理主義者の男だと、あきれたため息をつこうとすると、国立は今の会話がおかしかったことに、やっと気づいた。
「あぁ?」
指に挟んでいたミニシガリロが、思わず握りしめられた手の中で、真っ二つに折れた。
「崇剛の野郎……」
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