628 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
主人と執事の愛の形/2
しおりを挟む
衝撃で、紺の髪を束ねていたターコイズブルーのリボンはとけ、階段へするすると落ち、主人は一気に女性的な雰囲気へ変わってしまった。
涼介のベビーブルーの瞳は怒りと悲しみがこもっていた。執事は主人が立っている同じ段へ上がり、いつも通り涼介の視線が崇剛より高くなった。
執事が主人を拘束して、男が女をちょうど壁ドンしているような格好になった。
ふたりのサイドにある吹き抜けの縦長の窓ガラスには、破壊するように降り注ぐ豪雨。
青白い光が光ると、雷鳴が轟き、落雷の衝撃で地面がぐらぐらと揺れ、ガス灯の光が明暗を繰り返した。
涼介は今まで一度も出会ったことのない感情が胸に渦巻いていた。それは激怒――。嵐の轟音にも負けないほどの、怒鳴り声を彼は上げた。
「お前、そうやって、全員ここから追い出す気だろうっ!! 自分で何でも抱え込んで!」
お互いの息がかかるほど顔が近づいたまま、涼介は崇剛の瞳を噛みつきそうな勢いで見つめた。
崇剛は動揺もせず、ただ真っ直ぐ見つめ返した。
可能性で全てを推し量っている主人。今まで見たこともない執事の言動を前から、予測はついていたのだ。
涼介が激怒しないとは言い切れない。その可能性はゼロではなかった。いきなり数字が跳ね上がり、事実――100%になってしまっただけ。
豪雨でびしょ濡れになり、瑠璃色の貴族服と髪からは、階段へ水がポタポタと滴り落ちている以外、まったく動かなかった。
それでも、主人は視線をそらすこそなく、平然と嘘をついた。
「追い出すとは限りませんよ」
崇剛の心が強く震える。
私が情報を欲しがったばかりに、昼間はあなたたちを利用したのかもしれない。
私は間違った可能性をまた導き出した……のかもしれない。
二年前に、あなたと瞬をこちらへ呼んだのは、間違いだったのかもしれない。
ですから、私のそばにいては……あなたたちがまた傷ついてしまう――
曖昧な返事を返してきた主人。彼の心は慈愛でできていて、ガラスのように脆く透明で、涼介には今はよくわかった。
だからこそ、伝えたいのだ――。涼介の怒りは治るどころか、崇剛の肩をさらに強くつかんだ。
「金とかは関係ない。そんなのはどうでもいい。お前ひとりここに残って、この広い屋敷で、どうやって生活する気だ? 生活が荒んだら悪霊が集まってくるんだろう? それじゃなくても、メシアを持ってるだけで、お前は狙われてるんだろう。どうして、自分のことを自分で追い詰めるようなことをするんだ!」
「そのようなことをして――」
執事とは対照的に、主人は冷静に割って入ろうとしたが、涼介に途中でさえぎられてしまった。
「いいから聞けっ!」
雷光と雷鳴が同時に、
バリバリズドーン!
と、ふたりの脇にある長細い窓ガラスの外にある夜空で飛び散った。
怒りからくる涙で瞳をにじませながら、感情を必死に抑えむから声は震えてえしまう、涼介は崇剛に食ってかかった。
「俺は出ていかない! 確かに、最初はお前に言われたから、俺たちはここにきた。だけど今は、俺は自分の意思で、ここにいたいと思うからいる。瞬だって、どうしてだかわからないけど、ここから離れたくないって言ってる。三沢岳にだって、俺たちが決めてついて行ったんだ。責任は俺たちにあるんだろう」
執事は激怒していても、執事なのだなと、崇剛は思い、心の中で少しだけ微笑んだ。
(涼介は瞬の気持ちに気づいていないみたいです。私には、瑠璃と瞬を引き離すことは赦されていませんでしたね)
息子の恋心に気づいていない父は、まだ真剣に話を続けていた。
「自分の言動が間違ったって思ってるんだろう? お前また頭で全部考えて……」
「そうかもしれませんね」
崇剛の聖なるダガーの柄が布一枚を通して、階段の柱にコトンと少し濁った音で当たった。
男ふたり。嵐の夜の中。執事が主人を壁ドンしているような状態。さっきからまったく視線をはずさない崇剛と涼介。
だったが、せっかくのシリアスシーンが、執事の感覚的な記憶力で大崩壊した。
「お前が前に言ってただろう。ろ、ろん……? 三文字だった気がする……」
全てを記憶する、冷静な頭脳の持ち主はくすりと笑って、可能性から導き出した、執事の言いたいことを。
「論語ですか?」
「それだ!」涼介の瞳は一瞬いつもの、はつらつとしたものに戻ろうとしたが、また至極真剣な顔つきになって、「それの、あ、あや……? 現代語じゃなかった気がする……」再びまた話の流れを止めてしまった。
執事に肩をガッチリつかまれたままの主人は、心の中で密かにくすくす笑う。
(今、間違えたという話をしています。従って、涼介が言いたい言葉は以下の通りです)
自室にある本のページ数、行数、文字数までが、記憶の浅い部分に引き上げられた。優雅な声が流暢に、雨音の絶えない廊下に響き渡った。
「過ちて改めざる、是を過ちと謂う、ですか?」
「それだ!」
主人の助けで、何とかシリアスシーンを持ち直した執事は、論語の言葉を訳述し始めた。
「間違うのは恥ずかしいことじゃないんだろう? 間違えたって気づいたのに、直さないことが本当に恥ずかしいことなんだろう? だったら、今から直せばいいだろう」
涼介のベビーブルーの瞳は怒りと悲しみがこもっていた。執事は主人が立っている同じ段へ上がり、いつも通り涼介の視線が崇剛より高くなった。
執事が主人を拘束して、男が女をちょうど壁ドンしているような格好になった。
ふたりのサイドにある吹き抜けの縦長の窓ガラスには、破壊するように降り注ぐ豪雨。
青白い光が光ると、雷鳴が轟き、落雷の衝撃で地面がぐらぐらと揺れ、ガス灯の光が明暗を繰り返した。
涼介は今まで一度も出会ったことのない感情が胸に渦巻いていた。それは激怒――。嵐の轟音にも負けないほどの、怒鳴り声を彼は上げた。
「お前、そうやって、全員ここから追い出す気だろうっ!! 自分で何でも抱え込んで!」
お互いの息がかかるほど顔が近づいたまま、涼介は崇剛の瞳を噛みつきそうな勢いで見つめた。
崇剛は動揺もせず、ただ真っ直ぐ見つめ返した。
可能性で全てを推し量っている主人。今まで見たこともない執事の言動を前から、予測はついていたのだ。
涼介が激怒しないとは言い切れない。その可能性はゼロではなかった。いきなり数字が跳ね上がり、事実――100%になってしまっただけ。
豪雨でびしょ濡れになり、瑠璃色の貴族服と髪からは、階段へ水がポタポタと滴り落ちている以外、まったく動かなかった。
それでも、主人は視線をそらすこそなく、平然と嘘をついた。
「追い出すとは限りませんよ」
崇剛の心が強く震える。
私が情報を欲しがったばかりに、昼間はあなたたちを利用したのかもしれない。
私は間違った可能性をまた導き出した……のかもしれない。
二年前に、あなたと瞬をこちらへ呼んだのは、間違いだったのかもしれない。
ですから、私のそばにいては……あなたたちがまた傷ついてしまう――
曖昧な返事を返してきた主人。彼の心は慈愛でできていて、ガラスのように脆く透明で、涼介には今はよくわかった。
だからこそ、伝えたいのだ――。涼介の怒りは治るどころか、崇剛の肩をさらに強くつかんだ。
「金とかは関係ない。そんなのはどうでもいい。お前ひとりここに残って、この広い屋敷で、どうやって生活する気だ? 生活が荒んだら悪霊が集まってくるんだろう? それじゃなくても、メシアを持ってるだけで、お前は狙われてるんだろう。どうして、自分のことを自分で追い詰めるようなことをするんだ!」
「そのようなことをして――」
執事とは対照的に、主人は冷静に割って入ろうとしたが、涼介に途中でさえぎられてしまった。
「いいから聞けっ!」
雷光と雷鳴が同時に、
バリバリズドーン!
と、ふたりの脇にある長細い窓ガラスの外にある夜空で飛び散った。
怒りからくる涙で瞳をにじませながら、感情を必死に抑えむから声は震えてえしまう、涼介は崇剛に食ってかかった。
「俺は出ていかない! 確かに、最初はお前に言われたから、俺たちはここにきた。だけど今は、俺は自分の意思で、ここにいたいと思うからいる。瞬だって、どうしてだかわからないけど、ここから離れたくないって言ってる。三沢岳にだって、俺たちが決めてついて行ったんだ。責任は俺たちにあるんだろう」
執事は激怒していても、執事なのだなと、崇剛は思い、心の中で少しだけ微笑んだ。
(涼介は瞬の気持ちに気づいていないみたいです。私には、瑠璃と瞬を引き離すことは赦されていませんでしたね)
息子の恋心に気づいていない父は、まだ真剣に話を続けていた。
「自分の言動が間違ったって思ってるんだろう? お前また頭で全部考えて……」
「そうかもしれませんね」
崇剛の聖なるダガーの柄が布一枚を通して、階段の柱にコトンと少し濁った音で当たった。
男ふたり。嵐の夜の中。執事が主人を壁ドンしているような状態。さっきからまったく視線をはずさない崇剛と涼介。
だったが、せっかくのシリアスシーンが、執事の感覚的な記憶力で大崩壊した。
「お前が前に言ってただろう。ろ、ろん……? 三文字だった気がする……」
全てを記憶する、冷静な頭脳の持ち主はくすりと笑って、可能性から導き出した、執事の言いたいことを。
「論語ですか?」
「それだ!」涼介の瞳は一瞬いつもの、はつらつとしたものに戻ろうとしたが、また至極真剣な顔つきになって、「それの、あ、あや……? 現代語じゃなかった気がする……」再びまた話の流れを止めてしまった。
執事に肩をガッチリつかまれたままの主人は、心の中で密かにくすくす笑う。
(今、間違えたという話をしています。従って、涼介が言いたい言葉は以下の通りです)
自室にある本のページ数、行数、文字数までが、記憶の浅い部分に引き上げられた。優雅な声が流暢に、雨音の絶えない廊下に響き渡った。
「過ちて改めざる、是を過ちと謂う、ですか?」
「それだ!」
主人の助けで、何とかシリアスシーンを持ち直した執事は、論語の言葉を訳述し始めた。
「間違うのは恥ずかしいことじゃないんだろう? 間違えたって気づいたのに、直さないことが本当に恥ずかしいことなんだろう? だったら、今から直せばいいだろう」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる