明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

主人と執事の愛の形/2

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 衝撃で、紺の髪を束ねていたターコイズブルーのリボンはとけ、階段へするすると落ち、主人は一気に女性的な雰囲気へ変わってしまった。

 涼介のベビーブルーの瞳は怒りと悲しみがこもっていた。執事は主人が立っている同じ段へ上がり、いつも通り涼介の視線が崇剛より高くなった。

 執事が主人を拘束して、男が女をちょうど壁ドンしているような格好になった。

 ふたりのサイドにある吹き抜けの縦長の窓ガラスには、破壊するように降り注ぐ豪雨。

 青白い光が光ると、雷鳴が轟き、落雷の衝撃で地面がぐらぐらと揺れ、ガス灯の光が明暗を繰り返した。

 涼介は今まで一度も出会ったことのない感情が胸に渦巻いていた。それは激怒――。嵐の轟音にも負けないほどの、怒鳴り声を彼は上げた。

「お前、そうやって、全員ここから追い出す気だろうっ!! 自分で何でも抱え込んで!」

 お互いの息がかかるほど顔が近づいたまま、涼介は崇剛の瞳を噛みつきそうな勢いで見つめた。

 崇剛は動揺もせず、ただ真っ直ぐ見つめ返した。

 可能性で全てを推し量っている主人。今まで見たこともない執事の言動を前から、予測はついていたのだ。

 涼介が激怒しないとは言い切れない。その可能性はゼロではなかった。いきなり数字が跳ね上がり、事実――100%になってしまっただけ。

 豪雨でびしょ濡れになり、瑠璃色の貴族服と髪からは、階段へ水がポタポタと滴り落ちている以外、まったく動かなかった。

 それでも、主人は視線をそらすこそなく、平然と嘘をついた。

「追い出すとは限りませんよ」

 崇剛の心が強く震える。

 私が情報を欲しがったばかりに、昼間はあなたたちを利用したのかもしれない。
 私は間違った可能性をまた導き出した……のかもしれない。
 二年前に、あなたと瞬をこちらへ呼んだのは、間違いだったのかもしれない。
 ですから、私のそばにいては……あなたたちがまた傷ついてしまう――

 曖昧な返事を返してきた主人。彼の心は慈愛でできていて、ガラスのようにもろく透明で、涼介には今はよくわかった。

 だからこそ、伝えたいのだ――。涼介の怒りは治るどころか、崇剛の肩をさらに強くつかんだ。

「金とかは関係ない。そんなのはどうでもいい。お前ひとりここに残って、この広い屋敷で、どうやって生活する気だ? 生活が荒んだら悪霊が集まってくるんだろう? それじゃなくても、メシアを持ってるだけで、お前は狙われてるんだろう。どうして、自分のことを自分で追い詰めるようなことをするんだ!」
「そのようなことをして――」

 執事とは対照的に、主人は冷静に割って入ろうとしたが、涼介に途中でさえぎられてしまった。

「いいから聞けっ!」

 雷光と雷鳴が同時に、

 バリバリズドーン!

 と、ふたりの脇にある長細い窓ガラスの外にある夜空で飛び散った。

 怒りからくる涙で瞳をにじませながら、感情を必死に抑えむから声は震えてえしまう、涼介は崇剛に食ってかかった。

「俺は出ていかない! 確かに、最初はお前に言われたから、俺たちはここにきた。だけど今は、俺は自分の意思で、ここにいたいと思うからいる。瞬だって、どうしてだかわからないけど、ここから離れたくないって言ってる。三沢岳にだって、俺たちが決めてついて行ったんだ。責任は俺たちにあるんだろう」

 執事は激怒していても、執事なのだなと、崇剛は思い、心の中で少しだけ微笑んだ。

(涼介は瞬の気持ちに気づいていないみたいです。私には、瑠璃と瞬を引き離すことは赦されていませんでしたね)

 息子の恋心に気づいていない父は、まだ真剣に話を続けていた。

「自分の言動が間違ったって思ってるんだろう? お前また頭で全部考えて……」
「そうかもしれませんね」

 崇剛の聖なるダガーの柄が布一枚を通して、階段の柱にコトンと少し濁った音で当たった。

 男ふたり。嵐の夜の中。執事が主人を壁ドンしているような状態。さっきからまったく視線をはずさない崇剛と涼介。

 だったが、せっかくのシリアスシーンが、執事の感覚的な記憶力で大崩壊した。

「お前が前に言ってただろう。ろ、ろん……? 三文字だった気がする……」

 全てを記憶する、冷静な頭脳の持ち主はくすりと笑って、可能性から導き出した、執事の言いたいことを。

「論語ですか?」
「それだ!」涼介の瞳は一瞬いつもの、はつらつとしたものに戻ろうとしたが、また至極真剣な顔つきになって、「それの、あ、あや……? 現代語じゃなかった気がする……」再びまた話の流れを止めてしまった。

 執事に肩をガッチリつかまれたままの主人は、心の中で密かにくすくす笑う。

(今、間違えた・・・・という話をしています。従って、涼介が言いたい言葉は以下の通りです)

 自室にある本のページ数、行数、文字数までが、記憶の浅い部分に引き上げられた。優雅な声が流暢に、雨音の絶えない廊下に響き渡った。

あやまちてあらためざる、これを過ちとう、ですか?」
「それだ!」

 主人の助けで、何とかシリアスシーンを持ち直した執事は、論語の言葉を訳述し始めた。

「間違うのは恥ずかしいことじゃないんだろう? 間違えたって気づいたのに、直さないことが本当に恥ずかしいことなんだろう? だったら、今から直せばいいだろう」
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