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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of judgement/33
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崇剛は優雅にただの相づちを打つ。
「そうですか」
(魂が消滅するという可能性が高くなり、99.99%――)
冷静な水色の瞳で頭上を見上げると、自分たちを押しつぶし、一瞬にして焼き尽くすような大きな赤オレンジ色の塊――いや、ちょっとした惑星ほどの大きさがある火の玉が落ちてくるところだった。
Time of judgement――審判の時。
囮のまま、自分たちは死んでいく。それが神の出した戦略だったのだ。
ラジュは少し寂しげに微笑んで、いつもと違いおどけた感じはなく、女性的で凛とし澄んだ声で問いかけた。
「崇剛、何か言い残すことはありますか?」
優雅な崇剛もいつものような余裕はなくなり、それでも少しだけ微笑む。
「ラジュ天使、瑠璃さん、三十二年間でしたが、色々ありがとうございました。一緒に過ごせたこととても嬉しかったですよ」
百年の重みを感じさせる瞳にも悲しみ色が混じった。
「我もじゃ」
ラジュは崇剛の隣へ瞬間移動してきて、まるで教師が教え子の卒業を見守るような顔で、誇り高く人間を見つめた。
「私もです」
次々と崇剛のそばへ、天使やダルレシアンが近づいて、今は少し影のある水色の瞳はつかの間だったが、一緒に戦った彼らを見渡した。
「それから、他のみなさんに出会えたことを神に感謝するとともに、みなさんにもお礼を申し上げます」
そうして、崇剛はもう一度、ベルダージュ荘で何も知らずに過ごしている人たちに心の中で静かに伝えた。
(涼介、瞬、楽しい日々でしたよ。さようなら……)
崇剛が優雅に頭を下げると、紺の長い髪は前へサラサラと落ちた。
「短い間でしたが、お会いできてよかったです」
クリュダが優しく穏やかに微笑み、アドスは紫の髪をさらっとかき上げて、
「俺っちの骨はここに埋まるってことっすか。それを灰にして、みんなに配って、頭からかぶるとご利益が――」
こんな時まで宗教バカが幅を利かせているアドスに、シズキが超不機嫌な顔をした。
「貴様、最後まで宗教アイテムを作ろうとするとはな。死んでも治らないだろうな」
器用さが目立つ手の甲で、ナールはシズキの腕をトントンと軽く叩いた。
「お前、何間違ってんの? 俺たちに骨はないの。だから、配れないじゃん? そこでしょ? 突っ込むところって」
気まずそうな顔になって、咳払いをし、
「んんっ! とにかくいい」
シズキは気を取り直して、相変わらずの減らず口を叩いた。
「崇剛、死して神に返上しろ、そのメシアをな」
「いい修業になった」
カミエが言うと、味方全員が不思議そうな顔をした。
「何か間違ってない?」
声だけしか聞こえない中で、精一杯戦ってきたダルレシアン。拘束されたのちに、花冠国までやってきて、その結果が死。それでも彼は、春風が吹いたように柔らかに微笑んだ。
「崇剛、キミに会えて本当によかったよ」
「それでは、きま――」
ラジュが最後まで言い終える前に、
パチン!
と、世界中に響き渡るような音が聞こえた。崇剛の水色をした瞳は、偶然にもナールの指先が動いた瞬間を捉えた。
グラっと体が大きく揺れる。外側へ円を描くような強烈な力――遠心力。
(何が起きたのでしょう?)
理解する間もなく、髪が横に流れ、自分たちへ向かってきていた火の玉が、なぜか敵陣へ落ちてゆくのが見た。
ドガン、ゴォォォォォー!
凄まじい轟音が鳴り響き、衝撃で強風を巻き起こし、砂埃であたりが一瞬にして濁流のように茶色く濁った。
小石がぶつかり、頬を切るような痛みが襲って、崇剛は両腕で顔を覆うが、風圧に耐えられず、崩れるように地面に倒れ込んだ。
そうして、全員の意識がプツリと途切れ、本当の闇と静寂がやってきた――――
「そうですか」
(魂が消滅するという可能性が高くなり、99.99%――)
冷静な水色の瞳で頭上を見上げると、自分たちを押しつぶし、一瞬にして焼き尽くすような大きな赤オレンジ色の塊――いや、ちょっとした惑星ほどの大きさがある火の玉が落ちてくるところだった。
Time of judgement――審判の時。
囮のまま、自分たちは死んでいく。それが神の出した戦略だったのだ。
ラジュは少し寂しげに微笑んで、いつもと違いおどけた感じはなく、女性的で凛とし澄んだ声で問いかけた。
「崇剛、何か言い残すことはありますか?」
優雅な崇剛もいつものような余裕はなくなり、それでも少しだけ微笑む。
「ラジュ天使、瑠璃さん、三十二年間でしたが、色々ありがとうございました。一緒に過ごせたこととても嬉しかったですよ」
百年の重みを感じさせる瞳にも悲しみ色が混じった。
「我もじゃ」
ラジュは崇剛の隣へ瞬間移動してきて、まるで教師が教え子の卒業を見守るような顔で、誇り高く人間を見つめた。
「私もです」
次々と崇剛のそばへ、天使やダルレシアンが近づいて、今は少し影のある水色の瞳はつかの間だったが、一緒に戦った彼らを見渡した。
「それから、他のみなさんに出会えたことを神に感謝するとともに、みなさんにもお礼を申し上げます」
そうして、崇剛はもう一度、ベルダージュ荘で何も知らずに過ごしている人たちに心の中で静かに伝えた。
(涼介、瞬、楽しい日々でしたよ。さようなら……)
崇剛が優雅に頭を下げると、紺の長い髪は前へサラサラと落ちた。
「短い間でしたが、お会いできてよかったです」
クリュダが優しく穏やかに微笑み、アドスは紫の髪をさらっとかき上げて、
「俺っちの骨はここに埋まるってことっすか。それを灰にして、みんなに配って、頭からかぶるとご利益が――」
こんな時まで宗教バカが幅を利かせているアドスに、シズキが超不機嫌な顔をした。
「貴様、最後まで宗教アイテムを作ろうとするとはな。死んでも治らないだろうな」
器用さが目立つ手の甲で、ナールはシズキの腕をトントンと軽く叩いた。
「お前、何間違ってんの? 俺たちに骨はないの。だから、配れないじゃん? そこでしょ? 突っ込むところって」
気まずそうな顔になって、咳払いをし、
「んんっ! とにかくいい」
シズキは気を取り直して、相変わらずの減らず口を叩いた。
「崇剛、死して神に返上しろ、そのメシアをな」
「いい修業になった」
カミエが言うと、味方全員が不思議そうな顔をした。
「何か間違ってない?」
声だけしか聞こえない中で、精一杯戦ってきたダルレシアン。拘束されたのちに、花冠国までやってきて、その結果が死。それでも彼は、春風が吹いたように柔らかに微笑んだ。
「崇剛、キミに会えて本当によかったよ」
「それでは、きま――」
ラジュが最後まで言い終える前に、
パチン!
と、世界中に響き渡るような音が聞こえた。崇剛の水色をした瞳は、偶然にもナールの指先が動いた瞬間を捉えた。
グラっと体が大きく揺れる。外側へ円を描くような強烈な力――遠心力。
(何が起きたのでしょう?)
理解する間もなく、髪が横に流れ、自分たちへ向かってきていた火の玉が、なぜか敵陣へ落ちてゆくのが見た。
ドガン、ゴォォォォォー!
凄まじい轟音が鳴り響き、衝撃で強風を巻き起こし、砂埃であたりが一瞬にして濁流のように茶色く濁った。
小石がぶつかり、頬を切るような痛みが襲って、崇剛は両腕で顔を覆うが、風圧に耐えられず、崩れるように地面に倒れ込んだ。
そうして、全員の意識がプツリと途切れ、本当の闇と静寂がやってきた――――
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