明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
740 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

刑事は探偵に告げる/3

しおりを挟む
 人差し指を斜めに持ち上げ、彼女にお茶しないみたいなポーズで止まったナールの姿を見ることは叶わないが、ダルレシアンの凛々しい眉は少しイラついてピクピクしていた。

「どうして、自分のことが疑問形なの?」

 どんな話のはぐらし方かと、教祖は文句を言いたくなった。しかし、ナールは嘘をついているようでもない。本人がわからないことを、他の誰かが答えを見つけ出すことはできなかった。その状況を打開したのは、合気の達人――カミエだった。

「おそらく、正中線で直感の気の流れを受けているのかもしれん」

 ダルレシアンも特殊だと言われていたが、まだ他にもこの戦場にはいたらしい。ラジュと先日密かに話して、ナールは理論派だという結論が出ているのに、直感も使うとは、崇剛は興味がそそられた。

「そちらの時は、どのような感覚になるのですか?」
「ナールが言っている通り、いつの間にか考えが変わっている」

 ダルレシアンも手強てごわかったが、天使はさらに上手うわてだった。ひらめいたと思えば、敵も何らかの対処ができるが、本人さえも知らないのだから、これ以上の凶器は神羅万象に存在しないだろう。

 ナールは身振り手振りで、軽薄的に全軍に聞こえるように説明を始める。

「こうさ、道が右と左に分かれるとするじゃん? そこを歩いてるわけ」
「うんうん」

 みんなは何度もうなずき、この不思議な天使の話に、ハリケーンにでも巻き込まれたように、知らぬ間に夢中になっていた。

「俺は右に行きたいの」
「うんうん」
「でも気づくと、左の道に行ってるんだよね」
「え……?」

 全員、毒気が抜かれたような顔をした。起承転結も真っ青な急展開のナールの話に。そうして、話のオチがやってくる。

「で、そっちが近道なの」
「嘘だ!」

 全員が声を大にして、猛抗議した。だがしかし、ナールは首を横に振って反論する。

「嘘じゃないよ! マジマジ! いっつもそうなんだよね」

 ラジュマジックも相当強烈なものだったが、運というものまでナールという柱に向かって引き込まれているみたいな、人生だった。

 みんなは盛大にため息をつく。

「ミラクル風雲児ふううんじ――」

 すいていた漆黒の髪を全て落として、ダルレシアンは可愛く小首をかしげた。

「ナールが最終兵器だったのかも?」
「そうかもしれませんね」

 崇剛はそう言って、優雅に微笑んだ。

 頭のいい人間はたくさんいるのに、誰一人気づいていなかった。ナールの使った力が何だったのかを。ナール自身が知らないうちに、ミラクル旋風に巻き込んでしまったのだ。

 話がひと段落したところで、ラジュはまた困った顔をして、こめかみに人差し指を突き立てた。

「さらに悲報です、敵が大打撃です~」

 カミエが低い声ですかさず真っ直ぐツッコミ。

「それは、朗報だ。同じネタを使うな」
「うふふふっ」

 ラジュがいつも通り意味ありげに微笑むと、さっきから黙って話を聞いていた瑠璃は今回の聖戦争について、ボソッと一言。

「真剣味に欠ける戦いじゃったの。お主ら、笑いばかり取りおって」

    *

 ――――車は何とか丘を登りきり、ズドドドと回転のよくないエンジン音に揺すぶられ続けた三十分。振動が染みついている体をシートからズラして、さっきとは違う石畳にウェスタンブーツがざざっと落とされた。

 緑青ろくしょう――明るく鈍い青緑色を基調にし、四角く金色で装飾された立派なドア。赤煉瓦で作られた建物の扉へ近づこうとすると、それが不意に手前へ開き、タキシードを着た初老の男が出てきた。

「おや? お久しぶりでございます」

 丁寧に頭を下げられたが、訪問客は慌てている様子で口早に言う。

「崇剛は?」
「お約束でございますか?」

 突然の客に不思議そうな顔をしたが、それを見返す瞳は意志が強く鋭いブルーグレーの眼光だった。

 背丈は百九十七センチという長身。ガタイはよく他人の言動をある程度、仕草や態度からの威圧感で自由にできるその人は、

「早く答えやがれ」

 先を促した。ここで時間をロスしている暇はない――。

 それでも、タキシードを着た初老の男は気にした様子もなく、右手に広がる綺麗な花が咲き乱れる庭を指し示した。

「先ほど、乙葉が探しに行きましたが……」

 執事が主人を探しに行く理由はひとつだ。やはり、バッドなフィーリングがする――

「何……!?」

 相手の襟元をつかみ上げるような勢いで、目を見張る。驚いている暇もない。とにかく、あとを追いかけなければ、その気持ちに強く駆られる。

 ウェスタンブーツのスパーをかちゃかちゃさせながら、赤煉瓦の建物の前を盛ダッシュで男は走り抜けていった――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...