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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
始まりの晩餐/6
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椅子に座っているのに座禅でも組んでいるように姿勢のいい、カミエの地鳴りのように低い声が、彼独自の目線で説明する。
「崇剛の気の流れでは、魚料理は出てこん。肉料理があの気の流れを作るからだ」
「女に貢いでもらえんじゃないの?」
どこから持ってきたのか、指先に現れたマスカットをポイッと口の中に投げ入れて、ナールがラジュに提案した。
「おや? その手がありましたか~。今から門のところで待っていましょうか? 親切な方が届けてくださるかもしれません」
と言っておきながら、まったく動く気配のないラジュは、徳利を傾けてお猪口で酒を煽った。
「貴様は食わないのか?」
水ばかりさっきから飲んでいるシズキは、カミエの食事が進まないのを気にかけた。しかし、武術の達人から出てくる理由は、あくまでも専門的だった。
「油物は落ち着きがなくなる。修業の妨げになるから食わん」
「相変わらず、修業バカだな、貴様は」
好みでないからとか、お腹が空いていないからではない拒否理由。シズキは鼻でバカにしたように笑った。
ナイフとフォークで上品に食べていたクリュダが、熱にうなされたように突然話し出した。
「サケといえば、サンサン地方の奥地にある渓流に、七色に輝く苔だけを食する品種がいるそうで、それが三千年に一度、産卵期を迎えるのだそうです。幻のサケと言われています。一体どんな味なんでしょう?」
全ての料理をペロリと平らげて、魔法のように料理が再び盛られる皿を前にして、コーンスープにスプーンを入れた、アドスが人懐っこそうに言う。
「俺っちがまた探してくるっすよ」
「ありがとうございます。お茶から何まで……」
ムニエルがただの焼き魚に変わっている皿の前で、ラジュはゆるゆる~っと語尾を伸ばした。
「クリュダは、明日も奈落庵の最中を買いに行くんですか~?」
「えぇ。限定三個ですからね。朝の三時から並んでゲットしちゃいます」
やらたらに少ない――儲け度外視の個数で、霊界にはお金が流通していないのがよくわかった。
くるくるとルビー色をワイングラスの中で回しながら、冷静な水色の瞳は、千里眼を使って、話題の中心になっている天使を見つめた。
(クリュダ天使は遺跡好きではなく、限定物に目がないのかもしれませんね)
その時だった、聖女の憤慨した声が突然食卓に響いたのは。
「プリンが出てこぬではないか! 何じゃ、この山のように盛り付けた生クリームは」
食べても食べても、生クリームばかりで、あのブランデーの香りがする黄色いプルプルのものが、百年の重み感じさせる若草色をした瞳の前に現れないのだった。
「パパ、るりちゃんがプリンたべられないって」
口元についたレタスを指で口の中に入れながら、瞬は父に通訳した。涼介は毎度のことながらゲンナリする。
「瑠璃さま、またプリンから食べてるのか。だから、デザートを先に食べるな」
さっきからまったく聖女の声は聞こえないし、姿も見えないが、ひとつ開いた席で手がまったくつけられていない料理と、まわりの人間が話しているのを目の当たりにすると、彰彦もいつの間にか普通に話してしまうのだった。
「瑠璃お嬢、すまねえな。がよ、それはそれで新鮮だろ?」
聖女の顔は驚愕に染まった。彰彦の節々のはっきりした指で、二メートル近くもある背丈で、手のひらに乗るくらいの皿に、生クリームを盛りつける――
「お主が作ったとはの。明日は雪――いや、槍が降るのう」
普通の声で言って、白八歳の少女は遠い目をした。しかし、彰彦にはもちろん聞こえておらず、話が尻切れとんぼだと思いながら、ジンを煽る。
横で聞いていたダルレシアンが何気なく会話に入ってきた。
「瑠璃姫はプリンが好きなの?」
ヤカンでお湯が沸いたように、一気に頭の天辺まで真っ赤になった瑠璃は、椅子に座ったまま足をジタバタさせた。
「姫と呼ぶなと申しておるだろう!」
「ふふっ」
ダルレシアンは肩をすくめて、春風みたいに柔らかに微笑んだ。
「崇剛の気の流れでは、魚料理は出てこん。肉料理があの気の流れを作るからだ」
「女に貢いでもらえんじゃないの?」
どこから持ってきたのか、指先に現れたマスカットをポイッと口の中に投げ入れて、ナールがラジュに提案した。
「おや? その手がありましたか~。今から門のところで待っていましょうか? 親切な方が届けてくださるかもしれません」
と言っておきながら、まったく動く気配のないラジュは、徳利を傾けてお猪口で酒を煽った。
「貴様は食わないのか?」
水ばかりさっきから飲んでいるシズキは、カミエの食事が進まないのを気にかけた。しかし、武術の達人から出てくる理由は、あくまでも専門的だった。
「油物は落ち着きがなくなる。修業の妨げになるから食わん」
「相変わらず、修業バカだな、貴様は」
好みでないからとか、お腹が空いていないからではない拒否理由。シズキは鼻でバカにしたように笑った。
ナイフとフォークで上品に食べていたクリュダが、熱にうなされたように突然話し出した。
「サケといえば、サンサン地方の奥地にある渓流に、七色に輝く苔だけを食する品種がいるそうで、それが三千年に一度、産卵期を迎えるのだそうです。幻のサケと言われています。一体どんな味なんでしょう?」
全ての料理をペロリと平らげて、魔法のように料理が再び盛られる皿を前にして、コーンスープにスプーンを入れた、アドスが人懐っこそうに言う。
「俺っちがまた探してくるっすよ」
「ありがとうございます。お茶から何まで……」
ムニエルがただの焼き魚に変わっている皿の前で、ラジュはゆるゆる~っと語尾を伸ばした。
「クリュダは、明日も奈落庵の最中を買いに行くんですか~?」
「えぇ。限定三個ですからね。朝の三時から並んでゲットしちゃいます」
やらたらに少ない――儲け度外視の個数で、霊界にはお金が流通していないのがよくわかった。
くるくるとルビー色をワイングラスの中で回しながら、冷静な水色の瞳は、千里眼を使って、話題の中心になっている天使を見つめた。
(クリュダ天使は遺跡好きではなく、限定物に目がないのかもしれませんね)
その時だった、聖女の憤慨した声が突然食卓に響いたのは。
「プリンが出てこぬではないか! 何じゃ、この山のように盛り付けた生クリームは」
食べても食べても、生クリームばかりで、あのブランデーの香りがする黄色いプルプルのものが、百年の重み感じさせる若草色をした瞳の前に現れないのだった。
「パパ、るりちゃんがプリンたべられないって」
口元についたレタスを指で口の中に入れながら、瞬は父に通訳した。涼介は毎度のことながらゲンナリする。
「瑠璃さま、またプリンから食べてるのか。だから、デザートを先に食べるな」
さっきからまったく聖女の声は聞こえないし、姿も見えないが、ひとつ開いた席で手がまったくつけられていない料理と、まわりの人間が話しているのを目の当たりにすると、彰彦もいつの間にか普通に話してしまうのだった。
「瑠璃お嬢、すまねえな。がよ、それはそれで新鮮だろ?」
聖女の顔は驚愕に染まった。彰彦の節々のはっきりした指で、二メートル近くもある背丈で、手のひらに乗るくらいの皿に、生クリームを盛りつける――
「お主が作ったとはの。明日は雪――いや、槍が降るのう」
普通の声で言って、白八歳の少女は遠い目をした。しかし、彰彦にはもちろん聞こえておらず、話が尻切れとんぼだと思いながら、ジンを煽る。
横で聞いていたダルレシアンが何気なく会話に入ってきた。
「瑠璃姫はプリンが好きなの?」
ヤカンでお湯が沸いたように、一気に頭の天辺まで真っ赤になった瑠璃は、椅子に座ったまま足をジタバタさせた。
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