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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of repentance/5
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黄色のサングラスの奥に潜む、赤い目をじっと見つめると、自分の居場所がわからなくなるように、ぐるぐるとまた回り出す。聖戦争の最後に感じた遠心力を受けているように。
「そう」とナールは言って、「ラジュがいないのはもちろんだけどさ、カミエもいなくなちゃって、俺一人になったんだよね」
土砂降りの交差点で大鎌を投げては戻して、敵と対峙した夜は、神の脳裏にもはっきりと残っていた。
「他の方は主の正体をご存知なのでしょうか?」
「そうね、ラジュだけじゃないの? 気づいてんの。もしかすると、ダルレシアンもね」
パチンと指が鳴る音がして気がつくと、聖堂の青い絨毯の上にふたりとも立っていた――。
「で、懺悔は?」
あたりの空気は一転して、ビリビリと体中を震わせる畏敬で埋め尽くされた。黒い神父服はひざまづき、崇剛は首を垂れる。
「生霊から瞬を助ける時間の導き出し方を誤ってしまいました」
「まあね、あれは、正神界の生霊だったからさ、間に合わなくても全然オッケーじゃん」
ナールは片足に体重をかけることもせず、祭壇に寄りかかることもなく、裸足のまま聖堂で感じる縦の線――正中線を、まるで自身の体に持っているように立っていた。
「あとは?」
「悪霊に襲われた時、感情に流され判断を誤ってしまいました」
「あれは、厄落としが大きく関わってるからね。お前の判断鈍らせたの、俺の力だし。お前なりに十分制御できてたよ」聖書の中にあった、エジプト王の話と同じだった。
「ありがとうございます」
銀のロザリオを、崇剛は強く握りしめた。
「それから?」
「四月十八日、月曜日。二十時五分二秒から、瑠璃に罠を仕掛けてしまいました」
いけない癖だ――。聖女に罠を仕掛ける時刻をインデックスとして記憶しておくのは。こうやって、最後に懺悔をするためになのだ。
「お前、好きだよね、罠仕掛けんの」
さすがの神もあきれた顔をした。崇剛は両方の手のひらを天井へ向けて上げ――優雅に降参のポーズを取る。
「罠に相手がはまるという快楽から逃れられないのです」
ナールはマスカットを口の中に放り入れて、シャクッと噛み砕いた。
「でも、まあさ。あのガキも気にしてないから、いいんじゃないの? コミュニケーションのひとつってことでさ」
「赦していただいて、ありがとうとざいます」
「終わり?」
「いいえ」崇剛の紺の髪は横へ揺れ、さっきまでと違って真摯な眼差しになった。
「国立 彰彦の心を傷つけました。どのように罪を償ってゆけばよいのでしょうか?」
恋愛――という感情が絡む出来事。データが少なかったばかりに、取り返しのつかないことをしてしまった。後悔の海へと断崖絶壁から真っ逆さまに落ちて、海面で派手な音を上げ、そのまま深く深く……青が闇色へと変わっても、崇剛は沈み続けてゆく。
その時だった、一筋の光が天から差してきたのは。
「そうね。お前なりの断り方だったんだからいいんじゃないの? それに、反省してるしさ。今後、同じように傷つけないでしょ?」
赤い目をした神からの問いかけに、崇剛は少しだけ微笑んだ。
「えぇ、そうかもしれません」
未来の見えない人間は、戒めとして曖昧な返事を返した。
裸足で身廊に降り立つ神は、無機質な表情だった。まるで、どんな感情にも左右されることとは無縁だというように。
「それにさ、あれには厄落としがまだ継続してんだよね。それと関係してるから、お前が深く反省しすぎることじゃないよ」
「そうですか」
ナールは足音ひとつさせず、跪いている崇剛へと近づき、神経質な頬に手を当てた。神の手に吸いついたように、崇剛の体はすうっと立ち上がる。
「今回の事件についての懺悔は、こちらで終了です。導いてくださって、感謝いたします」
遊線が螺旋を描く優雅な声が聖堂に響き渡ると、ナールは神父をいきなり抱き寄せた。崇剛の手から絨毯へと思わず落ちた聖書。二百三十一センチの背丈がある神の腕の中で、百八十七センチの神父は身を任せる。
青い光のシャワーが抱き合う男ふたりに、祝福するように降り注ぎ続ける。その中で、崇剛は神を触れられなくても強く感じ、神経質な頬を一粒――贖罪の涙――がこぼれ落ちていった。
ナールの大きな手は、崇剛の頭をぽんぽんと優しくなでる。パイプオルガンの曲が流れてきて、しばらく神父は瞳を閉じ、その音色に、神の存在に酔いしれていた。
「そう」とナールは言って、「ラジュがいないのはもちろんだけどさ、カミエもいなくなちゃって、俺一人になったんだよね」
土砂降りの交差点で大鎌を投げては戻して、敵と対峙した夜は、神の脳裏にもはっきりと残っていた。
「他の方は主の正体をご存知なのでしょうか?」
「そうね、ラジュだけじゃないの? 気づいてんの。もしかすると、ダルレシアンもね」
パチンと指が鳴る音がして気がつくと、聖堂の青い絨毯の上にふたりとも立っていた――。
「で、懺悔は?」
あたりの空気は一転して、ビリビリと体中を震わせる畏敬で埋め尽くされた。黒い神父服はひざまづき、崇剛は首を垂れる。
「生霊から瞬を助ける時間の導き出し方を誤ってしまいました」
「まあね、あれは、正神界の生霊だったからさ、間に合わなくても全然オッケーじゃん」
ナールは片足に体重をかけることもせず、祭壇に寄りかかることもなく、裸足のまま聖堂で感じる縦の線――正中線を、まるで自身の体に持っているように立っていた。
「あとは?」
「悪霊に襲われた時、感情に流され判断を誤ってしまいました」
「あれは、厄落としが大きく関わってるからね。お前の判断鈍らせたの、俺の力だし。お前なりに十分制御できてたよ」聖書の中にあった、エジプト王の話と同じだった。
「ありがとうございます」
銀のロザリオを、崇剛は強く握りしめた。
「それから?」
「四月十八日、月曜日。二十時五分二秒から、瑠璃に罠を仕掛けてしまいました」
いけない癖だ――。聖女に罠を仕掛ける時刻をインデックスとして記憶しておくのは。こうやって、最後に懺悔をするためになのだ。
「お前、好きだよね、罠仕掛けんの」
さすがの神もあきれた顔をした。崇剛は両方の手のひらを天井へ向けて上げ――優雅に降参のポーズを取る。
「罠に相手がはまるという快楽から逃れられないのです」
ナールはマスカットを口の中に放り入れて、シャクッと噛み砕いた。
「でも、まあさ。あのガキも気にしてないから、いいんじゃないの? コミュニケーションのひとつってことでさ」
「赦していただいて、ありがとうとざいます」
「終わり?」
「いいえ」崇剛の紺の髪は横へ揺れ、さっきまでと違って真摯な眼差しになった。
「国立 彰彦の心を傷つけました。どのように罪を償ってゆけばよいのでしょうか?」
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その時だった、一筋の光が天から差してきたのは。
「そうね。お前なりの断り方だったんだからいいんじゃないの? それに、反省してるしさ。今後、同じように傷つけないでしょ?」
赤い目をした神からの問いかけに、崇剛は少しだけ微笑んだ。
「えぇ、そうかもしれません」
未来の見えない人間は、戒めとして曖昧な返事を返した。
裸足で身廊に降り立つ神は、無機質な表情だった。まるで、どんな感情にも左右されることとは無縁だというように。
「それにさ、あれには厄落としがまだ継続してんだよね。それと関係してるから、お前が深く反省しすぎることじゃないよ」
「そうですか」
ナールは足音ひとつさせず、跪いている崇剛へと近づき、神経質な頬に手を当てた。神の手に吸いついたように、崇剛の体はすうっと立ち上がる。
「今回の事件についての懺悔は、こちらで終了です。導いてくださって、感謝いたします」
遊線が螺旋を描く優雅な声が聖堂に響き渡ると、ナールは神父をいきなり抱き寄せた。崇剛の手から絨毯へと思わず落ちた聖書。二百三十一センチの背丈がある神の腕の中で、百八十七センチの神父は身を任せる。
青い光のシャワーが抱き合う男ふたりに、祝福するように降り注ぎ続ける。その中で、崇剛は神を触れられなくても強く感じ、神経質な頬を一粒――贖罪の涙――がこぼれ落ちていった。
ナールの大きな手は、崇剛の頭をぽんぽんと優しくなでる。パイプオルガンの曲が流れてきて、しばらく神父は瞳を閉じ、その音色に、神の存在に酔いしれていた。
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