明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
863 / 967
翡翠の姫

月の魔法/1

しおりを挟む
 銀杏いちょう並木の黄色がトンネルのように奥へとまっすぐ吸い込みそうに、遠近法を描いて並んでいる。

 ハラハラと乾いたアスファルトの上に枯葉が落ちる中を、大きめのバックを持った若い女の子たちが何人かで固まって敷地へと入ってゆく。

 赤茶の門柱の前で、紫のニットコートを着た女が、すすけたワインレッドの革ジャンの男のたくましい腕に必死にしがみついていた。

「ねぇ、あき連れてってよ!」
「てめえはここで待ってろや」

 十月のいくぶん色あせた青空の下で、ガサツな声が突っ返した。門へと入ってゆく数名のグループが、男女のやり取りをチラチラとうかがう。

 誰がどう見ても、痴話ちわ喧嘩か何かでもめているようだった。

 そんなことはどうでもよく、男のジーパンの長い足は門の中へ入っていこうとする。女は全体重をかけて、両腕で引っ張り戻そうと踏ん張った。

「約束だったでしょ?」
「またにしろや。手え離せよ」

 男と女の押し問答は続いていきそうだったが、ごつい手が強制終了した。女の手を無理やり自分の腕から離して、振り返りもせず、言葉もかけず、

「~~♪ ~~♪」

 陽気に鼻歌を歌いながら、長い足を駆使して、女を置き去りにして、あっという間に門の中へと遠ざかっていった。

「む~~っ!」

 女の悔しそうなうなりがして、黒いロングブーツのかかとが石畳に強く叩きつけられると、ブラウンの長い髪がゆらゆらと背中で揺れた――――


 先の尖った革靴が石臼でもいたような、砂埃のジャリジャリという音を出しながら、破れが入った長いジーパンを男の革靴は連れてゆく。男の厚みのある唇からは口笛が陽気にもれる。

「~~♪ ~~♪」

 両手を後ろポケットに突っ込み、肩を右に左に揺らしながら歩いてゆく。追い越しをかけ始めた、両脇を歩いていた若い女の子たちが、男が通り過ぎるたび、振り返り出した。

「かっこいいっ!」

 ビクともせず、男の鋭いアッシュグレーの眼光は、決戦の火蓋ひぶたでも降ろされたように、遠くに見えるグレーの山脈のような建物を見据える。

「~~♪ ~~♪」

 ふたつのペンダントヘッドとウォレットチェーンが金属音を歪ませ、藤色の長めの短髪が秋風になびく。

「背高いっ!」
「足長いっ!」 

 慣れた感じで植え込みを右へ曲がると、三つしか止めていないシャツの裾から、日に焼けた筋肉質な素肌が顔をのぞかせた。

「~~♪ ~~♪」

 チャイムの音があたりにのんびりと広がってゆく。ベンチに座っていた女の子たちが誰一人もれず、両手を夢見がちに胸の前で組んで、立ち上がっては目を輝かせた。

「どこの人?」
「学生……?」

 そうこうしているうちに、男の革靴は建物に近づき、右から五番目の窓の前に立った。外の明るい光が入らないように、両手で覆い隠し、鋭い眼光は中をうかがう。

 だが、レースのカーテンが邪魔していてよくわからなかった。窓から一度離れて、骨格のはっきりした拳でガラスを強く叩く。

 しばらく待ってみたが、窓は開くこともなく、中の人が寄ってくることもなかった。

 藤色の剛毛はあきれたように手のひらでガシガシとかき上げられて、先の尖った革靴は再び歩き出す。

「~~♪ ~~♪」

 長いアーチを通り抜け、渡り廊下から建物へと、男は入り込む。壁にぶつかって返ってくるかかとの靴音が大きくこだまし始めた。

「~~♪ ~~♪」

 外の比ではなく、中は女の子たちの視線が一気に増えて、黄色い声があちこちで上がった。

「きゃああっ!」

 こんな現象はいつものことだ。ここでなくても、どこでもいつでもそうだ。今はそれどころではない。男が気にせず先へ進もうとすると、中年のスーツを着た男が立ちはだかろうとした。

「関係者以外の校内の出入りは――」
「関係はあんだよ」

 百九十七センチの長い足で、簡単に追い越しをかける。中年の男は慌てて振り返り、すすけたワインレッドの革ジャンの腕を捕まえた。

「職員証を拝見――」
「細けえこと言うなよ」

 男は一旦立ち止まり、アクセサリー類の貴金属をチャラチャラと歪ませながら、長ザイフから札束を取り出し、

「ほらよ」

 いきなり十万を渡された職員は引き止めるのをやめて、遠ざかってゆく男の後ろ姿を黙って見送った。

「…………」 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...