明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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Dual nature

もうひとつの夜/2

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 颯茄は泣くことも忘れて、不思議そうに顔を突き出した。

「……どういうこと?」

 孔明から容赦ない言葉がやってくる。

「恋愛鈍感かも~?」
「え……?」

 ぽかんとした颯茄を置いて廊下を通り過ぎる生徒たちがふたりを見ていたが、彼女が理解することもなく、湿った風が窓から入り込み何度も吹き抜けていきそうになった。冷静な孔明が合理的に提案する。

「今日、彼の部屋に行ってみようか。何か原因がわかるかも」
「あぁ、その手があったか!」

 颯茄は学校中に響き渡る大声を上げた。一人違う制服を着ている孔明とともに歩き出した、女子生徒を廊下の影からこっそり見ている、どこかとぼけている黄色の瞳があった。

「先輩にモテ期到来です! 眠り王子と神主王子の両方をゲットしそうな勢いです! 事件です! このまま結末までうかがわせていただきましょう!」

 今日も颯茄と帰る約束をしていたのに、すっぽかされてしまった知礼はふたりのあとをそうっと追いかけ始めた。

    *

 校庭を歩き出してから、颯茄は重大なことに気づいて、彼女の影が地面の上でぴょんと飛び上がった。

「あっ! そういえば、家知らない」

 順番がめちゃくちゃ、理論がない女子生徒の隣で、孔明が首を可愛くかしげて、漆黒の長い髪がさらさらと肩から落ちた。

「ボクがわかるかも~?」
「いつ教わったの? 昼休みずっと寝てたのに……」

 今日転校してきたのだ。ふたりが話した内容はすぐそばで聞いていた。颯茄は疑問に思った。孔明の脳裏にすうっと丸い光が浮かび上がる。それは遠く離れた場所で輝いている。

「彼の魂の居場所ならわかるよ」
「魂の居場所?」

 転校生の不思議な一面。部活動をしている生徒たちの掛け声がやけに遠くに思えた。孔明は答えず、夏の湿った空気に、春の穏やかでさわやかな風を微笑むことで引き入れる。

「少しでも早く助けよう?」
「そうだ」

 隣を歩き出した颯茄。孔明の瑠璃紺色の瞳は何かに挑むように真剣そのものだった。

(彼がこれ以上罪を重ねないうちに……)

 校則という規律で守られている平和な高校生活。校門を出たと同時に無法地帯という家庭環境の荒波に、颯茄と孔明は飲まれてゆくのだった。

    *

 漆橋という表札が出ている門の、インターホンをさっきから何度も押していたが、玄関のドアが開くことはなかった。住宅地の一軒家で、他の家とそれほど見た目も変わらず普通の建物。

 夕飯の匂いがあちこちの家から漂ってくる。真正面の家は部屋の明かりはついているが、人の気配がしない。颯茄は背後にある道路に視線をやって、通り過ぎてゆく自転車を見送る。

「いないのかな?」
「ううん、いる」

 孔明が門の取っ手に手をかけ、向こう側へ押した。するとすうっと中へ入ってゆく。

「開いてる」

 颯茄はびっくりした。自分も孔明も、月と話をするようになったのは昨日今日。家を訪ねるのでさえ、気が引けるというのに。

「えっ!? 孔明くん、勝手に……」

 ワイシャツから出た腕を思わず捕まえようとしたが、それを素早くくぐり抜けて、孔明のスニーカーは月の家の玄関へと続く石畳の上を歩き出した。

「家に人はいても、ボクたちに対応するのは月しかいない。おそらくね」
「え……?」

 何だかおかしな話で、颯茄が固まっている隙に、孔明は玄関のドアまでも遠慮なしに開けて、彼女に手招きした。

「お邪魔します」

 ひとまず断ってから、スリッパもはかずに家に上がる。離れたところで食器がぶつかる音がする。聞こえているはずなのに、誰も出てこない。

「……人の気配はするのに、どうして出てこないんだろう?」

 颯茄は首を傾げながら、孔明のあとに続く。彼は迷わず、玄関を入ってすぐのところにあった階段を登り出した。

 二階の廊下にたどり着く前に、孔明は後ろからついてきた颯茄に振り返って、立てた人差し指を唇の前に当てた。

「しー」
「どうして?」

 颯茄は階段の途中で聞き返したが、

「寝てるから」

 孔明の言葉はおかしい限りだった。友達の家に来たのに、本人を起こさない。それなのに忍び込んでいる。

 しかし、あのいつも突っ伏しているマゼンダ色の髪が動かない印象の強さに意識を奪われて、颯茄は簡単に納得した。

「あぁ、そうか」
「そこで待ってて」
「うん……」

 颯茄を残して、孔明は靴下でそうっと廊下を奥へ歩いてゆく。

 よく見ると、二階にはドアがふたつあった。月はどっちかの部屋にいるのだろう。居場所を知っているはずの孔明は、ドアノブに手をかけて引こうとしたが、

「……開かない」

 彼の脳裏の中で、今日聞いた月の話がパズルピースのように完成図を作り始めた。孔明は引き返してきて、手前のドアを指差す。

「こっちの部屋みたい」
「あぁ、うん」

 トントンと軽くノックをして、穏やかで柔らかな声が問いかけたが、

「月、入るよ~」

 返事は返ってこなかった。

「…………」

 それでも迷うことなく、孔明はドアを中へ押し入れた。そして、ふたりの前に異様な部屋の風景が広がる。
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