明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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Dual nature

もうひとつの夜/7

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 そして、話は本題へと移り、この殺人事件のトリックみたいな真相へと迫った。

「キミのニュースをテレビで見た」

 この目の前に、堂々と座っている女は、数日前の夕方のニュースでフラッシュを浴びていたその人本人だった。孔明の話はスピリチュアルな領域へ入ってゆく。

「患者が家族の元へ帰ったけど、その肉体には魂が入ってなかった」
「魂がなかった?」

 多少信じている人間なら、おかしい話である。横に並んだ颯茄に、孔明は瑠璃紺色の瞳を向ける。

「魂の有無が肉体の生死には直接関係しない。時々ある、魂の入っていない肉体はね」
「中身は空っぽ……」

 動く肉塊。本人は考えて自分で言動を決めているつもりなのに、天の操り人形。そんな不可思議な現象が世の中にはある。

「それと違うことも起きる」
「違うこと?」

 颯茄の問いかけには答えず、孔明は二十三歳の女に視線を戻した。

「キミの家のクローゼットの中に、女物の服が入ってた」

 どこかで聞いたことがあるような話が出てきて、颯茄のブラウンの長い髪は右へ左へ傾く。

「クローゼット? あれ? ルーズリーフが入って……」
「キミの家の下駄箱の下に、サイズが大きめの女物のパンプスが置いてあった」
「下駄箱の下? あれ? 携帯落としたって……」

 夕方の異世界みたいな空間。暑いはずなのに、寒気がする家のじっとりとのしかかるような空気。颯茄にもやっと理解ができて、人差し指を顔の横に突き立てた。

「もしかして……!」
「藍花 蓮香が漆橋 月なんだ――」
「似てたんじゃなくて、本人だった!」

 紺のタイトスカート。青いストライプの袖が短めのシャツ。ベージュピンクのパンプス。バレッタでまとめた黒髪。この女が、いつも教室で見てきた、マゼンダ色の髪を持つ男子高校生。

「この肉体にはふたつの魂が入ってる――」

 人が変わったようになる。それは主導権を握っている魂が違っているのだ。ある意味そのままなのだ。

「どうしてこんなことになったかは、月が見てる夢が関係してる。そうでしょ?」
「そうよ」

 蓮香はうなずくと、かつらを取り、鮮やかなピンク――マゼンダ色の長い髪が姿を現した。月本人だが、表情がまったく違う。やはり別の人格だ。

「夢が関係してる?」

 颯茄が孔明についてきた当初の目的。蓮香は両肘を机について、遠い目をする。

「あれは、月が五歳の頃の記憶なの」
「開かない部屋があったのはそのせい?」

 夕方の月の家。二階へ上がった時の、孔明の変な行動の真意は悲劇だった。

「そうよ。弟が使うはずの部屋だったの。ある夏の暑い日、公園でひとつ年下の弟と月はボール遊びをしていた。ボールは道路へと転がり、それを追いかけていった弟が車でひかれた。自分の腕の中で冷たくなってゆく弟を、彼はただ見ているしかできなかった……」

 今は女言葉を話して、どこまでも平静な蓮香を前にして、颯茄は昼休みに膝枕をした時の、月の凜とした儚げな声がふと蘇った。

 ――君は暖かい。

 話はしなかったが、冷たくなってゆく感覚も、夢として繰り返し見る過去の記憶の中にあったのかもしれない。想像していたよりも、複雑で怪奇だった。

「月はその時に、精神分裂を起こして、二重人格となって私が生まれたってわけ」

 蓮香は回転椅子から立ち上がって、そばにあった応接セットのソファーに座りなおした。

「彼が十四歳の四月から、ここの研究所で夜に働くことになったの」

 颯茄の中で、月の声が鮮やかに蘇る。

 ――三年前の四月三日からです。

 背もたれに大きく肘を乗せて、額に手を当てて、蓮香はため息交じりに言葉を紡ぐ。

「自身と同じように家族を亡くして悲しむ人が出ないように、それが月の望みだった」

 全ての線がつながって、颯茄は専門書の群れを信じられない目で見つめた。

「生物学の本……。それって、まさか!」
「遺伝子操作で、死期の迫っている人間のレプリカを誕生させて成長させ、家族の元に送り返すようになったの」

 不治の病の克服など嘘だったのだ。明るいニュースの裏側に気づいて、颯茄は思わず両手で口をふさいだ。

「じゃあ、本物はみんな死んで……」
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