明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
926 / 967
Dual nature

噂の真相/6

しおりを挟む
 空中スクリーン上で、音はないが場面が再生されると、颯茄はうんうんと何度もうなずく。

「綺麗に撮れてましたね」
「ええ、僕のお気に入りなんです~」

 斜め前の席でずっと黙っている夫に、妻は問いかける。

「孔明さんの感想は?」
「ボクちょっと恥ずかしかった」
「え? 大先生、夫とキスするのが恥ずかしいの?」

 恋人ではなく、夫なのだ。結婚しているのだ。この映像を見ているのは、やはり配偶者なのだ。しかし、孔明は頬に紅葉を散らす。

「颯ちゃんだって、恥ずかしがってたでしょ?」
「結局、ここに戻ってきてしまった」

 妻と夫でキスシーンをうまく乗り越えられないのだった。

 そして、もうひとつのおかしな噂話に突入する。音声だけをまた再生した。

 ――女装して、乙女ゲームをするらしいよ。

 妻は菓子の袋を適当にたたんで折り目をつける。

「月さんのこの話、みんなに情報共有されてるんじゃないんですね?」

 颯茄は不思議だった。自分の些細なことなど、あっという間に別の夫が知っているということが起きるほど、旦那たちの連携は抜群なのだ。

「月、何してんの?」

 妻にこんな噂話を劇中でされている夫に、焉貴は問いかけたが、現実は小説は奇なりだった。

「僕は外出時は常に女装をすると決めたんです~」
「とうとうそこまでいったか」

 趣味の領域ではなくなったのだ。デフォルトなのだ。

 颯茄は一緒にお昼ご飯を食べに行った時のことを思い返す。

「清楚なワンピースを着て、クマのぬいぐるみを抱いて、乙女ゲームをやってたんです」

 水色の膝下までのワンピースを着て、マゼンダ色の長い髪を結ばず、ツバの大きめの帽子をかぶって、手元でゲームをやる女装が外出着の男性、小学校教諭。

「そこまで乙女づいて……」

 初めて聞いた夫たちがあきれた顔をしたが、月命の次の言葉がさらに奇なりだった。

「ですが、ゲームの中の蓮が落ちなかったんです~」
「あははははっ……!」

 蓮をモデルにした乙女ゲームをやっていて、攻略に苦戦。焉貴は両手で山吹色のボブ髪を大きくかき上げる。

「おかしいね」

 颯茄も笑いそうになるのを何とか堪えながら、

「ですよね? 月さんは蓮にプロポーズされて婿にきたので、現実ではしっかり落としてるんです。でも、ゲームは違うという……」

 やはり奇なりなのだ。

「で、どうしたんだ?」

 雅威の質問に答えたのは、夕霧命の地鳴りのような低い声だった。

「俺が代わりにやった――」
「あははははっ……!」

 男の色香匂い立ついつも袴姿で、芸術のような技を生み出す武道家が乙女ゲー。ミスマッチすぎて、やはり奇なりだった。

 颯茄は何とか笑いの渦から戻ってきて、自分の隣に座っている、極力短い深緑の髪と無感情、無動のはしばみ色の瞳をまじまじと見つめた。

「夕霧さんが乙女ゲームですよ」

 この節々のはっきりした手で、乙女ゲームの画面を持って、選択肢を丁寧に選んでゆく。

 だが、重要なところはそこではない。鋭利なスミレ色の瞳を持ち、銀の長い前髪の夫がターゲットなのである。

 焉貴は皇帝のようは威圧感で一気に話を戻した。

「お前、落とせたの?」
「落ちんかった」
「蓮、身が硬いね」

 純真無垢なR17夫が言うと、別の意味に聞こえてくるのだった。
 
 夫二人が挑戦しても、振り向かない俺さま超不機嫌ひねくれ夫。

「颯ちゃん、攻略できるの?」

 孔明に妻は問われたが、勝手に答えたら、蓮から火山噴火ボイスがテーブルの上を疾風迅雷しっぷうじんらいのごとく横切ってくるのである。颯茄は斜め左の向こうに座っている鋭利なスミレ色の瞳にうかがいを立てた。

「…………」

 蓮は刺し殺しそうなほど鋭い視線でにらみ返し、あっちにいけみたいにししっと手の甲を押して、あごで使う。許可してやるからありがたく思えと言わんばかりに。

「…………」

 カチンとくるなと思いながら、颯茄は座り直して気を取り直して、

「蓮は恋愛対象として最初は見ないので、人としてどうなのかが一番大切です。だから、好感度だけじゃなくて、他のパラメーターを一緒に上げないと攻略できないです」

 だから、色気のかけらもない自分と結婚したのだろうと、颯茄は勝手に解釈しているのだった。

「で、落ちたの?」
「えぇ、落ちました~」

 焉貴の問いかけに月命が答えると、時間がオーバー気味の終了トークから、妻は速やかに撤退する。

「無事に乙女ゲームはクリアということで、次の作品タイトルは――」

 魔法で出されていた宇宙は消え去り、颯茄は携帯電話を素早くつかんで、

「――神の旋律!」

 言うと同時に、プレイのボタンを押して、夫たちの視線が空中スクリーンに集中し、ほんの少しの暗闇が広がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...