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神の旋律
砕けた神さま/2
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――暗転ののち、淡い黄色に光り輝く世界の中で、リョウカは一人立っていた。焉貴が演じるのは、レンの心の成長を願う神、ルファー。人智を超えた存在に連れてこられた別世界。
リョウカのどこかずれているクルミ色の瞳には、光ばかりで姿形も見えなかった。だが、軽薄的な男の声が突如響いた。
「――ねぇ、そこの彼女?」
神の威厳など、どこかに吹き飛んでいて、他の夫たちが耐えきれなくなって笑った。
「あはははは……!」
しかし、映像はカットがかからない。リョウカはうまく拾って、少し顔をしかめた。
「ナンパ?」
「ちょっ! 話があんの」
完璧にナンパである。もしくは、キャッチである。それでも、カットはかからないので、リョウカはあたりを見渡す。
「姿が見えない。……神さまとかかしら?」
「そう。ルファーって神さまやっちゃってんの」
語尾が軽すぎだった。リョウカはあきれため息をつく。
「ずいぶん、砕けた神さまだわね」
「いいから、そこのドア開けちゃって」
そんなものはなかったはずだが、いつの間にか真っ白な扉が目の前に立っていた。リョウカはそれを指差して、上を見上げる。
「これですか?」
「そう。で、またドア出てくるからそれも開けちゃって」
人間である女の頭の中で、ピンとひらめいた。
「そうすると、またドアが出てきて、永遠に出てくる。合わせ鏡みたいなドア?」
しかし、三百億年の歴史を持つ神のほうが何枚も上手だった。
「お前、人の話は最後まで聞かないといけないでしょ」
ナンパな神から説教を食らったリョウカは素直にうなずくしか対処法が見あたらなくなった。笑いも、皇帝のような威圧感でありながら、軽薄的に却下される。
「はい」
「ふたつ目のドア開けて、男に会っちゃって」
悪魔退治の説明が抜けているのに、ルファーの中では辻褄が合っているのだろう。いや、あとで不思議そうに首をかしげるのかもしれない。
「急展開だわね」
ミラクル旋風で吹き飛ばされた、いくつものセリフを思い返しながら、リョウカはボソッとつぶやいた。
「いいから行っちゃって」
「よし、じゃあ、ここを開けて」
ドアノブに手をかけようとすると、茶色いものがすうっと現れた。
「で、そこに置いてある紙袋、ふたつ持ってって」
ルファーチョイスのフルーツがたくさん入った袋。リョウカは驚いて動きを止めた。
「え? 両手ふさがっちゃう。これじゃドア開けられな――」
「いいから、行っちゃって。急いでんの」
「なんだか強引に引きずり回されてる気がするわね……」
リョウカはしゃがみこんで、何とか買い物袋を抱え上げ、ドアを肩で押し開けた――
スクリーンは暗転して、食堂に明かりが戻ってくると、旦那たちがため息をついた。
「神としての威厳がない……」
携帯電話をテーブルに置いた、リョウカは同意を求める。
「カットですよね?」
「学校でしている言葉遣いでよかったんではないんですか~?」
ふ菓子でベタベタになった手をハンカチで拭きながら、月命の凛とした澄んだ女性的な声が響いた。リョウカはマゼンダ色の長い髪をのぞき込んで、
「『私』を使って、丁寧語ですよね?」
外行きとプライベートが違う夫の一人、焉貴。しかし、颯茄の言葉は失速した。
「でもそれが……」
「家族の物語でしょ? これって。いつもの俺でやらないとでしょ?」
「そういうわけで、却下でした」
明智分家の宴だと、焉貴は熟知していた。
誰が主役の話だったかわからなくなりそうだったが、焉貴がミラクル旋風で一気に話を戻した。椅子の背もたれに座り、斜め後ろにかたむけながら、
「どう? 蓮は演じてみて」
「…………」
無言のまま、鋭利なスミレ色の瞳は、斜め前に座っている颯茄を、刺し殺すようににらみつけた。
「っ……」
妻は慌てて顔をそらし、手元に置いてあった台本をパラパラとめくると、赤いペンで縦線が何本も引かれていた。右側に座っていた明引呼の、鋭い眼光はそれを見逃さず、
「もめたんだろ?」
「ケンカで夫婦の仲を深めちゃいました」
左横で貴増参の羽布団みたいな柔らかな声が響くと、颯茄は顔を上げたが、その前に、超不機嫌な天使のように綺麗なルックスを持つ蓮に捕まってしまった。
「…………」
無言だったが、俺さま夫の心のうちは、態度デカデカだった。
(説明することを許す。ありがたく思え)
リョウカのどこかずれているクルミ色の瞳には、光ばかりで姿形も見えなかった。だが、軽薄的な男の声が突如響いた。
「――ねぇ、そこの彼女?」
神の威厳など、どこかに吹き飛んでいて、他の夫たちが耐えきれなくなって笑った。
「あはははは……!」
しかし、映像はカットがかからない。リョウカはうまく拾って、少し顔をしかめた。
「ナンパ?」
「ちょっ! 話があんの」
完璧にナンパである。もしくは、キャッチである。それでも、カットはかからないので、リョウカはあたりを見渡す。
「姿が見えない。……神さまとかかしら?」
「そう。ルファーって神さまやっちゃってんの」
語尾が軽すぎだった。リョウカはあきれため息をつく。
「ずいぶん、砕けた神さまだわね」
「いいから、そこのドア開けちゃって」
そんなものはなかったはずだが、いつの間にか真っ白な扉が目の前に立っていた。リョウカはそれを指差して、上を見上げる。
「これですか?」
「そう。で、またドア出てくるからそれも開けちゃって」
人間である女の頭の中で、ピンとひらめいた。
「そうすると、またドアが出てきて、永遠に出てくる。合わせ鏡みたいなドア?」
しかし、三百億年の歴史を持つ神のほうが何枚も上手だった。
「お前、人の話は最後まで聞かないといけないでしょ」
ナンパな神から説教を食らったリョウカは素直にうなずくしか対処法が見あたらなくなった。笑いも、皇帝のような威圧感でありながら、軽薄的に却下される。
「はい」
「ふたつ目のドア開けて、男に会っちゃって」
悪魔退治の説明が抜けているのに、ルファーの中では辻褄が合っているのだろう。いや、あとで不思議そうに首をかしげるのかもしれない。
「急展開だわね」
ミラクル旋風で吹き飛ばされた、いくつものセリフを思い返しながら、リョウカはボソッとつぶやいた。
「いいから行っちゃって」
「よし、じゃあ、ここを開けて」
ドアノブに手をかけようとすると、茶色いものがすうっと現れた。
「で、そこに置いてある紙袋、ふたつ持ってって」
ルファーチョイスのフルーツがたくさん入った袋。リョウカは驚いて動きを止めた。
「え? 両手ふさがっちゃう。これじゃドア開けられな――」
「いいから、行っちゃって。急いでんの」
「なんだか強引に引きずり回されてる気がするわね……」
リョウカはしゃがみこんで、何とか買い物袋を抱え上げ、ドアを肩で押し開けた――
スクリーンは暗転して、食堂に明かりが戻ってくると、旦那たちがため息をついた。
「神としての威厳がない……」
携帯電話をテーブルに置いた、リョウカは同意を求める。
「カットですよね?」
「学校でしている言葉遣いでよかったんではないんですか~?」
ふ菓子でベタベタになった手をハンカチで拭きながら、月命の凛とした澄んだ女性的な声が響いた。リョウカはマゼンダ色の長い髪をのぞき込んで、
「『私』を使って、丁寧語ですよね?」
外行きとプライベートが違う夫の一人、焉貴。しかし、颯茄の言葉は失速した。
「でもそれが……」
「家族の物語でしょ? これって。いつもの俺でやらないとでしょ?」
「そういうわけで、却下でした」
明智分家の宴だと、焉貴は熟知していた。
誰が主役の話だったかわからなくなりそうだったが、焉貴がミラクル旋風で一気に話を戻した。椅子の背もたれに座り、斜め後ろにかたむけながら、
「どう? 蓮は演じてみて」
「…………」
無言のまま、鋭利なスミレ色の瞳は、斜め前に座っている颯茄を、刺し殺すようににらみつけた。
「っ……」
妻は慌てて顔をそらし、手元に置いてあった台本をパラパラとめくると、赤いペンで縦線が何本も引かれていた。右側に座っていた明引呼の、鋭い眼光はそれを見逃さず、
「もめたんだろ?」
「ケンカで夫婦の仲を深めちゃいました」
左横で貴増参の羽布団みたいな柔らかな声が響くと、颯茄は顔を上げたが、その前に、超不機嫌な天使のように綺麗なルックスを持つ蓮に捕まってしまった。
「…………」
無言だったが、俺さま夫の心のうちは、態度デカデカだった。
(説明することを許す。ありがたく思え)
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