翡翠の姫

明智 颯茄

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白の巫女/5

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 普段、講義などで関わる女子学生たちと、さほど年齢は変わらないというのに。まったくスレていない。

 講義の内容で質問があると、生徒たちに言われ、よく聞いてみると、自分の誕生日やプライベートを問われるばかり。

 あのガタイのいい明引呼ほどではないが、自惚れるつもりもないが。百歩譲っても、自分もモテる男に入るのだろう。ただ嬉しいものではない。外見だけであって、本来の自分を誰も見ていないのだから。

 元の世界へ戻れる保証はどこにもない。だが、気楽というものだ。色眼鏡で自分を見る女子学生はどこにもいない。それでも、考古学はある。

 それならば、存分に好きなことをしよう。牢屋に入っている間も、有意義なものにしようと、貴増参は目の前にいる少女から言葉という発掘作業を決心した。

 あごに手を当てたまま、どこか遠くを見ている男を、少女はぼうっと見つめる。

 ピンクのシャツにチェック柄のグレーのズボン。革靴。という見たこともない服。仕草も言葉遣いも上品。

 いや、それだけではなく、頬に少し土汚れがついているだけで、少し色白の肌に、柔らかなカーキ色のくせ毛。優しさの満ちあふれた茶色の瞳で、それはどこまでも澄んでいる。

 こんな大人を今まで見たことがなかった。とても綺麗で、きっと心もそうなのだろう。

 自分を見ても頭を下げるでもなく、普通に話してくる。少女にとっては、貴増参はすでに特別な人だった。

 クルミ色の瞳に映る、茶色のそれを、自分の目にさらに映す。
 茶色の瞳に映る、クルミ色のそれを、自分の目にさらに映す。
 合わせ鏡のような、お互いの瞳。

 しばらく、そんな沈黙が流れていたが、貴増参の唇が動き、

「難しいなぞなぞですが、僕はこういうのはわりと得意です」
「え……? なぞなぞではなかったんですが……」

 どこかボケ感があることが否めない男に、少女は不思議そうな顔をした。貴増参はその視線を気にせず、脳裏の中には今までの話が並んでいた。 

 黒。
 白の巫女。
 三日だけ。
 影に隠れる。
 古代の文化。

 檻の中にいる考古学者は、少女ににっこり微笑みかけた。

「ピンと来ちゃいました」
「答えは何ですか?」

 檻の外にいた巫女は細かいことは気にせず、マイペースの男に話を合わせた。貴増参はあごに当てていた手を解いて、

「月ではありませんか?」
「あたりです」

 少女は手品でも見たみたいに、目をキラキラと輝かせた。可能性が事実として確定してゆく。少女が答えることによって。

(太陰暦を使っている国……)

 五年も時間を忘れるほどの研究熱心な貴増参だ。なぜか考古学のことに関しては記憶を喪失することがない。いつもの癖が出て、片っ端からこの場所と少しでも重なり合う事例がないか探した。

 しかし、どこにもなかった。そうなると、まったく違った世界へ来てしまったことになる。

 少女にしてみれば、話してもいないのに、当ててくる男。目に見えない霊感も必要とされる巫女。いやそんな非現実的な世界で生きてきた少女は、この男に単純に興味を惹かれた。

「どうしてわかったんですか?」
「ちょっとした勘です」

 ちょっとした嘘――
 あの教授室へ戻るのか、戻らないのかわからない身。だからこそ、貴増参は多くは語らない。

 そんな心理が隠されているとは知らず、白の巫女は素直に褒めた。

「素敵です」
「ありがとうございます」

 貴増参は丁寧に頭を下げながら、自分が培ってきた法則で、今いるこの国の情勢を客観視する。

(彼女は国の一番上の人物。すなわち、この国は他を受け入れる柔軟性のある文化。それは裏を返せば、規律を乱しやすい文化)

 新しいものを積極的に取り入れ、発展してゆく未来を持つ国。しかしそれは、いいとは言えない面も内へ招き入れてしまうデメリットを持っていた。

 月明かりのない夜。
 隠れている。
 三日。
 焚き火の前での話。

 そこから出てくる答えを、貴増参は少女へ質問という方法にとって変えた。

「黒の巫女とともに、ふたりで国を治めているということでしょうか?」
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