明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

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パパと子供のために

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 九月いっぱいまで、夏休みはまだまだ続いている。
 今年初めて知ったのだが、こんなものがあるらしい。

 パパと子供のための〇〇講座。

 参加者は、子供とパパのみ。妻は関係ない。種類も会場もざまざま。

 私が知らないだけで、旦那さんたちは子供とペアになって、様々な講座に参加しているのだろう。

 そのうち、ふたつの講座を申し込むところに出くわした。

 ひとつ目。
 夕霧がやって来た。私の隣で食事をしていた光命ひかりのみことに、携帯電話の画面を見せて、説明している。

「この講座に行きたいから、パパと一緒に申し込んで」

 夕霧といえば、生みの親は夕霧命ゆうぎりのみことである。しかし、同行するパパは光命なのである。光命が電話をしている間に、ママは夕霧に聞いてみた。なぜ、夕霧命ではなく光命なのかと。

 すると、どうやら夕霧は釣りをするらしい。魚の意識を自分に引き込めれば、釣れるようになるという考え方のようだ。

 それはもちろん、武術をやっている夕霧命が一番優れているし、技術もきちんと持っているだろう。それも、夕霧はすでに学んだのだろう。

 というわけで、探究心のある夕霧は、光命のコンサートをふと思い出したそうだ。客席の人の心を引きつけて、拍手をもらう光命なら、また違った技術が身につくのでは? ということらしい。

 探究心があるところあたりは、夕霧命の子供だなと納得する。しかし、光命と一緒に行動するほど仲がいいとは知らなかった。ちょっと前までは、光命のことを、

「お兄ちゃん」

 と誤って呼んでいたのだ。夕霧命と光命は従兄弟同士だから、家に遊びに行くことが多々あり、夕霧にとっては15年近くも、光命は『お兄ちゃん』だったのである。だが、言い間違えるほど、光命を呼んで懐いてたのかもしれない。仲のいい親子に今はなったのだろう。

 こんな風に、結婚してから約1年。子供たちの一番好きなパパは変わりつつある。生みの親が好きな子もいるが、たまに捕まえて聞いてみると、違うパパが好きという子は結構多い。

 そうして、ふたつ目。

 光命、孔明、妻の三人で、私の部屋で話をしていた。

「ボクも誰かと講座行ってみたいなぁ~」

 講座は小学生以上でないと開催されていない。孔明の子供は一番上でも4歳なのである。妻は思った。

 孔明さんを好きな子供だっているだろう。

「誰か一緒に行こうって、言ってくるかもしれないよ」
「そうかなぁ~?」
「隠れファンはいると思うけど……」

 そんなことを話していると、部屋に子供が1人パタパタと小さな足音を立てて走り込んできた。大人はもちろん来たことは知っているが、今話していた内容は内緒。私は素知らぬふりして、

「誰をご所望ですか?」
「ご所望ーー?」

 やけにのんびりとした童子だった。しかし、兄弟だからぱっと見よく似ているのだ。しかも、めったに来ない子供となると、名前を覚えるのに手一杯の妻には特定できないのである。

「誰に話があるの?」
「パパーー!」

 その小さな指先は、しっかり孔明に向いていた。

「ほら、お迎え来たよ」

 光命をバックハグしていた孔明は、子供に向き直って、

「どうしたの?」
「パパー、これ申し込んでーー」

 メモ紙を差し出した。
 
 あれ? ネットで調べたんじゃなくて、書いてきた? チラシとかでもなく。どういうこと?
 というか、ひとつ前に戻って、誰?

「名前を言ってください!」
「◯△*%」

 もごもご~のびのび~。聞き取れない。

「最初の字は?」
「まー!」

 子供一覧表で、『ま』から始まる童子を探せ!

 孔明は自分の携帯電話を取り出して、検索をかけていた。

「ん~~?」

 しばらくして、孔明が講座のホームページを探し出した。

「これ?」
「そー、それーー」

 妻は名前を無事にゲット。

真理阿まりあは孔明さんが好きなの?」
「そー」

 夏休みが始まったのは、6月13日。9月いっぱいまで夏休み。4ヶ月近くあった休みも、残すところ1ヶ月を切った今日、孔明に幸せはとうとうやって来たのである。
 やはり孔明が好きな子供も予想した通りいたのだ。なぜなら、運命で家族になったのだから。

「申し込んだよ」
「ありがとーー」

 無事に講座の参加が決まり、ソファーに腰掛けた孔明の膝の上に、真理阿が嬉しそうに座った。

 孔明は仕事熱心だから、子供と過ごす機会が少ない。子供と遊んでいるところなど、妻はあまり見かけない。優先順位はどうやっても、4歳のじんが高くなるわけで、そうなると、5歳の子と接する時間は極端に短いだろう。

 時計を見ると、21時過ぎ。もう就寝時刻を過ぎている。それなのに、ここへやって来て、しかもメモ書き。そこで、妻はピンとひらめいた。

「あ、わかった! 真理阿、彼女がその講座を受けるんでしょ? それをさっき電話で話してたから、メモ書きだったんだね?」
「そー。近くに来るのーー」
「そうか、よかったね。真理阿の彼女は遠くに住んでるから、これで会えるね」
「うん」

 遠くの宇宙に住んでいて、学校も違うそうだ。普段は会えない。だからこそ、こんな長期の休みがチャンスなのである。

 親子で参加の講座。妻はちょっと心配になった。

「あれ? でも待って、真理阿、彼女はパパとママがいっぱいいるって知ってるの?」
「うん、知ってるー」

 真理阿だったら、ふんわりと彼女にも伝えたんだな。反対する人はいないけど、心配事はそこではなく。

「そうか。でも、相手のパパが講座に来るわけでしょ? 今まで独健どっけんさんがついてったんだよね?」

 真理阿の生みの親は独健。去年の夏休みは独健は複数婚をしていなかったのだから、パパは一人しかいなかったはずだ。

「その人、いきなり会ったら、びっくりするんじゃないかな? 独健さんが来ると思ってたのに、孔明さんが来たら。先に言ったほうがいいんじゃないかな? 独健じゃなくて、孔明が行きますって」

 漆黒の髪を指先でつうっと引き伸ばしながら、孔明の間延びした声が聞こえてくる。

「言わないほうがいいと思うなぁ~」
「え……?」

 大先生が意見してくるなんて、何か意味があるのではと思っていると、光命の遊線が螺旋を描く優雅な声が響いた。

「私も言わないほうがいいと思いますよ」

 エレガントに微笑んでいるのを前にして、何をふたりがしようとしているのかわかって、妻は大声で叫んだ。

「あぁ! ふたりして、他の人に悪戯するのやめてください!」

 その時、光命のすぐ脇に人影がすうっと立った。鼻にかかるはつらつとした声が割って入って来た。

「楽しそうだな。何の話だ?」
「あぁ~、独健さん、いいところに」
「どうした?」

 独健は真理阿をちらっと見ながら、聞き返した。
 
「真理阿の講座の話です。孔明さんが一緒に行くんですけど」
「そうか。それはいい話だな」

 どの子供が誰を好きかは親ならばわかるというものだ。好きなもの同士一緒に出かけるのは、嬉しいものである。

「相手の親に、孔明さんが行くって言わないで、光さんも一緒になって悪戯しようとしてるんです」

 独健は両腕を組み、うんうんと何度もわざとらしくうなずいて、

「あいつな……。俺も言わないほうがいいと思うな」
「何かあるんですか?」

 旦那さんたち3人が同じこと言うなんて……。

 そうして独健の言葉の続きが聞こえて来た。

「孔明、あいつが驚いたところ、写真に撮ってきてくれ」
「独健さんまで!」

 どうも、かなり仲がいいようだ。相手のパパと独健は。

「あいつは大丈夫だ。ぽわんとした性格だから、少し驚かせたほうがいい」

 うちの旦那さんたちにはいないタイプの人だ。

 旦那さんたちも仲がいい。すでに、真理阿の彼女の父親がどんな人か知っていたということだ。妻が知らないうちに、話をしたのだろう。

 しばらくすると、真理阿は孔明の膝の上で眠ってしまった。そこへ、月命るなすのみことがやって来た。

「おや~? おかしいですね~。子供が一人足りないんです~」

 二一時半。子供たちの就寝時刻が三十分も過ぎてる。大人の誰にも言わないで、真理阿はこっちに来たんだ。

「月さん、孔明さんの膝の上で寝てます」
「やはりこちらでしたか~」

 そうして、気づいてしまった。地球一個分の広さがある家で、子供たちは五歳児だけでも四十人いて、みんながみんなとは限らないが、眠くなるまで遊んだりしていて、時間になっても寝室にやって来ず、あちこちの床などに転がっている子供を回収しに行くんだ、パパとママたちは。

 2019年9月6日、金曜日

 おまけ――

 昼間、百叡びゃくえいがピアノの弾きすぎで倒れた。自分の責任だと責めた光命が次に倒れて、バタバタした1日だった。

 光命はいつも、妻が眠ったあとに寝るが、21時半近くになると、眠そうな顔をしていた。

「光さん、眠いなら寝たほうがいいですよ」
「えぇ」
「ひとりで眠れますか?」

 心配になった。大人数でいつも眠っている我が家。今私の部屋にいるのは百叡だけ。心に負担がかかっているのでは?

 そこで、光命は首を横へ振って、

「いいえ、あなたがいないと眠れません――」

 きゃああああああっっっっ!?!?!?!?

 ノックアウトという雷に打たれ、ムンクの叫びのような顔をして、真っ白に燃え尽きると、バタンと前に倒れたのである。妻はこの手の言葉に弱いのだった。
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