明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

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恐竜展 その2

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 子供たちは昼寝をすると、15時までは起きない。それでも、誰かそばにいないとと思ったが、専門のセービスがあり、代わりに見ていてくれる人が頼めるらしい。

 ということで、それぞれで外へ出たが、妻は人に遠慮をするタイプのため、一人休憩所のベンチに残った。みんなが幸せならいいと思って。

 しかし、

りょうちゃん?」

 後ろから不意に抱きつかれた。

「孔明さん」

 白い着物みたいなものに、こげ茶の羽織りものの夫。その隣を、派手なホストみたいなスーツで、黄色のサングラスをかけた焉貴これたかが歩いてきた。

「何やっての? お前。こんなとこで一人で」
「あぁ、どこへ行ったらいいやらで……」

 妻は邪魔をしてはいけないと思い、何気ない振りをして誤魔化した。しかし、焉貴はナンパでもするように、

「そう? じゃあ、こっち」
「ど、どこへ行くですか~?」

 妻は夫二人にゲームコーナーで連れ去られたのである。

「孔明、ビリヤード、やんない?」
「いいよ」

 得意ではない妻を置いて、夫たちは台へと急ぐ。慣れた手つきで、ボールを中央に寄せて、焉貴が打つと、カタンとすでにひとつ入った。

「ほら? お前」
「ルール知らないんだけど……」
「数大きいほうから落とす」
「よし!」

 孔明さんが何をしているのかしらず、妻は狙うボールを探す。しかし、様々な角度から検証してみた結果、非常に難しい位置で、ボールをついてはみたものの、入らずミス。

「孔明?」
「うん」

 白い着物を着た背の高い男。漆黒の長い髪が、ビリヤードの台の緑に映える。ボールはカツンと弾かれ、宙を飛び、次々に順番通り連鎖を起こして、全てのボールがたった一振りで終わってしまった。

「さすがだ……。レベルが違う。頭いい人ってこうなんだ」

 そうして、2ゲーム目。妻は痛恨のミスで、結局入らなかった。

「俺ね」

 焉貴が台の縁に軽々と乗って、構える。黒のボブ髪が頬に淫らにかかる長身の男。ホストみたいな光沢のあるスーツを着た夫。ルビーみたいな真っ赤な目。

 ボールはカツンと弾かれ、宙を飛び、次々に順番通りに連鎖を起こして、全てのボールがたった一振りで終わってしまった。

「さすがだ……。っていうか、この世界のレベルが違うのかな? 全てのことを覚えてると、どの角度でどう打てば、どうなるかが頭に入ってるのかな?」

 拍手喝采が聞こえてきた。他の客たちが集まっている。どうも、ふたりのレベルが高いらしい。

「どうして、ふたりで上手なの?」
「一緒によく行ったんだよね?」
「そう」

 焉貴と孔明の結婚前のデートだったらしい。

 そうして妻は、別の夫たちはどうしているかと思い、また休憩所のベンチへ戻ってきた。すると、月命るなすのみこと明引呼あきひこを見つけた。

 白いチャイナドレスで女装している月命。
 白いスーツを着た明引呼。

 夫二人でペアルックにしたほど、仲のよい二人。妻はやはり邪魔をしてはいけないと思い、別の人たちを探そうとしていたが、凛とした澄んだ女性的でありながら男性の声につかまった。

「おや? どこへ行くんですか~?」
「何やってんだ? てめぇ」

 観念をして、近くへ寄る。

「あぁ、今、孔明さんと焉貴さんと一緒に、ゲームセンターに行ってたんです」

 話している途中でふたりが食べているものに、妻は驚いた。

「かき氷ですか? どこにそんなものが売って……」

 月命はイチゴ。明引呼はブルーハワイ。

「暑いんです~」
「暑いだろ」

 それは、ふたりの仲が熱いってことで、もう十月の末です。と思ったが、言わずにおいた。

「ふたりは何かしたんですか?」
「プリクラを撮ってました」

 また女子力たっぷりなもので。というか、このふたりもゲームセンターにいたってことか。

 しばらく、左に月命、右に明引呼、ふたりの間のベンチで、かき氷を食べている夫たちを眺めていた。先に食べ終わった月命が、

「それでは、君もプリクラを撮りに行きましょうか~?」
「はぁ?」

 こうして、妻は再び連れていかれた。しかも、プリクラの背景が全て恐竜にちなんだもので、卵から生まれたところとか、草を食べるところとか、アクションが結構必要なもので、妻も色々と頑張って撮ってみた。

 そうして、最後はなぜか、夫ふたりの間で、体を持ち上げられるという、よくわからないポーズで撮影。きちんと切られた状態で出てくるプリクラを、月命に渡された。

「こちらが君の分です」
「ありがとうございます。なくさないようにします」

 頭を下げて、再びゲームセンターを出てくると、光命ひかりのみこと夕霧命ゆうぎりのみことが一緒に歩いているところに、ちょうど出くわした。

「あ、光さん、夕霧さん。どこに行ってきたんですか?」

 話しかけると同時に、瞬間移動をかけられ、噴水近くのベンチへやって来た。右に光命、左に夕霧命で話を続ける。

「映画を観てきた」
「あぁ、恐竜の人が出てる、大人向けの映画ってことですよね?」
「えぇ」
「どんな内容だったんですか?」
「切ない恋物語でしたよ」

 恐竜の切ない恋物語……。でも、まぁ、恐竜の人も恋はするものね。

 しかし、そこで、妻は別のことに気づいてしまった。

「さっき子供が見たいって言ってた映画とは別ですよね?」
「あれは、映画館でないとやっとらん」
「確かにそうだ。大人の話を子供は知ることもないもんね」

 小学生は昼寝の時間。まわりを見ると、カップルだらけ。

「大人も楽しめるから、デートスポットになってるんだ」

 そこまで言うと、遠くのほうに列を見つけた。

「あぁっ! あれって、幸せの鐘を鳴らすやつじゃないですか? 行きませんか? 三人で」

 並ぶとすぐに順番がやってきた。祭司さんがすぐ近くに立っていて、他はふたりで登っているカップルや夫婦ばかりなのに、三人でやってきたので、少し戸惑っていた。しかし、

「夫婦です」

 と言うと、すぐに通してくれて、三人で鐘を鳴らした。幸せになりますように。

 そうして、光命と夕霧命の邪魔をしないように、妻はすぐさま退散して、再び休憩所のベンチへ戻ってくると、れん貴増参たかふみがいた。何か食べ物を買っている。

「あれ? お昼食べたのに、また食べるんですか?」

 話しかけると、ふたりで振り返って、右に立っていた貴増参が、

「えぇ、たこ焼きと焼きそばを食べたかったんです。ですから、お昼ちょっと削っちゃいました」
「あぁ、そう言うことですか。レストラン自動的に決まった感じでしたもんね」

 そうして、飲み物だけ持っている蓮に顔を向けた。

「何飲んでるの?」
「ん」

 差し出されて飲んだら、一口も飲めないうちに、

「うわっ! のどが痛くなるくらい甘い。これはコーヒーって言わない!」

 苦いものが苦手なのに、激甘にしてコーヒー飲むなんて、蓮はよくわからないなぁ。

「君は何をしてたんですか?」

 貴増参に聞かれて、今までの経緯を話した。

「幸せの鐘ですか」
「みんなで行ければいいんですけどね」

 妻はそこで、奥さんたちの姿を見ていないことに気づいた。

「みんなどこに行ったんですか?」

 ちょうどその時、瞬間移動で一斉に奥さんたちが現れた。紙袋を両手に下げて。

「いや~、いい買い物したね」
「そうね」
「バーゲンは見逃せないよね」

 恐竜展とまったく違うことを話している奥さんたち。

「バーゲン? どこにあったっけ?」
「隣の駅で今やっててさ、すぐだから行ってきたんだよ」
「みんなの分、1着ずつ買ってきたから」

 奥さんたちの結束強かった。みんなで行動。みんなで協力。妻はいっぱいの紙袋を眺め、ため息をつく。

「あぁ、完全に女子会だ」
 
 覚師かくしが一人置いていった妻の様子を聞いてきた。

「あんた、何してたの?」

 そこで、妻はピンとひらめいた。

「あの噴水の奥に、幸せの鐘があったよ。みんなで鳴らすと幸せになれるってやつ!」
「そう」
「そんなのあるのね」

 しっかり者の奥さんたちは、妻と違って、急に騒いだりはしなかった。我に返って、

「あの広さじゃ、みんな一緒には乗れないね」

 奥さん十人一緒には乗れない。三人でもちょっと狭かった感じだった。

「三人で行ってくれば?」

 たこ焼きも食べ終わり、貴増参がにっこりと微笑んだ。

「僕も鳴らしてみたいです」
「…………」
 
 ノーリアクションということは、蓮も行くということで、三人で歩き出すと、他の旦那さんたちがちょうど集まってきた。みんなにも話すを、一緒にやろうということになり、再び祭司さんに、

「夫婦です」

 と言って、みんなで台に登って、幸せになりますようにと鐘を鳴らした。そうして戻ってくると、奥さんたちは宅配で、洋服を家へさっさと送ってしまった。

 そこへ、父上と母上が帰ってきた。どこへ行っていたのかと聞くと、少しはずれのほうに立派な庭園があり、お茶をごちそうになっていたという。

 大人も子供も楽しめる素晴らしい展示会だなと思った。そこでふと思い出した。弟の輝来きらは中学生で、昼寝は必要ない。しかも、一人で行動できる年頃。そこで、建物からちょうど出てきた。

「どこ行ってたの?」
「中高生向けの恐竜のセミナーがあったから、受けてきた」

 妻はますます感心する。全ての年齢層に応える展示会なのだなと。

 もうじき、子供たちが昼寝から目を覚ます。そうして、まだまだ恐竜展の話は続いてゆく。

 2019年10月25日、金曜日
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