8 / 12
Case6
しおりを挟む
張飛にもらったキスの感触を、甘いクリームを舐めるように味わった颯茄は、大きく息を吸って目を閉じた。
「後ろから抱きしめて!」
「イェーイ!」
みんなの声の残響が響き渡ると、真っ暗な視界で静寂が降りた。颯茄を耳を澄ます。足音だってヒントになるのだから、聞き逃してなるものかと。
しかし、いつまで経っても足音は聞こえてこず、まだ始まってないのかと疑心暗鬼に差し掛かろうとすると、いきなり腕を巻きつけられた。
びっくりして思わず、びくっとしたが、もう回答時間が始まっている。颯茄は呼吸を整えて、こんなお化けみたいなことをしてくる人の名前を自信満々で言った。
「夕霧さん」
「正解だ」
地鳴りのような低い声が、背中を伝って響いた。武術の技を使って、瞬間移動でもしたようにあっという間に、颯茄の前へ夕霧命は回り込んだ。
「それでは、誓いの言葉を……」
黒の重厚感が漂うタキシードを着た夕霧命が口を開く。
「お前を永遠に愛すと誓う」
「はい……」
妻が照れたように答えると、三十八センチの身長さを詰めるために、夕霧命はかがむのではなく、妻を直立不動まま軽々と持ち上げた。
「いやいや、何で、地面と直角に持ち上げてるんですか?」
「浮身の修行だ」
「まただ……」
妻は一瞬あきれた顔をしたが、こんな修行バカな夫がやはり好きなのだ。微笑み返して、二人の唇は神聖な祭壇の前で触れた。クラクラとめまいがするような、男の色香が匂い立つキスだった。
二人が離れると、
「理由は何だったすか?」
「足音がしなかったんです。それって、縮地使ってるから……」
「お前も修行バカになってる」
夫全員からツッコミがやってきたが、妻は大騒ぎで否定する。
「いやいや、それは置いといて、足音聞いた人いますか?」
「いや、聞いてない」
「でしょ? すごいと思う武術って。夕霧さんが敵だったら、今頃私やられてますよ。知らないうちに近づかれて……」
夕霧命の技の凄さを見せつけられたゲームだった。
「後ろから抱きしめて!」
「イェーイ!」
みんなの声の残響が響き渡ると、真っ暗な視界で静寂が降りた。颯茄を耳を澄ます。足音だってヒントになるのだから、聞き逃してなるものかと。
しかし、いつまで経っても足音は聞こえてこず、まだ始まってないのかと疑心暗鬼に差し掛かろうとすると、いきなり腕を巻きつけられた。
びっくりして思わず、びくっとしたが、もう回答時間が始まっている。颯茄は呼吸を整えて、こんなお化けみたいなことをしてくる人の名前を自信満々で言った。
「夕霧さん」
「正解だ」
地鳴りのような低い声が、背中を伝って響いた。武術の技を使って、瞬間移動でもしたようにあっという間に、颯茄の前へ夕霧命は回り込んだ。
「それでは、誓いの言葉を……」
黒の重厚感が漂うタキシードを着た夕霧命が口を開く。
「お前を永遠に愛すと誓う」
「はい……」
妻が照れたように答えると、三十八センチの身長さを詰めるために、夕霧命はかがむのではなく、妻を直立不動まま軽々と持ち上げた。
「いやいや、何で、地面と直角に持ち上げてるんですか?」
「浮身の修行だ」
「まただ……」
妻は一瞬あきれた顔をしたが、こんな修行バカな夫がやはり好きなのだ。微笑み返して、二人の唇は神聖な祭壇の前で触れた。クラクラとめまいがするような、男の色香が匂い立つキスだった。
二人が離れると、
「理由は何だったすか?」
「足音がしなかったんです。それって、縮地使ってるから……」
「お前も修行バカになってる」
夫全員からツッコミがやってきたが、妻は大騒ぎで否定する。
「いやいや、それは置いといて、足音聞いた人いますか?」
「いや、聞いてない」
「でしょ? すごいと思う武術って。夕霧さんが敵だったら、今頃私やられてますよ。知らないうちに近づかれて……」
夕霧命の技の凄さを見せつけられたゲームだった。
0
あなたにおすすめの小説
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる