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8章
8-5
よりによって、なんで青が。今一番会いたくない、喋りたくない相手だった。もしかして自分を追いかけてきたのだろうか。だとしたら一体どうして?
どうだっていい。今は言葉を交わしたところで、自分がまともなことを言えるとは思えなかった。
叶太はさっと洗面台から離れた。早く外に出るため、青の横を通り過ぎようとした。
「おい」
案の定、ドアにたどり着く前に声をかけられた。無視してドアの取っ手を掴むと、続けて「無視すんのかよ」という声も。
いよいよ我慢できなくなり、叶太は俯きがちだった頭を上げて後ろを睨みつけた。
青とは学校の階段で言い合った日以来、顔を合わせていない。本当は謝りたかったけれど、自分の気持ちを隠したまま説明できる気がしなかった。ましてや彼女がいる相手に告白するなんて勇気は、自分にはない。
それに相手は青だ。ずっとただの幼なじみだと思っていた相手に告白されたら、きっと青も困るだろう。
なにより……今までの関係が壊れることが自分自身すごく怖かった。
「何しに来たんだよ。もしかしてオレを追いかけてきたとか? こないだのこと、文句言うために」
強く当たってしまう自分に、青がムッとする。先ほどテーブル席で見たときよりも、苛立ちを孕んだ目を向けてくる。
「……胸くそ悪かった」
突然青が言い出した言葉は、前後に脈絡がないものだった。叶太の質問の答えになっていないように思えたけれど、それが青の『答え』なのだろうか。
「は、知らねえし。つーか意味わかんないんだけど」
何が言いたいのかさっぱりわからない。呆れてトイレから出て行こうとすると、今度ははっきりと青が口を開いた。
「だから……っ、北村に『あーん』してただろ。あんなもん、見たくねえんだよ」
最初、青が何を言いたいのかすぐには理解できなかった。言われた言葉を脳内で噛み砕き、理解しようとすればするほど『あんなもん』という言葉が引っかかった。
「あんなもん?」
聞き返すと、青はギッと上下の歯を噛み締める。
「人前であんなこと……恥ずかしくねえのかよ」
そう言われ、叶太は「はあ?」と呆れた。
「そもそもおまえらが先に『あーん』始めたくせに、何言ってんだよ」
「そ、それは詩乃さんが勝手にやってきたことっつーか」
――詩乃さん。
不意打ちで、青が彼女をなんて呼んでいるのか知る。心臓がギュッと痛んだ。
「オレらが何しようが、おまえに関係ねえじゃん。ていうか、わざわざ説教するために追いかけてきたってこと? ヒマかよ」
「オレは……っ」
「そんなことしてるヒマがあるなら、町田のところに戻った方がいいんじゃねーの」
「詩乃さんは、彼女じゃ――」
「詩乃さん詩乃さんうるさい」
強く言うと、青がハッとなって口を閉ざした。青が黙るのをいいことに、叶太は続けた。
「オレ、バカみたいじゃん。ずっとおまえの好きな人勘違いしててさ。おまえが町田を好きだったことにも気づかなかった。なんかさ……すごい情けねえのよ」
青が初めて好きな人の存在を教えてくれたとき。自分に教えてくれたのは、きっと自分が詩乃と同じ学年とクラスだったからだろう。
それとなく詩乃の情報を聞き出すつもりで、青が匂わしてきたのだとしたら。青の思惑に気付きもせず、ズカズカと聞き出そうとした自分がものすごく恥ずかしい。しかもなりゆきで、まさか自分が青のことを好きになってしまうなんて……。
とんだ笑い話だ。
情けなくて涙も出ない。青の幸せを応援したいのにできない自分がみっともなくて、今すぐここから消えてしまいたい。
心では思えなくても、せめて言葉だけでも祝うべきなのだろう。叶太は目を閉じ、下に根を張ろうとする口角をつり上げた。
「……可愛い彼女じゃん。幸せにしてやれよ」
ふと鏡の中を見ると、泣きそうに歪んだ笑顔の自分がそこにある。たまらなかった。青の反応が返ってくる前に、叶太はトイレから一人飛び出した。
どうだっていい。今は言葉を交わしたところで、自分がまともなことを言えるとは思えなかった。
叶太はさっと洗面台から離れた。早く外に出るため、青の横を通り過ぎようとした。
「おい」
案の定、ドアにたどり着く前に声をかけられた。無視してドアの取っ手を掴むと、続けて「無視すんのかよ」という声も。
いよいよ我慢できなくなり、叶太は俯きがちだった頭を上げて後ろを睨みつけた。
青とは学校の階段で言い合った日以来、顔を合わせていない。本当は謝りたかったけれど、自分の気持ちを隠したまま説明できる気がしなかった。ましてや彼女がいる相手に告白するなんて勇気は、自分にはない。
それに相手は青だ。ずっとただの幼なじみだと思っていた相手に告白されたら、きっと青も困るだろう。
なにより……今までの関係が壊れることが自分自身すごく怖かった。
「何しに来たんだよ。もしかしてオレを追いかけてきたとか? こないだのこと、文句言うために」
強く当たってしまう自分に、青がムッとする。先ほどテーブル席で見たときよりも、苛立ちを孕んだ目を向けてくる。
「……胸くそ悪かった」
突然青が言い出した言葉は、前後に脈絡がないものだった。叶太の質問の答えになっていないように思えたけれど、それが青の『答え』なのだろうか。
「は、知らねえし。つーか意味わかんないんだけど」
何が言いたいのかさっぱりわからない。呆れてトイレから出て行こうとすると、今度ははっきりと青が口を開いた。
「だから……っ、北村に『あーん』してただろ。あんなもん、見たくねえんだよ」
最初、青が何を言いたいのかすぐには理解できなかった。言われた言葉を脳内で噛み砕き、理解しようとすればするほど『あんなもん』という言葉が引っかかった。
「あんなもん?」
聞き返すと、青はギッと上下の歯を噛み締める。
「人前であんなこと……恥ずかしくねえのかよ」
そう言われ、叶太は「はあ?」と呆れた。
「そもそもおまえらが先に『あーん』始めたくせに、何言ってんだよ」
「そ、それは詩乃さんが勝手にやってきたことっつーか」
――詩乃さん。
不意打ちで、青が彼女をなんて呼んでいるのか知る。心臓がギュッと痛んだ。
「オレらが何しようが、おまえに関係ねえじゃん。ていうか、わざわざ説教するために追いかけてきたってこと? ヒマかよ」
「オレは……っ」
「そんなことしてるヒマがあるなら、町田のところに戻った方がいいんじゃねーの」
「詩乃さんは、彼女じゃ――」
「詩乃さん詩乃さんうるさい」
強く言うと、青がハッとなって口を閉ざした。青が黙るのをいいことに、叶太は続けた。
「オレ、バカみたいじゃん。ずっとおまえの好きな人勘違いしててさ。おまえが町田を好きだったことにも気づかなかった。なんかさ……すごい情けねえのよ」
青が初めて好きな人の存在を教えてくれたとき。自分に教えてくれたのは、きっと自分が詩乃と同じ学年とクラスだったからだろう。
それとなく詩乃の情報を聞き出すつもりで、青が匂わしてきたのだとしたら。青の思惑に気付きもせず、ズカズカと聞き出そうとした自分がものすごく恥ずかしい。しかもなりゆきで、まさか自分が青のことを好きになってしまうなんて……。
とんだ笑い話だ。
情けなくて涙も出ない。青の幸せを応援したいのにできない自分がみっともなくて、今すぐここから消えてしまいたい。
心では思えなくても、せめて言葉だけでも祝うべきなのだろう。叶太は目を閉じ、下に根を張ろうとする口角をつり上げた。
「……可愛い彼女じゃん。幸せにしてやれよ」
ふと鏡の中を見ると、泣きそうに歪んだ笑顔の自分がそこにある。たまらなかった。青の反応が返ってくる前に、叶太はトイレから一人飛び出した。
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