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9章
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はぐらかすと、青は不満げに「なにそれ」と口を尖らせた。
「オレが聞いてるのはそういうことじゃないんだけど」
「は……はっきり聞いてこないそっちが悪いんだろ。つーか、青に関係ねえじゃ――」
青の胸元を両手で押し、体を引き離す。見上げると、
「関係あるんだよ」
低い声。そして獲物を捉えた豹のような目がそこにあった。ゾクッとした。食われる、と本能が警戒態勢に入るほどに。
目が合った瞬間にビクッとする。叶太が目に見えて怯えたことで、青は我に返ったようだ。ハッとなってから、動揺したように「ごめん」と口元を両手で覆う。目を皺ができるほどきつくつぶり、苦しそうだった。
「オレ、おかしい。叶太は北村と付き合ってんのに、ムカついてしょうがない。オレがムカつく権利なんてないのに」
「え……?」
青は何を言っているんだろう。すぐには理解できなくて、叶太は軽くパニックになった。
切羽詰まった青を前に、胸がズキズキと痛む。ただの悪戯心で嘘をつき続けるなんて自分には無理だ。後ろめたさに耐えられなくなり、叶太は本当のことを伝える気でしどろもどろになりながら口を開いた。
「な、なんか勘違いしてるみたいだけど、オレ、北村とはべつに付き合ってないから。つーか、もうとっくにお断りしたっていうか」
次の瞬間、青がえっと口元を覆っていた両手を離した。
「……まじ?」
「う、うん。なんで北村と付き合ってるって青が勘違いしてんのか、知らないけど」
「だってこの前の花火大会のとき手繋いでただろ。今日だって放課後一緒に帰ってたし」
「あ、あの日はたしかに手繋いだけど、あれは不意打ちっていうか……。今日だって、オレが元気なかったから励ましてくれただけで」
指摘すると、青の顔はみるみるうちに赤くなっていった。まるでゆでだこのようだった。
「……っ」
やらかした、と言わんばかりの表情を、青は片手で覆い隠した。
「まじかよ。めっちゃハズいんだけど……」
「オレだってハズいわ。おまえには北村が言ってるもんだと思ってた」
「北村とは基本そういう話しないし、普通におまえら付き合ってるのかと――」
「おまえがいるのに付き合うわけねえじゃん」
えっ、と青が丸くした目をこちらに向ける。叶太はあっと口に手をやった。今自分は何て言った? とんでもないことを口走ってしまった気がする。一人わたわたと焦る。
「今、なんて?」
叶太が座る椅子の前に急いで膝をつき、今度は青がこちらを見上げてくる。大事なものを橋の下に落としてしまった人みたいに必死な表情だ。
「お、覚えてない」
「うそだ。もう一回言って」
「や、やだ」
「わがまま言うなって。お願いだから、もう一回……っ」
青は声を掠れさせながら両手を伸ばし、叶太の頬に恐る恐る触れた。花火大会のときは男らしく感じた手。それがまるで腫れ物に触るみたいにして、自分に触れてくる。
もっとしっかり触ればいいのに。青になら、どこをどう触れられたって構わないのだから。
青の手の甲に、自身の手を乗せる。ぐっと押し込めば、頬に青の手の感触と体温がゆっくりと移動した。
こちらの頬に触れた直後、青がごくりと唾を飲む音が聞こえた。目線を上にやる。至近距離で青の目と交叉する。青の薄い褐色の目の中に、のぼせたような表情をする自分が映っている。
「オレが聞いてるのはそういうことじゃないんだけど」
「は……はっきり聞いてこないそっちが悪いんだろ。つーか、青に関係ねえじゃ――」
青の胸元を両手で押し、体を引き離す。見上げると、
「関係あるんだよ」
低い声。そして獲物を捉えた豹のような目がそこにあった。ゾクッとした。食われる、と本能が警戒態勢に入るほどに。
目が合った瞬間にビクッとする。叶太が目に見えて怯えたことで、青は我に返ったようだ。ハッとなってから、動揺したように「ごめん」と口元を両手で覆う。目を皺ができるほどきつくつぶり、苦しそうだった。
「オレ、おかしい。叶太は北村と付き合ってんのに、ムカついてしょうがない。オレがムカつく権利なんてないのに」
「え……?」
青は何を言っているんだろう。すぐには理解できなくて、叶太は軽くパニックになった。
切羽詰まった青を前に、胸がズキズキと痛む。ただの悪戯心で嘘をつき続けるなんて自分には無理だ。後ろめたさに耐えられなくなり、叶太は本当のことを伝える気でしどろもどろになりながら口を開いた。
「な、なんか勘違いしてるみたいだけど、オレ、北村とはべつに付き合ってないから。つーか、もうとっくにお断りしたっていうか」
次の瞬間、青がえっと口元を覆っていた両手を離した。
「……まじ?」
「う、うん。なんで北村と付き合ってるって青が勘違いしてんのか、知らないけど」
「だってこの前の花火大会のとき手繋いでただろ。今日だって放課後一緒に帰ってたし」
「あ、あの日はたしかに手繋いだけど、あれは不意打ちっていうか……。今日だって、オレが元気なかったから励ましてくれただけで」
指摘すると、青の顔はみるみるうちに赤くなっていった。まるでゆでだこのようだった。
「……っ」
やらかした、と言わんばかりの表情を、青は片手で覆い隠した。
「まじかよ。めっちゃハズいんだけど……」
「オレだってハズいわ。おまえには北村が言ってるもんだと思ってた」
「北村とは基本そういう話しないし、普通におまえら付き合ってるのかと――」
「おまえがいるのに付き合うわけねえじゃん」
えっ、と青が丸くした目をこちらに向ける。叶太はあっと口に手をやった。今自分は何て言った? とんでもないことを口走ってしまった気がする。一人わたわたと焦る。
「今、なんて?」
叶太が座る椅子の前に急いで膝をつき、今度は青がこちらを見上げてくる。大事なものを橋の下に落としてしまった人みたいに必死な表情だ。
「お、覚えてない」
「うそだ。もう一回言って」
「や、やだ」
「わがまま言うなって。お願いだから、もう一回……っ」
青は声を掠れさせながら両手を伸ばし、叶太の頬に恐る恐る触れた。花火大会のときは男らしく感じた手。それがまるで腫れ物に触るみたいにして、自分に触れてくる。
もっとしっかり触ればいいのに。青になら、どこをどう触れられたって構わないのだから。
青の手の甲に、自身の手を乗せる。ぐっと押し込めば、頬に青の手の感触と体温がゆっくりと移動した。
こちらの頬に触れた直後、青がごくりと唾を飲む音が聞こえた。目線を上にやる。至近距離で青の目と交叉する。青の薄い褐色の目の中に、のぼせたような表情をする自分が映っている。
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