51 / 70
10章
10-1
***
翌朝になっても、気持ちは浮足立ってふわふわしたままだった。
朝玄関を出るときから始まり、学校に着くまでの道のり。今青に会ったらどんな顔をすればいいんだろう。考えれば考えるほどソワソワしてしまい、無意識に早足になった。
一日中ぼーっとしていたせいか、四時間目の体育が終わる頃には、手元を誤った寺嶋からサッカーボールを頭にぶつけられても、曖昧な返事しかできなかった。
「ちょお、えぇ? おーい、叶太生きてるかー?」
目の前で手をひらひらと振られて、叶太は「あぁ」と抜けかけていた魂を戻した。
「今日どしたん? なんかずっと心ここにあらずって感じじゃね」
授業で使い終わったラインパウダーの入ったラインカーを叶太が体育倉庫に戻していると、寺嶋は叶太の足元に転がるサッカーボールを拾った。体育倉庫の中にあるボールカゴに投げ入れて戻すつもりだったらしい。わりと高度な技術を必要とするが、バスケ部でもないくせにその自信はどこからくるのか謎だ。
「オレだっていろいろあるんだよ……」
叶太は肩で息を吐く。寺嶋は眼鏡を直しながら、
「よくわからんけど、オレは受験だけがすべてだとは思わないかな」
とまるで見当違いなことを言う。叶太が受験で疲れていると思ったのだろうか。訂正するのも面倒だ。ただ元気づけてくれようとしたことは確かなので、叶太はとりあえず「サンキュ」とだけ言い、寺嶋の肩にポンと手を乗せた。
そのときだ。キャーッと女子の歓声がグラウンドの隅から遠巻きに聞こえてきた。
声のする方を見ると、グラウンドの端に女子の人だかりができていた。女子の輪から頭一つ分飛び出ている人物を見てドキッとする。
「五十嵐じゃん。すげーな。彼女できても女子に囲まれてるとか」
寺嶋は他人事のように言うと、手に持っていたサッカーボールをボールカゴに入れた。
意識せずとも、叶太は夢中で青のことを見つめていたらしい。視線に気づいた青が、こちらに向けて優しく目を細めた。
あ、笑ってる。自分を見て、まるで宝物でも見つけたみたいに。
トクンと胸が弾む。こちらも自然と笑みがこぼれてしまう。一瞬手を振ろうかとも考えたけれど、青が詩乃と付き合っているという噂が流れている今、目立つことは避けた方がいいと思った。
叶太はにやける頬を片手で覆い隠しながら、その場から離れることにした。グラウンドから外れ、屋外の手洗い場に移動する。
水道の蛇口から水を出し、ジャバジャバと顔を洗った。体育で流した汗はもちろんのこと、火照った顔を冷ましたかった。
少し離れた場所から青を見ただけでこれだ。今後青と近くでまともに顔を突き合わせて話せるんだろうか……と若干不安になる。昨夜の青の表情や態度を思い返せば、そんな心配は杞憂なんだろうけれど。
次青と二人で話すときは、一体どんな話をすることになるんだろう。またキスをするのかな。想像すると、せっかく冷やした顔が再び熱を帯びてくる。
叶太は手洗い場から頭を上げ、蛇口をキュッとひねって水を止めた。襟をぐいと上に引っ張る。ふとした瞬間にお花畑になる頭を現実に戻そうと、体操着でゴシゴシと顔を拭いていた。そのときだ。
「椿くん」
突然横から女子の声で呼びかけられ、叶太は反射的に頭を上げた。
自分はどちらかといえばクラスでも目立たない方だ。連絡事項以外で女子に声をかけられることは滅多にない。
一瞬、さっき体育倉庫に戻したラインカーを倒してしまい、中身のパウダーをぶちまけたことを思い出した。
やば。もしかして怒られる? と焦ったのも一瞬だった。自分に声をかけてきた女子の顔を見て、叶太は心臓がヒュッと縮み上がった。
あなたにおすすめの小説
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。