【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

文字の大きさ
52 / 70
10章

10-2

しおりを挟む

「昨日はどーも」

 貼り付けた笑顔で首を横に傾げるのは、町田詩乃だ。叶太と同じクラスの同級生で、現在青と付き合っているという噂の相手でもある。

 詩乃は体操着姿のまま、ニコニコしながら叶太のそばに一歩ずつ近寄ってくる。

「椿くんって、青くんと昔から仲いいんだよね?」

 とこちらの表情を伺うように覗いてきた。普通の男子ならば、詩乃のように男子人気の高いに女子に上目遣いで見つめられたら、ドギマギするかもしれない。至近距離に来られて、ちょっと嬉しいと感じるかもしれない。

 でも自分は……純粋な男子としての目で相手を見ることはできなかった。

 単刀直入に青の話題を振られ、どきりとする。詩乃にどういう意図があって自分に近づいてきたのかまでは察せられなかったが、青に関することを振られても驚きはしなかった。

 さっきまでカンカン照りだった空には雨雲が近づいているのか、湿った空気と重たい雲が叶太たちの足元に影を落とす。遠くの方ではゴロゴロと雷の音もしている。今にも雨が降り始めそうな空色だった。

 叶太が答えずにいると、詩乃は笑顔を崩すことなくもう一つ質問を追加した。

「青くん、昨日あのあと私と付き合ってないって言ってこなかった?」

 アーチ状になった目の奥に、うっすらと瞳が見える。その瞳からまったく感情が伺えず、叶太はゾッとした。

 こちらの反応を待つでもなく、詩乃の口は止まらない。

「びっくりしたんだよ? 昨日普通にバイバイしたのに、夜青くんから電話かかってきてさ。やっぱり好きな人のことが諦められないからもう終わりにしてくれって言われて」

 詩乃は薄ら笑いを浮かべて、「ひどくない?」と同意を求めてきた。

「ねえ、青くんも椿くんも男の子なんだよ? わかってる?」

「……っ」

 叶太はぎゅっと拳を握り締めた。そんなこと……誰よりもわかっているつもりだ。でも本当に?

 自分が男に――北村に告白されたこと、青を好きになったことで、それが普通のことのように受け入れていただけじゃないのか。いざ言葉にされると、自分たちが異常なことをしているように思えてこなくもない。信じていたものが揺らぐ感覚。足元がグラつき、頼りなく感じてくる。

「クラスでも一部の女の子の間でビーエル?っていうの流行ってるみたいだけど、私はやっぱりちょっとヘンかなぁって思う。だって恋愛って、普通男の子と女の子がするものでしょ?」

 詩乃は悪びれもなく口にする。本気で不思議がっている人の顔だった。

 けれど話が大きな括りではなく、青に戻した瞬間。詩乃の表情が意地悪に歪んだ。

「椿くんも青くんも恋愛初心者だと思うから教えてあげる。恋愛でのお付き合いってね、どちらかが納得していないうちは別れていないことになるの」

 何を言っているんだと思った。そもそも青は昨日の夜、自分とキスをしたあとに詩乃に別れを告げていた。でも自分には付き合ってないって言ってたよな。どういうことだ?

 叶太の動揺をよそに、詩乃は得意げに続けた。

「だから私と青くんはまだ付き合ってるってわけ」

 言い切る詩乃に圧倒され、目の前が霞む。詩乃の言葉に揺るがされていることを自覚するけれど、今は青を信じたい。青の言い分を聞くまでは、第三者の言葉に惑わされちゃダメだと思った。

 詩乃を言い負かせるほどの弁は自分には立てない。そんな自分なりに思ったことを、叶太は意を決して伝えることにした。

「ど、どっちかが付き合ってないって思ってる時点で……その関係はもう終わってるんじゃねーの」

 その瞬間、詩乃の表情がサーッと能面のように凪いだ。相手の感情の揺らぎが一切見えなくなり、ゾクッとする。背筋を氷の矢で刺されたみたいな緊張感に空気がピリついた。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...