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結婚の条件
①
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昼すぎから始まった会議は日没までかかり、夜に予定されていた祝賀パーティーの時間をかなり押していた。
国王と王政の議員、上級使用人によって開かれた臨時会議が終わったあと、エアルとローシュは二人同時に呼び出された。
断罪場までの道のりが、酷く長く感じる。重い足取りでローシュのあとに続き、エアルは会議用広間に足を踏み入れた。その瞬間、長い会議テーブルに横並びで座った議員や上級使用人の視線が、一気にエアルたちに注がれた。
執事のアンドレを含む上級使用人の中には、家令や騎士団長、先ほど成年王族となったローシュに冠を授けた大主教などが含まれる。普段なら動じる相手ではないが、彼らの冷たい視線を一斉に浴び、エアルもさすがに身の縮こまる思いがした。
広間の最奥でテーブルに両肘をつき、組んだ手に顎を乗せているのはレイモンド王だ。銀髭に覆われた口元は固く結ばれ、眉間に刻まれた皺の真下には真っ直ぐにこちらを睨みつける目が埋め込まれている。咎めるような視線に、同情の余地はまるで窺えない。
少しホッとしたのは、以前レイモンド王の背中に見えた黒いオーラが見えなかったことだ。この二年の間に、レイモンド王の背中からそれが現れたのは二回。一度目は二年前、ローシュの反抗に遭ったときで、二度目はベッドの上だった。
一年ほど前だっただろうか。王の遊戯の一環として首を絞められた夜があった。その荒々しい手つきに、エアルの防衛本能が咄嗟に働いたのか、男の手を防御魔法で弾いてしまったのだ。
王の背中から泥のようなオーラが煙のように上がっていったのは、それからすぐのことだ。
オーラの二度の遭遇から、エアルは推察した。正体が何なのかまではわからないが、黒いオーラはレイモンド王のマイナスな感情に呼応され、出現するものなのではないのかと……。
まだ出現条件を確信するほどオーラを目の当たりにしていないし、周りに悪影響も及ぼしていない。どうするのが正解なのか窺っているうちに、二年が経っていた。
ローシュはエアルの懸念に気付くことなく、まるで芝生を歩く要領でズカズカと広間の絨毯を踏み、断罪する者たちとの距離を詰めていく。長テーブルを挟んで、王と対面する場所に立つ。
「礼冠の儀とお目見えの場ですが、先ほど無事に滞りなく終わりました」
手短に王へ報告を済ませる態度は、さっさと本題に移りたそうだ。矢継ぎ早に「で、なぜ私とエアルはこの場に呼び出されているんでしょうね?」と続けた。
エアルの知らないところで、応戦する準備はとっくに整っているらしい。ローシュは見下すような視線を王に向けた。
王も息子相手に毅然とした態度を崩す様子はない。髭の合間から、嫌味を放った。
「わからぬというのなら、大したものだ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
もちろん王はローシュを褒めていないし、ローシュは王から褒められているとも思っていない。嫌味で交わされる親子の攻防に、広間にいる人間たちの頭が緊張の糸で引っ張られる。エアルも例外ではなかった。
「国民の前でエアルを伴侶にしたいと放言したそうだが、撤回する気はあるのだろうな」
王は厳かな口調で問う。「いいえ」とローシュは間髪入れずに答える。
聞いたところで無駄だと踏んでいたのか、王はローシュとは反対に至極冷静に見えた。「そうか」と息子の返答を受け止め、今度はそのボールをエアルに投げてきた。
「今回の件はローシュと示し合わせたことか?」
「そ、それは……っ」
咄嗟に言い返せず、エアルは目を泳がせる。
「エアルは何も知りません。聞いておられなかったんですか? エアルの心はまだ私に向いてはいないと」
「黙っていろ。私はエアルに訊いている」
王の制止に、ローシュは顎を引いてギリッと奥歯を噛む。
「わ、私は……」エアルは口ごもる。
自分は何も知らなかった。それは紛れもない事実だ。ローシュの勝手な行動だと正直に言えば済む話なのに、なぜか言葉にするのがためらわれた。
ローシュの立場を悪くしたくない。だけど口裏を合わせたと嘘をついてまでローシュを守る理由も……自分にはない。何かに掴まっていないと、自分を保っていられない。エアルは祈るように腹の前で震える両手を組んだ。
「正直に申し上げますと、私は……先ほど民衆とともに初めてローシュ様のお言葉を耳にしました」
ドクドクと心臓がうるさく鼓動を刻む。事実を口にしているだけなのに、隣に立つローシュの顔を直視することができなかった。
感情の読めない王の鉄仮面が剥がれたのは、
「ですが、」
とエアルが繋げたそのときだ。エアルは自分の口から放つ一語一語をゆっくりと噛み締めながら続けた。
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