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目を覚ましたのは、それから間もなくだったようだ。ユーリアスが目を開けると、目に飛び込んできた屛風の向こうが白んでいた。朝を迎えたらしい。
まだもう少し寝ていたかったが、自分の服が新しいものに着替えさせられていたこと、いつの間にか自分の定位置で寝かせられていたことを知ると、急に眠気が醒めた。
同時に屛風の向こう側からアディムのため息が聞こえてくる。起き上がるのが億劫なほど疲れていたものの、アディムの動向が気になって再び眠ることができない。目を瞑り、寝た振りをするのが精いっぱいだった。
思えば自分は、とんでもないことをアディムにさせてしまった。初めてのヒートで混乱していたとはいえ、アディムに無理やり慰めさせてしまった。なんて不埒なことをアディムに行わせてしまったんだろうか。
アディムは起きているようだった。悩まし気なため息が、幾度となく聞こえてくる。早く謝罪をしなければ。傷つけてすまないと、心から謝らなくては。
やっぱりこのまま寝た振りをするのはよくない。ユーリアスが上体を起こそうとした、そのときだった。
「はあ……これだからダメだって言ったんだよ」
シュルシュルと包帯を巻く音とともに、アディムの不機嫌そうな呟きが耳を刺した。
そういえば昨晩のアディムは、ユーリアスを傷つけないために理性を保とうと自身の手に噛みついていた。血が大量に出ていたことを、今になって思いだす。
あんな状況の中、自分はなんてことを……。改めて自分のしでかした事の重大さに唖然とした。
いくら自分がアディムの初恋の相手だからって、やっていいことといけないことがある。自分は後者の方を、アディムにやってしまった。
悲しかった。自分のやったことでアディムを傷つけてしまった。罪悪感で押しつぶされそうだった。さすがに嫌われた。ため息ばかりを零させてしまう自分は、アディムには相応しくない。
「……っ」
涙が頬を伝い、耳の方へと流れていく。止めなければと思うのに、アディムに嫌われたと思ったら涙が溢れて溢れてしょうがなかった。
このときようやくユーリアスは自身の気持ちに気がついた。
そうか。自分はアディムのことが好きなのだ。
これまで誰かを好きになったことなんてなかった。人に興味がないというより、オメガと診断されてから、無意識のうちに恋を遠ざけていたのだ。
公族でありながら、オメガとして生まれてしまった自分を恥じていた。アディムとの結婚が決まったときも、祖国の役に立てることは嬉しかったけれど、オメガだから選ばれたのだと思い複雑な気分だった。
オメガのフェロモンにあてられた状態のアルファが本能を我慢するなんて、並大抵の精神力がなければできないと思った。無抵抗の自分なんて、簡単に組み抱けたはずだ。
だけどアディムはそれをしなかった。自身の利き手を傷つけ、本能に抗ってくれた。思えば今までもそうだった。必ずこちらの意思を尊重してくれていた。自分のことを見ていてくれた。
アディムとよく遊んでいたのは、ノアメット公国を大寒波が襲う前。バース診断が下る前の子どもの頃だ。初めから、アディムは自分にオメガ性なんて求めていなかったのだ。
守られていたことを今さらになって知る。こんな状況になってから、アディムの誠実さに気づくことになるなんて。
だけどもう遅いのだ。アディムの心の中に、きっと自分はいない。恋をしていると気づいた瞬間に失恋することになるなんて、今までの自分の鈍感さを呪った。
喉の奥が締め付けられる。寝床に敷いた絨毯の上に、涙が染まっていく。
恋の終わりを実感しながら、ユーリアスは声を殺して泣いた。
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