【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子

文字の大きさ
24 / 30
終章

02

しおりを挟む
 マリアーナとアストリッドがはつ対面を終えたあと、あれほど子爵邸を出て行くのを拒んでいた継母とティーナが「帰る」と急に言い出した。

 どういう心境の変化か不審に思わないではなかったが、家族がこれ以上子爵家に迷惑をかけるのは避けたかったため、マリアーナは何も言わず見送ることにした。

 マリアーナとソフィアとフランが見送る中、同じように玄関先に現れた子爵が護衛をつけると申し出る。
 ところが、なぜか継母がそれを断った。

「先ほどお会いしたアストリッド様が、女性お二人での旅は辛いだろうと仰って、ご自身の護衛をわたくしたちに貸し与えてくださったの。――とてもお優しい方だわ。どこかの誰かと違って」

 見れば門前に着けていた馬車の周囲に数人の兵士が見える。

 最後に付け加えられた言葉はマリアーナを当て擦ったものだろうが、マリアーナ自身も子爵邸の客人に過ぎず何かをしてやれる権限などない。

 しかしそれよりもマリアーナはアストリッドの配慮に違和感を覚えた。

(先ほどはティペリッシュの人間をさげすんではばからなかったのに……)

 それでもアストリッドの厚意を断る理由が浮かばない。
 不信感を胸に抱えたまま継母らを見送った。


 そして、その不安は的中する。


 翌朝、継母らの護衛についていた兵士が慌てた様子で戻って来た。

 ソフィアとともに朝の身支度をしていたマリアーナは、様子を見に行っていたルイースから報告を聞き思わず立ち上がっていた。

「お継母さまとティーナが、行方不明……!」

 道中、賊と思しき集団に襲われ護衛としてついていた兵士がそれに応戦していたが、継母もティーナも恐怖に錯乱して馬車を飛び出し森の中に逃げ込んだのだと言う。

 驚きに固まるマリアーナに、ルイースがおずおずと報告を付け加える。

「その……アストリッド様から伝言が――」

『わたくしの兵士はちゃんと護衛の仕事を果たしたわ。あとはマリアーナ様がどうにかするべきよね? マリアーナ様のご家族のことなんだから』

 護衛対象の姿を見失った時点で仕事を果たしたと言えないのではと思うが、本来であればアストリッドに護衛を頼むべきではなかったのだ。

 やはり断るべきだったのだと考えれば、アストリッドを責めたところでどうしようもないと思えた。

 それよりも継母らをどうするか考えなくては――。

「俺は行くべきではないと思います」

 そう助言するのはルイースとともに部屋に現れたフランだった。
 表情は硬く警戒心をあらわにしている。

 その隣で同じく厳しい顔をしてソフィアが頷く。

「わたしもそう思います。これは罠の可能性が高いです」

 ソフィアが『罠だ』と断じる理由はマリアーナにも分かる。

 兵士に『どこで襲われたのか』と子爵が周囲の地図をもとに聞けば、彼らが指した場所はここよりそれほど離れていない。
 では一晩どうしていたのかと聞けば、行方不明の彼女らを必死に探していたのだと言う。

 彼女らはどの方角へ向かったかとまた子爵が問えば、彼らが指した方向にはあの湖があった。

『塔が怪しいと思ったが、立ち入り禁止なので入って探すことができなかった。声をかけたが応答もなかったので……』

 兵士の報告に子爵も難しい表情をしていたらしい。

 だが森の管理を任されているのは子爵だ。傍で話を聞いていたルイースに子爵は『私と兵士で探しに行く』と伝えてきたのだという。

「わたしも、これは罠だと思います。子爵に任せるべきかと……」

 やはり遠慮がちにルイースがそう付け加える。
 報告とそれぞれの助言を聞き終えて、マリアーナはしばし黙考する。

(義理とはいえ母だし、ティーナとは半分血の繋がりがある家族よ――アストリッド様の仰る通り、わたしがどうにかしなくてはいけないことだわ)

 しかしアルベルトとの婚約の契約上、マリアーナは必ず護衛とともに行動しないといけない。
 現在、マリアーナの護衛としてつけられているのはフランだ。
 アルベルトの信頼が厚いことを考えれば、彼の腕は確かなのだと思える。

(だけど、複数人で襲われてはたとえどんなに強くても、護衛対象を抱えて戦うのは厳しいはず……)

 フランを必要以上に危険な目に遭わせるわけにはいかない。彼はソフィアの恋人なのだから、彼女を悲しませるようなことはしたくない。

 ではやはり兵士が必要だ。子爵に自分が行くので兵士を借りれないかと相談しようと、マリアーナは立ち上がった。

「みんなの懸念はもっともだと思うわ。でも、アストリッド様の仰る通りもしお継母さまやティーナが何か企んでいるのなら、わたしがどうにかしなければならない問題だと思うの。フラン様、申し訳ないのだけど……」

 そう言ってフランを見上げれば、彼はしばし沈黙したのち大きく息を吐き出した。

「あなたに何かあれば俺の首が文字通り飛ぶんですが……決して俺から離れずご自分の安全を第一に行動するとお約束ください」
「ええ、約束するわ。危険なことは何もしない」

 きっぱりと断言すればフランは諦めたようにまた息を吐いて、「では子爵とご相談しましょう」と出口に向かう。
 マリアーナもそちらへ向かいかけて、侍女たちを振り返った。

「ソフィア、ルイース、心配かけるけど――」
「マリアーナ様、わたしも同行します」
「ソフィア……」
「わっ、わたしも――!」
「ルイース……」

 心配からだろう、そう言ってくれる二人の思いに胸を打たれる。

 だが護衛対象が増えればそれだけ危険は増す。どう断ろうかと考えていたらソフィアが厳しい口調でルイースをたしなめる。

「ルイース、これはピクニックではないのよ。わたしは護身術を身につけているけど、あなたは自分の身を自分で守ることもできないでしょう? マリアーナ様の危険が増すだけよ。今回は諦めなさい」

 珍しくマリアーナの前で叱責しているが、それほど切迫した状況だと思ったからだろう。

 ルイースは諦めたように肩を落とし、ソフィアは頑としてついてくる姿勢を崩さない。
 こうなったら梃子てこでも動かないと知っているマリアーナは、説得を諦めるとソフィアを伴って部屋をあとにした。





 玄関前のエントランスに向かえば、準備を終えた子爵が夫人に何やら言葉をかけている。
 子爵に歩み寄ってマリアーナは、単刀直入に自分が行くことを伝えた。

「ユーリーン子爵様、これ以上わたしの家族のことでご迷惑をおかけすることはできません。わたしが探しに向かいます。ですが、できれば兵士をお借りしたく思っております。お願いできませんでしょうか」
「それはもちろん……ですが、くれぐれもマリアーナ様をよろしくとルーベンソン公爵閣下から言いつかっております。あなたに何かあれば私がお叱りを受けます」
「もちろん重々気を付けますし、お叱りはわたしがお引き受けいたします。これ以上子爵様にご迷惑はおかけいたしません」

 心配そうにしながらも、きっぱりと断言するマリアーナを説得するのは難しいと思ったのか、子爵が「それでしたら……」と頷きかけた――その時。

「あら、今でも十分に子爵へ迷惑をかけているのではなくて?」

 そう間に割って入ってきたのは、いつからそこに居たのかアストリッドだった。
 こちらをあなどる笑みを隠そうともせず言い募る。

「子爵邸に滞在し、家族も無作法に滞在を要求し、そればかりか管理している森で行方をくらますなんて――おまけに兵士を借りたいなどと厚顔無恥が過ぎるのではない?」

 これまでのマリアーナであれば顔を赤くするか、あるいは青くして身を竦めたかもしれない。

 しかし、賊に襲われた家族が行方不明になる状況に加えて、アストリッドの指摘があまりにも的外れのため至極冷静にマリアーナは彼女へ向き直った。

 姿勢を正しまっすぐにアストリッドを見つめる。

「わたしはアルベルト様と婚約した際、契約を交わしています。そこには『護衛を断ることはできない』とありました。わたしは護衛なく単独での行動はできません」
「そんなこと……」

 知ったことではない、と言いたかったのだろうが契約した相手がアルベルトだと考えれば、突き放すような物言いなどできなかったのだろう。

「今わたしの護衛をしてくださってるのはフラン様です。アルベルト様の信頼厚い方ですが、いくら腕が立つ方であっても多勢であれば危険は増します」
「……」
「街歩きであればフラン様一人にお願いするところではありますが、これから向かうのは森の中です。しかも賊が出たというご報告をされたのは、アストリッド様が貸し与えた護衛の方々です」

 淡々と事実を並べればアストリッドの口が尖っていく。
 叱られて反発する子供のような反応だ。

「何かあるか分かりませんし、お継母さまもティーナも何かに巻き込まれた可能性があります。この状況で護衛を複数連れて行くのは当然のことと思われますが――アストリッド様はわたしに単身で行けと仰るのでしょうか」
「そ、そんなこと――言ってないわ」

 先ほどの発言はそう言っているようなものだったが、事実を突きつけられてそれを認めることができなかったらしい。

 あるいはマリアーナがここまで言い返すとは思っていなかったのかも知れない。
 少し強めに牽制すれば、自分から『一人で行きます』と言い出すと思ったのだろうか。

 苛立ちを顕わにした表情で黙ってしまったアストリッドに、マリアーナはさらに言葉を重ねた。

「わたしの家族がご迷惑をおかけしたことに関しては子爵様に申し訳なく思いますが、それ以外に関してたとえアルベルト様の従妹様であろうとも、苦言を頂く理由はないかと思います。ここにわたしが滞在するのはアルベルト様のご意思であると重々ご承知くださいませ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました

ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された 侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。 涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。 ――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。 新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの 白い結婚という契約。 干渉せず、縛られず、期待もしない―― それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。 しかし、穏やかな日々の中で、 彼女は少しずつ気づいていく。 誰かに価値を決められる人生ではなく、 自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。 一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、 静かに、しかし確実に崩れていく。 これは、派手な復讐ではない。 何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...