思い出

山田 廉

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一章

第2話 席替え

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 そんなことを考えている時、ひとりの女の子が話しかけてきた。
「隣だね、よろしく!」
  僕は突然の出来事に驚いた。そういえば昨日の帰りのHRに席替えをしたのを忘れていた。
 だから話しかけてきたのか、納得していると彼女は不思議そうに聞いてきた。
 「何の本を読んでるの??」
  今までろくに女の子と喋ったことがない僕は戸惑いを感じていた。
  「栗山 直樹の『運命』」
  作者名と本の題名をボソッと告げると、僕は目線を本に戻した。
   「村上くんは本が好きなの?」
  その質問に僕はぎょっとしてしまった。本が好きかどうかを聞かれて驚嘆したわけではない。久々に女の子に名前を言われたからだ。
  そういえば、僕は彼女の名前を知らない。そのとき彼女の机の上のノートの『藤原 咲』という字が眼に映る。
   「藤原さん?は本は好きなの?」
  いつのまにか、僕の口からそんな言葉が出てきていた。
   「私は小説は好きかな、でも新書とかは全然、伝記なんて論外かな。…それより私は村上くんはどうなの?」
   「僕は本は好きかな、好きというより今じゃ必需品だね、毎日は一冊は読んでる。一番好きな本はこれだね、この本は好きで何回も読み返している。」
  気づけば僕は口走っていた。いつもじゃあり得ない。藤原さんが本好きと聞いて親近感が湧いたのか、まず僕はそもそもあまり人喋らない。僕としては適当に流して本の続きを読むはずだったんだけどなー。そんな思いを僕は噛みしめた。
    「村上くんって案外おしゃべりなんだね」
    「そんなことはないよ、人と喋るのは苦手なんだ」
  しかし実際今日の僕はよく喋る。なんか自分が自分じゃないみたいだ。僕は友達も少なく、普段からあまり人と喋らない。これまで席替えの時は僕と隣になっても話してこなかった。いや話して欲しくなかったのかもしれない。こんなにも人と喋るのは久しぶりで、なんだか不思議な気分になった。
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