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神と少女と魔術師と
通り入るep2
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僕は外に出て、来る時に通った道を再び歩く。
来る時に、見つけた分かれ道のところへ着く。ここへ来る時に通った道でも華上家への道でもない第三の道を進む。
道を進んでいくと小さな鳥居が見えた。約二メートルくらいの高さの鳥居。その奥には寂れた神社があった。屋根の瓦は所々なくなっており、骨組みに使われたであろう木材も露出している。神社の本殿の床にも穴が空いているのが見えた。
ただ、汚れている訳では無い。誰かが定期的に来て掃除をしていることが分かる。その誰かの正体は華上家の者しか居ないだろう。街から離れた場所にある寂れた神社。ここに態々お参りに来る人は少ないだろう。
その神社の敷地内の中にある大きめの石に華上舞さんは座っていた。頬杖を付きながら無愛想な顔をして。
僕は神社の入り口で礼をし、その神社の中に入り、舞さんのもとへ向かった。舞さんは此方をチラりと見て、また視線をそらした。数秒たってまた此方を見ては目線を逸らす。何度かその行為をしているうちに僕は舞さんの前についてしまった。
「なんか、さっきはごめん」
「気にしないで」
ちゃんと謝ることが出来る子供で良かった。ルーン魔術の効果がちゃんと効いているみたいだ。自分ではよく分からないがこの魔術の使用中は、親近感が少し湧き、警戒心が薄れて会話がしやすくなるらしい。
その為か、こちらが何も言っていないにも関わらず舞さんは語り始めた。
「ここはさ、離れる君の神社って書いて『はなきみじんじゃ』って言うの。縁切りの神社なんだって。縁結びの神社に人が来るっていうのは分かるけど縁切りの神社には誰も来なくなっちゃった」
「だからこんなに寂れてるんだね」
縁切り神社という物は存在している。鋏をお供えするという伝承がある神社もある。しかし、それは大きなところの話でありここのような小さな神社を目指す目的としては弱い。元々、何かとの縁を切ることを目的とした神社なのか時代とともに変化したのかは分からないが。
「寂れてるって言っても毎日掃除をしてるよ?お祖父ちゃんから『よっぽどのことがない限り神社へは毎日行け』って言われてるの」
「何で?」
「分からない。教えてもくれない。ただ私のことを守ってくれるんだって。神社自体がこんな状態なのに」
舞さんは毎日ここに来ているらしい。だから散さんも舞さんがここにいることが分かったのだ。
「とりあえず、舞さんとも色々話したいんだ。一回戻ろう」
「うん」
僕の受けた依頼は舞さんに関してのこと。彼女のことを知らないことには計画も立てられない。一度、華上家へ戻って話をする必要がある。
エーンエーン
森の奥から何かが鳴くような声が聞こえる。人間の声のようにも聞こえたが鳥の声にも聞こえた。声の聞こえた方を見ると鬱蒼とした森が広がっている。奥の方は暗く、光が差し込んでいない。それほどまでに森は深かった。
「なにか声しなかった?人みたいな」
「そうだね」
「行かなきゃ!」
舞さんは立ち上がり、森の方へ駆けていく。この子も空穂ちゃんと同じ、猪突猛進タイプだと直感でわかる。何かあった時に考えるよりも先に行動をして、何かが起こったらその場で対処するタイプ。周りの人間は振り回されるのだ。現に、森の中に走って行ってしまった舞さんを僕は追いかけている。走るのが速くなかったことが幸いし、運動不足の僕でも追いつくことができた。
「いた!」
舞さんが何かを発見したみたいだ。
僕は舞さんの方へ近づく。舞さんの目線の先には座り込んだ男の子がいた。多分人間じゃない。この感覚は浮遊霊だ。
「舞さん、それ浮遊霊」
裏世界に足を踏み入れている人物故、端的に状況を説明する。悪い霊には見えないが油断はせずに自分の身をいつでも守れるようにする。
「知ってる。私に見えるってことは悪い霊じゃないよ」
どういうことだろうか。霊が見える人は悪い霊も良い霊も見えると聞く。自分でそれが分かっているということは、散さんから言われたか、はたまた自分で気づいたか。どちらにせよ油断をしている。
「何で泣いてるの?」
「お母さんと逸れちゃった。お母さんに会いたい」
「分かった。すぐに合わせてあげるからね」
目の前の泣いている霊と会話をする舞さん。
普通の子どもに接するかのように優しい声色で言葉を紡ぐ。少年の手を取り、目を瞑る。
「祓い給え。清め給え。汝の魂、清らかなる地へ。清らかなる心を導き給え」
舞さんがそう唱えると一瞬のうちに浮遊霊は消滅した。成仏したのだろう。既に舞さんは祝詞の一種である略拝詞を少しだけ使えるようだ。家を継ぐ、そう言っていたことから勉強をしたのだろう。
「お見事」
「あの子、お母さんのところへ行けたかな」
最初にであった頃とは違い、優しい顔をした舞さん。
「知ってると思うけどうちの家、『神守(かみもり)』の家系なの。神様を守る家。表向きは神社とかを守るってことになってるけど神様の尊厳を守るのを大切にしてる。だから私も毎日この神社を掃除してるの。」
神様を守る。神様の居場所を守り続ける。1代で成せることではなく代々受け継がれる役目だ。
「でもね。私は神守の家系だからじゃなくて、浮遊霊とかそういう困っている人をただ助けたいだけなの。その力が私にはある。私に見える霊はいい霊だけって神様も言ってた。神様も守って、他のものも助けたい」
「神様が言ってたってどういうこと?」
「夢の話何だけど、神様が私に言ったの『貴方の力になりましょう。悪しき物から遠ざけましょう。貴方の願いを叶えましょう』って。それ以来悪い霊は見えないから見えるのはいい霊だけ。その霊を成仏させてるの。未練のある霊はいい霊じゃないらしくて、見えないから見えるやつはね」
舞さんはぽつり、ぽつりと話しだした。
神が夢枕に立つという話は神に近い職業では珍しい話ではない。フランスにあるモンサンミッシェルは司教の夢に大天使ミカエルが現れ、お告げをしたことから出来たとされている。
舞さんの場合は何かを命じられるというものではなく、神に愛されてると言うことが夢から伝わった。本人はどうしてそうなっているのか分からなさそうだが、恐らく離君神社に関係するのだろう。
・
「それよりこんな所まで来て良かったの?結構森の奥まで来ちゃったけど」
僕は当然この土地に関して地理感はない。舞さんを追って走って森の奥に来てしまった。僕一人では帰れそうにないため舞さんをを頼る。
「やばっ、森の奥には絶対に行かないようにおじいちゃんに言われてるんだった。内緒にして」
舞さんは元来た道を戻る。この神社に何時も来ているだけのことはある。こんなに鬱蒼とした木々の生えた場所でも自分がどこにいるのか分かるのはその土地の人間だけだろう。
・
「迷ったわ」
舞さんのことを信じていた自分も確かにいたのだ。自信満々に『こっち』とどんどん移動していくものだから道を分かっていると。
「おかしい」
おかしいのは舞さんの方だ。分からないにも関わらず闇雲に移動したら迷うに決まっている。
僕は呆れた声で舞さんへの相槌を打つ。
「いや、おかしいって……」
「本当におかしいの。私はちゃんと神社の方へ向かってる。なのに神社にたどり着けない」
舞さんの方へ近付き、その表情をみた。
焦っている人の表情ではなく、何かに困惑しているような表情。今何が起こっているのか分からない表情。この表情の人間はよく見るため分かる。超常的なものに触れた時の人の顔。それこそ、先日言霊使いの少年が僕のことを見ていた表情ににている。
「……迷ってるわけじゃなく?」
神妙な面持ちの舞さんがまだ迷っているわけではないということだけは分かった。考えてみれば舞さんの後を付いてきたが曲がったりはせず直進で進んできた。森の中とは言え、太陽が見えている。時間も分かる為、どの方角へ進めばいいかくらいは分かるのだ。
「迷ってるのよ。でも何で迷ってるのか分からない。方向は合ってるのよ」
それにも関わらず迷ってしまう。それは何かの現象に巻き込まれている合図だった。
千葉県には『八幡の藪知らず』という、入ってしまったら二度と出てこられないと言われている禁足地がある。ここでは入ったものは神隠しにあうと言われ、現在でも立ち入ることができない場所として有名だ。明確な理由はないが、神の土地に人が入ると言うことがどういうことなのかを示しているのではないだろうか。
この森が離君神社の祭神のテリトリーであったならば舞さんが巻き込まれる可能性は低いだろう。それにも関わらず、巻き込まれている。つまり神社は関係がない。
「とりあえず、辺りを散策しよう。絶対に離れないで」
朝とは打って変わった態度で『うん』と頷く舞さん。舞さんよりも僕のほうがこういう超常の現象には慣れているはず。今大切なのは現状の理解。そして打開策を出すこと。何が起こっているか調べる必要がある。
僕と舞さんはとりあえず辺りを歩き回る。僕らを迷わせると言うことはこの現象を起こしている何者かは僕達に危害を加える"何か"があるはずだ。その痕跡さえつけられればそこから打開策を打ち出せる。
しかし、いくら歩き回っても痕跡は見つけられず、ただ疲労が溜まるだけだった。次第に少しずつ日が傾き始めている。先程まで太陽が燦々と輝いていたのにもう夜が近づいてきた。時が流れるのが早く感じる。スマホの時計を確認すると16時を回っていた。連絡を取ろうにも圏外になっている。
それほどまでに僕たちは探索していた。
「もう出られないのかな……」
『きっと出られる』や『大丈夫』なんて言葉は僕にはかけられない。こういう現象から抜け出せるかどうかは結局運。今回僕が持ってきているルーンは一つだけ。舞さんと話すためだけに華上家を出てきたのでコミュニケーションの意味を持つルーンのみ。少し前にちゃんと備えて置かないといけないと自分で考えていたはずなのにも関わらずこのような事態になっている。
「なんなんだろうねこれ」
分からない。分からないまま、辺りは暗くなる。
そして夜がやってくる。
夜というのは裏世界の時間。この現象が起こっている渦中で夜を迎えるのは相当不味い。今は対抗策も用意していない為、攻撃などを受けてしまえば対応ができない。舞さんを守らないと散さんに顔向けできない為、そこも考えないといけない。
日没までもう僅かだが何も見つからない。
僕らは脱出不可能な迷いの森に入ってしまったみたいだ。
来る時に、見つけた分かれ道のところへ着く。ここへ来る時に通った道でも華上家への道でもない第三の道を進む。
道を進んでいくと小さな鳥居が見えた。約二メートルくらいの高さの鳥居。その奥には寂れた神社があった。屋根の瓦は所々なくなっており、骨組みに使われたであろう木材も露出している。神社の本殿の床にも穴が空いているのが見えた。
ただ、汚れている訳では無い。誰かが定期的に来て掃除をしていることが分かる。その誰かの正体は華上家の者しか居ないだろう。街から離れた場所にある寂れた神社。ここに態々お参りに来る人は少ないだろう。
その神社の敷地内の中にある大きめの石に華上舞さんは座っていた。頬杖を付きながら無愛想な顔をして。
僕は神社の入り口で礼をし、その神社の中に入り、舞さんのもとへ向かった。舞さんは此方をチラりと見て、また視線をそらした。数秒たってまた此方を見ては目線を逸らす。何度かその行為をしているうちに僕は舞さんの前についてしまった。
「なんか、さっきはごめん」
「気にしないで」
ちゃんと謝ることが出来る子供で良かった。ルーン魔術の効果がちゃんと効いているみたいだ。自分ではよく分からないがこの魔術の使用中は、親近感が少し湧き、警戒心が薄れて会話がしやすくなるらしい。
その為か、こちらが何も言っていないにも関わらず舞さんは語り始めた。
「ここはさ、離れる君の神社って書いて『はなきみじんじゃ』って言うの。縁切りの神社なんだって。縁結びの神社に人が来るっていうのは分かるけど縁切りの神社には誰も来なくなっちゃった」
「だからこんなに寂れてるんだね」
縁切り神社という物は存在している。鋏をお供えするという伝承がある神社もある。しかし、それは大きなところの話でありここのような小さな神社を目指す目的としては弱い。元々、何かとの縁を切ることを目的とした神社なのか時代とともに変化したのかは分からないが。
「寂れてるって言っても毎日掃除をしてるよ?お祖父ちゃんから『よっぽどのことがない限り神社へは毎日行け』って言われてるの」
「何で?」
「分からない。教えてもくれない。ただ私のことを守ってくれるんだって。神社自体がこんな状態なのに」
舞さんは毎日ここに来ているらしい。だから散さんも舞さんがここにいることが分かったのだ。
「とりあえず、舞さんとも色々話したいんだ。一回戻ろう」
「うん」
僕の受けた依頼は舞さんに関してのこと。彼女のことを知らないことには計画も立てられない。一度、華上家へ戻って話をする必要がある。
エーンエーン
森の奥から何かが鳴くような声が聞こえる。人間の声のようにも聞こえたが鳥の声にも聞こえた。声の聞こえた方を見ると鬱蒼とした森が広がっている。奥の方は暗く、光が差し込んでいない。それほどまでに森は深かった。
「なにか声しなかった?人みたいな」
「そうだね」
「行かなきゃ!」
舞さんは立ち上がり、森の方へ駆けていく。この子も空穂ちゃんと同じ、猪突猛進タイプだと直感でわかる。何かあった時に考えるよりも先に行動をして、何かが起こったらその場で対処するタイプ。周りの人間は振り回されるのだ。現に、森の中に走って行ってしまった舞さんを僕は追いかけている。走るのが速くなかったことが幸いし、運動不足の僕でも追いつくことができた。
「いた!」
舞さんが何かを発見したみたいだ。
僕は舞さんの方へ近づく。舞さんの目線の先には座り込んだ男の子がいた。多分人間じゃない。この感覚は浮遊霊だ。
「舞さん、それ浮遊霊」
裏世界に足を踏み入れている人物故、端的に状況を説明する。悪い霊には見えないが油断はせずに自分の身をいつでも守れるようにする。
「知ってる。私に見えるってことは悪い霊じゃないよ」
どういうことだろうか。霊が見える人は悪い霊も良い霊も見えると聞く。自分でそれが分かっているということは、散さんから言われたか、はたまた自分で気づいたか。どちらにせよ油断をしている。
「何で泣いてるの?」
「お母さんと逸れちゃった。お母さんに会いたい」
「分かった。すぐに合わせてあげるからね」
目の前の泣いている霊と会話をする舞さん。
普通の子どもに接するかのように優しい声色で言葉を紡ぐ。少年の手を取り、目を瞑る。
「祓い給え。清め給え。汝の魂、清らかなる地へ。清らかなる心を導き給え」
舞さんがそう唱えると一瞬のうちに浮遊霊は消滅した。成仏したのだろう。既に舞さんは祝詞の一種である略拝詞を少しだけ使えるようだ。家を継ぐ、そう言っていたことから勉強をしたのだろう。
「お見事」
「あの子、お母さんのところへ行けたかな」
最初にであった頃とは違い、優しい顔をした舞さん。
「知ってると思うけどうちの家、『神守(かみもり)』の家系なの。神様を守る家。表向きは神社とかを守るってことになってるけど神様の尊厳を守るのを大切にしてる。だから私も毎日この神社を掃除してるの。」
神様を守る。神様の居場所を守り続ける。1代で成せることではなく代々受け継がれる役目だ。
「でもね。私は神守の家系だからじゃなくて、浮遊霊とかそういう困っている人をただ助けたいだけなの。その力が私にはある。私に見える霊はいい霊だけって神様も言ってた。神様も守って、他のものも助けたい」
「神様が言ってたってどういうこと?」
「夢の話何だけど、神様が私に言ったの『貴方の力になりましょう。悪しき物から遠ざけましょう。貴方の願いを叶えましょう』って。それ以来悪い霊は見えないから見えるのはいい霊だけ。その霊を成仏させてるの。未練のある霊はいい霊じゃないらしくて、見えないから見えるやつはね」
舞さんはぽつり、ぽつりと話しだした。
神が夢枕に立つという話は神に近い職業では珍しい話ではない。フランスにあるモンサンミッシェルは司教の夢に大天使ミカエルが現れ、お告げをしたことから出来たとされている。
舞さんの場合は何かを命じられるというものではなく、神に愛されてると言うことが夢から伝わった。本人はどうしてそうなっているのか分からなさそうだが、恐らく離君神社に関係するのだろう。
・
「それよりこんな所まで来て良かったの?結構森の奥まで来ちゃったけど」
僕は当然この土地に関して地理感はない。舞さんを追って走って森の奥に来てしまった。僕一人では帰れそうにないため舞さんをを頼る。
「やばっ、森の奥には絶対に行かないようにおじいちゃんに言われてるんだった。内緒にして」
舞さんは元来た道を戻る。この神社に何時も来ているだけのことはある。こんなに鬱蒼とした木々の生えた場所でも自分がどこにいるのか分かるのはその土地の人間だけだろう。
・
「迷ったわ」
舞さんのことを信じていた自分も確かにいたのだ。自信満々に『こっち』とどんどん移動していくものだから道を分かっていると。
「おかしい」
おかしいのは舞さんの方だ。分からないにも関わらず闇雲に移動したら迷うに決まっている。
僕は呆れた声で舞さんへの相槌を打つ。
「いや、おかしいって……」
「本当におかしいの。私はちゃんと神社の方へ向かってる。なのに神社にたどり着けない」
舞さんの方へ近付き、その表情をみた。
焦っている人の表情ではなく、何かに困惑しているような表情。今何が起こっているのか分からない表情。この表情の人間はよく見るため分かる。超常的なものに触れた時の人の顔。それこそ、先日言霊使いの少年が僕のことを見ていた表情ににている。
「……迷ってるわけじゃなく?」
神妙な面持ちの舞さんがまだ迷っているわけではないということだけは分かった。考えてみれば舞さんの後を付いてきたが曲がったりはせず直進で進んできた。森の中とは言え、太陽が見えている。時間も分かる為、どの方角へ進めばいいかくらいは分かるのだ。
「迷ってるのよ。でも何で迷ってるのか分からない。方向は合ってるのよ」
それにも関わらず迷ってしまう。それは何かの現象に巻き込まれている合図だった。
千葉県には『八幡の藪知らず』という、入ってしまったら二度と出てこられないと言われている禁足地がある。ここでは入ったものは神隠しにあうと言われ、現在でも立ち入ることができない場所として有名だ。明確な理由はないが、神の土地に人が入ると言うことがどういうことなのかを示しているのではないだろうか。
この森が離君神社の祭神のテリトリーであったならば舞さんが巻き込まれる可能性は低いだろう。それにも関わらず、巻き込まれている。つまり神社は関係がない。
「とりあえず、辺りを散策しよう。絶対に離れないで」
朝とは打って変わった態度で『うん』と頷く舞さん。舞さんよりも僕のほうがこういう超常の現象には慣れているはず。今大切なのは現状の理解。そして打開策を出すこと。何が起こっているか調べる必要がある。
僕と舞さんはとりあえず辺りを歩き回る。僕らを迷わせると言うことはこの現象を起こしている何者かは僕達に危害を加える"何か"があるはずだ。その痕跡さえつけられればそこから打開策を打ち出せる。
しかし、いくら歩き回っても痕跡は見つけられず、ただ疲労が溜まるだけだった。次第に少しずつ日が傾き始めている。先程まで太陽が燦々と輝いていたのにもう夜が近づいてきた。時が流れるのが早く感じる。スマホの時計を確認すると16時を回っていた。連絡を取ろうにも圏外になっている。
それほどまでに僕たちは探索していた。
「もう出られないのかな……」
『きっと出られる』や『大丈夫』なんて言葉は僕にはかけられない。こういう現象から抜け出せるかどうかは結局運。今回僕が持ってきているルーンは一つだけ。舞さんと話すためだけに華上家を出てきたのでコミュニケーションの意味を持つルーンのみ。少し前にちゃんと備えて置かないといけないと自分で考えていたはずなのにも関わらずこのような事態になっている。
「なんなんだろうねこれ」
分からない。分からないまま、辺りは暗くなる。
そして夜がやってくる。
夜というのは裏世界の時間。この現象が起こっている渦中で夜を迎えるのは相当不味い。今は対抗策も用意していない為、攻撃などを受けてしまえば対応ができない。舞さんを守らないと散さんに顔向けできない為、そこも考えないといけない。
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