魔術会社サークル〜オカルト依頼をなんでも解決。魔術、妖怪、悪魔、都市伝説、なんでも相談してください〜

ペンギンの回り道

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神と少女と魔術師と

不思議は7つで収まらずep1

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 社長が出張している間に依頼を熟してしまおうと意気込んでいた私たちは夜の学校に忍び込むことにした。夜の学校に忍び込むというのは背徳感がある。昼間は沢山の人がいる空間が、静けさに包まれ人の存在がほとんどなくなる。そこにいるものは警備員の人や宿直の先生くらいしかいない。

 忘れ物を取りに来る生徒なども居るがそれも夜が深くなる前に来るため、日付が変わったあとに学校に忍び込む物はいない。

 それでは今直面している問題とは何か。

「学校の鍵しまってるねー」

 当然のことながら学校の入り口から窓まで全て施錠されていた。生徒のプライバシーに関わることから授業の内容やテストまで、様々な物が置いてある学校を施錠していない訳がなかった。

「どうする?入れないけど……」

「何処か入れるところないか探してみよー」

 私たちは校舎の周りを探索し始める。手の届く位置に窓があれば手をかけて開いていないか確認する。校舎をぐるりと一周してみても開いている窓はなかった。

「そういえば空穂ちゃん」

「なにー?」

「いつの間にか色々なものに触れるようになってない?」

「そうなの。愛美がいる時だけ色んなところ触れるみたい」

 先ほどの調査をしている時、私は少し高いところにある窓なども閉まってないか確認した。愛美がいる時だけは色々なものに触れる。例外はある。愛美以外の人には触れることが出来ない。

「だけど、愛美が見てる物しか触れないみたい」

「どういうこと?」

「さっき私が窓を開けようとしてた時、愛美は窓見てたでしょ?その時は触れてたんだけど、愛美が次のところにに行こうと後ろ向いた瞬間手がすり抜けちゃったんだよねー」

 愛美が見ている物だけが触れる。これは私と愛美が繋がっているからなのか、愛美の眼のおかげなのか私には分からないが事実として存在している。

「一蓮托生だね」

「重いよ空穂ちゃん」

 はにかみながら答える。幽霊だから質量はないし重くはないはずだけど、そういうことではないのだろう。

「それにしてもどうしようか?」

 ガラスの窓を割って中の鍵を開けることになったらよくて停学処分。最悪警察案件になる。私は幽霊だからお咎めなしだろうが愛美は罰を受ける。それは避けなければならない。
 仮に中に宿直の先生が居ても、一生徒が深夜に学校に入るのを良しとはしないだろう。

 透明なガラス窓に隔てられた玄関の先には行くべき道があるのに壁に阻まれて進めない。

「そういえばさー」

「なに?なんか思いついた?」

 「愛美が後ろ向いて見てない間に私がすり抜けて校舎に入って、その後頑張って鍵のところ見たら開けられたりするんじゃないー?」

 施錠してある鍵はサムターン錠と呼ばれるつまみながら回転させることで鍵を開けることができる。玄関はガラス張りになっているため、ギリギリではあるが外からその鍵を見ることができる。愛美が見ていないものを触ることが出来ないのを利用して、鍵を開けることが出来ないかと考えたのだ。

「やってみる?」

「やってみよー」

 そういうわけで実践することにした。話し合った結果、愛美が後ろを向いてから10秒後に振り向くからその間に玄関のガラスを通過して中に入るという作戦である。
 「はじめるね」という合図と共に愛美は後ろを向く。

 最初は目を瞑るだけでもいいかと考えたが、愛美は今日も眼帯をつけている。付けていない右目で見ても効果があるのか、眼帯の中の左目で見ているのが意味があるのか分からないため、絶対に見えないように後ろを向いてもらうことにしたのだ。

 その予想は正しく、愛美が後ろを向いている間は玄関をすり抜けることが出来た。丁度10秒たった後愛美は此方を振り向いて笑った。ちゃんと中に入れたことを確認して喜んでいるみたいだ。その後、ガラスの扉から玄関の鍵を視認してもらい、開けることが出来た。鍵は2つあったが、中心部と下部だったため何も問題はなかった。

「入れて良かった。ありがとね空穂ちゃん」

「協力プレイかんりょー」

「それじゃ中に入って探索しよう」

「協力プレイ継続だねー」

 そうして私たちは夜の学校探索、『七不思議の解明』へと乗り出したのだった。




「そこで、何をしている」

 玄関で靴を脱ぎ、廊下へと一歩踏み出した時懐中電灯の光が私たちを照らした。暗い中で動いていたため、急な強い光は目に悪い。光の先に何があるかよく見えないが警備員のような服を着ているようにも見える。
 
「何時だと思ってるんだ」

 光の先にいる人が懐中電灯の位置を少し下げてくれたおかげで視界が少しずつ鮮明になっていく。光の先にいた人はやはり警備員の人だった。夜の見回りの最中だろうか。タイミングが悪く、見回りの人が丁度廊下に来たタイミングで見つかってしまった。

 私の声や姿は見えないはずなので愛美に応答してもらう。

「えっと、忘れ物を取りに来たんです」

「もう日付も変わってる。それにどうやって入ったんだ?鍵はしっかり閉めたのを確認したんだが」

「あ、開いてましたよ。玄関から普通に入ってこれました」

「いや、そんなはずは」

「開いていたから私入れたんですよ」

「わ、分かった分かった。忘れ物だね。私も付いていくから早くしなさい」

 愛美の押しの強さが発揮されて事が片付いた。愛美はメンタルが弱そうなのに追い詰められると押し切る力が強い。今回も本人は焦っているようだったが、頭がパニックになっているからこそ本来の性質が出たのだろう。そういうところも可愛いのだ。

「なにかあったんですかぁ?」

 廊下を進んだ少し先にある宿直室から一人の男性が顔をのぞかせた。暗闇に慣れた目でもわかる。どこで買ったか分からないレンズの小さい眼鏡に大きな白衣を纏ったその姿は保健室で養護教諭をやってる人だ。今日の宿直は保健室の先生みたいだが保健室の先生は宿直をやるのだろうか。

「この生徒が忘れ物をしたみたいで」

「君たちは……」

 先生は愛美の方を見る。私の方も見ている気がするが気のせいだろう。先生は愛美のことを知っているらしく、手を挙げながら宿直室から出てきて此方に近づいてきた。

「私が行きますので警備員さんはもう大丈夫ですよぉ。」

「いや、しかし」

「大丈夫ですよぉ。ね?」

「は、はぁ分かりました」

 警備員の人は渋々と言った様相でこの場を離れていく。この先生は何となくうさん臭い感じがする。愛美に対しての危機感レーダーは反応していないため現状問題はないが何が起こるか分からないため警戒をするに越したことはない。

「明日空先生こんばんわ」

「何してるんですかぁ君たちは」

「もう隠そうとはしないんですね」

「何の話ですかぁ?」

「君たちって空穂ちゃんの事も言ってますよね」

 そういえばさっきから「君たち」って言ったりしていた。あれは警備員さんのことじゃなくて私のことを指して言っていたのだと今気づいた。この先生は私のことが見えているのだろうか。だとすると、ゲティさんから頼まれて新田さんの住所を調べた時に名簿で住所を見せてくれたのは偶然じゃない事になる。

 それに私が死んだすぐの時、学校の職員室に入って誰も反応してくれない時に、1人だけ私を見ていた先生がいたが、もしかしたら明日空先生なのかもしれない。

「隠すことでもないでしょう。それで君たちは何をしに来たんですかぁ?」

「学校の七不思議を調べに来ました」

「愛美、そんな正直にいっていいのー?」

「なんか、この人相手に嘘ついてもいいことなさそう。正直に言ったほうがいいと思う」

 確かに見た目も胡散臭いし、話し方も大分胡散臭い。なのに、こちらの事を観察するような目が怖い。情報を集めようとしているというか観察されているというか、よく分からないのがとても不気味に感じた。

「七不思議ですかぁ。もしかしてサークルの依頼だったりします?」

 明日空先生から思いもよらぬ言葉が出てきた。私と愛美は顔を見合わせる。知っているということは言っても良いのか、それともサークルに対して悪い感情を持っている人なのか分からない。愛美に対しての危機は分かるが、他の皆に対しての危機は分からない。

「そんな顔しないでください。ゲティさんからお電話をいただきましてねぇ。『うちのバイトが学校で調査するから手助けよろしく』と。だから私は大丈夫ですよぉ。警戒しないでください」

「そうなんですかー。それで先生は何者なんですか?」

 サークルに関わる者は魔術師かそれに携わる者。または裏世界の住民である。そのサークルを知っているということは先生も裏世界に関わっているということだろう。

「一応魔術師です。そちらの社長もそうだと思いますけど、魔術師なので素性はあまり明かせないんですよぉ。すみませんねぇ」

「はぁ。とりあえず分かりました。味方ってことでいいんですよね?」

「そうですねぇ。今回は味方ですよぉ」

 社長もそうだが、魔術師は自分の使う魔術師を教えてくれることはない。私たちは話に聞くだけで実際に魔術を目にする機会は殆どないのだ。ゲティさんの使う魔術も殆ど見たことがない。
 社長曰く、自分の魔術が相手にバレると利用されることがあり面倒らしい。

 私は一度魔術師同士で戦いとかあるか聞いたことがある。ファンタジーなどでは魔法使いなどが戦う描写がよくあるため、実際にそういう事が行われているか興味を持ったからだ。
 
 社長からの答えはNOだった。魔術師と魔術師が対立することはあっても戦うことは滅多にないらしい。そもそも魔術師が相手を傷つけた場合、相手が魔術師だろうが一般人だろうが傷害罪になる。魔術師も人間であるため、法に則った罰が下される。それを分かっている上で相手を傷付けるのはただの犯罪者らしい。

 そのことからも、魔術師は自分の魔術を公開しない。人間で言うと武器を持っていることを口外しないようなものらしい。
 日本刀を持っていて剣術も使える人がそれをひけらかした時、その人は危険人物と考えてしまう人もいるだろう。それと同じである。

「今回は、ですか。学校ですし味方でいてください」

「それは当たり前じゃないですかぁ。先生ですからねぇ。そっちの鏑木さんも一応生徒ですよぉ」

 急に私の名前が呼ばれて驚いてしまった。それよりも、殆ど会ったことがない保健室の先生が何故私の名前を知っているのだろうか。名前だけならば名簿を見ればわかるが顔などはわからないはずだ。

「空穂ちゃんのこと知ってるんですね」

「そりゃそうですよぉ。死んでまで学校に来るような生徒、忘れるわけないじゃないですかぁ」

 勉強をしに学校に来てるわけではない私は少し申し訳なく感じるのだった。
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