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ペンギンの回り道

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神と少女と魔術師と

不思議は7つで収まらずep2

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「最初の七不思議ってなんなのー?」

 暗い校舎を3人で歩きながら、私は愛美に聞く。明日空先生を先頭にして懐中電灯を持ってもらっている。
 愛美は持ってきたバッグの中からノートを取り出した。てけてけのことを調べた時に情報を書き留めていたノートだ。そのノートの中に七不思議の噂のことも書いてある。あの時は都市伝説の噂のほかにも七不思議の噂も流れていた。

 立ち止まり、ノートのページを捲ると前方の明日空先生がノートを懐中電灯で照らしてくれた。「ありがとうございます」と軽く礼をして、七不思議について書かれているページを開く。

「1つ目が音楽室の肖像画が動くって書いてあるね」

「音楽室って3階じゃん。遠いし後にしよー」

 今いるのは1階であり、1つ目のものから3階に上がるのは効率が悪い。1階にあるものからやっていくほうが楽だろう。

「駄目ですよぉ鏑木さん」

 私の発言を咎める声。ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべながら此方を見ている。知らない人が見れば不審者に見えてもおかしくない。

「駄目って何がですかー?」

「七不思議にも順番があるんですよぉ。そのとおりにいかないとちゃんと調べられませんよぉ。からくり箱みたいに特定の手順を踏むことで7つ目を見られるんですからぁ」

「詳しいですね、先生」

「これでも教員なのでぇ」

 何故か愛美と明日空先生は先程から険悪な雰囲気を纏っている。何故二人がいがみ合っているのか分からないが仲良くしてほしい。

「それなら3階から行きましょー」

「それなら私は鍵を取ってくるので待っててくださいねぇ」

 明日空先生のことは正直どうでもいいが、愛美がこのような態度を取るところを私は見たことがない。そんなに長い付き合いではないが、最近は常に一緒にいるため何となくの人となりは分かる。人間であるため、得意ではない相手は勿論いるが、こんなにも分かりやすく不機嫌さを見せることはない。

 明日空先生は職員室の方へ向かっていった。2人で進むわけにもいかないので廊下で待つことになった。

「愛美はさー」

「どうしたの?」

「なんか明日空先生に態度よくないけど嫌いなの?」

 考えても分からないなら直接聞くことにした。私たちは一緒にいることが多いため相手に気を使う隠し事はなるべくしないと約束している。

「嫌いっていうか、なんか不気味」

「不気味?」

「何を考えているか分からないっていうか、空穂ちゃんを狙ってるようにも見える。変な意味じゃなくて幽霊になってる空穂ちゃんに興味があるような……。幽霊になってること分かってるのにこれまで接触してこなかったのも変じゃない?」

 確かに言われてみると変な気がしてくる。私は毎日、愛知と一緒に登校している。私が死んだことは周知の事実なので学校では誰もが知っている。明日空先生は校内を2人で歩くこともあるため、何度か私の姿を見たことがあるだろう。それなのにも関わらず私に接触していないのは不思議だ。

「確かにー。今日も急に私たちの面倒を見るっていうのも変かも。ちょっと警戒するね」

 私の危機感値センサーは愛美に降りかかる危機には反応するが自分に降りかかる物には反応しないのかも知れない。詳細が分からないなら警戒するに越したことは無いだろう。

「戻りましたよぉ」

「それじゃ行きましょう」

 二人は険悪な雰囲気のまま。この場に留まっていても埒が明かないため、私たちは移動することにした。




 私たちは3階の音楽室の前に着く。

「確か音楽室の肖像画が動くのが噂だったっけー?」

「そうだね。とりあえず中入ってみよう」

 私たちの会話を聞いている明日空先生は無言で音楽室のドアの鍵を開けた。音楽室のドアを開けると、先生は私たちを先に行かせる。一度怪く思うとすべての行動が怪しく思える。私たちを先に行かせるのは何故か。自分が先に入らないのは何故か。それを考えることに意味があるのか無いのかも分からない。

 中に入ると当然真っ暗だが電気はつけない。移動している最中に3人で話したことなのだが夜の学校で関係ない部屋の電気を付けることは禁止されているため、教室などの電気をつけないでほしいという明日空先生からのお願いをされた。夜の学校で電気が付くと、不法侵入等の可能性があり、警備会社の人が来てしまうそうだ。

 いくら明日空先生が怪しくても、無関係の人を巻き込むようなことはしたくない。

「中で動いている物は無さそう。物音とかもしないし」

「噂は噂。何かの見間違いだったのかもねー」

「一応調べておきましょうよぉ」

 ガチャリと鍵の閉まる音がした。最後に入ってきた先生が鍵を掛けたのだ。音楽室の中に3人が閉じ込められた状態になっている。私も愛美もその音に気付き先生に詰め寄る。

「鍵、なんで閉めたんですか?」

「なにするつもりなんですかー?」

「いえいえ、何もするつもりはありませんよぉ。ただ、貴方たちは不思議な存在ですからねぇ。色々聞きたい事があるんですよぉ」

 近付いた私たちに動揺することもなく言葉を並べる明日空先生。何となく雰囲気が社長に似ている気がする。ふわっとした何かをぼかしたようなしゃべり方が重なってしまうのだ。

「それで鍵をかける必要があるんですか?」

「ありますよぉ。それよりも質問良いですかぁ?答えてくれたらこの部屋から出ましょう。あ、それと動く肖像画の件は業者が入った時に、別の位置にぶら下げたものが風で動いていたのを暗がりで生徒が見ただけらしいですよぉ。いつもと違う場所で揺れていた肖像画を見て動いたと勘違いしたらしいですぅ」

「は?」

 明日空先生は七不思議の答えを知っていたにも関わらず、私たちと一緒に音楽室にやってきた。そして私たちは閉じ込められた。唯一の入り口は先生が塞いでおり、逃げることが出来ない。先生の質問に答える選択肢以外は存在しなくなった。

「質問ってなんですかー?」

「七不思議について調べてほしいっていう依頼出したの、実は僕なんですよぉ」

「そうなんですか?どうやって?」

「さっきも言ったじゃないですかぁ。私は魔術師ですよぉ。普通にポストに投函して依頼しましたよぉ。あそこの社長にはお世話になっているんでねぇ」

 社長と顔見知りなのだろうか。明日空先生の表情を見ても胡散臭い笑みを浮かべているだけで関係性は読み取れない。
 それに七不思議の依頼は社長が保留にしていた。すぐに受ける意思は無かったということである。この学校での依頼ならば、この場所に明日空先生がいることは分かるはずなのにも関わらず。

「なんで依頼したんですか?」

「あっくんに会いたかったというのもありますが、少し私にも気になる事がありましてねぇ。七不思議を一緒に調べてくれる人が欲しかったんですよぉ」

 あっくんと呼ばれるような人はうちの会社には居なかったはずである。まだ会ったことのない社員さんも居るが調さん曰く「やべー女」らしいので君付けで呼ばれることは滅多にないだろう。

「あっくん?誰ですかー?」

「あぁ、すみません。あっくんは社長の渾名ですよぉ。もしかして社長の名前知らないんですかぁ?」

 そういえばアルバイトを始めて数ヶ月経つが社長の名前を知らない。隣にいる愛美も知らないさそうだ。ゲティさんも調さんも社長のことを名前で呼んているところを見たこと無いし、社長も自分から名乗ることはしない。
 敢えて隠しているようなところもあるため、深く追求することはなかった。

「それは良いです。それよりもなんで一緒に調べる人探してたんですか?」

 社長の話はどうでもいいのか、愛美は話を先に進める。私はもう少し社長の話をして本名を知りたかったのだが、その機会は失われてしまったみたいだ。

「それは追々わかりますよぉ。それよりも質問したいのはこっちです。良いですかぁ?」

 こちらばかり質問していたのだが、最初に質問をしたいと言い出したのは明日空先生だった。私たちにも答える権利や答えない権利が本来はあるはずだ。しかし、扉の前に立ち塞がれている時点で私たちに選択肢はない。明日空先生は挑発するような、値踏みするような、そんな声色で語りかけてくる。

「どうぞ」

「それでは質問なんですがぁ。来栖さんの目、大丈夫なんですかぁ?」

「私の目?どういうこと、ですか?それに何で今ここで」

 愛美の目は眼帯で覆われており外側からは見えない。その眼帯にも、社長が魔術を仕込んでいるため目に関しては分からないはずだ。普通の人なら大きな眼帯を付けていることに関して聞いているのだと分かるが、相手は魔術師を自称している。愛美の目に関して何かを狙っているかも知れない。

「いえ、魔力のこもった眼帯をしているので気になりましてねぇ。ここで聞いたのは偶々ですよぉ」

「大丈夫も何も、問題ないですよ」

「そうですかぁ。保健医として、気になったものですからねぇ」

 そう言って明日空先生は音楽室の鍵を開けた。私はこの後も問答が続くと思っていたため拍子抜けしてしまった。今の質問くらいならば歩いている最中でもよかったし、態々ここで聞くようなことではなかったからだ。

「そ、それだけですか?」

 愛美も驚いている。自分の事を追求されると思っていたのだろう。今日はいつも見られない愛美の表情の変化を見られて嬉しい限りであるが、今はそのような状況ではないため黙っておくことにする。

「それだけですよぉ。実際聞きたかったというか時間稼ぎってだけでしたしぃ」

「時間稼ぎー?」

「ここに来る途中上から足音がしましてぇ、多分警備の人が見回りしてたんでしょう。鍵の掛かっていない教室あったら不自然ですしぃ、この階を彷徨いていてもおかしいでしょう?だから鍵を掛けて此方に来ないことを確認するまで待っていたんですよぉ」
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