化け物バックパッカー

オロボ46

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★化け物バックパッカー、変異体の巣を歩く。【3】

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 商店街のフロアの上の階は、ほのかなライトが照らされていた。

 箱の形をした段ボール箱や、テントがそこら中に設置されているこの場所は、化け物の巣の住宅地なのだろうか。

 その間を、何者かが通過する。

 何かを、引きずりながら。

 何者かがテントのひとつを通過した時、
 そのテントからタビアゲハが顔を出した。

「……?」

 引きずる音に目が覚めたと思われるタビアゲハは、何者かに触覚を向け、後を付け始めた。





 タビアゲハがたどり着いたのは、かつてトイレがあったと思われる部屋。

 その部屋から、荒い息の音が聞こえてくる。

 タビアゲハは部屋に足を踏み入れ、何者かをみた。



 何者かの前にいたのは、女性。



 それも、心臓の位置から上にかけて裂けており、



 墨汁のように黒い液体をまき散らしている。



 何者かは、黒い液体の付いたオレンジ色の尻尾を動かしながら、タビアゲハを見た。



「……!!」

 部屋から立ち去ろうとしたタビアゲハの首を、変異体は尻尾で巻き付けた。

「逃ゲナクテモイイデスヨ……」

 尻尾の変異体の目は、今までの紳士さのかけらもない、欲望に染まっていた。

「彼女ノコトデ怖ガッテイルノデスカ? 彼女ハ仕方ナカッタノデス。コウスルコトデ、僕ハヨウヤク開放サレタノデスカラ」

 鋭利な尻尾の先で頬をなでられるタビアゲハは、ただ震えることしかできなかった。



 その時、懐中電灯の光が尻尾の変異体を照らした。

 懐中電灯を持っていたのは、ターバンを巻いた管理人の青年だった。

「……っ!! 何をして……」

 しかし、尻尾になぎ払われ、管理人は壁に打ち付けられる。

 あぜんとしたのは、タビアゲハと管理人だけでなく、尻尾の変異体自身もだった。

 タビアゲハの首を巻き付けている尻尾の途中から、木の枝のように、2本目の尻尾が生えている。

「僕ッテ……コンナニ強カッタンダ……」

 笑みを浮かべると、目線を再びタビアゲハに向ける。

「僕ハ今マデオ人好シダッタ……ダケド、モウ手加減ハシナイ……ソウダ、僕ガ代ワリニココヲ管理シヨウ。コンナニ強イ僕ノ方ガ、奇麗ニマトマル。イヤ、モット目標ハ高ク持ツベキダ……変異体ヲ集メテ王国ヲ作ルナンテドウダロウ? 元人間ダト認メテモラエルヨウナ、大キイ王国ヲ……君ハソレマデ裏切ラナイヨネ?」

 その側で、管理人が立ち上がろうとしていた。

 ターバンが落ちたその頭には、1本のツノが見える。

 その管理人に対して、2本目の尻尾はヤリのように管理人の胸に向かった。



 尻尾は、管理人のわきをかすめ、壁に刺さった。



 管理人、タビアゲハ、尻尾の変異体の目線は、



 拳を突き出している坂春に向けられていた。



「いっつ……やっぱり素手は無理があったか」

 余裕そうな言葉を放ちながら、坂春はポケットからメリケンザックを取り出し、右手にはめた。

 この老人は、素手で尻尾の方向を変えた。

 決して貧弱ではない、尻尾を。

 困惑していた尻尾の変異体は我に返ると、急いで壁に刺さった尻尾を引っ込めようとした。

 壁から触角が離れたころ、既に坂春は変異体の前に立っていた。



「あんたには、この巣をのは早いよ」



 銀色のメリケンザックが、頬を打ち抜いた。





 街中に、朝日が戻り始めたころ。

 廃虚の入り口から、3人の人影が現れた。

「……すみませんでした。また借りを作ってしまって」

 その内のひとり……管理人の青年は、坂春に謝罪した。

「いや、あれは借りとは言わんぞ。俺はただの旅する隠居。一般の人間がただ困っている変異体を助けただけだ」
「……」
 目線が下に向く管理人に、ローブを着たタビアゲハは心配するように声をかける。
「ダイジョウブ?」
「あ……ああ……」
「しっかりしろ、もう25なんだろう?」
「28ですが」
「だったら、もっと背筋を伸ばせ。だからといって、あの男みたいに背伸びしすぎないようにな」

 そう言い残して、坂春とタビアゲハは立ち去った。





 人間たちが行き交う街中で、

 タビアゲハは坂春にたずねた。

「坂春サン、昨日カラ気ニナッテイルコトガアルンダケド……」

「なんだ?」

「アノ廃虚……街中ニアッタラ、誰カガ買イ取ルンジャナイ?」

「さあな……あの兄ちゃんが管理しているんじゃないか?」

「ソレダト、ドウヤッテ手続キシタンダロウ……審査ガ難シクテ、変異体ニハ難シソウダケド……」



 坂春はとぼけるように、鼻で笑った。
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