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★化け物バックパッカー、変異体の巣を歩く。【2】
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暗闇の中に、階段を上がる足音が響く。
窓には青いビニールシートが設置されており、わずかな街の光が3つのシルエットを照らす。
ぎいっ……
とある階層にたどり着くと、扉が開く音が聞こえた。
扉が開いた先には、怪しいネオンが3人を向かい入れる。
商店街のエリアなのだろうか。フロアは狭いながらも活気のある声でにぎわっている。
もっとも、店員はみな人間とは思えない異形。客もかわらない。
ここは変異体の巣。
人間から追われる変異体が、隠れ潜む場所。
3人は商店街の中を進んでいく。
先頭に立って歩いて行くひとりはターバンの青年。
廃虚の入り口で現れた姿と同じだ。
その後に続くふたり。
ひとりは、影のように黒い体を持つ少女。
本来は眼球が入っているべき場所から生えている青い触覚は、時々瞬きとともに触覚を出し入れしながら、商店街を見渡すためにせわしなく動いている。
その好奇心から、先ほどまで黒いローブを着ていたタビアゲハと同一人物と断定していいだろう。
もうひとりは、その黒いローブを着込んだ……老人。坂春だろうか。
人間であることを他の変異体に悟られないためにローブを着る姿は、まるでタビアゲハと立場が入れ替わったようだ。
「……なんだかんだ言って、どうして中にいれてくれたんだ?」
坂春がたずねると、ターバンを巻いた青年は振り向かずに口を開いた。
「あんたには借りがあるから逆らえないだけです。門限ギリギリで帰ってきたアイツから話を聞いた時は耳を疑いましたよ。ですが、くれぐれも人間だということを悟られないでください」
青年は坂春に忠告すると、チラリとタビアゲハに目線を向ける。
「あと、そこの娘。ここの責任者である僕の指示に従え、ここで見たことは決して口出しするな、そして妙な動きを見せるんじゃないぞ」
「ミョウナウゴキッテ……ナアニ?」
「……!?」
タビアゲハからの思わぬ質問に、青年は思わず立ち止まってしまった。
「そいつはそういう子だ。気にしないでやれ」
坂春がフォローをかけるが、青年はまだ腑に落ちない表情で歩き始めた。
「あんたにこんな面倒くさい孫がいたとは思いませんでした」
嫌みとも捉えることのできる言葉に、坂春は鼻で笑った。
「孫と言われて悪い気分ではないが、残念ながらただの旅仲間だ」
「ネエ……ミョウナウゴキッテ……」
「要するに、この兄ちゃんに逆らうなってことだ」
“兄ちゃん”の言葉が聞こえた瞬間、青年は再び立ち止まった。
「どうかしたか?」
「坂春さん……前から言っているんですけどね……」
そう言って青年は振り返り、坂春の胸ぐらをつかんだ。
「その言い方はやめてくれないか!? 僕はもう今年で28だ!」
「まあまあ、なんともかわいらしい反応だな」
坂春はおびえることもなく、堂々とした態度でつぶやいた。
青年は周りの視線を感じ、頬を赤めながら坂春から手を離す。
その様子を理解できないのか、タビアゲハは触覚を出し入れしていた。
3人がとある屋台を通りかかった時、タビアゲハは立ち止まって1回だけ鼻を動かした。
「ナンダカイイ臭イガスル……食ベ物?」
先に進んでいたふたりが戻ってくると、タビアゲハは屋台に並んでいるものを指さした。
それは、ジャガイモを輪切りにしたような、スナック菓子だった。
「食事が必要な変異体のための食料を売っている屋台だな……さて、味は変わっているのか?」
「試してみますか?」
坂春がうなずくと、青年は財布から紙切れを取り出し、店番をしていた変異体に渡した。
その紙切れは、普通の紙幣とはデザインが違っていた。
パリッ……パリッ……と菓子をかじる坂春。
「……」
その口がへの字になるところを、タビアゲハは見逃さなかった。
「うむ……相変わらずだな」
「オイシクナイノ?」
「ああ、非常に味が薄い」
「相変わらずぜいたくを言うんですね。体の変異が進むと味も感じられなくなるから、これだけでもごちそうなのに」
またしばらく歩いていると、前からやって来た3mほどの背丈を持つ変異体が青年に話しかけてきた。
「アア、管理人ノ旦那」
「どうした?」
「礼ノ“皮”ノ件デスガ……」
管理人と呼ばれた青年は坂春に「少しだけ待っててください」と一言だけ残すと、狭い道に消えていった。
やがて戻ってきたのは、管理人の青年ひとりだった。
「皮とはなんだ?」
戻ってきた管理人に、坂春は先ほど聞いた言葉について質問した。
「人間の目から姿を隠す時に使う布の新作ですよ。ちょうど、あんたが着ている黒いフードみたいなものです」
「新作ッテ、ドンナノ?」
「別の地域にある街のガソリンスタンド。そこで人間の皮をもらった変異体がここに訪れたことをヒントに制作している。一言で言えば、人間の皮そのものだ」
管理人の言葉に、タビアゲハは思い出したように口に手を当てて、そのまま黙り込んでしまった。
「どうした?」
「……ウウン、ナンデモナイ。デモ、本当ニ人間ノ皮ヲ使ウノ?」
「そんなことをしては痕跡を残してしまうことになる。あくまでも人間の皮そっくりに作るだけだ。最も、それを再現するのに手間取っているわけだがな」
3人がさらに歩き続けていた時だった。
「ドウシテ!? ドウシテ君ハ他ノ男ト付キ合ッテイタンダ!?」
路地裏のような狭い通路を横切った時、突然大声が聞こえてきた。
タビアゲハが通路をのぞくと、
そこにいたのは、坂春とタビアゲハが助けた尻尾の変異体だった。
大声をぶつけている相手は、入り口からは見えなかった。
「あまり関わらないほうがいい」
管理人に忠告されたタビアゲハは、通路の入り口を気にしながら立ち去った。
3人が通り過ぎた後も、声はまだ響いている。
「イイジャナイ。タッタヒトリノ男トツキアイ続ケナイトイケナイッテ、ソノ人個人ノ考エ方ジャン」
「ダケド、僕ハ君ガ望ムモノヲスベテアゲタ!! アノヒマワリノ種ダッテ、僕ノ家カラ命ヲカケテ持ッテキタノニ……君ハ別ノ男ニ貢イダ!!」
「貢イタンジャナイワ、オ裾分ケシタダケヨ」
「ソレジャア、僕ガアゲタ物モ、全部他ノ男ニ渡シテイタノカ!?」
「エエ、アナタニモアゲタジャナイ」
「……!!」
「モシカシテ、失望シタ? ソレデモアタシニ付イテクル人ハイルンダケド……別ニ別レテモイイノヨ?」
その後、走り去る足音を最後に、通路は静かになった。
窓には青いビニールシートが設置されており、わずかな街の光が3つのシルエットを照らす。
ぎいっ……
とある階層にたどり着くと、扉が開く音が聞こえた。
扉が開いた先には、怪しいネオンが3人を向かい入れる。
商店街のエリアなのだろうか。フロアは狭いながらも活気のある声でにぎわっている。
もっとも、店員はみな人間とは思えない異形。客もかわらない。
ここは変異体の巣。
人間から追われる変異体が、隠れ潜む場所。
3人は商店街の中を進んでいく。
先頭に立って歩いて行くひとりはターバンの青年。
廃虚の入り口で現れた姿と同じだ。
その後に続くふたり。
ひとりは、影のように黒い体を持つ少女。
本来は眼球が入っているべき場所から生えている青い触覚は、時々瞬きとともに触覚を出し入れしながら、商店街を見渡すためにせわしなく動いている。
その好奇心から、先ほどまで黒いローブを着ていたタビアゲハと同一人物と断定していいだろう。
もうひとりは、その黒いローブを着込んだ……老人。坂春だろうか。
人間であることを他の変異体に悟られないためにローブを着る姿は、まるでタビアゲハと立場が入れ替わったようだ。
「……なんだかんだ言って、どうして中にいれてくれたんだ?」
坂春がたずねると、ターバンを巻いた青年は振り向かずに口を開いた。
「あんたには借りがあるから逆らえないだけです。門限ギリギリで帰ってきたアイツから話を聞いた時は耳を疑いましたよ。ですが、くれぐれも人間だということを悟られないでください」
青年は坂春に忠告すると、チラリとタビアゲハに目線を向ける。
「あと、そこの娘。ここの責任者である僕の指示に従え、ここで見たことは決して口出しするな、そして妙な動きを見せるんじゃないぞ」
「ミョウナウゴキッテ……ナアニ?」
「……!?」
タビアゲハからの思わぬ質問に、青年は思わず立ち止まってしまった。
「そいつはそういう子だ。気にしないでやれ」
坂春がフォローをかけるが、青年はまだ腑に落ちない表情で歩き始めた。
「あんたにこんな面倒くさい孫がいたとは思いませんでした」
嫌みとも捉えることのできる言葉に、坂春は鼻で笑った。
「孫と言われて悪い気分ではないが、残念ながらただの旅仲間だ」
「ネエ……ミョウナウゴキッテ……」
「要するに、この兄ちゃんに逆らうなってことだ」
“兄ちゃん”の言葉が聞こえた瞬間、青年は再び立ち止まった。
「どうかしたか?」
「坂春さん……前から言っているんですけどね……」
そう言って青年は振り返り、坂春の胸ぐらをつかんだ。
「その言い方はやめてくれないか!? 僕はもう今年で28だ!」
「まあまあ、なんともかわいらしい反応だな」
坂春はおびえることもなく、堂々とした態度でつぶやいた。
青年は周りの視線を感じ、頬を赤めながら坂春から手を離す。
その様子を理解できないのか、タビアゲハは触覚を出し入れしていた。
3人がとある屋台を通りかかった時、タビアゲハは立ち止まって1回だけ鼻を動かした。
「ナンダカイイ臭イガスル……食ベ物?」
先に進んでいたふたりが戻ってくると、タビアゲハは屋台に並んでいるものを指さした。
それは、ジャガイモを輪切りにしたような、スナック菓子だった。
「食事が必要な変異体のための食料を売っている屋台だな……さて、味は変わっているのか?」
「試してみますか?」
坂春がうなずくと、青年は財布から紙切れを取り出し、店番をしていた変異体に渡した。
その紙切れは、普通の紙幣とはデザインが違っていた。
パリッ……パリッ……と菓子をかじる坂春。
「……」
その口がへの字になるところを、タビアゲハは見逃さなかった。
「うむ……相変わらずだな」
「オイシクナイノ?」
「ああ、非常に味が薄い」
「相変わらずぜいたくを言うんですね。体の変異が進むと味も感じられなくなるから、これだけでもごちそうなのに」
またしばらく歩いていると、前からやって来た3mほどの背丈を持つ変異体が青年に話しかけてきた。
「アア、管理人ノ旦那」
「どうした?」
「礼ノ“皮”ノ件デスガ……」
管理人と呼ばれた青年は坂春に「少しだけ待っててください」と一言だけ残すと、狭い道に消えていった。
やがて戻ってきたのは、管理人の青年ひとりだった。
「皮とはなんだ?」
戻ってきた管理人に、坂春は先ほど聞いた言葉について質問した。
「人間の目から姿を隠す時に使う布の新作ですよ。ちょうど、あんたが着ている黒いフードみたいなものです」
「新作ッテ、ドンナノ?」
「別の地域にある街のガソリンスタンド。そこで人間の皮をもらった変異体がここに訪れたことをヒントに制作している。一言で言えば、人間の皮そのものだ」
管理人の言葉に、タビアゲハは思い出したように口に手を当てて、そのまま黙り込んでしまった。
「どうした?」
「……ウウン、ナンデモナイ。デモ、本当ニ人間ノ皮ヲ使ウノ?」
「そんなことをしては痕跡を残してしまうことになる。あくまでも人間の皮そっくりに作るだけだ。最も、それを再現するのに手間取っているわけだがな」
3人がさらに歩き続けていた時だった。
「ドウシテ!? ドウシテ君ハ他ノ男ト付キ合ッテイタンダ!?」
路地裏のような狭い通路を横切った時、突然大声が聞こえてきた。
タビアゲハが通路をのぞくと、
そこにいたのは、坂春とタビアゲハが助けた尻尾の変異体だった。
大声をぶつけている相手は、入り口からは見えなかった。
「あまり関わらないほうがいい」
管理人に忠告されたタビアゲハは、通路の入り口を気にしながら立ち去った。
3人が通り過ぎた後も、声はまだ響いている。
「イイジャナイ。タッタヒトリノ男トツキアイ続ケナイトイケナイッテ、ソノ人個人ノ考エ方ジャン」
「ダケド、僕ハ君ガ望ムモノヲスベテアゲタ!! アノヒマワリノ種ダッテ、僕ノ家カラ命ヲカケテ持ッテキタノニ……君ハ別ノ男ニ貢イダ!!」
「貢イタンジャナイワ、オ裾分ケシタダケヨ」
「ソレジャア、僕ガアゲタ物モ、全部他ノ男ニ渡シテイタノカ!?」
「エエ、アナタニモアゲタジャナイ」
「……!!」
「モシカシテ、失望シタ? ソレデモアタシニ付イテクル人ハイルンダケド……別ニ別レテモイイノヨ?」
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