化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
65 / 162

★商人の我輩、化け物運び屋と再会する。【2】

しおりを挟む





 Chapter4 送り迎えの後のホテル前にて





 キャンピングカーの中で、運び屋はあの少年のことについて教えてくれた。

 ここ最近、たまたま配達の荷物を依頼人の変異体に渡すところを、その少年に見られてしまったらしい。
 変異体を見た少年はその場で気節をしてしまったので、運び屋は依頼主の変異体にその場から引っ越すようにと伝え、去って行った。

 その時はたまたま見られたため、ただの運のない少年だという感想だった。

 しかし、その日以来、少年はバイクに乗って運び屋の後を追いかけ回すようになったという。

 今日という日まで、運び屋も変異体だったということも知らずに。



「まあ、これにこりてアイツが俺の前に現れることはないだろうな」

 満月と街灯の下、

 ホテルの前まで送ってくれた運び屋が、キャンピングカーの運転席でハナで笑った。
「……話は変わるが、貴様はこれからどうするんだ?」
 キャンピングカーから下りた我輩が話題を変えると、運び屋は目線を暗闇に浮かぶ月に向けた。
「そうだな……実は依頼人のところに行く途中だったんだけどな……」
「……なんか、すまなかったな」
「いやいや、誘ったのは俺のほうだよ。少し頭を冷やしたかったんだ……よし、アイツのせいでまたカッとなってしまったし、夜の海を見て癒やされてくるか」
 彼の言葉に、我輩はある心配が頭によぎった。
「間に合うのか?」
「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ。明日からノンストップで走れば余裕で間に合う。今のうちに休んで気持ちをリセットしないとな」

 キャンピングカーが走り去った後も、頭をよぎった心配が消えることはなかった。



 “この前、初めて依頼を失敗してしまった”



 夕方にこの言葉を話していた時、運び屋の表情はどこかやつれていた。まるで、その失敗を引きずっているかのように。
 ややギリギリまで休息しようとするのも、少年に自分の変異した姿を見せるのも、その負担が大きく影響しているように見えた。



 ここで我輩は、何かに忘れていることに気がついた。

 我輩は、夕飯と乾電池を買うためにコンビニに向かっていたはずであった。
 夕飯は喫茶店のイブニングセットで済ませたが、乾電池のことは頭からぽっかりとなくなっていたのである。





 Chapter5 バイクの少年、再び





 先ほど食べたというのに、

 雰囲気というものは、人の空腹にまで影響を与えるというのだろうか。

 おにぎりを前に、我輩は生唾を飲み込んでいた。



 何も考えずに買って食べてしまえばいいと思うかもしれない。
 だが、我輩は緊急の時以外は夜食を食べないと決めていたのだ。各地へ転々と渡る放浪者ではあるが、健康に気を使っているのである。

「ん? その後ろ姿……どっかで合わなかったか?」

 聞き覚えのある声に我輩が振り返ると、そこには先ほどの少年が立っていた。

「やっぱりそうだ。センパイの横にいたオッサンだ」
 少年の呼び方に来年で30になる我輩は眉をひそめずにはいられなかったが、少年の表情はどこか憎めない笑顔だった。先ほど、腰を抜かすほどの恐怖に襲われていたはずなのに。
「なあオッサン、どうしてこんなとこにいんの?」
「……乾電池を補給しに来たのである」
 我輩が答えると、少年は「おー、“である”! なんかシャレオツッ!」と我輩の口調に口出しした。

「なあ、オッサンってセンパイのこと、知ってるんだろ? 教えてくれよお」

 ……憎めないヤツなのか、はっきりいってウザいやつなのか、よくわからない心境だったが、とにかくおにぎりを食べる口実はできたのであった。






 Chapter6 コンビニのイートインスペース





 コンビニの窓際のイートインスペースで、我輩はおにぎり(ツナマヨ入り)を、少年はカップ麺(みそ味)をそれぞれ口にしていた。

「それでよお、オッサン……ズルズル……あんた、どんな仕事してんの?」
 少年は割り箸で麺をすすりながら会話を初めてきた。
「……ちょっとした商売である」
「商売? 自分の店とかもってんの?」
「いや、各地を転々として商売をしている。どちらかといえば行商人に近いな」
「へえ……あ、もしかしてさ!」

 割り箸を止め、少年は我輩の耳元でささやいた。
「もしかして……変異体相手……とかか……?」

 我輩がうなずくと、少年は「やっぱりそうだ!」と大声を上げた。
 周りの客が一斉に振り向くが、少年はかまわず話を続けていた。
「なあ、なあ、どんなかんじ? どんなかんじなんだあ?」
「……我輩にとって不都合なことは小声で言ってくれたのはいいが、せめて周りの目線がなくなってから答えさせてくれ」



 しばらく間を置いてから、少年は話の続きに入った。
 もうとっくにおにぎりは食べ尽くしてしまったが、我輩は彼の話にもう少し付き合っていた。

「……うーん、やっぱり俺様にピッタリな仕事じゃあねえなあ」
 我輩の仕事について語り終えると、少年はミスマッチを感じるように首をひねっていた。
「なんかこう……考えることが少ないっていうか……シンプルなやつがいいんだよな、うん」
「運び屋の仕事だって、個人事業だったら考えることが多いぞ」
「わかってるって。ただ、商品の価値とかなんとか見極めるとかじゃなくて、シンプルに受け取る、届ける、みたいなかんじがいいんだよ」

 少年は一息ついて、カップ麺の汁を飲み干した。大変おいしそうに。

「ふう、やっぱりカップ麺の最後の残り汁を一気飲みするのはたまんねえぜ」
「……我輩は残す派である」



 少年はゴミ箱にカップ麺を捨てに立ち上がった後、一緒に買ったと思われるコーラ入りのペットボトルを手にイートインスペースの席に戻ってきた。

 我輩は聞きたいことがあったので、まだこの席にいることにした。

「なあ、そろそろ我輩が質問をしていいか?」
 ペットボトルに手をかけようとした少年は予測していなかったのか、キョトンとした表情をしたのち、「まあ、いいぜ」とうなずいた。
「見た目で判断しているようだが、貴様のその学ラン……学生か?」
「いや、学校はとっくに辞めた。退学処分をうけたんだ。まあ、服のほうは俺様が活用させてもらっているんだがな」
 彼の学ランの襟元をよく見ると、確かに校章がない。つなぎ止めているボタンも、全部無地のものだ。
「この辺りに住んでいるのか?」
「それがよお……センパイを追いかけてもう1カ月ぐらい立つかな……ここがどこなのかもよくわかってないんだよなあ」
 少年は一瞬だけ窓の外の景色を見て、すぐに首をふった。
「まあ、どうせオヤジから破門されてるから、もう意味ねえんだけどな」
「……」

 我輩は一度言葉を飲み込み、その言葉をもう一度口の中まで持ってきた。

「貴様は、どうして変異体にこだわるんだ?」

 少年は、静かに笑みを浮かべた。

「……俺は、変異体と友達になりてえんだ」






 少年は、小さいころから変異体の処遇に疑問を感じていた。



 人に恐れられ、捕まると施設に隔離、もしくは駆除……

 そんな変異体の元の姿は、人間である。

 その事実は、一般人でもニュースや社会の授業を通して知っていた。

 年の幼い子供は、変異体に対して疑問視する子供がいてもおかしくはなかった。

 それでも、周りの大人たちや同年代の意見を取り入れているうちに、子供は変異体の扱いは今のままでよいのだと判断するようになる。

 汚れた服を着て遊び回る子供が、後にそれがみっともないと意識するように。

 それを大きくなってからも疑問視する者はほんのわずかである。



 そのひとりであった少年は活発な性格であったにも関わらず、常に変異体の疑問を口に出していた。
 その結果、彼は友人と呼べるものがいなかった。それでも少年は考え方を変えなかった。

 ある日、高校での後輩にあたる学生が、変異体に父親を殺されたというウワサを聞いた。
 少年はその後輩を無理矢理連れて行き、その場所へと案内させた。

 そこで彼は、生まれて初めて変異体を見た。

 その時の体験を、少年は興奮気味に語っていた。
 見た瞬間から全身の血が凍りつき、手足はけいれんをおこしたかのように震え、声は母音しか出なかった。そして、後頭部をたたかれたかのように、気を失ったという。



 この経験を、少年はあの日最高の出来事だったと言っていた。

 そして、あの日最悪の出来事は、後輩の父親を殺したのが変異体ではなく後輩自身だったという。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...