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★商人の我輩、化け物運び屋と再会する。【3】
しおりを挟むChapter7 海の目の前で、沈みきった先で
「まあ、あのあとセンパイを見かけて、そのあとオヤジと大げんかして今にいたるってわけよ」
コンビニを立ち去り、海岸沿いの道路を歩きながら少年は満月を見上げていた。
「……それで、貴様はこれからどうするんだ?」
ホテルへと換える我輩の後についてくる少年に尋ねてみた。
「ん? 俺様は化け物運び屋をまだ諦めてはいねえぜ。確かにセンパイは俺を認めてくれないなら、他の方法を考えるしかねえけどよお……まだ思いつかないから、それまではセンパイの後ろ姿を追いかけるぜ」
ちょうどその時、我輩は海岸に運び屋が立っているのを見つけた。
「……ん? あの人影……センパイか?」
少年も、その人影に目を向けた。
我輩は運び屋が最近疲れていることを思い出した。
「少しリラックスしているのだ、そっとしたほうが……」
「なあオッサン、センパイに俺のことを紹介してくれよ!」
「……は?」
少年は我輩の腕をつかみ、満面の笑みを浮かべた。
「あんたが紹介してくれたら、きっとセンパイも認めてくれるって!!」
「ちょ、ちょっとまて、彼はわっわっわっわっ」
我輩の抵抗空しく、少年に引っ張られて海岸まで連れてこられた。
海岸で運び屋は星空を見ていた。
我輩と少年が近づいたころ、
運び屋は気持ちをリセットしたようにうなずき、海を見た。
「おーい、センパ……」
少年の声は、途中まで言って止まった。
運び屋は、海を見たまま口を開けていた。
海から、何かが現れたのだ。
それは、は虫類のような皮膚を持った大男。
右腕が異常に太く、先は刀のように鋭く光っていた。
その姿を見た少年は、震えて動けなかった。
変異体の姿を見たからだ。我輩も同じだった。
「オ前ガ……早ク……薬ヲ届ケテイレバ……」
刃物の手の変異体は、運び屋に向かって腕を上げ……
「私ノ妻ハ……死ヌコトハナカッタッ!!」
運び屋の上半身が、宙を舞った。
黒みを帯びた赤い血液をあふれさせながら。
今度は、刃物の変異体自身の首が吹き飛んだ。
自ら切ったように、墨汁のような血液をあふれさせながら。
「……ゼンバイッ!!」
少年は上半身となって砂浜の上に落ちた運び屋の元に走った。
「……ぁ…………ぁ…………ぁ………………………」
運び屋は胸ポケットから何かを取り出し、それを砂浜に落とした。
砂浜に落ちたスマホに手を伸ばし、数字を入力してロックを解除した運び屋は、
そのまま、動かなくなった。
Chapter8 責任
お兄ちゃん、元気ですか?
私の友達、分かる?
私と同じ変異体で、昔ながらの文通を楽しんでいたの。よくお兄ちゃんに頼んで、手紙を運んでもらっていたよね。
そんな友達が今度別の街に引っ越しするって聞きました。他の人間に見つかっちゃいけないから、もうこれでサヨナラになるの。
お兄ちゃん、疲れていると思っているけど、私の友達が引っ越す前に渡したいものがあったから、また依頼しちゃった。
でも、どうしても渡したいものなの。私のことをいつまでも忘れないような、大切なもの。
私のところに来たら、荷物を私の友達のところに届けてください。
それから、もし時間があるなら……パーティしようよ。お兄ちゃんの誕生日には間に合わないけど。
時間がなかっても、せめてプレゼントを渡させてよ。
それで、お兄ちゃんの笑顔、みせて。
運び屋のスマホのメールには、このような内容が入っていた。
本来は他人のスマホをのぞき見てはいけないのだが、彼が死に際にスマホのロックを解除したということは、この内容を我輩に伝え、依頼を誰かに引き継ぎしてもらいたかったのだろう。
“その次はなんとか成功させている。なんていったって、今日で30になるもんな“
“そうか、今日が誕生日だったか”
“ああ、だから時間が余るように次の依頼は早く受けないとな”
運び屋が死んでから数日後、我輩はホテルの前でビジネスバッグを持って待っている中で、運び屋との会話を思い出していた。
「うっし! おまたせ!」
少年は、バイクを駐車場に止めると、我輩の元に走ってきた。
「……予定の時刻より3分早いな」
「ああ、俺様の初めての仕事だからな」
いつも通り少年は笑顔を見せていたが、我輩の目を見るとすぐに消した。
「すまん、笑っている場合じゃあねえよな……」
「いや、だいじょうぶである。それよりも、これを受け取ってくれ」
我輩はビジネスバッグから、ゴーグルとスマホ、ポケットサイズのクリップボードと用紙を取り出し、少年に渡した。
「ん? クリップボードは領収書みたいなもんだと思うが……なんでスマホとゴーグル?」
「それはただのスマホとゴーグルではない。そのスマホは特別な機種だ。専用のアプリを入れており、そのスマホを持つものしか連絡を取り合うことはできない。そして、ゴーグルは変異体による恐怖を和らげるものだ」
ゴーグルの説明を聞いて、少年は首をかしげた。
「それなら、このゴーグルを普及させれば、変異体と共存できるんじゃねえか?」
「いや、それはあくまで恐怖を和らげるものだ。ゴーグルを付けてもあまりにも見続けると影響を受けるし、それをつけても効果のない人間もわりとおるからな」
少年は理解したようにうなずくと、それらを自分のレッグバッグに収納した。
「それじゃあ、頼んだぞ」
「ああ、わかってる。依頼者から荷物を受け取って、それを友人に渡す。それから、荷物を受け取るときに……話せばいいんだろ? あのことを」
化け物運び屋は世界各地に散らばっている。専用のアプリを使って近くにいる化け物運び屋を探したが、近くにはいなかった。都合良くいくわけではないのである。
我輩が行ってもよかった。
しかし、自信がないのだ。間に合うかではない。彼の死を包み隠さず話せることを、それを聞いた妹の表情に耐えられるのかも。
今でもこれでよかったのかと考えることがある。
少年は、この依頼が初めてである。これ以前に別の配達業をしていたかは不明ではあるが、変異体相手の仕事は初めてのはずだ。確実に依頼を達成するとは限らない。
だが、我輩は彼に託した。いや、押しつけたと言うべきか?
いずれにせよ、我輩は友人の死を伝えることができずに、代わりに少年に肩代わりをしてもらったのだ。
「……センパイも、こんな気持ちだったのかなあ」
バイクにまたがり、ヘルメットを手に持ちながら少年はつぶやいた。
「なんかよくわかんねえけどよお……昨日の変異体、嫁への薬を届けるように頼んだんだろ? それが失敗したら、逆恨みされても文句は言えないってわかっていたんだよな……センパイは」
「……」
我輩は、何も言えなかった。
「……くよくよなんてしていられねえ。それじゃあ、依頼が終わったら連絡するぜ」
少年はバイクを走らせた。
それからしばらくして、彼から依頼は無事に完了できたというメールが届いた。
EPILOG
ふと気がつけば、我輩は喫茶店【化物】のカウンター席に座っていた。
いや、元からここにいたのだ。今まで我輩は、昔の話をここの店主に聞かせていたのだ。
「それで……その少年は……今はどうしている……?」
尻尾を生やした変異体の店主がたずねてきた。
「あの後、届けた相手から別の依頼を受けたみたいでな、そのまま各地を巡る化け物運び屋となったと聞いた」
我輩は唇を緩めると、チマチマと飲んでいたカフェオレの残りを飲み干した。
「なるほど……自分の夢が……ちょっとしたきっかけで……かなえることが……できたのか……」
店主は、まるで誰かを思い出すように天井を見上げていたが、窓の外をみると尻尾をカウンターの影に隠した。
入り口の窓に、バイクと人影が映ったからである。
我輩も振り返って見ていると、人影はヘルメットを外した。そして、後ろの席に設置してあるボックス……巨大なリアボックスから箱のようなものを取り出すと、入り口の扉に手をかけた。
カランカラーン
入店を告げるベルとともに、見覚えのある立ち姿が現れた。
「ん? あれ、もしかして……信士のオッサン!?」
我輩は席を立ち上がり、学ランを着た金髪の少年の前まで歩くと、
少年の肩を思いっきりたたいた。
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