化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
71 / 162

★化け物運び屋、仲間を見つける。【1】

しおりを挟む



 その少年は、バイクに乗ってガソリンスタンドに来ていた。





「うっし、俺の相棒にメシ食わしてやるか」

 フルフェイス型のヘルメットを付けたままバイクから下りるこの少年、一見すると不良学生に見えた。
 オオカミの頭蓋骨が描かれた白色のTシャツの上に、学ランを着ている。しかし、その学ランにはボタンが付いておらず、校門らしきものはどこにもなかった。
 ズボンは動きやすいバイク用パンツ。その太ももには、レッグバッグが付けられている。

 ガソリンスタンド内のバイク専用充電スタンドについている充電ケーブルを、バイクの充電口に差し込む。
 その雪のように白いバイクはいわゆるアドベンチャーバイクと呼ばれるものだ。ハンドルの間にはスマホを設置するスマホホルダーがあり、座席の後ろには、リアバッグが設置されている。

 その反対側の充電スタンドでは、一組のカップルが互いに肩を寄せ合ってスマホを見ていた。そばで充電している1台のバイクがあることから、タンデムツーリングの途中なのだろうか。
「え! あの神社に“変異体”が現れたの!? この前私たちがいったところじゃない!」
「ああ、変異体は確か、“突然変異症”で体が化け物みたいに変異した元人間だっけ。確か、変異体を見ると恐怖に襲われるんだよな」
「やだあ! 怖い!!」
 ふたりは互いに揺れ合い、彼らだけの世界に入っていた。

 少年はふたりに目を向けることもなく、レッグバッグからスマホを取り出した。スマホホルダーに置きっ放しのスマホとは違う、この辺りではみない機種だ。

 カップルが1台のバイクでガソリンスタンドから立ち去った後、少年はスマホの画面を眺めて白い歯を見せながら、肩を上げ下げしていた。
「依頼内容は……“変異体”を運ぶんだったな。こういうのは初めてで緊張するけど、何事もチャレンジだぜ」
 スマホをレッグバッグに戻すと、少年は充電の済んだバイクから充電ケーブルを外す。

 そしてバイクにまたがり、目的の場所へ走らせた。





Chapter1 化け物運び屋





 少年は広場の前でバイクを止めた。
 ヘルメットを外すと、金髪のミディアムヘアーが現れる。
 そのヘルメットをバイクのヘルメットホルダーに取り付け、後ろのリアバッグから紙とペンを挟んだクリックボードを取り出し、広場のすぐ近くに見える建物を見つめた。

 それは、図書館だった。

 その入り口の前に、2人の人影が立っている。 
 ひとりはバックパックを背負った老人。失礼だが顔が怖い。もうひとりは黒いローブを見に包んだ人物。顔もフードで深く被っているため、どんな人物なのかは知るよしもない。


 少年はクリップボードを片手にふたりの元に走り、彼らの目の前で特徴を確認した。
「えっと……顔面の怖いじいさんに、黒いローブを着たヤツ……ふたりともバックパックを背負っている……間違いねえな」
「おまえが運び屋か?」
「ああ、“化け物宅配サービス”の運び屋だ」
 自信満々に少年は親指を自分の胸に指すが、老人の顔を見てキョトンとした顔になった。
「……なんかどっかで見たことがあるような……」
 一種のデジャブを感じるような眉のひそめ方。老人は特に反応はしなかったが、隣のローブの人物は少年の表情に首をかしげていた。
 少年は、すぐに首をふった。
「まあいいや。確か配達物……じゃなかった、俺のバイクに乗せる客は“変異体”だったよな?」
「ああ、体を新聞紙で隠しているから、問題は起きにくいだろう」

 老人は背中のバックパックから、1冊の本を取り出した。

 その本は、表紙を新聞紙で覆われていた。

 少年がクリップボードを老人に渡し、その本を手に取ると、

 本の表紙を手で触れた。

 まるで、その本が人の温もりを放っているかのように。

「よし、これを近くの“変異体の巣”に届ければいいんだな?」
 クリップボードに挟まった紙にペンで記入している老人に、少年は依頼内容を確認する。
「ああ、本来は図書館の中で隠れていたが、この子が見つけてしまってな。この調子では一般人に見つけられるかもしれんから、ひとまず安全な変異体たちの集落……変異体の巣に届けてくれ」
「まかせろ、俺がすぐに届けてやるぜ」

 本にも語りかけるように誓った少年は、坂春からクリップボードを返してもらうと、バイクを置いてある方向に走って行った。





 リアバッグの中に、少年は本を入れた。
「少しだけ窮屈だけどよお、我慢してくれよ。すぐに届けてやるからな」



 まるでその本が生きているように少年は語りかけると、本は貧乏譲りするようにかすかに動いた。





 Chapter2 本の中の大きな図書館





 その夜は、暗闇に雨の音が包み込んでいた。



 少年は、橋の下でぬれた学ランを脱いでいた。
「まったく、いきなり雨が降るなんて聞いてねえよ……まあ、野宿場所を探していたからところだからいいか。レインコートって暑苦しいからなあ」
 ぬれた学ランを丸めずに、角に穴を空けたビニール袋で覆い被せる。
「この辺りにコインランドリーは見あたらなかったんだよなあ……明日は晴れるよな?」
 袋の口から携帯式のドライヤーの熱風を送り、そのまま10分かけて学ランを乾かした。

 乾かした学ランを手に、少年はリアバッグを開けた。
「よお、気分は悪くねえか?」
 リアバッグの中の本は、少年の声に応えるように揺れた。
「もう暗いから、ここで野宿するんだ。明日にはきっと到着するから、今のうちにぐっすり寝てくれよ」
 少年はリアバッグを閉じようとした。

 しかし、その手を止めた。



 本を包んでいる新聞紙を突き破って、足のようなものが8本生えてきた。

 その様子は、まるでクモ。

 本のクモの足を見た少年の手には、鳥肌が立っていた。

 老人が言っていた通り、この本こそが変異体である。



「……ちょっとストップストップ!!」

 少年は慌てた声でリアバッグから目を逸らすと、震える手でズボンに付いているレッグバッグに手を伸ばす。
 ガチャガチャと物と物のぶつかり合う音が続いた後、少年はあるものを取り出した。

 それは、ゴーグル。
 一見、普通のオートバイ用の物の形をしたゴーグルだ。

 少年はゴーグルを装着すると、ゆっくりとリアバッグの中身に目を向ける。

 リアバッグの壁を、本のクモが上ろうとしていた。

「俺、変異体に対して耐性がねえんだ。さっきはびびって本当にすまねえ」
 少年は本の変異体に対して手を合わせて誤った。ゴーグルを付けてからは、先ほどのような慌てようはなかった。
 本の変異体はリアバッグの縁に4本の足を乗り出すと、気にしなくてもいいよと言っているかのようにうなずいた。
「……? もしかして、外に出たいのか?」
 再びうなずく本の変異体に対して、少年は小さい子の面倒を見る兄の顔で笑みを浮かべ、その本を手に取った。

 その直後、本は自ら開いた。

 中身は、すべて白紙。



 少年が目を丸くして、その白紙を眺めているうちに、




 周りの景色が、



 橋の下から、





 図書館の中へと、


 変わった。



「……ん? あれ、俺って図書館にいたっけ?」
 周りに立ち並ぶ本棚を眺めて、椅子に座っていた少年はゴーグルごしに瞬きを繰り返す。その前にある机の上には、先ほどの本が置かれている。
 その図書館は広く、そして清潔なほど白い。しかし、本棚にはほんのわずかほどの数しか本はなかった。
 少年は立ち上がると、近くにあったガラスを見る。
「それにしても、変な図書館だな……本は少ないし、それにこのガラス、外の景色を写していねえじゃねえか」
 そのガラスは、少年の姿を映していた。まるで鏡のように。

 少年が鏡に手を触れた時、少年の姿がゆがみ、黒く染まる。

 そこに、小さな男の子の姿が現れた。

 鏡の中の男の子は、少年の姿を見て何か言いたそうだった。

「……あんた、誰だ?」
「……」
 少年がたずねると、男の子は何度も口を開けながら、もじもじと体を揺らしている。
 声を出したのは、少年が目線を合わせるためにしゃがんだ後だった。
「あ……あの……僕……本なの」
「……本?」
 少年は理解できないように首をかしげる。
「うん。本の変異体」
「……なんだか、全然わかんねえけど」
 眉をひそめて頭を抱える少年を見て、男の子は後ろの机に置いてある本を指さした。

 少年はその本を手にとり、約10分ほど頭をひねり続けて、ようやく「ああ!」と顔を上げる。
「要するに、おまえはあのクモみたいな足を生やす本の変異体で、ここはおまえの体の中ってことか!?」

 人間だったころの姿を映した男の子は、ゆっくりとうなずいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...