75 / 162
★化け物バックパッカー、かまくらに食べられる。【後編】
しおりを挟む
「……ナニガ起キタノ?」
暗闇の中で、タビアゲハは体を動かしてみた。
「……コレッテ、雪ノ壁?」
タビアゲハの周りには、雪の塊が包んでいた。、体が動けるほどの空間はカフセルホテルを思わせる。
「ン? チョットマテ、ウチガ食ベタノ、モシカシテ変異体!?」
「ワウッ……」
突然、雪を響かせて聞こえてきた声に、タビアゲハは思わず耳をふさいだ。
「ネエ、ソノ声ハ変異体?」
「ソ、ソウダケド……」
おそるおそる耳から手を離して、
「ソウカ! 変異体カ! ハハハハ!!」
「――ッ!!」
またすぐに耳をふさぐ。
「チョ……チョットダケ静カニシテ……」
「オ、ゴメンゴメン。サッキカラ人間2人ガ雪ダルマヲ作ッテイタカラ、憎タラシクナッテ食ベチャッタンダケドナ……マサカ変異体ガ変異体ヲ食ベルトハナ」
その声はタビアゲハと同じく、奇妙な声。
「食ベルッテ……マサカ、アノカマクラガ……」
「アア、ウチダヨ。コンナ体ニナッタカラ、ミンナニハ嫌ワレルカラ……体ヲ雪デ隠シテ、カマクラノフリヲシテ食ッテイルノサ」
「……溶ケタリ、シナイヨネ?」
「ソレハ大丈夫、栄養ニスル気ハナイヨ。人間ハミナ凍死スルケド、ソノ声ニナルマデ変異シテイタラソノ心配ハナイネ」
タビアゲハは安心したように一息つく。
それからしばらくした後に、心配するような声を出した。
「コレッテ、ドウヤッテデルノ?」
「デレナイサ。出シ方ダッテワカンナインダカラ」
諦めていながら、責任を取らないような話し方をする雪を、タビアゲハはそっと手で触れる。
「今日ハココニ泊マッテモイイ?」
先ほどとは違って、心配する声ではなかった。
「泊マルモナニモ、アンタハモウココカラ出レナイケド」
「大丈夫。朝ニナッタラ出テイクカラ」
「……話ヲ聞イテタ? アンタハ出ラレナインダッテ。ソレニ、ヨク死体ガ埋マッテイル場所デ寝ラレルナ」
「ウン……ナンダカ、慣レチャッテ……」
タビアゲハはそれ以上、なにも答えなかった。
ただ触覚を仕舞い、小さな寝息を立てるだけだった。
「寝ルノ、早ッ……」
それから、9,10時間たったころだろうか。
「ン……」
タビアゲハのまぶたが開き、触覚が表れた。
「アア……」
余裕がある空間とはいえ、あくびとともに行う背伸びはどこかきつそうだ。
「ン? モウ起キタノ」
雪が確かめるように声をかける。
「エット……モウ朝?」
「マダ朝日ガ出タバッカリダ」
「カナリヒンヤリシテテ気持チヨカッタカラ、ツイ長ク寝チャッタ……ソロソロ行カナイト」
周りの雪から、生暖かい風が流れた。ため息なのだろうか。
「昨日カラ出テイクッテ言ッテルケドサア、ドウヤッテ出ルツモリ? 逆ニ気ニナルンダケド」
「大丈夫。チョット痛イカモシレナイケド、スグニ終ワルカラ」
タビアゲハはゆっくりと両手を、目の前の雪の壁に向けると、
その長いツメを、突き立てた。
「イタィアッ!!?」
「本当ニスグ終ワルカラ、ナルベクジットシテテネ」
ツメの間から流れ落ちた黒い液体が、タビアゲハのフードに付着する。
その液体はまるで、墨汁のよう。
両手を外側に力を入れると、より多くの黒い液体が流れ落ちていく。
「アトモウチョットダカラ……ヨシ」
タビアゲハは指先に一気に力を入れると、
変異体の雪のような肉を、引き裂いだ。
「ギャガ!!?」
液体は噴水を上げるように地上に飛び出し、白い雪を黒く染める。
その引き裂いた穴から、よじ登るタビアゲハの姿が見えた。
「モウダイジョウブ。変異体ナラ、シバラクスレバ治ルカラ。コノ液体、見ツカラナイヨウニ雪デ隠シテオクネ」
タビアゲハは息を切らすように口をうごかすかまくらに伝えると、黒く染まった雪の上に白い雪をかぶせ始める。
「ゼエゼエ……アンタ、大人シソウナ顔ヲシテ、ウチノ腹ヲ引キ裂グナンテ……見タ目ダケジャナクテ、行動モ化ケ物ナノネ……」
嫌みを言うかまくらの声を聞いて、タビアゲハはいつのまにかフードが下りていたことに気づき、それを被り直す。
「ウン。私ハ変異体ダカラ。旅スルコトヲ夢ミテキタ、変異体ダカラ」
雪をかぶせ終えると、タビアゲハは街に向かって歩き始めた。
「……邪魔ヲスルナラ、手段ハ選バナイ……ッテコト?」
その後ろ姿を見ていたかまくらは、また嫌みを口にする。
そして、嫉妬とうらやましさ、そして安心したような、
白いため息を吐いた。
暗闇の中で、タビアゲハは体を動かしてみた。
「……コレッテ、雪ノ壁?」
タビアゲハの周りには、雪の塊が包んでいた。、体が動けるほどの空間はカフセルホテルを思わせる。
「ン? チョットマテ、ウチガ食ベタノ、モシカシテ変異体!?」
「ワウッ……」
突然、雪を響かせて聞こえてきた声に、タビアゲハは思わず耳をふさいだ。
「ネエ、ソノ声ハ変異体?」
「ソ、ソウダケド……」
おそるおそる耳から手を離して、
「ソウカ! 変異体カ! ハハハハ!!」
「――ッ!!」
またすぐに耳をふさぐ。
「チョ……チョットダケ静カニシテ……」
「オ、ゴメンゴメン。サッキカラ人間2人ガ雪ダルマヲ作ッテイタカラ、憎タラシクナッテ食ベチャッタンダケドナ……マサカ変異体ガ変異体ヲ食ベルトハナ」
その声はタビアゲハと同じく、奇妙な声。
「食ベルッテ……マサカ、アノカマクラガ……」
「アア、ウチダヨ。コンナ体ニナッタカラ、ミンナニハ嫌ワレルカラ……体ヲ雪デ隠シテ、カマクラノフリヲシテ食ッテイルノサ」
「……溶ケタリ、シナイヨネ?」
「ソレハ大丈夫、栄養ニスル気ハナイヨ。人間ハミナ凍死スルケド、ソノ声ニナルマデ変異シテイタラソノ心配ハナイネ」
タビアゲハは安心したように一息つく。
それからしばらくした後に、心配するような声を出した。
「コレッテ、ドウヤッテデルノ?」
「デレナイサ。出シ方ダッテワカンナインダカラ」
諦めていながら、責任を取らないような話し方をする雪を、タビアゲハはそっと手で触れる。
「今日ハココニ泊マッテモイイ?」
先ほどとは違って、心配する声ではなかった。
「泊マルモナニモ、アンタハモウココカラ出レナイケド」
「大丈夫。朝ニナッタラ出テイクカラ」
「……話ヲ聞イテタ? アンタハ出ラレナインダッテ。ソレニ、ヨク死体ガ埋マッテイル場所デ寝ラレルナ」
「ウン……ナンダカ、慣レチャッテ……」
タビアゲハはそれ以上、なにも答えなかった。
ただ触覚を仕舞い、小さな寝息を立てるだけだった。
「寝ルノ、早ッ……」
それから、9,10時間たったころだろうか。
「ン……」
タビアゲハのまぶたが開き、触覚が表れた。
「アア……」
余裕がある空間とはいえ、あくびとともに行う背伸びはどこかきつそうだ。
「ン? モウ起キタノ」
雪が確かめるように声をかける。
「エット……モウ朝?」
「マダ朝日ガ出タバッカリダ」
「カナリヒンヤリシテテ気持チヨカッタカラ、ツイ長ク寝チャッタ……ソロソロ行カナイト」
周りの雪から、生暖かい風が流れた。ため息なのだろうか。
「昨日カラ出テイクッテ言ッテルケドサア、ドウヤッテ出ルツモリ? 逆ニ気ニナルンダケド」
「大丈夫。チョット痛イカモシレナイケド、スグニ終ワルカラ」
タビアゲハはゆっくりと両手を、目の前の雪の壁に向けると、
その長いツメを、突き立てた。
「イタィアッ!!?」
「本当ニスグ終ワルカラ、ナルベクジットシテテネ」
ツメの間から流れ落ちた黒い液体が、タビアゲハのフードに付着する。
その液体はまるで、墨汁のよう。
両手を外側に力を入れると、より多くの黒い液体が流れ落ちていく。
「アトモウチョットダカラ……ヨシ」
タビアゲハは指先に一気に力を入れると、
変異体の雪のような肉を、引き裂いだ。
「ギャガ!!?」
液体は噴水を上げるように地上に飛び出し、白い雪を黒く染める。
その引き裂いた穴から、よじ登るタビアゲハの姿が見えた。
「モウダイジョウブ。変異体ナラ、シバラクスレバ治ルカラ。コノ液体、見ツカラナイヨウニ雪デ隠シテオクネ」
タビアゲハは息を切らすように口をうごかすかまくらに伝えると、黒く染まった雪の上に白い雪をかぶせ始める。
「ゼエゼエ……アンタ、大人シソウナ顔ヲシテ、ウチノ腹ヲ引キ裂グナンテ……見タ目ダケジャナクテ、行動モ化ケ物ナノネ……」
嫌みを言うかまくらの声を聞いて、タビアゲハはいつのまにかフードが下りていたことに気づき、それを被り直す。
「ウン。私ハ変異体ダカラ。旅スルコトヲ夢ミテキタ、変異体ダカラ」
雪をかぶせ終えると、タビアゲハは街に向かって歩き始めた。
「……邪魔ヲスルナラ、手段ハ選バナイ……ッテコト?」
その後ろ姿を見ていたかまくらは、また嫌みを口にする。
そして、嫉妬とうらやましさ、そして安心したような、
白いため息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる