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化け物人形店の店主、クリスマスプレゼントの箱を開ける。【前編】
しおりを挟む作業台に置かれた、出来上がったばかりのぬいぐるみ。
目玉が飾られたクリスマスツリーのぬいぐるみだ。
それを前にして、青年は6本の腕を組んでつぶやいた。
「そういえば、そろそろクリスマスか」
ぬいぐるみから壁に掛けられたカレンダーへと目線を移すこの青年、ズボンはジーズンに、ポニーテールの髪形。タンクトップの上にカーディガンを羽織っており、その背中には穴が空いている。
そこから生えているのは、4本の青い腕だった。
青い腕をのぞけば極普通の成人男性。だが、彼はこの世界では“変異体”と呼ばれる化け物である。
「この腕が生えてから、あまりクリスマスっていう実感がわかないんだよな……なんか、小さいころから行ってきたことをしていないせい……みたいな」
部屋に流れてくる光に向かって、青年は思い出すように首をひねる。
その時、扉をノックする音が聞こえてきた。
「あ、入っていいよ」
青年が扉に向かって答えると、扉が開き、女性がハガキを持って入ってきた。
「お兄ちゃん、このはがき……大工をしていた叔父さんみたいなんだけど」
手にしたハガキを青年に渡すこの女性、黄色のブラウスにチノパンという服装に、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。本人の言葉から、青年の妹なのだろうか。
ハガキを受け取った青年は、その表面に記載されている宛名を見て瞬きを早めた。
「叔父さんから? なんか珍しいな」
「そうなのよ。手紙はいつもスマホのメールで送り、書類も全てネットで済ましていた叔父さんが……手書きのはがきで送ってきたの」
そのはがきに書かれている文字は、文字を書くことに慣れていないと一目で分かるほど震えており、また、小さかった。
「……な、なんて読むんだ? この文字」
「私も昨日一晩中、宛名の方を解読して、ようやく叔父さんからってわかったのよ」
ふたりがはがきとにらめっこを初めて数時間後、
ようやくはがきの内容の解読に成功した。
「……かなり長いこと叔父さんの家に遊びにいっていないから、心配だから連絡をちょうだいって」
納得してうなずく青年に、女性は手を合わせる。
「それで手紙を送ってきたのね。なぜはがきなのかはわからないままだけど……」
女性は疑問を口にする途中で、ふと青年の4本の腕を見た。
「そういえば、お兄ちゃんにその腕が生えてから、全然行っていなかったわね」
「……ん?」
女性が視線を青年の青い腕から顔に移すと、その顔にはまるで初耳だと言わんばかりに目を丸くしていた。
「もう……お兄ちゃん、覚えていないの? 私たちが子供のころから、12月24日と25日は叔父さんの家で過ごしていたじゃない」
青年は右側の3本腕の一差し指で頭をつつき、しばらくしてから「あ」と口を開けた。
「そうか、だからクリスマスだって感じがしなかったのか」
それから数日後……12月24日のクリスマスイブ。
電車の中に、ふたりの兄弟の姿があった。
ふたりともおそろいの茶色いコートを着ており、女性の首元には赤いマフラーが、青年の背中には青いバックパックがあった。
青年は後ろを振り返り、窓の外に見える街並みを観察しはじめた。
都会とも言える街中には、たくさんのイルミネーションが飾られている。
線路からは遠く離れていても、クリスマス一色であることは明らかだ。
「……そういえば、叔父さんちは街から離れていたところにあったんだっけ」
街外れの住宅地の道を歩きながら、空を見上げて思い出すように青年がつぶやくと、白い息も同時に空を舞う。
「ええ。街で暮らすよりも家賃が安く住むとか言っていたわね」
その隣で歩く女性は、両手に添えている缶ジュースに口を付ける。
「それにしても、冬って以外と温かいものなんだな」
のんきに肩を揺らす青年に、女性は一瞬だけ体を震えさせる。
「それはお兄ちゃんだけよ。普段この辺りはあまり雪が降らないっていうのに、昨日の天気予報では雪が降るんじゃないかと言われるぐらい寒いのよ」
「そうかな? なんだか、実感がわかないな……家に閉じこもっていたというよりは、この腕が生えてきた影響みたいに感じる」
青年は背負っているバックパックに目を向ける。このバックパックで、4本の青い腕を隠しているのだろうか。
「味覚があまり感じにくいって、前にお兄ちゃんが言っていたわね。それと同じ感じかしら」
「うん。変異体の多くは食べる必要もなく、暑さや寒さに体温が影響しないって聞いたことがあるから、そういうことみたいだ」
ふたりは、とある一軒の家の前で立ち止まった。
「ここだったっけ」
「ええ、ここよ」
その家は、オオカミ男の息では崩れなさそうだ。
まるで3匹の子豚の三男が建てたようなレンガの家。
この時期で合わせてみれば、いかにもサンタが入ってきそうな雰囲気だ。
残念ながら、煙突はないのだが。
青年は玄関の扉の前に立つと、扉をノックした。
……反応はなかった。
「すみませーん、叔父さん、いますか?」
再びノックをしながら、青年は声をかける。それでも扉の奥からは、足音ひとつすら
聞こえない。
「留守かしら?」
「いや……多分違うと思うよ」
青年が指を指す方向を見て、女性は納得したようにうなずいた。
窓から見える室内には、明るい光に照らされていた。
「こんな昼間から電気を付けるはずはないから……」
「もしかして、叔父さんが……!?」
青年はドアノブをひねると、ドアは簡単に開いた。
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