化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
76 / 162

化け物人形店の店主、クリスマスプレゼントの箱を開ける。【前編】

しおりを挟む




 作業台に置かれた、出来上がったばかりのぬいぐるみ。



 目玉が飾られたクリスマスツリーのぬいぐるみだ。



 それを前にして、青年は6本の腕を組んでつぶやいた。



「そういえば、そろそろクリスマスか」



 ぬいぐるみから壁に掛けられたカレンダーへと目線を移すこの青年、ズボンはジーズンに、ポニーテールの髪形。タンクトップの上にカーディガンを羽織っており、その背中には穴が空いている。
 そこから生えているのは、4本の青い腕だった。
 青い腕をのぞけば極普通の成人男性。だが、彼はこの世界では“変異体”と呼ばれる化け物である。

「この腕が生えてから、あまりクリスマスっていう実感がわかないんだよな……なんか、小さいころから行ってきたことをしていないせい……みたいな」
 部屋に流れてくる光に向かって、青年は思い出すように首をひねる。

 その時、扉をノックする音が聞こえてきた。

「あ、入っていいよ」

 青年が扉に向かって答えると、扉が開き、女性がハガキを持って入ってきた。
「お兄ちゃん、このはがき……大工をしていた叔父さんみたいなんだけど」
 手にしたハガキを青年に渡すこの女性、黄色のブラウスにチノパンという服装に、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。本人の言葉から、青年の妹なのだろうか。

 ハガキを受け取った青年は、その表面に記載されている宛名を見て瞬きを早めた。
「叔父さんから? なんか珍しいな」
「そうなのよ。手紙はいつもスマホのメールで送り、書類も全てネットで済ましていた叔父さんが……手書きのはがきで送ってきたの」

 そのはがきに書かれている文字は、文字を書くことに慣れていないと一目で分かるほど震えており、また、小さかった。

「……な、なんて読むんだ? この文字」
「私も昨日一晩中、宛名の方を解読して、ようやく叔父さんからってわかったのよ」



 ふたりがはがきとにらめっこを初めて数時間後、

 ようやくはがきの内容の解読に成功した。
 


「……かなり長いこと叔父さんの家に遊びにいっていないから、心配だから連絡をちょうだいって」
 納得してうなずく青年に、女性は手を合わせる。
「それで手紙を送ってきたのね。なぜはがきなのかはわからないままだけど……」
 女性は疑問を口にする途中で、ふと青年の4本の腕を見た。
「そういえば、お兄ちゃんにその腕が生えてから、全然行っていなかったわね」
「……ん?」
 女性が視線を青年の青い腕から顔に移すと、その顔にはまるで初耳だと言わんばかりに目を丸くしていた。
「もう……お兄ちゃん、覚えていないの? 私たちが子供のころから、12月24日と25日は叔父さんの家で過ごしていたじゃない」

 青年は右側の3本腕の一差し指で頭をつつき、しばらくしてから「あ」と口を開けた。

「そうか、だからクリスマスだって感じがしなかったのか」





 それから数日後……12月24日のクリスマスイブ。



 電車の中に、ふたりの兄弟の姿があった。

 ふたりともおそろいの茶色いコートを着ており、女性の首元には赤いマフラーが、青年の背中には青いバックパックがあった。

 青年は後ろを振り返り、窓の外に見える街並みを観察しはじめた。

 都会とも言える街中には、たくさんのイルミネーションが飾られている。

 線路からは遠く離れていても、クリスマス一色であることは明らかだ。





「……そういえば、叔父さんちは街から離れていたところにあったんだっけ」

 街外れの住宅地の道を歩きながら、空を見上げて思い出すように青年がつぶやくと、白い息も同時に空を舞う。

「ええ。街で暮らすよりも家賃が安く住むとか言っていたわね」

 その隣で歩く女性は、両手に添えている缶ジュースに口を付ける。

「それにしても、冬って以外と温かいものなんだな」
 のんきに肩を揺らす青年に、女性は一瞬だけ体を震えさせる。
「それはお兄ちゃんだけよ。普段この辺りはあまり雪が降らないっていうのに、昨日の天気予報では雪が降るんじゃないかと言われるぐらい寒いのよ」
「そうかな? なんだか、実感がわかないな……家に閉じこもっていたというよりは、この腕が生えてきた影響みたいに感じる」
 青年は背負っているバックパックに目を向ける。このバックパックで、4本の青い腕を隠しているのだろうか。
「味覚があまり感じにくいって、前にお兄ちゃんが言っていたわね。それと同じ感じかしら」
「うん。変異体の多くは食べる必要もなく、暑さや寒さに体温が影響しないって聞いたことがあるから、そういうことみたいだ」



 ふたりは、とある一軒の家の前で立ち止まった。
「ここだったっけ」
「ええ、ここよ」

 その家は、オオカミ男の息では崩れなさそうだ。

 まるで3匹の子豚の三男が建てたようなレンガの家。

 この時期で合わせてみれば、いかにもサンタが入ってきそうな雰囲気だ。

 残念ながら、煙突はないのだが。

 青年は玄関の扉の前に立つと、扉をノックした。

 ……反応はなかった。

「すみませーん、叔父さん、いますか?」
 再びノックをしながら、青年は声をかける。それでも扉の奥からは、足音ひとつすら
聞こえない。
「留守かしら?」
「いや……多分違うと思うよ」
 青年が指を指す方向を見て、女性は納得したようにうなずいた。

 窓から見える室内には、明るい光に照らされていた。

「こんな昼間から電気を付けるはずはないから……」
「もしかして、叔父さんが……!?」



 青年はドアノブをひねると、ドアは簡単に開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...