97 / 162
化け物ぬいぐるみ店の店主、お内裏様の人形を作る。【後編】
しおりを挟むその翌日、化け物ぬいぐるみ店のある街とは違う、少し離れた街にて。
「えっと……ここであってるかな?」
伝統的な瓦屋根の並ぶ街並みの中、白い地面の上に立つ青年は手元の紙に書かれている文字を確認していた。その背中には青いバックパックが背負われており、青い4本の腕は見当たらなかった。
その横で、紫色のリュックサックを背負った女性は目の前の建物を眺めていた。
「なんだか、うちの店よりも伝統的って感じね」
「うん。だけどなにか店をやっているって感じではないみたいだ」
青年が扉に手をかけようとすると、その扉が一人でに開いた。
「あ、来た! 待ってたよ!」「ねえ、ひな人形、できた?」
ドアノブを手にかけた双子のひとりがその場で飛び上がり、その後ろでもう1人が青年のバックパックを見て左右に体を動かしている。
「ああ、ちゃんと入っているよ」
青年は後ろの青いバックパックではなく、女性が背負っている紫色のリュックサックに目を向けた。
「ちゃんと、私たちの書いたひな人形にしてくれた?」「そっくりに出来た?」
「お兄ちゃんの腕をなめないでよ。そっくりに決まっているでしょ」
女性が背中のリュックサックを2回ほどなでると、双子は互いの手をつないでその場で飛び跳ねた。
「ねえ、早く入ってよ!」「一緒にひな祭り、しよう!」
「あ、ちょ、ちょっと」「ひ、引っ張らないでよ!」
服の裾を引っ張られ、青年と女性はそのまま家の中へ引きずり込まれてしまった。
畳の上に飾られた、豪華な7段飾りのひな壇。
下から6段には、布で作られたひとつ目のぬいぐるみたちが並んでいる。
その1番上の段は、障子と盆飾りだけで、ぬいぐるみどころか人形すらひとつも飾られていなかった。
そこに、青年の手によって2体のぬいぐるみが置かれる。
くもの巣模様の着物を身に包んだ、ひなあられの形をした顔のお内裏様。
足りなかったものが補われたひな壇を眺めて、双子は目を輝かせていた。
「この下のぬいぐるみ、お父さんの作ったぬいぐるみじゃない」
完成したひな壇に近づき、女性はぬいぐるみのひとつを指差して指摘した。その声に気づいた青年は、置いたお内裏様の下のぬいぐるみを凝視する。
「……本当だ。この縫い目、お父さんのもので間違いない」
一瞬だけ眉をひそめた青年は振り返り、双子と目を合わせる。
「うん。おじさんが作ったものだよ」「途中まで、ちゃんと作ってくれたよ」
「それじゃあ……僕がぬいぐるみを作るってお父さんが言ったのは、この続きを作るってことか」
青年は納得したようにうなずいていたが、女性は首をかしげていた。
「それなら、お父さんは依頼を途中で放り出したってこと? そんなことするはずはないのに……」
女性の声に、双子は表情を曇らせた。
「もうそろそろ、見せてもいいかな?」「大丈夫だよ、お兄ちゃんも変異体だし」
双子は互いに見つめ合い、うなずくと、後頭部に手を回した。
双子の手に、ファスナーの金属部分が触れた。
ヴィィィィと音が鳴ると、
まるで被っていた袋を剥がすように、頭の肌を外した。
双子の頭は、金平糖のようにブツブツしていた。
その色合いからいえば、どちらかといえばひなあられか。
「……もしかして、君たちの顔を見て、お父さんは……」
青年は驚きつつも平静のまま、自身の考えを口にした。
「うん。腰を抜かしちゃった」「私たちが近寄ったら、仕上げは息子がするって逃げちゃった」
「変異体って、変異した部分を耐性のない人間が見ると恐怖の感情がわき起こるのは知っているけど……お父さんは耐性がなかったのか」
肩を組んで青年がつぶやく。しかし、女性はまだ納得できないように首を振った。
「それじゃあ、その被っているものはどうしたのよ、まるで人間そのものじゃない」
「これはね、私たちのお母さんが買ってくれたの」「人間そっくりの、皮だよ」
「ん……?」「皮……?」
双子の答えに、ふたりは互いに顔を見合わせた。
「確か、昨日のニュースで……」
「人間の皮を被った変異体が見つかったって言ってたわよね」
「着られる変異体さんは、みんな着ているよ」「常識だよ」
青年はふたりの純粋な目を見つめた。
「……その皮を手に入れることができたから、僕たちに頼みにくることができたんだ」
「うん。ずっと待ってたんだよ」「お母さんが死んじゃって、皮が届くまでね」
しばらくの間、青年と女性はその場に座り込み、ひな壇を眺めていた。
その隣に座っていた双子は、ふと思い出したように青年と女性に顔を向けた。
「ねえ、そろそろひな祭り、始める?」「始める?」
「え? 始める……?」
青年が口を開けている間に、双子はその場で立ち上がった。
「これ、ちゃんと耳につけてね」「つけないと、大変なことになるよ」
戸惑う青年と女性の足元に、双子は耳栓を置いた。
言われるがままに耳栓を付けてくれたことを確認すると、
双子は天井を見上げ、大きく口を開け、叫んだ。
ひな壇に座っていたぬいぐるみたちが、一斉に顔を双子に向けた。
双子がぬいぐるみたちの目に目線を返すと、
太鼓を持ったぬいぐるみが、まるで人間かのようにその太鼓をたたいた。
布であるにも関わらず、部屋中に太鼓の音が響き渡る。
そして、人形たちの演奏会が始まった。
楽器を持つ人形はその楽器を弾き、
持たない人形は口を開け、ひなまつりの歌を歌い始めた。
双子は歌のリズムに合わせて体を揺らし、
青年はこの状況に目を見開いたままフリーズ、
女性は何かを思いだしたように片手でおでこを当て、ため息をついた。
「デパートの時、叫ぼうとしていたけど……私もこのように操られていたわけ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる