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化け物ぬいぐるみ店の店主、モニター動物園に行く。【前編】
しおりを挟むその作業台の上には、クシャクシャに丸められた画用紙がいくつか置かれていた。
そのひとつには、ウサギの耳が隙間から見えていた。
別の画用紙には、ペンギンの足が、
また別の画用紙には、象の鼻が見えていた。
この丸まった画用紙には、それぞれ動物たちが描かれているのだろうか。
それならば、この作業台の上は丸められた画用紙の動物園と言えるかもしれない。
しかし、作業台の前に立つ青年は彼らではなく、手元のチラシに目を奪われていた。
「全世界の動物が1カ所で見ることのできる動物園か……」
青年の服装はジーズンにポニーテールの髪形、そして上半身のタンクトップの背中には穴が空いている。
そこから生えているのは、4本の青い腕だった。
青い腕をのぞけば極普通の成人男性。だが、彼はこの世界では“変異体”と呼ばれる化け物である。
「うちのポストに入れられていた広告のチラシなんだけど……お兄ちゃん、興味あるの?」
その青年の側には、女性が立っていた。
話の内容から青年の妹と思われるこの女性、黄色のブラウスにチノパンという服装に、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。
「うん。今、動物をモチーフとしたぬいぐるみを作っているんだけど、どれもピンと来なくてさ……」
丸めた画用紙の動物園の近くには、布と裁縫セットが置かれている。この青年はぬいぐるみ職人なんだろう。裁縫セットには、“祐介”と青年の名前が書かれていた。
「でもそれなら、ネットで写真を見た方が早いんじゃない?」
「さっきそれをしようと思ったけど、そもそも何の動物をモチーフにしようかまだ決めていないんだ。それに、どうせなら実物を見てみたいし」
「それならいいけど……でも――」
女性はチラシに書かれた一文を見て、眉をひそめた。
“入場料 大人100円 子供50円”
「――大人料金で100円って、安すぎじゃない? というか、ほぼ路面電車のノリじゃん」
チラシの内容を疑う女性だが、それに反するように祐介は笑みを浮かべていた。
「それがいいんだよ、“真理《まり》”。普通の動物園じゃないって感じがするんだ。きっと、何か秘密があってこの値段だと思うんだ」
ハキハキとしゃべる祐介に対して、真理と呼ばれた女性はため息をついた。
「……お兄ちゃんって、最近好奇心が強くなったよね」
その翌日、祐介と真理は黄色い草原が広がる平地に降り立っていた。
ある方向を口を開けて眺めるふたりの後ろで、タクシーはさっさと走り去っていく。
周りにあるのは、広がる黄色い草にぽつぽつとある木、
そして、小さな掘っ立て小屋だけだ。
「……チラシに書かれていた住所はここのはずだけど」
「もう嫌な予感しかしないんだけど……本当にこの小屋の中に世界中の動物がいるの?」
背中の4本の腕を大きなバックパックで隠している祐介は、手元のチラシを確認しながらつぶやく。一方、真理は掘っ立て小屋の規模にあきれたように首を振っていた。
「まあ、100円払ったぶんは損しないだろう。それにしても、建物の建築費を節約するとは……最近の動物園は考えるなあ」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
真理が後ろを振り向いたが、当然、タクシーはない。
「……ここまで来たら、実際にこの目で見るしかないわね」
掘っ立て小屋の扉を開くと、人の住んでそうな内装が広がっていた。
明かりは、祐介が開いた玄関の扉から差し込む光だけ。
その奥にベッドで横になる男性の姿がある。
「あ、あの……」
祐介が話しかけると、男性はむくりと起き上がり、壁に手を当てた。
すぐに天井に設置されている照明が光り、部屋が照らされる。
「……お客さんか?」
「はい。ここに動物園があると聞いたのですが……」
男性はベッドの上で大きく伸びをすると、先ほど手を当てた場所よりも下の所に手を当てる。
それとともに、ベッドの側の床が開いた。
「動物園はこの下の階段を下りた先だ。その前に、入場料を払ってもらうが」
ふたりは部屋の中に入り、真理が男性に200円を渡した。
「本当にこの下に動物園があるの?」
真理がたずねると、男性は自信があるようにうなずいた。
「ああ、この下には世界中の動物たちが集まっている。もっとも、それを受け止められるかどうかは、人によるが」
まるで試そうとしているかのような男性の目つきに、真理は眉間にしわをよせた。
ふたりが階段を下りた先の地下室は、暗闇だった。
そこへ、照明が照らされ、部屋の全貌が照らされる。
地上の部屋と特に変わらない雰囲気の地下室には、人の身長ほどの大きさのモニターが壁越しに複数置かれていた。
「……これが、動物園?」
祐介は恐る恐る足を進め、モニターのひとつに目を向けた。
そこには、雪原を走り回るウサギの姿が写し出されていた。
「別の場所で暮らす野生の動物を映しているみたいだね」
祐介は数々のモニターを目に通してうなずいているが、その目はどこか期待外れだったように曇っている。
「……こんなんだろうと思った。第一、入場料100円で全世界の動物を集められる資金が回収できるはずがないのよ」
予想していたように手のひらを上にして片手を上げる真理。
その時、階段から誰かが下りてくる音が聞こえてきた。
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