156 / 162
化け物バックパッカー、メリーゴーランドに乗る。【前編】
しおりを挟む夕焼けは、星空を照らしていた。
街外れに存在する、金網に飾られた古びた看板。
その看板の端っこに存在する画用紙は、ボロボロながらもまだ看板にしがみついていた。
星空を、馬に乗って飛ぶ男の子の姿。
子供が描いたとされるその画用紙は、夕焼けに照らされていた。
その金網の向こうに見えるのは……観覧車にジェットコースター、
そして、メリーゴーランド。
この金網の内側は、遊園地だ。
観覧車には、ゴンドラはひとつもついていない。
メリーゴーランドも同じように、馬は1台も存在していなかった。
そのメリーゴーランドの奥にある階段に、ひとりの人影が見えた。
人影は黒いローブを身にまとっており、顔はフードによって隠されてよく見えない。
裾から出ている、鋭い爪が生えたその黒い女性の手。
階段に腰掛け、ほおづえを突きながら馬のいないメリーゴーランドを見つめるその姿は、少女のようなあどけなさがある。
背中には、ローブと同じように黒い、大きなバックパックが背負われている。
「なんだか、懐かしい雰囲気のある場所だな……タビアゲハ。思わずフェンスを乗り越えて入ってしまったぞ」
どこからか聞こえてきた声に、“タビアゲハ”と呼ばれたローブの人影が振り返る。
階段の上には、バックパックを背負った老人が立っていた。
この老人、顔が怖い。
派手なサイケデリック柄のシャツに黄色のデニムジャケット、青色のデニムズボン、頭にはショッキングピンクのヘアバンドといった個性ある服装も、顔のせいで威圧感を与えている。
その背中には、タビアゲハのものと似た黒いバックパックを背負っている。俗に言うバックパッカーである。
「坂春サン……ホテル、探シテイタンジャナイノ?」
タビアゲハは、老人に向かって奇妙な声を発した。
甲高いその声は得体のしれない不気味さがあり、聞いたものは鳥肌が立つだろう。といっても、老人の顔の怖さと比べれば大したことはないが。
「ああ、どこも部屋がいっぱいだったからな……今夜は野宿になりそうだ」
坂春と呼ばれた老人の言葉に、タビアゲハは嬉しそうに立ち上がる。
「ソレジャア、一緒ニ探ス?」
「ああ、そうだな。いつも人目につかない場所で眠るタビアゲハの方が詳しいだろう」
タビアゲハが階段を駆け上がったのを確認したのち、坂春は遊園地の奥へと歩き始めた。
「それにしても、使われなくなった遊園地か。人が立ち入らないという点では寝床にはちょうどよさそうだ」
上空をまたぐジェットコースターのレールを見上げながら、坂春は呟く。
「ところでタビアゲハ、おまえはどうしてあんなところで座り込んでいたんだ?」
首を傾げるタビアゲハに対し、坂春は「何かを見て回るおまえだったら、園内を歩き回ってるだろ」と付け加えた。
「アア……私、街ヲ歩イテイタ時ニ観覧車ガ目ニ入ッテ、誰モ人間ガイナイカラ探検シテミヨウカナッテ……」
「……」
タビアゲハはくるりと、レールのカーブの下で回った。
「ダケド、サッキノ階段、ヒンヤリシテ気持チヨクテ……ツイ長イシチャッタ」
「……???」
気持ちよさそうに唇を閉めるタビアゲハに対して、坂春は眉をひそめる。
「坂春サン、ワカラナイ?」
「いや、まあ……たしかにひんやりしているところは気持ちいとは聞くが……長居するほどまではわからんな……」
アゴに手を当てて首を傾げる坂春を、タビアゲハは不思議そうに見つめていた。
そのタビアゲハの顔が、いきなり前方に向けられる。
「坂春サン! アレ!!」
「……?」
タビアゲハが指を刺した方向には、園内を駆ける4足歩行の動物。
「馬か……」
坂春は一瞬目を逸らそうとしたものの、その馬の胴体をもう一度凝視した。
「!!? あれはメリーゴーランドの!?」
「アノ馬……メリーゴランドデ回ッテイル馬ナノニ、ヒトリデ歩イテル!!」
その馬は白く、花をモチーフとした美しい彫刻が印象的。
夕焼けを反射するその体は、とても生き物には見えない。
そのメリーゴーランドの馬は、ふたりを無視して奥へと走って行く。
「追イカケテミヨウ! 坂春サン!!」
「あ、おい!! 待て!!」
坂春とタビアゲハも、その馬を追いかけ走り始めた。
その先にある、ジェットコースター乗り場。
中は外と同様に静かで、
数字の書かれていない順番待ちの看板が、部屋のすみっこに放置されている。
奥に見える、レール。
その手前で坂春とタビアゲハは立ち止まった。
「はあ……はあ……たしかにこっちにきたはずだが……」
乗り場の中に、坂春の息を切らす音が響く。
その隣で、タビアゲハはじっと目の前のレールに乗っているものに目線のようなものを向けていた。
「……? タビアゲハ、どうした……」
坂春も、レールに目を向けてまばたきを繰り返し始めた。
そのレールには、ジェットコースターの乗り物が置かれていた。
先ほどのメリーゴーランドの馬と同じく、花をモチーフとした美しい彫刻の白いジェットコースターだ。
「坂春サン……ジェットコースターノ乗リ物ッテ……遊園地ガ廃園ニナッテモ残サレルノ?」
「ばかな……こんなジェットコースター……あるはずがない……」
ふたりはジェットコースターをしばらく眺め続けていた。
「……? ネエ、ナニカ聞コエテクルヨ」
タビアゲハの声に、坂春はそっと耳を傾けてみた。
「……まさか……このジェットコースターか?」
すー、すー。
小さくかわいらしい寝息が、ジェットコースターから聞こえてきた。
「寝テイル……ノカナ……」
タビアゲハは、不用意にジェットコースターに乗り込もうとした。
「おい!! 勝手に乗るな!!」
その声に反応するように、ジェットコースターがその場で飛び上がる!
「ウワアアアアアアアアアアア!!!!?」
「キャッ!?」
大声に驚いて、タビアゲハは前身に転けてしまい……
そのままジェットコースターの座席に、乗り込んでしまった!
「ニンゲンダアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
ジェットコースターは、転倒したタビアゲハを乗せたまま、ゆっくりと上がり始める!!
「タビアゲハッ!!」
坂春は反射的に、ジェットコースターに乗り込む!!
「!!? この座席は……!!」
赤い座席に腰掛けたで坂春は、座席に乗せた自身の手のひらを上げようとする。
しかし、上がらなかった。
座席が坂春の体を、粘着テープのように離さなかった!
「コノ座席……ゼンゼン身動キガ取レナイ……!!」
前方の席に横向きで倒れているタビアゲハはもがくが、まったく起き上がれない。
そんなふたりに、夕焼けが照らされる。
「ニンゲン! 逃ゲナキャ! 逃ゲナキャ……!!」
「おい! 慌てるな!!」
ジェットコースターは頂上に向かって登っていく……!!
「待ッテ!! 私ハ人間ジャナイッ!!!」
タビアゲハの叫びとともに、ジェットコースターは停止した。
「……」
坂春は下に見える、小さくなった建物を見て汗を流した。
「ヘン……イ……タイ……?」
ジェットコースターから聞こえる声に、タビアゲハは「ソウダヨ」と声を出す。
乗り込んだ時にフードが下りたのか、タビアゲハの顔が露わになっていた。
肌は影のように黒く、上半身まで伸びた髪。その顔には青い触覚が、本来は眼球が収まるべき場所から生えている。まぶたを閉じると触覚は引っ込み、開くとでてくる。
変異体と呼ばれる、化け物だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる