化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物バックパッカー、メリーゴーランドに乗る。【後編】

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 空に紺色が現れ始めたころ、

 園内を歩いていたのは、白いメリーゴーランドの馬だった。

 その上には……坂春とタビアゲハの姿もあった。

「アア……ゴメンネ。ワタシ、テッキリ駆除ニ来タ変異体ハンターカト思ッタネ」

 タビアゲハよりも低く籠もった声で、その変異体は上に乗るふたりに謝罪する。

「だからといって、わざわざ完走するやつがおるか……あの体制、きつかったんだぞ……」

 坂春は頭に手を当てながら、苦言を述べた。

「イヤネ、ナンダカ最後マデヤラナイト、失礼ト思ッタネ」
「デモ、私ハ楽シカッタケド?」

 気分の悪そうな坂春の前で、タビアゲハはすずしい顔で馬の変異体を撫でる。
 フードの下にある青い触覚は、気分がよさそうに揺れていた。



 「ソレニシテモ、美人ナ変異体ト一緒ニ旅ガデキテ、アナタ、幸セ者ネ!」



 馬の変異体は、からかうように坂春に話しかける。
 それを聞いたタビアゲハは、言葉の意味がわからず首をかしげ、坂春の顔を振り返る。

「そこは喜ぶところだぞ、タビアゲハ」
「ソウナノ?」

 その反応に、馬の変異体は笑い、先ほどまで気分の悪そうだった坂春も笑みをこぼした。
 ただタビアゲハだけが、理解していないように触覚を出し入れしていた。



「ソウイエバ、コノ遊園地ッテモウ終ワッテイルミタイダケド……アナタハココノコト、ヨク知ッテル?」

 お化け屋敷の前で、ふと、タビアゲハは馬の変異体にたずねる。

「知ッテイルモナニモ、俺ハココノ支配人ダッタネ」
「変異体になったのも、この遊園地が閉園となってからか?」

 誇り高く答える馬の変異体だったが、坂春の言葉に少しだけ顔を地面に向ける。
 まるで、坂春の言葉に寂しさを感じるように。

「ソレガ、アマリ覚エテイナインダネ……気ガツイタラコノ姿ニナッテ、遊園地モ誰モコナクナッテイタ」
「……モシカシテ、誰モ来ナカッタ?」
「……」

 黙り混んだ馬の変異体に、タビアゲハはその言葉を放ったことを公開するように、口に手を当てた。

「ゴメンナサイ……寂シク……サセチャッテ……」
「イヤ……タシカニ寂シカッタネ……ダケド……ソウジャナイ……別ノナニカガデ……モヤモヤガ……残ッテイル……」

 馬の変異体は、その場で立ち止まって顔を上げる。

「ズット……ソレヲ……考エテキタ……ダケド……ミンナ……モウ……帰ッテコナインダヨ……」
「……」

 タビアゲハは、どう言葉をかければよいのか、わからない様子だった。



「なあ、次はメリーゴーランドにしないか?」



「?」「?」



 坂春の言葉に、ふたりの変異体はあっけにとられるように固まった。

「いやな、ちょっと思い出したんだが……小さいころ、メリーゴーランドに乗ったことがあってな……その時、考え事で悩んでいたのが、乗っている内に忘れて夢中になった……そんな記憶があるんだ」

 坂春は、近くにあった建物に目を向けた。

「アッ……」「……」



 それは、メリーゴーランド。



 柱を囲む馬はまだ存在するものの、ところどころが錆びだらけで、動きそうにない。



 それでも、馬たちは今にでも動き出しそうに、美しいフォームで足を上げていた。



「……」



 その馬たちを、馬の変異体は懐かしそうに眺めていた。



「忘れてくれ、幼少期のことを話すのは恥ずかしいもんだって、今後悔しているのだからな」

 坂春は首を振り、馬の変異体をやさしくなでる。

「……夢中……カ」



 馬の変異体はまぶたを閉じ、決心したように頷くと、



 一気に、かけ始めた!!

「アッ!!?」「おい!! どうしたんだ!!?」



「ドウスルッテ……今カラメリーゴーランド、乗セテアゲルンダヨ!」



 馬の変異体は、徐々にスピードを上げる。



 まるで、ジェットコースターの上り坂のような、準備をするように。



 やがて、そのスピードは下り坂にさしかかるように、急激に早くなる。



 振り落とされそうになった坂春とタビアゲハは、その馬の変異体の背中によって粘着テープのように固定される。



 そのスピードは、あっという間に広い園内を1週してしまった。



「ソレデハ、行ッテラッシャアアアアアアイイイイイイイ!!!」
「!!」「!!」




 馬の変異体は、力強く後ろ足を蹴った。









 タビアゲハは、反射的にまぶたの裏に閉まった触覚を、恐る恐る出した。



「……!!!」「これは……」










 馬の変異体は、坂春とタビアゲハを乗せて、



 夜空を、待っていた。



 馬の変異体が足を動かすと、



 下に見える街灯が、動いていく。



「スゴイ……キレイ……!!」



「空を飛ぶメリーゴーランドは創作でよく聞くが……夜景がメリーゴーランドの装飾に、思えてくるものなのだな……」



 坂春はどこか懐かしそうにつぶやいた。



 その時、なにかを思い出したように眉を上げた。



「アナタ……絵デ書イテクレテタネ……坂春クン」
「……!!」









 満月の光は、星空を照らしていた。



 街外れに存在する、金網に飾られた古びた看板。
 その看板の端っこに存在する画用紙は、ボロボロながらもまだ看板にしがみついていた。

 星空を、馬に乗って飛ぶ男の子の姿。

 子供が描いたとされるその画用紙は、満月の光に照らされていた。



 その上空を……空飛ぶメリーゴーランドは、駆けていった。










 それから、数日が立った夜。



 街から離れた位置に存在する森。
 その中で、明かりの灯ったテントが見えていた。

 テントの前で折りたたみ椅子に腰掛け、坂春はスマホの画面を眺めていた。
 その指は……まったく動いていない。


 山奥でキャンプをしていた坂春は、体育座りでスマホの画面を見ていた。

「本当ニ楽シカッタナ……メリーゴーランド」
「……」

 テントの裏で声が聞こえてきたかと思うと、そこからタビアゲハが顔を出した。
 まるで、坂春の言葉が返ってこないことに不思議に思ったように。

「坂春サン、ドウシタノ?」
「あ、いや……なんでもない」

 坂春はタビアゲハに笑みを浮かべて手を振り、スマホに再び画面を向けた。



「……本当に楽しかったよ。遊園地のおじさん」



 その記事に描かれていたのは……とある変異体が、駆除されたというニュースだった。

 数年前、遊園地で変異体が暴れる事件が発生した。
 たくさんの人間が犠牲となり、その変異体は捕まらずに逃走。遊園地は廃園となったのだという。

 変異体の特徴は……メリーゴーランドの馬に似た模様を持っていたこと。

 その変異体の死体は、昨日、遊園地の中にいるところを目撃され、駆除された。



 変異体は、抵抗はしなかったというウワサがあるという。



「……」



 坂春のつぶやきに、タビアゲハは吹き出した。


「どうした?」
「ナンダカ、坂春サンニシテハ珍シイコト言ッテルッテ思ッテ」
「悪いか?」
「ウウン、トテモステキダト思ウ」

 坂春は「そうか」と静かに笑い、テントの中へと戻っていった。



 タビアゲハは、再び夜空に青い触覚を向けた。



「コンドアッタ時ハ……モットイロンナ遊具ニナッテ、楽シマセテクレルカナ……ソシテ……マタ一緒ニ、空ヲ走ッテクレルカナ……」
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