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3再会
しおりを挟む魔王は3人の若者に殺されかけたことがある。
しかしその際、ただでは殺されないと言わんばかりに、そのもの達に呪いをかけた。
その呪いとは、男でありながら女性器を持ち、妊娠出産できる身体にされるというものだ。
いわゆるフタナリ。
魔王が死んだのかと言えば、ご存知の通り死んではいない。
呪いを発動した際の強烈な発光と同時に、ウルフの手によって逃げ延びたからだ。
「はぁ、魔王様も人が悪い。悪すぎだ」
魔王はウルフに、その呪いを受けた者たちを孕ませてこいと命令したのだ。
ウルフが尻でないと満足出来ないことを知りながら。
「ちぇっ。魔王様のこと俺が助けたのになぁ。こんな命令するなんて」
しかし命令は絶対。
気が乗らないながらも、ウルフはとりあえず人間界へとやってきた。
「3人中1人は孕んじまってるから残りの2人。って言ってもどこにいるかもわかんねぇし」
頭の後ろで手を組みどうしたものかと、森を歩いていると……
ガサガサガサ
ガサガサガサ
葉っぱをふむ音が聞こえて来た。しかもその音は段々とウルフの元へ近づいてきている。
ウルフが人間界へ降り立った場所は、城の近くの森だった。
城の近くとはいえ森の中は木が生い茂っており、道もろくに整備されておらず、日中も薄暗い場所だ。
そんな場所に人間が現れることはないと思っていたウルフは驚いた。
「こっちからいつもと違う気配がする……」
(あの顔……副騎士団長じゃないか!)
ウルフは魔王の側近のため、城の重要人物は一通り把握しているのだが、現れたのは副騎士団長のシュッツだった。
訓練をしていたのか任務中なのか、シュッツは鎧を身にまとっている。そう、戦闘態勢バッチリなのだ。
ウルフ調べによると、団長よりも副騎士団長の方が強い。そして冷酷非情そうな男にいきなり出くわすなんて。
なんと運のない……
戦うか、逃げるか。
タラリと額から汗が流れる。
せめて狼の姿であれば知らんぷりして逃げれたものの、生憎今は人型だ。
どうすることがベストなのか、ウルフは頭の中でぐるぐる考え固まってしまっている。
(こんな所に魔物?)
そんな中、意外にも先に口を開いたのはシュッツだった。
「うるふ……ウルフか!?」
最初は魔物かと身構えていたシュッツだったが、ウルフだと分かると敵ではないと言いたいのか、鎧を脱ぎながらズンズンと近づいていく。
警戒心ゼロのシュッツに、なにか裏があるのではないかと今度はウルフが身構えた。
しかし、シュッツは予想に反し、ウルフの両手をきつく握った。
まるで親友にでも再開したかのように。
「なッッ!?いきなりなんなんだ?」
「良かった……無事だったんだな!本当に良かった」
握ったウルフの手を自分のおでこに何度も擦り付けるシュッツ。本当に心から安堵しているようにみえる。
しかし、いかにも知っているかのような発言にウルフは訳が分からず混乱している。
「無事もなにも、俺はお前とは初めて会ったんだが。何言ってるんだ?」
「え?昔一緒に過ごしたじゃないか……忘れたのか?」
(は?初対面のはずだけど。何をさっきから言っているんだ?でも……コイツが嘘をついたり虚言を吐くようなヤツには見えないしな)
シュッツはキョトンとした顔で、今にも泣きそうに瞳が揺れた。
そんなシュッツを見て、ウルフは少し心が痛んだ。
(あれ?この顔と匂い……そう言えば俺が忘れかけている記憶……こいつはあの男の子か?)
『イヤだ!いやっ!ウルフ!!』
あの泣き叫ぶ男の子と今の泣きそうなシュッツの顔。どことなく雰囲気が似ているような気がする。
(もしかしてこの記憶は魔王様と出会う前の記憶なのか?)
ウルフ自身もよく分からないようだ。
シュッツに問えば何かわかるのだろうかと質問を投げかけようとしたが、何を聞いたらいいのかわからず黙り込んでしまう。
「ウルフは今までどこにいたんだ?私とこれから一緒いられるか?また一緒に住もう。いや、城の部屋だとすぐバレるか?城の近くに部屋を借りて……ぶつぶつぶつ」
(え、なにこいつ)
自分を忘れていたことにショックを受け泣きそうにしていた癖に、そんなこと構わずグイグイくるシュッツ。
氷の騎士と聞いていたが、対応が全然クールではなく引いてしまう。
「手を離せ!俺は魔王様に逆らったアホどもを孕ませにきたんだよ!そいつらに魔族を妊娠させてやるんだ」
シュッツのペースに持っていかれまいと、ウルフは手を振りほどいた。キッと睨みつけるも、動じることはなく、逆にじとーっとした目で見てくる。
そんなシュッツにウルフは全て見透かされているような気がして、顔を赤くした。
「そんなことさせない。だいたい何をしたら妊娠させられるのかわかるのか?」
「はぁ!?いつまで俺をガキだと思ってんだよ。セックスだろ!セックスすればいいんだろっ」
「会ったこともないやつとセックス出来るのか?ウルフはそんな軽薄なやつではないだろ?」
口うるさくウルフをせめたてるシュッツ。ズンズンと圧倒し、いつの間にやら大木に追い込んでいる。
他のものがこんなシュッツを見たら驚くだろう。氷の騎士と言われている通り、普段は冷たい視線や対応で、無色透明、何色にも染まらないと言われているのだから。
(記憶のガキがコイツだとすればだいぶ小さかったが……さすがに今は副騎士団長とあってデカイな。闘うにも分が悪いか……)
ウルフよりも少し身長が高いシュッツ。涼しい顔をしているが、鍛えられた身体には相応の筋肉がついている。
「ん?どうなんだ?ウルフはセックス出来るのか?」
「で、できるわ!!」
追い詰められ、ウルフは思わずシュッツの腕に噛み付いた。
しかしシュッツの反応は。
「弱い犬ほどなんとやら、だな」
「~~~!!!」
痛がる様子もなく、ふっと笑うシュッツ。バカにされたようで、ムッとしてウルフは目を逸らした。
自分が噛み付いた腕を見ると赤く血が滲んでおり、急に申し訳なくなりウルフは耳がシュンと垂れた。
「今回はお前を傷つけるためにきたんじゃないからな……」
おずおずと自分が噛んだ腕を舐めるウルフ。チロチロと舌が見え、たまに上目遣いになるその様子にシュッツは目を丸くし、赤面した。
「やっぱりウルフだな。優しいのは変わらないね。なぁ、これからしばらくは人間界にいるんだろ?行くとこあるのか?私はウルフと一緒にいたいんだ。私の所にこないか?」
「はぁ?バカだなお前。俺はお前の仲間を犯しに来たんだぞ?そんなやつと一緒にいるとかどうかしてる」
ウルフは軽口を叩いても、優しいと言われたり一緒にいたいと言われたり、頭や耳を撫でられたりでどこかムズムズしている様子。
それを見てシュッツは優しく微笑んだのだが、率直に美しいと思い見惚れるウルフ。
「ウルフはそんなこと出来ないよ。本当のお前は優しいんだから。ウルフは俺の事忘れてるみたいだからな、思い出させてやるよ」
大木を背に動くことが出来ないウルフの髪を掬い、口元に持っていくシュッツ。魔王と同じ仕草で、何より真剣な眼差しにドキッとしてしまう。
「私の名前覚えてるか?」
「しっ、知らねぇよ」
「シュッツだ。私の両親が何かを守れるものになって欲しいと名付けたんだ。あの時はウルフを守れなかったけど……これからはお前を守る」
蒼い色の瞳が真っ直ぐウルフを見つめる。
それを見れば言っていることが嘘ではないことは、すぐにわかる。
「泣いてるのか?」
「え?」
シュッツの瞳を見つめていたら何もかも空っぽになってしまったのか、ウルフは自分の意に反して涙が零れてしまっているようだ。
「ウルフ。あの時はお前を守れなかったけど今は守れる。お前のために強くなったんだ」
ギュッと抱きしめられ戸惑うウルフ。
でも嫌な感じはせず、思わず目を閉じ受け入れた。
あたたかい温もりに、ウルフはシュッツの肩に顔を隠し、そっと抱きしめかえした。
(なんでこんなにこの匂いは落ち着くんだ?あぁ……多分、昔の記憶のせいか)
遠い記憶の男の子が微笑むから。
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