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偽りの番 1
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実家から帰った日の夜、豪さんは葵と共に訪ねて来てくれて、「鍵のこと忘れてた、ごめんね」と言いながら首輪を外してくれた。
何の痕も無い俺の項を撫でて「後悔してない?」と聞いた。俺は笑顔で「はい」と答えた。
豪さんが頭を撫でてくれて、自分が30歳の男だと忘れて彼に抱きついてしまうくらいには嬉しかった。
「きもい」と突き放されてしまったが・・・。
運命に従うことがどれだけ幸せかを豪さんと葵は知っている。
それでも俺の心が綾木にあるのを見て見ぬふりはできない、と言ってくれた。
運命の相手を拒んだ事を、後悔などしない。この先ずっと綾木と一緒にいられるなら、彼と家族を作って行けるのなら、きっと俺は幸せだから。
「あッ、あやぎ、 噛んで・・・。おねが・・・ぁ、」
「茜・・・、は・・・っ 今日はもう、やめとこ?」
「やだぁっ、か、んでよぉ・・・つよく・・・」
毎日噛んでくれなければすぐに消えてしまう。血が滲んだ裂傷も、すぐに薄ら膜を張り、翌日には瘡蓋になり剥がれ落ちる。何故か項の傷だけが急速に治癒してしまうようだ。
発情期外は、運命の相手以外と番うのを許さない、と体が言っているようだった。
「ここんとこ毎日だろ。化膿でもしたらどうすんだよ。見てて痛々しい」
「化膿なんてするわけない!2日も経てば何の痕も残らないんだ!」
「けどさぁ」
後ろから深く繋がったままで、綾木は俺の項を犬のようにペロペロと舐める。
何なんだ!こいつは!意気地が無さすぎる!
番のシステムは、遡ればオオカミの縄張り争いがそのままヒトに何らかのきっかけで移植してしまった、との説もある。自分のメスを奪われぬようにするためのマーキングなのだ。
なのにこいつは「茜が痛そうだから」という理由で最初に思いっきり噛んで以来、少し歯を立てる程度の弱々しいマーキングを続けている。
「お前はオオカミなんかじゃない!超大型のポメラニアンだ!」
「はあ?何だよソレ」
憎まれ口を叩かれてもなお相変わらずのポメラニアンは、俺の項を甘噛みし口付け満足げな様子。
そんな弱々しいマーキングが敵に対する威嚇になるとでも思っているのか!?
次の発情期までの間、いつまた藤が帰国するのかもわからないのに・・・。
「んぅ・・・っ、ん──・・・っ、ぉく、や・・・あ」
「わかる?ココ、茜の好きなトコ」
Ωの直腸の奥には、生殖のために女性と同じような子宮がある。発情期で無ければそこへの道は塞がった状態だ。いわばただの腸壁。しかし他よりも薄いその壁を刺激されてしまうと、身悶えするほどの快感を得てしまうのだ。
「ひ・・・っ、あ・・・ぁ・・・」
「もっと茜の奥に挿入りたい」
そこを破らんばかりに突き上げられて、腹の中を満たしている綾木のそれを ぎゅうぎゅう と締め付けるようにナカが痙攣する。
上半身は遠慮がちなポメラニアンのくせに、下半身は立派なオオカミだ。
「あや、き・・・おれ、あやきの・・・っ、ものだよ?」
振り返り彼の頬に擦り寄ると
「~~~っ!普段とギャップあり過ぎ!」
ギリギリ と、肉を食いちぎられるような痛みが項を襲う。
「い・・・っ! ぅう・・・、くっ」
後頭部にまで熱が広がる。
綾木に噛まれていることが痛みよりも喜びになって、身震いが止まらなくなる。
このまま本当に痕が消えなければいいのに・・・。
2日後には消えてしまう綾木の噛み痕。今の俺には何よりも大切だ。
「おはよ茜。なあ、今日出掛けねぇ?」
「う・・・、んー・・・」
目覚めてすぐの綾木の提案に、目を開けるのも面倒臭いと思いながら曖昧な返事をする。
そんな俺を両腕の中に閉じ込めたままの綾木が続ける。
「家でセックス三昧もいいんだけどさー。俺ずっと茜一筋だったから恋人とかいなかったし」
「んー・・・」
だから何だ。俺はこの歳までずっと、好きな人すらいなかったぞ。
「デート、してみたいな~、って」
なにっ!?
デートと言えば恋人同士には必要不可欠なイベントではないか!
俺は長年恋をしてみたいと思っていたから、実はデートには並々ならぬ憧れがある。
「いいだろう。デート・・・。望むところだ」
綾木の腕を抜けベッドを下り、力強い足取りでバスルームへ向かおうとする俺に
「ちょっ、何だよその気合い。戦に行くんじゃねーんだぞ?」
と戸惑った彼の声が追いかけて来る。
フッ、馬鹿かお前は。デートとは、戦も同然。勝負服は鎧、待ち合わせは矢合わせ、語らいは鬨の声に匹敵すると言っても過言では無い!
「綾木、どうせなら、待ち合わせから本格的にやってみないか?」
「は? 別にいいけど・・・本格的なデートって俺よくわかんねえんだけど」
「俺に任せておけ!無駄にこの歳まで引きこもっていたのではない。様々な文献(主に女性情報誌)でとっくに予習済みだ」
いつでも恋を始められるように、女性が喜びそうな事は一通り学習しておいたんだ。まあ、今まで一度もそれを発揮する機会は無かったのだが。
「やるからには中途半端なことはしない。お前も帰って準備しろ。1時間後にすぐそこのオープンテラスカフェに集合だ!」
待っていろ綾木!俺が最高のデートを演出してやるからな♡
綾木に背を向け寝室を出る。
「集合、って・・・。茜に任せて大丈夫か・・・?」
酷く動揺する彼の声は、臨戦態勢に入る俺には届かない。
1時間後───
数百メートルの距離をセバスの運転する車で移動し、マンション近くのカフェのオープンテラスで待つ綾木の姿を見つける。
車を降り、少し震える足で地面をしっかりと踏みしめながら彼の元へと向かい、背中に隠していたブーケを差し出す。
「あ・・・かね、どうしちゃった?」
驚きに目を見開いた綾木が、俺の頭のてっぺんから足のつま先までをゆっくりと見下ろす。
フッ、どうだ。俺のクローゼットの中でも一番高いイタリア製オーダーメイドのホワイトスーツは。
ザワつく周囲。注目を浴びるのは高校以来で緊張するが、これも綾木とのデートのため。
綾木、俺のあまりのカッコ良さに見惚れているんだろ・・・
「茜、バカなの?」
「え?」
「とにかく一旦帰るぞ!」
「ええっ!?」
車に押し込まれ、今来た道をセバスが引き返す。
何故だ?デートには特別感が必要!と雑誌に書いてあったのに!
実家から帰った日の夜、豪さんは葵と共に訪ねて来てくれて、「鍵のこと忘れてた、ごめんね」と言いながら首輪を外してくれた。
何の痕も無い俺の項を撫でて「後悔してない?」と聞いた。俺は笑顔で「はい」と答えた。
豪さんが頭を撫でてくれて、自分が30歳の男だと忘れて彼に抱きついてしまうくらいには嬉しかった。
「きもい」と突き放されてしまったが・・・。
運命に従うことがどれだけ幸せかを豪さんと葵は知っている。
それでも俺の心が綾木にあるのを見て見ぬふりはできない、と言ってくれた。
運命の相手を拒んだ事を、後悔などしない。この先ずっと綾木と一緒にいられるなら、彼と家族を作って行けるのなら、きっと俺は幸せだから。
「あッ、あやぎ、 噛んで・・・。おねが・・・ぁ、」
「茜・・・、は・・・っ 今日はもう、やめとこ?」
「やだぁっ、か、んでよぉ・・・つよく・・・」
毎日噛んでくれなければすぐに消えてしまう。血が滲んだ裂傷も、すぐに薄ら膜を張り、翌日には瘡蓋になり剥がれ落ちる。何故か項の傷だけが急速に治癒してしまうようだ。
発情期外は、運命の相手以外と番うのを許さない、と体が言っているようだった。
「ここんとこ毎日だろ。化膿でもしたらどうすんだよ。見てて痛々しい」
「化膿なんてするわけない!2日も経てば何の痕も残らないんだ!」
「けどさぁ」
後ろから深く繋がったままで、綾木は俺の項を犬のようにペロペロと舐める。
何なんだ!こいつは!意気地が無さすぎる!
番のシステムは、遡ればオオカミの縄張り争いがそのままヒトに何らかのきっかけで移植してしまった、との説もある。自分のメスを奪われぬようにするためのマーキングなのだ。
なのにこいつは「茜が痛そうだから」という理由で最初に思いっきり噛んで以来、少し歯を立てる程度の弱々しいマーキングを続けている。
「お前はオオカミなんかじゃない!超大型のポメラニアンだ!」
「はあ?何だよソレ」
憎まれ口を叩かれてもなお相変わらずのポメラニアンは、俺の項を甘噛みし口付け満足げな様子。
そんな弱々しいマーキングが敵に対する威嚇になるとでも思っているのか!?
次の発情期までの間、いつまた藤が帰国するのかもわからないのに・・・。
「んぅ・・・っ、ん──・・・っ、ぉく、や・・・あ」
「わかる?ココ、茜の好きなトコ」
Ωの直腸の奥には、生殖のために女性と同じような子宮がある。発情期で無ければそこへの道は塞がった状態だ。いわばただの腸壁。しかし他よりも薄いその壁を刺激されてしまうと、身悶えするほどの快感を得てしまうのだ。
「ひ・・・っ、あ・・・ぁ・・・」
「もっと茜の奥に挿入りたい」
そこを破らんばかりに突き上げられて、腹の中を満たしている綾木のそれを ぎゅうぎゅう と締め付けるようにナカが痙攣する。
上半身は遠慮がちなポメラニアンのくせに、下半身は立派なオオカミだ。
「あや、き・・・おれ、あやきの・・・っ、ものだよ?」
振り返り彼の頬に擦り寄ると
「~~~っ!普段とギャップあり過ぎ!」
ギリギリ と、肉を食いちぎられるような痛みが項を襲う。
「い・・・っ! ぅう・・・、くっ」
後頭部にまで熱が広がる。
綾木に噛まれていることが痛みよりも喜びになって、身震いが止まらなくなる。
このまま本当に痕が消えなければいいのに・・・。
2日後には消えてしまう綾木の噛み痕。今の俺には何よりも大切だ。
「おはよ茜。なあ、今日出掛けねぇ?」
「う・・・、んー・・・」
目覚めてすぐの綾木の提案に、目を開けるのも面倒臭いと思いながら曖昧な返事をする。
そんな俺を両腕の中に閉じ込めたままの綾木が続ける。
「家でセックス三昧もいいんだけどさー。俺ずっと茜一筋だったから恋人とかいなかったし」
「んー・・・」
だから何だ。俺はこの歳までずっと、好きな人すらいなかったぞ。
「デート、してみたいな~、って」
なにっ!?
デートと言えば恋人同士には必要不可欠なイベントではないか!
俺は長年恋をしてみたいと思っていたから、実はデートには並々ならぬ憧れがある。
「いいだろう。デート・・・。望むところだ」
綾木の腕を抜けベッドを下り、力強い足取りでバスルームへ向かおうとする俺に
「ちょっ、何だよその気合い。戦に行くんじゃねーんだぞ?」
と戸惑った彼の声が追いかけて来る。
フッ、馬鹿かお前は。デートとは、戦も同然。勝負服は鎧、待ち合わせは矢合わせ、語らいは鬨の声に匹敵すると言っても過言では無い!
「綾木、どうせなら、待ち合わせから本格的にやってみないか?」
「は? 別にいいけど・・・本格的なデートって俺よくわかんねえんだけど」
「俺に任せておけ!無駄にこの歳まで引きこもっていたのではない。様々な文献(主に女性情報誌)でとっくに予習済みだ」
いつでも恋を始められるように、女性が喜びそうな事は一通り学習しておいたんだ。まあ、今まで一度もそれを発揮する機会は無かったのだが。
「やるからには中途半端なことはしない。お前も帰って準備しろ。1時間後にすぐそこのオープンテラスカフェに集合だ!」
待っていろ綾木!俺が最高のデートを演出してやるからな♡
綾木に背を向け寝室を出る。
「集合、って・・・。茜に任せて大丈夫か・・・?」
酷く動揺する彼の声は、臨戦態勢に入る俺には届かない。
1時間後───
数百メートルの距離をセバスの運転する車で移動し、マンション近くのカフェのオープンテラスで待つ綾木の姿を見つける。
車を降り、少し震える足で地面をしっかりと踏みしめながら彼の元へと向かい、背中に隠していたブーケを差し出す。
「あ・・・かね、どうしちゃった?」
驚きに目を見開いた綾木が、俺の頭のてっぺんから足のつま先までをゆっくりと見下ろす。
フッ、どうだ。俺のクローゼットの中でも一番高いイタリア製オーダーメイドのホワイトスーツは。
ザワつく周囲。注目を浴びるのは高校以来で緊張するが、これも綾木とのデートのため。
綾木、俺のあまりのカッコ良さに見惚れているんだろ・・・
「茜、バカなの?」
「え?」
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