拗らせΩは恋を知らない

Hiiho

文字の大きさ
25 / 55

偽りの番 1

しおりを挟む
********



実家から帰った日の夜、豪さんは葵と共に訪ねて来てくれて、「鍵のこと忘れてた、ごめんね」と言いながら首輪を外してくれた。
何の痕も無い俺の項を撫でて「後悔してない?」と聞いた。俺は笑顔で「はい」と答えた。
豪さんが頭を撫でてくれて、自分が30歳の男だと忘れて彼に抱きついてしまうくらいには嬉しかった。
「きもい」と突き放されてしまったが・・・。

運命に従うことがどれだけ幸せかを豪さんと葵は知っている。
それでも俺の心が綾木にあるのを見て見ぬふりはできない、と言ってくれた。

運命の相手を拒んだ事を、後悔などしない。この先ずっと綾木と一緒にいられるなら、彼と家族を作って行けるのなら、きっと俺は幸せだから。






「あッ、あやぎ、    噛んで・・・。おねが・・・ぁ、」

「茜・・・、は・・・っ    今日はもう、やめとこ?」

「やだぁっ、か、んでよぉ・・・つよく・・・」

毎日噛んでくれなければすぐに消えてしまう。血が滲んだ裂傷も、すぐに薄ら膜を張り、翌日には瘡蓋になり剥がれ落ちる。何故か項の傷だけが急速に治癒してしまうようだ。

発情期外は、運命の相手以外と番うのを許さない、と体が言っているようだった。


「ここんとこ毎日だろ。化膿でもしたらどうすんだよ。見てて痛々しい」

「化膿なんてするわけない!2日も経てば何の痕も残らないんだ!」

「けどさぁ」

後ろから深く繋がったままで、綾木は俺の項を犬のようにペロペロと舐める。

何なんだ!こいつは!意気地が無さすぎる!
番のシステムは、遡ればオオカミの縄張り争いがそのままヒトに何らかのきっかけで移植してしまった、との説もある。自分のメスを奪われぬようにするためのマーキングなのだ。

なのにこいつは「茜が痛そうだから」という理由で最初に思いっきり噛んで以来、少し歯を立てる程度の弱々しいマーキングを続けている。

「お前はオオカミなんかじゃない!超大型のポメラニアンだ!」

「はあ?何だよソレ」

憎まれ口を叩かれてもなお相変わらずのポメラニアンは、俺の項を甘噛みし口付け満足げな様子。


そんな弱々しいマーキングが敵に対する威嚇になるとでも思っているのか!?
次の発情期までの間、いつまた藤が帰国するのかもわからないのに・・・。


「んぅ・・・っ、ん──・・・っ、ぉく、や・・・あ」

「わかる?ココ、茜の好きなトコ」

Ωの直腸の奥には、生殖のために女性と同じような子宮がある。発情期で無ければそこへの道は塞がった状態だ。いわばただの腸壁。しかし他よりも薄いその壁を刺激されてしまうと、身悶えするほどの快感を得てしまうのだ。

「ひ・・・っ、あ・・・ぁ・・・」

「もっと茜の奥に挿入りたい」

そこを破らんばかりに突き上げられて、腹の中を満たしている綾木のそれを ぎゅうぎゅう と締め付けるようにナカが痙攣する。

上半身は遠慮がちなポメラニアンのくせに、下半身は立派なオオカミだ。


「あや、き・・・おれ、あやきの・・・っ、ものだよ?」

振り返り彼の頬に擦り寄ると

「~~~っ!普段とギャップあり過ぎ!」

ギリギリ と、肉を食いちぎられるような痛みが項を襲う。

「い・・・っ!        ぅう・・・、くっ」

後頭部にまで熱が広がる。
綾木に噛まれていることが痛みよりも喜びになって、身震いが止まらなくなる。

このまま本当に痕が消えなければいいのに・・・。

2日後には消えてしまう綾木の噛み痕。今の俺には何よりも大切だ。








「おはよ茜。なあ、今日出掛けねぇ?」

「う・・・、んー・・・」

目覚めてすぐの綾木の提案に、目を開けるのも面倒臭いと思いながら曖昧な返事をする。
そんな俺を両腕の中に閉じ込めたままの綾木が続ける。

「家でセックス三昧もいいんだけどさー。俺ずっと茜一筋だったから恋人とかいなかったし」

「んー・・・」

だから何だ。俺はこの歳までずっと、好きな人すらいなかったぞ。

「デート、してみたいな~、って」

なにっ!?
デートと言えば恋人同士には必要不可欠なイベントではないか!
俺は長年恋をしてみたいと思っていたから、実はデートには並々ならぬ憧れがある。

「いいだろう。デート・・・。望むところだ」

綾木の腕を抜けベッドを下り、力強い足取りでバスルームへ向かおうとする俺に

「ちょっ、何だよその気合い。戦に行くんじゃねーんだぞ?」

と戸惑った彼の声が追いかけて来る。


フッ、馬鹿かお前は。デートとは、戦も同然。勝負服は鎧、待ち合わせは矢合わせ、語らいは鬨の声に匹敵すると言っても過言では無い!


「綾木、どうせなら、待ち合わせから本格的にやってみないか?」

「は?    別にいいけど・・・本格的なデートって俺よくわかんねえんだけど」

「俺に任せておけ!無駄にこの歳まで引きこもっていたのではない。様々な文献(主に女性情報誌)でとっくに予習済みだ」

いつでも恋を始められるように、女性が喜びそうな事は一通り学習しておいたんだ。まあ、今まで一度もそれを発揮する機会は無かったのだが。

「やるからには中途半端なことはしない。お前も帰って準備しろ。1時間後にすぐそこのオープンテラスカフェに集合だ!」

待っていろ綾木!俺が最高のデートを演出してやるからな♡

綾木に背を向け寝室を出る。



「集合、って・・・。茜に任せて大丈夫か・・・?」

酷く動揺する彼の声は、臨戦態勢に入る俺には届かない。








1時間後───


数百メートルの距離をセバスの運転する車で移動し、マンション近くのカフェのオープンテラスで待つ綾木の姿を見つける。

車を降り、少し震える足で地面をしっかりと踏みしめながら彼の元へと向かい、背中に隠していたブーケを差し出す。

「あ・・・かね、どうしちゃった?」

驚きに目を見開いた綾木が、俺の頭のてっぺんから足のつま先までをゆっくりと見下ろす。

フッ、どうだ。俺のクローゼットの中でも一番高いイタリア製オーダーメイドのホワイトスーツは。

ザワつく周囲。注目を浴びるのは高校以来で緊張するが、これも綾木とのデートのため。

綾木、俺のあまりのカッコ良さに見惚れているんだろ・・・

「茜、バカなの?」

「え?」

「とにかく一旦帰るぞ!」

「ええっ!?」

車に押し込まれ、今来た道をセバスが引き返す。
何故だ?デートには特別感が必要!と雑誌に書いてあったのに!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...