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16 フランツ

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勿論、釣書で顔は知っていたがまさか婚約期間中に一度も会えないとは思わなかった。
自分から誘う事も考えたが母が家の財産目当てで婚約したような格下の婚約者に調子に乗らせてはいけないと言った事で私から婚約者に歩み寄る事は無くなった。
向こうから会いに来たと言う話も聞かないので母の言っていることは本当なのだろう。
釣書を見た感じではそんな事を考えそうな顔では無かったが……人は見かけによらないと言うのはこういう事なのだろう。

本当に一度も会わず結婚式の日を迎えた、妻になるアマンダはとても美しかったが、この美しい顔の裏で我が侯爵家を自分のものにしようと画策していると思えば綺麗と褒める事も優しい言葉をかけることも出来なかった。
そして避ける事の出来ない初夜を迎えたが勿論あんな女にこの家の跡取りとなる子供を産ませる気は無い、そもそも愛も無い結婚なんて私は望んでいなかったのに父がどうしてもと向こうが望んでいるからとこの結婚は押し切られたのだ。
かと言ってどれだけ性格が悪くとも女性に暴言を吐く訳にもいかないので初夜はあの女が眠るまで放置することにした。
そろそろいい時間だろうと自分の寝室、まあ正確には夫婦の寝室なのだが…に行くと扉を開いた先であの女は静かに本を読んでいた。
様子を伺うようにそっと部屋に入った私に初めは気付かないようだったが、気配に気付いたのか私の方を見たその顔は釣書で見るよりも美しかった。
結婚式はベールで顔がよく見えなかったから……。

そして話しをして私は驚きの真実を知らされる事になる。

こうして全てを聞くと私が最初に言ったあの言葉が酷く恥ずかしかった。
何が、君を愛することは出来ないだ!あの時の私を殴りたい。
彼女の言う通り本来ならなんの関係も無いこの侯爵家を彼女が助ける義理も無いのに彼女は何とも思っていない私に嫁いでまで助けてくれると言うのだ……。
それに彼女の言う通り……父は勿論悪い、母も、だからと言って私に罪が無い筈も無い、貴族、ましてや侯爵家に産まれ……何も知らないと言う無知と家の事への無関心は罪だった。

それから彼女は本当に厳しかった。
彼女が言っていた通り甘える事は許され無かった、だが、彼女がここまでになるにはそれ以上の努力と苦労があったのだろうと今なら分かる。
彼女だって産まれながらの貴族なのだ、本来ならならこんな仕事をやるべき人では無い、祖父母が酷かったと聞いた…昔はそのせいで貧しい暮らしをしていたと。
今でも彼女がこの侯爵家に持って来たものは多くは無い。
ドレスも最低限の枚数であるし、地味な訳ではないが華美なドレスと言うことも無い。彼女は普段装飾品なども付けないし派手な化粧などもしない。
それでも彼女はいつでも輝くように美しかった。
仕事をする彼女はイキイキとしていて本当に好きでやっていることが分かる。
その間に私への教育も施してくれて、私が少し成長したと分かると僅かながらでも微笑んでくれるその顔が…………いつからか……好きだと思うようになっていた。
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