私の中から貴方だけが姿を消した

きんのたまご

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今から思えば強がりだった。自分の事を好きだと言う割にその気持ちをこちらに向けようとしない婚約者に対しての強がり。
自分ばかりが好きなようで俺はあんな女の事は好きではないと言い聞かせた。
女の子に手を出したりもしていたがやっぱりバレるのが嫌で見つからないように細心の注意をはらった。相手も他人からバレるとまずい女の子ばかり選んで…そういう子は自分からバラそうとしないのはわかっていたから。そして他に相手がいる子に手を出しているという事実…その背徳感が良かったのかもしれない、やっぱり俺は碌でもない。
婚約者が事故にあってからの半年間ずっとその事実と向き合って悩んでいた。
するとどんな顔して彼女に会えばいいのか分からなくなって…お見舞いもまともに行けなかった。それでも気になって仕方なかったから月に一度お見舞いに行って…我ながら女々しい。
諦めるなら諦める!お見舞いも行かないなら行かない!そう出来ていたら良かったのに…。
中途半端な自分が嫌になる。
悶々と日々考えに考えたけどなんにも解決策が見つからないまま彼女が目覚めたと連絡が来た。今すぐにでも会いに行きたかったがどの面下げてという気持ちもあって、悩んでいるうちに…すぐに1週間が経っていた。どんな顔で会えばいい?どう接すればいい?悩みに悩んでやっばりいつもと同じ態度で会いに行った。
こんな俺でも彼女に接する時はとても優しくしていた。だから周りからは良い婚約者なんて言われていて…。きっと俺と遊んだ女の子以外、彼女の友達のカトリーヌでさえも俺の事を良い婚約者だと思っていたと思う。
自分の卑怯さに笑いが込み上げる。


目の前に座る婚約者を見る。
俺の記憶を無くして本当の自分に戻ったのであろう彼女。
……こんなにも意志の強い目をしているのを見たのは初めてだなと涙で霞む目で見つめる。
きっと俺が彼女に出来ることは俺から解放する事だけ。俺の醜く歪んだこの気持ちは彼女には伝え無い。これがせめてものプライド。
「ナディア」
これで最後、俺は婚約者の名を呼ぶ。




「ナディア」
………ああ、こんな風にヘクター様から名前を呼ばれたかった………。
そう思ったその瞬間……………………。
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