周りから見たら明らかに両想いなのに当人同士はどちらも自分の片想いだと思っている夫婦の話

妻

私が微睡みかけた時、ゆっくりと扉の開く音がした。
ドキッ。えっ？もしかして旦那様？
私はこっそりと薄目を開ける。すると私が寝ていると思っている旦那様がそろーりと部屋に入って来る所だった。
えっえっえっ！もしかして今晩はこちらでお休みになられるのかしら？
ど、どうしましょう！いえ、勿論旦那様のベッドでもあるのですから構わないのですけれど。いえ、むしろ嬉しいですけれど！きゃー。
と私が内心大慌てで寝たフリをしていても一向に旦那様がベッドに入る様子は無い。
……きっとアレですわね。何か必要な物を取りに来たとかそういう事ですわね。さっきまでの弾んだ気持ちが急に冷静になった。ふぅ。

顔の前に何か気配が、と思った瞬間。
旦那様の優しい手が私の髪をそっと耳に掛けてくれた。

っっっっっっっきゃーーーーーー！
えーーーーー、旦那様が旦那様が！私の髪を！うわーーーー！
今にも叫びながらベッドを転がり回りたい衝動を抑えて寝たフリを続けた。
今日はなんていい日なの！この嬉しい気持ちを旦那様に直接言えないのがもどかしい。
しかし私のそんな薔薇色のような気持ちも旦那様の一言で奈落の底へ落とされる。
「ごめん」
えっ？……それはなんのごめんなのですか？
もしかしてもう君とは一緒に居られないごめんのごめんですか？

旦那様が入って来た時と同じようにそっと出ていく。
パタン…扉が閉まる。

私は体を起こし今閉まった扉を見つめる。
その扉はまるで旦那様のお心のよう。
結局一睡も出来ないまま1人の部屋で朝を迎えた。