宇宙の家 ~Come and help me!~

鈴木 純一

文字の大きさ
10 / 39
セカンドコンタクト ~宇宙人・小野田獣座衛門のこと~

第10話 居心地の悪い六畳間

しおりを挟む
 ロボットハウス、もとい六畳間の茶の間に俺は立っていた。

 そこはまるで日本の民家の一家団欒の場のようだ。ちゃぶ台こたつがあって、テレビがあってテレビ台があってビデオデッキがある。棚はがらんどうだった。六畳間の和室は狭い台所とトイレとウォーキングクローゼットにも接続している。にしても狭かった。宇宙から見たときにはとてもじゃないけどこんな光景想像もつかなかった。なんなんだよこれ。それが素直な印象だ。しかもその場の主がさらに珍妙だ。

 小野田獣座衛門という奇妙な名前の宇宙人は、人の姿をしていなかった。

 タコとイソギンチャクをミックスした着ぐるみを小人に被せたみたいな。映画《メンインブラック》にも出てこないだろう、へんてこな形の生き物がちゃぶ台のそばに佇んでいる。目や耳は見当たらない。濃い青のヌメヌメした太く長い触腕しか見当たらない。

 見るからに宇宙人のそいつは、人間の命を容易く奪う術を持っているらしい。にわかには信じられなかった。俺は宇宙服を脱ぐ。ぷしゅっと音がして、ヘルメットを脱いだ。窮屈だった分、随分と開放的な気分になる。俺は立ったまま話しかけた。

「こんにちは。お……俺は松本隆太っていうんだ。君は日本に滞在してたんだってな!」
「……」
「日本語が……わかるのか? ははは、だったら驚きだけど……」

 茶の間のそばには小さな卓上があって、そこに激しく焼け焦げた痕と、丸くなった鉄の塊を見つけた。塊にはコードが繋がってる。それが何のための機械かはわからない。思わずゾッとする。平凡な和室に常軌を逸してる異常な光景。この宇宙人がやったのか。

「あれは……君がやったのか?」
「……」

 宇宙人は応答しない。怖い。どうしよう……。俺は焦ってそっぽを見る。それから、隠しカメラが仕掛けられている天井付近を見る。カメラ越しに、管制室から俺達の様子を窺ってるのかな。俺は気を取り直していう。

「俺は……君から話を聞くために、こうしてはるばる宇宙にやってきた! だから君が口を利いてくれないと……困るんだけどな……ははは」

 俺はひたすら焦って汗ばむばっかりで、和室の端に立ち竦んでいた。まいったな。宇宙人はずっとちゃぶ台こたつのそばに居て微動だにしない。立ってるのか座ってるのかもわからないけど、少なくともずっとそこにいた。宇宙人に目はなかった。ただ体から床に垂直に伸びた何十本という太い触手があるだけ。今でも実感がわかない。作り物のよう。その時、ギュルルルと、お腹がなった。俺だ。突然腹痛が。俺は宇宙人にいう。

「う……うう、待って、腹が……痛い……ちょっとトイレに……」

 俺はトイレを探して、お腹を押さえて六畳間を後にする。最悪だ。最悪の第一印象だ。これが俺と宇宙人、小野田獣座衛門とのファーストコンタクトだったんだ。

「うう……」

 俺は普通の洋式便座に個室にうずくまってホッと息をつく。プレッシャーに負けて腹を下してしまった。自分の事ながら情けない……。

 その時、色んな疑問符が脳裏を錯綜としていた。あの不気味な怪物体には俺の言葉を聞く”耳”みたいな器官は備わってるんだろうか。最悪ジェスチャーでしか会話できないのかも……いや、”目”がないんだからかえって超高性能の聴覚器官が備わってるのかもしれない。
 なんてことをダラダラ考えてたら、突然便座に振動を感じた。俺は怖気だって飛び上がる。そして、一瞬間を置いてハッとして思い出した。

「……そうだ、管制室からだ」

 ジェイコブは宇宙人が盗聴や通信を嫌うといった。そのためかロボットハウスと管制室のやり取りは家中に仕掛けられた隠し通信機を使うことになる。面倒だけどこれが獣座衛門に見つかったら大変なことだ。

「リュウタか? 手ごたえはどうだ?」

 俺は張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、勢いのままにまくし立てる。
「どうもこうもないぜ。質問だらけだ! 宇宙人よりもこの環境だよ!」

 ジェイコブは理解できないようで嘆息した。俺はいう。

「まず、この意味のわからない茶の間のわけを教えてくれ! どういうことなんだよ!?」
「ハハハッ! ジョークじゃないさ! 大真面目だよ!」

 ジェイコブはからからと笑って続ける。

「ニッポンの茶の間は安らぎの効果があるという。親密な関係を築くにはもってこいだ」
「そんな馬鹿な……」

 俺はいっそう勢いづいて受話器に縋りつく。

「こ……こんなんで大丈夫なのかよ? あいつに、……小野田にはバレないのか?」
「大丈夫だ。あの宇宙人は耳がよくない……資料に書いてあったろ?」

 資料? そんなもの知らないぞ。何をさも当然みたいな風にいってるんだよ。

「小野田獣座衛門はどうだい?」
「わからない。不気味だ……何も言わないし……何をしてくるかもわからないんだよ」
「それは困ったな。大丈夫だリュウタ。我々もモニター越しに君を見守っているよ。君は一人じゃないんだ。自信を持ってくれよ!」
「……うん」
「オノダのリアクションがないのか……ふぅん、実は過去のオペレーターが残した資料がある」
「え?」
「中には君達オペレーターにしか閲覧できない極秘資料もある、こういっちゃ何だが、君自身が調べて直接オノダに何らかのアクションを働きかけてみてくれ」
「……わかった。やってみるよ」

 俺はトイレから出てくる。小野田を一瞥する。相変わらず微動だにしない。ある意味では安全だけど仕事にならない。茶の間を横切ってウォーキングクロゼットへ向かう。大きな棚には乱雑に投げ捨てられた物々しい分厚いクリアファイルを見つけた。

「なんだよ……これ」

 説明足らずのジェイコブに対して怒りが込み上げてくる。なんでこんな大事なものを地球にいるときに見せてくれないんだよ。用意周到にも、資料は全て日本語翻訳されていた。異常に好奇心を触発される読み物だった。資料は四つのカテゴリーに分類されていた。

1・日常談 2・共有項目 3・非共有項目 4・禁止領域

 俺は《日常談》のカテゴリーのページをめくった。そこには過去のオペレーターの小野田獣座衛門とのファーストコンタクトの軌跡が記されていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...