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セカンドコンタクト ~宇宙人・小野田獣座衛門のこと~
第10話 居心地の悪い六畳間
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ロボットハウス、もとい六畳間の茶の間に俺は立っていた。
そこはまるで日本の民家の一家団欒の場のようだ。ちゃぶ台こたつがあって、テレビがあってテレビ台があってビデオデッキがある。棚はがらんどうだった。六畳間の和室は狭い台所とトイレとウォーキングクローゼットにも接続している。にしても狭かった。宇宙から見たときにはとてもじゃないけどこんな光景想像もつかなかった。なんなんだよこれ。それが素直な印象だ。しかもその場の主がさらに珍妙だ。
小野田獣座衛門という奇妙な名前の宇宙人は、人の姿をしていなかった。
タコとイソギンチャクをミックスした着ぐるみを小人に被せたみたいな。映画《メンインブラック》にも出てこないだろう、へんてこな形の生き物がちゃぶ台のそばに佇んでいる。目や耳は見当たらない。濃い青のヌメヌメした太く長い触腕しか見当たらない。
見るからに宇宙人のそいつは、人間の命を容易く奪う術を持っているらしい。にわかには信じられなかった。俺は宇宙服を脱ぐ。ぷしゅっと音がして、ヘルメットを脱いだ。窮屈だった分、随分と開放的な気分になる。俺は立ったまま話しかけた。
「こんにちは。お……俺は松本隆太っていうんだ。君は日本に滞在してたんだってな!」
「……」
「日本語が……わかるのか? ははは、だったら驚きだけど……」
茶の間のそばには小さな卓上があって、そこに激しく焼け焦げた痕と、丸くなった鉄の塊を見つけた。塊にはコードが繋がってる。それが何のための機械かはわからない。思わずゾッとする。平凡な和室に常軌を逸してる異常な光景。この宇宙人がやったのか。
「あれは……君がやったのか?」
「……」
宇宙人は応答しない。怖い。どうしよう……。俺は焦ってそっぽを見る。それから、隠しカメラが仕掛けられている天井付近を見る。カメラ越しに、管制室から俺達の様子を窺ってるのかな。俺は気を取り直していう。
「俺は……君から話を聞くために、こうしてはるばる宇宙にやってきた! だから君が口を利いてくれないと……困るんだけどな……ははは」
俺はひたすら焦って汗ばむばっかりで、和室の端に立ち竦んでいた。まいったな。宇宙人はずっとちゃぶ台こたつのそばに居て微動だにしない。立ってるのか座ってるのかもわからないけど、少なくともずっとそこにいた。宇宙人に目はなかった。ただ体から床に垂直に伸びた何十本という太い触手があるだけ。今でも実感がわかない。作り物のよう。その時、ギュルルルと、お腹がなった。俺だ。突然腹痛が。俺は宇宙人にいう。
「う……うう、待って、腹が……痛い……ちょっとトイレに……」
俺はトイレを探して、お腹を押さえて六畳間を後にする。最悪だ。最悪の第一印象だ。これが俺と宇宙人、小野田獣座衛門とのファーストコンタクトだったんだ。
「うう……」
俺は普通の洋式便座に個室にうずくまってホッと息をつく。プレッシャーに負けて腹を下してしまった。自分の事ながら情けない……。
その時、色んな疑問符が脳裏を錯綜としていた。あの不気味な怪物体には俺の言葉を聞く”耳”みたいな器官は備わってるんだろうか。最悪ジェスチャーでしか会話できないのかも……いや、”目”がないんだからかえって超高性能の聴覚器官が備わってるのかもしれない。
なんてことをダラダラ考えてたら、突然便座に振動を感じた。俺は怖気だって飛び上がる。そして、一瞬間を置いてハッとして思い出した。
「……そうだ、管制室からだ」
ジェイコブは宇宙人が盗聴や通信を嫌うといった。そのためかロボットハウスと管制室のやり取りは家中に仕掛けられた隠し通信機を使うことになる。面倒だけどこれが獣座衛門に見つかったら大変なことだ。
「リュウタか? 手ごたえはどうだ?」
俺は張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、勢いのままにまくし立てる。
「どうもこうもないぜ。質問だらけだ! 宇宙人よりもこの環境だよ!」
ジェイコブは理解できないようで嘆息した。俺はいう。
「まず、この意味のわからない茶の間のわけを教えてくれ! どういうことなんだよ!?」
「ハハハッ! ジョークじゃないさ! 大真面目だよ!」
ジェイコブはからからと笑って続ける。
「ニッポンの茶の間は安らぎの効果があるという。親密な関係を築くにはもってこいだ」
「そんな馬鹿な……」
俺はいっそう勢いづいて受話器に縋りつく。
「こ……こんなんで大丈夫なのかよ? あいつに、……小野田にはバレないのか?」
「大丈夫だ。あの宇宙人は耳がよくない……資料に書いてあったろ?」
資料? そんなもの知らないぞ。何をさも当然みたいな風にいってるんだよ。
「小野田獣座衛門はどうだい?」
「わからない。不気味だ……何も言わないし……何をしてくるかもわからないんだよ」
「それは困ったな。大丈夫だリュウタ。我々もモニター越しに君を見守っているよ。君は一人じゃないんだ。自信を持ってくれよ!」
「……うん」
「オノダのリアクションがないのか……ふぅん、実は過去のオペレーターが残した資料がある」
「え?」
「中には君達オペレーターにしか閲覧できない極秘資料もある、こういっちゃ何だが、君自身が調べて直接オノダに何らかのアクションを働きかけてみてくれ」
「……わかった。やってみるよ」
俺はトイレから出てくる。小野田を一瞥する。相変わらず微動だにしない。ある意味では安全だけど仕事にならない。茶の間を横切ってウォーキングクロゼットへ向かう。大きな棚には乱雑に投げ捨てられた物々しい分厚いクリアファイルを見つけた。
「なんだよ……これ」
説明足らずのジェイコブに対して怒りが込み上げてくる。なんでこんな大事なものを地球にいるときに見せてくれないんだよ。用意周到にも、資料は全て日本語翻訳されていた。異常に好奇心を触発される読み物だった。資料は四つのカテゴリーに分類されていた。
1・日常談 2・共有項目 3・非共有項目 4・禁止領域
俺は《日常談》のカテゴリーのページをめくった。そこには過去のオペレーターの小野田獣座衛門とのファーストコンタクトの軌跡が記されていたんだ。
そこはまるで日本の民家の一家団欒の場のようだ。ちゃぶ台こたつがあって、テレビがあってテレビ台があってビデオデッキがある。棚はがらんどうだった。六畳間の和室は狭い台所とトイレとウォーキングクローゼットにも接続している。にしても狭かった。宇宙から見たときにはとてもじゃないけどこんな光景想像もつかなかった。なんなんだよこれ。それが素直な印象だ。しかもその場の主がさらに珍妙だ。
小野田獣座衛門という奇妙な名前の宇宙人は、人の姿をしていなかった。
タコとイソギンチャクをミックスした着ぐるみを小人に被せたみたいな。映画《メンインブラック》にも出てこないだろう、へんてこな形の生き物がちゃぶ台のそばに佇んでいる。目や耳は見当たらない。濃い青のヌメヌメした太く長い触腕しか見当たらない。
見るからに宇宙人のそいつは、人間の命を容易く奪う術を持っているらしい。にわかには信じられなかった。俺は宇宙服を脱ぐ。ぷしゅっと音がして、ヘルメットを脱いだ。窮屈だった分、随分と開放的な気分になる。俺は立ったまま話しかけた。
「こんにちは。お……俺は松本隆太っていうんだ。君は日本に滞在してたんだってな!」
「……」
「日本語が……わかるのか? ははは、だったら驚きだけど……」
茶の間のそばには小さな卓上があって、そこに激しく焼け焦げた痕と、丸くなった鉄の塊を見つけた。塊にはコードが繋がってる。それが何のための機械かはわからない。思わずゾッとする。平凡な和室に常軌を逸してる異常な光景。この宇宙人がやったのか。
「あれは……君がやったのか?」
「……」
宇宙人は応答しない。怖い。どうしよう……。俺は焦ってそっぽを見る。それから、隠しカメラが仕掛けられている天井付近を見る。カメラ越しに、管制室から俺達の様子を窺ってるのかな。俺は気を取り直していう。
「俺は……君から話を聞くために、こうしてはるばる宇宙にやってきた! だから君が口を利いてくれないと……困るんだけどな……ははは」
俺はひたすら焦って汗ばむばっかりで、和室の端に立ち竦んでいた。まいったな。宇宙人はずっとちゃぶ台こたつのそばに居て微動だにしない。立ってるのか座ってるのかもわからないけど、少なくともずっとそこにいた。宇宙人に目はなかった。ただ体から床に垂直に伸びた何十本という太い触手があるだけ。今でも実感がわかない。作り物のよう。その時、ギュルルルと、お腹がなった。俺だ。突然腹痛が。俺は宇宙人にいう。
「う……うう、待って、腹が……痛い……ちょっとトイレに……」
俺はトイレを探して、お腹を押さえて六畳間を後にする。最悪だ。最悪の第一印象だ。これが俺と宇宙人、小野田獣座衛門とのファーストコンタクトだったんだ。
「うう……」
俺は普通の洋式便座に個室にうずくまってホッと息をつく。プレッシャーに負けて腹を下してしまった。自分の事ながら情けない……。
その時、色んな疑問符が脳裏を錯綜としていた。あの不気味な怪物体には俺の言葉を聞く”耳”みたいな器官は備わってるんだろうか。最悪ジェスチャーでしか会話できないのかも……いや、”目”がないんだからかえって超高性能の聴覚器官が備わってるのかもしれない。
なんてことをダラダラ考えてたら、突然便座に振動を感じた。俺は怖気だって飛び上がる。そして、一瞬間を置いてハッとして思い出した。
「……そうだ、管制室からだ」
ジェイコブは宇宙人が盗聴や通信を嫌うといった。そのためかロボットハウスと管制室のやり取りは家中に仕掛けられた隠し通信機を使うことになる。面倒だけどこれが獣座衛門に見つかったら大変なことだ。
「リュウタか? 手ごたえはどうだ?」
俺は張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、勢いのままにまくし立てる。
「どうもこうもないぜ。質問だらけだ! 宇宙人よりもこの環境だよ!」
ジェイコブは理解できないようで嘆息した。俺はいう。
「まず、この意味のわからない茶の間のわけを教えてくれ! どういうことなんだよ!?」
「ハハハッ! ジョークじゃないさ! 大真面目だよ!」
ジェイコブはからからと笑って続ける。
「ニッポンの茶の間は安らぎの効果があるという。親密な関係を築くにはもってこいだ」
「そんな馬鹿な……」
俺はいっそう勢いづいて受話器に縋りつく。
「こ……こんなんで大丈夫なのかよ? あいつに、……小野田にはバレないのか?」
「大丈夫だ。あの宇宙人は耳がよくない……資料に書いてあったろ?」
資料? そんなもの知らないぞ。何をさも当然みたいな風にいってるんだよ。
「小野田獣座衛門はどうだい?」
「わからない。不気味だ……何も言わないし……何をしてくるかもわからないんだよ」
「それは困ったな。大丈夫だリュウタ。我々もモニター越しに君を見守っているよ。君は一人じゃないんだ。自信を持ってくれよ!」
「……うん」
「オノダのリアクションがないのか……ふぅん、実は過去のオペレーターが残した資料がある」
「え?」
「中には君達オペレーターにしか閲覧できない極秘資料もある、こういっちゃ何だが、君自身が調べて直接オノダに何らかのアクションを働きかけてみてくれ」
「……わかった。やってみるよ」
俺はトイレから出てくる。小野田を一瞥する。相変わらず微動だにしない。ある意味では安全だけど仕事にならない。茶の間を横切ってウォーキングクロゼットへ向かう。大きな棚には乱雑に投げ捨てられた物々しい分厚いクリアファイルを見つけた。
「なんだよ……これ」
説明足らずのジェイコブに対して怒りが込み上げてくる。なんでこんな大事なものを地球にいるときに見せてくれないんだよ。用意周到にも、資料は全て日本語翻訳されていた。異常に好奇心を触発される読み物だった。資料は四つのカテゴリーに分類されていた。
1・日常談 2・共有項目 3・非共有項目 4・禁止領域
俺は《日常談》のカテゴリーのページをめくった。そこには過去のオペレーターの小野田獣座衛門とのファーストコンタクトの軌跡が記されていたんだ。
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