せっかく異世界転生したのに俺だけ魔法が使えない!!

SiGMa

文字の大きさ
4 / 6
1  雪山から

にかいめ  幸先が良いイケメン

しおりを挟む
外には雪が積もっていて、今も強い風に煽られながら降り続けている。その影響をあまり受けないこの部屋は見るからに木造で、大体六畳ぐらいの広さだ。
さっきまで寝ていたベッド、起きて右を向くと大きな鏡がついたドレッサーがある。他にはベッドの横の間接照明、足を下ろした位置に茶色のブーツ。自分の物は一つもない。
外の様子から、予想内な寒さを感じつつ床に靴下で覆われた足を下ろした。鏡に近づく。同時に相手も近づいてくる。そいつはやはり自分の物ではない服を着ている。白めのタートルネックに焦茶色のノースリーブセーター。シンプルな灰色のスキニー。
服装こそあの立ち絵と違うものの、容姿はどう見てもカッコいいあのキャラクターだ。

この部屋には他に何もない。慎重に部屋を出ようと思う。
自分以外がいた気配がないのでブーツは自分の物だと考え身に付けていくことにした。
ドアノブに手をかけた時、ふと思った。

(もし本当に異世界だとしたら…)

自分の容姿やこの状況が全く変わっているのはこの目で見たが、自分が生きていたあの世界ではなかったから…。

(…)

せっかくならこの人生を、自分の生き方を全て自分好みにしよう。どっちにしろ好きに生きようと思っていたんだから。この先同じような人生を歩むかもしれないし、それよりも厳しい人生になるかもしれない。でもイケメンだし、何か身長高いし、何でも出来そうな気がしてきた。
誰か人に会ったらどうしよう。何か変えなきゃ、今までの自分と変わらない。

例えば…一人称。ずっと憧れていて何度か変えようと思ったことはあるけど、周りの反応が怖くてやめた。同級生、後輩、上司…。慣れるか分からないけどとにかく自信をつけたい。

「俺…は」

例えば、名前。こうなったら前の自分の名前を名乗っていられない。この人生は楽しく、ゲーム感覚で生きる。自分を自分だと思わないようにしよう。

「ビリー…この人生は、絶対」

例えばスタンス。自分に被害が及ばないことが第一だったが、今自分には持ち物も過去もない。自分の嫌なことは嫌と言いたい。時間がちゃんと取れなくて出来なかった自分の趣味も極めたい。

「友達をつくる…!」

なんかとてもダサい。

そういえばここが異世界なら魔法とか特殊能力とか使えるんだろうか。…実際あのキャラクターも使えたし、もしかしてほしい。イケメンだし。

…よし、イケメンな事によって自信がついてきた。毎度、突拍子もなく長時間考え始めるのは良くない癖だと思う。


****


古そうなドアを不本意ながら軋ませて開ける。目の前にはドア、左右に廊下が伸びている。こちらの壁とあちらの壁、合わせて10部屋あるようだ。廊下の右端に行くと下に続く階段。左端も、見ると同じく下に続く階段。
人がいる体で心構えしながら静かに降りていく。暖房があるのか寒さが薄れていく。

…誰もいない。
形跡はあるが、気配がない。外にいるだろうか。
出入り口の扉近くの窓から見るに、ここが一階だろう。
この空間はある程度の人数が飲み食いできそうな数のテーブルと椅子。壁際にも重ねていくつかの椅子がある。左右の階段に挟まれてある仕切り程度のカウンター。その奥には部屋に通じている扉、少し開いている。

部屋数やこの空間を見るに、ここは宿のようだ。

カウンターの奥の扉に近づくが、自分が発する音以外には何も聞こえない。
自然と目に入った、カウンターにおいてあるノートの文字を見た。

「…あ、どうしよう」

文字が違った。想定していなかった。人にあっても言語が違ったらどうしようか。

(いや、でももしかしたら…)

ここがどんな世界かは知らないが、都合のいいことがあってもおかしくない。世界には色々な言語がある。ある程度人が集いそうなこの場所だ。まず始めに人が来るであろうここに、何か…そう。

きらっと光った石があった。カウンターの下の小さい机の紙の下に。

(これだ…これであってくれ!)

手に取ったこれは、ペンダントとして軽く装飾が施されていた。


「…あれ!あんた大丈夫だった?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...