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第一章
結局体でかけりゃ強いのも確か
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さて、さっき僕は攻撃の前兆を見て避けていると言ったけど・・・
当然、僕にそんな「技術」はない。だから攻撃の予測とか出来ない・・・っていうか間に合わない。
ただでさえ高速で戦闘が行われる近距離で、敵が動いてから動き始めていては遅すぎる。
そこで、僕の創った薬の出番だ。
この薬の効果をまとめて言うと、感覚器官の鋭敏化と脳の処理能力の向上。そして脳からの信号伝達速度の高速化、最後に全身の筋肉の連動性の強化である。
まあ、つまりどういうことができるか簡単に言うと・・・
相手の筋肉のどこに力が入っているのか見える。
どこから動かそうとしているのか聞こえる。
まずこれによって相手が体のどこを動かそうとしてるのかがわかる。とはいえ、これは相手が厚着をしていたり環境によって効果は低くなる。
この薬の最大の特徴、それは脳の強化にある。
「では、次の者。前へ。」
それにしても間髪入れずに来るなぁ・・・
次の人は大剣を持ったかなり大柄な男性だ。大柄といってもこの部族では、であり、一般的な鬼人種は彼くらいの大きさが平均だ。武装も鬼人種が好んで使う大剣。あんなもので殴られたら以下略。
・・・これ顎届かなくない?
いやまあ、それならそれでやりようはある。何故か僕の中で顎に対する執着のようなものが生まれ始めていたけど、相手を戦闘不能にさせればいいんだ。
「vanc」
ヴァンク。そう短く名乗ると、彼は大剣を構える。
ヴァンクはバーレンに比べると、力押しで戦うタイプのようだ。
まああれだけ体が大きければそうなるだろう。
もはや余計な駆け引きは不要とばかりに、ヴァンクは大きく踏み込むとその大剣を振り下ろす。鈍重そうな見た目とは裏腹にその斬撃はとても鋭い。怖い。
僕はジェドの時と同様、彼が攻撃に移る段階で既に回避する。
だが・・・暴風のごとき斬撃に、懐に入り込めない。
これこそが鬼人種の真骨頂。近距離戦闘において無類の強さを誇る、攻撃は最大の防御を体現した彼らの戦い方だ。
回避、回避、回避・・・
これが鬼人同士の戦いであればお互いに1歩も引かず切りつけあうか、武器を弾いて隙を作り出すのだが…
僕にそんな力はない。バーレンの時は虚を突いて、しかも盾だったから弾けたがあれでもギリギリだったし。
故にできることは回避のみ。
そう、回避できているのだ。普段の僕にとっては文字通り目にも止まらぬ斬撃。
でも今の僕にはそう、止まって見える。
脳機能の強化。そして信号伝達速度の高速化。
それがもたらす効果は絶大だ。
感覚器官で感知した信号はほぼ0秒で脳に到達し、それの処理もまた一瞬以下の時間で終わる。さらにその副次効果として、情報量を意図的に増やすことで単位時間の情報を圧縮処理できる。まあつまり、スローモーションで見える。
そして脳から出された信号もまたほぼ0秒で体を動かす。
細かく説明するとこんな感じだけど、一言で言えば後出しジャンケンだ。
僕は見てから動いても相手より先に動き出せるし、信号伝達速度が速いおかげで動作のキャンセルも容易。
そして、この動作のキャンセルが地味ながら非常に有用だ。
前に言ったけど、僕はフェイントにことごとく引っかかる。ちょっとでも腕が動いたらそっちに視線が引かれるし、全ての攻撃が致死の一撃だから牽制目的の打撃さえ回避しなきゃいけない。
そんなことしていたらすぐに対応出来るキャパを超える。
しかししなければ相手すら意図していない一撃で死ぬ。
ひどいジレンマだ。だから僕は薬を創る上で、その解消を最優先目的とした。
そしてその成果が、今この状況だ。
「gu,ga,guhuu・・・!」
「ほっ、ふっ、ほいっ」
見えた攻撃の予兆はとりあえず全て避ける。その中で当たるものと当たらないものを選択し、当たらないものに関しては動作をキャンセル。
それにより得た余裕で次の攻撃にも問題なく対処できる。
素晴らしい。さすが僕の『最高傑作』だ。
それに少しづつだけど、僕の体の動きも良くなって来ている。
薬の効果がいよいよ最大に近づいてきたのだ。
では、終わらせよう。舞のようなこの戦いも悪くないが、あいにく僕には時間制限がある。
「ふっ・・・!」
ヴァンクの横なぎの攻撃を、回避ではなくトンファーで受ける。当然普段の僕なら衝撃だけで吹き飛ばされて死だ。でも、今ならその攻撃の力を受け流し、衝撃を利用すらできる。
横向きの衝撃に逆らわず、その勢いさえも力に変えてついに1歩踏み出す。これで、僕も間合いにヴァンクを捉えた。
そしてこの好機を逃すことなく・・・
「はっ!」
最大限に力の乗った一撃を彼の鎖骨に叩き込む。ここがギリギリ届く限界点だ。
鈍い音と共に、僕の手に凄まじい衝撃が返ってくる。痛いなぁ・・・
しかしその成果あり、ヴァンクの右腕は力を失う。
とはいえまだ終わりじゃない。僕はそのまま安全圏となった右腕側から背後に回る。ヴァンクも慌てて振り返るがもう遅い。
僕は全身の筋肉を使って回転し
「よいしょぉー!」
その力を全て込めて彼の膝を後ろから強打する。その予想外の衝撃にヴァンクはたまらず膝を折る。
これでやっと、届く。
回転の流れに逆らわず、左腕側からまた正面に戻る。そこには混乱しきったヴァンクの顔。
そして僕はその顎に、また全力の一撃を叩き込んだ。
クリーンヒット。その一撃でヴァンクは崩れ落ちた。
やっぱり決め手は顎ですよ。
「ふぅ・・・」
全身の筋肉の連動性向上。説明していないこの薬の最後の効果だ。
本来、僕程度の攻撃がクリーンヒットしたところでヴァンクにとっては蚊に刺されたようなものだろう。鬼人種に限らず、僕の攻撃が通用するような相手はほとんどいない。
さっきあの鬼人の女性にも言ったけど、攻撃力の不足は僕にとって一番大きな課題。
それを解決するための方法が、全身の筋肉の連動だ。
武術を嗜む人なら多かれ少なかれやっていることだけど、腕で行う攻撃を脚の筋肉も利用して行うことで威力を上げたりする、そんな技術。
そしてこの薬はそれを少しばかり発展させる。静止状態では大した威力は出ないが、動き回って勢いを乗せた時の運動量を完璧に制御する。つまり、本来自分が出すことの不可能な出力を制御することができる。
これは脳の姿勢保持能力の応用だ。
この効果により、十分な勢いを乗せられれば自分の攻撃力を飛躍的に向上させることが出来る。
更にこれに武器の重さと硬さが合わされば大抵の相手に有効打を与えられる、という訳だ。
・・・ちなみに、攻撃力の強化として身体機能の制限解除も考えたが、あまりに汎用性と継戦能力にかけるので止めておいた。というか作りはしたけど番外試薬レベルの出来だった。
五感の強化、脳の処理能力の強化、信号伝達速度の高速化、そして全身の連動性の向上。
これらの様々の効果を単体で実現し、なおかつ体への負担や依存性を無視できるレベルまで軽減させた。
これこそが僕の最高傑作たるナンバーズの一つ。その名も
第七式統合戦闘強化薬『擬似悪魔化』
ともかく、これで3人目も倒した。恐らくヴァンクはここでも有数の戦士だったんだろう。周りの鬼人達のざわめきも一段と大きい。
しかし、それでも女性に驚いた様子は無い。・・・ほんとに僕が勝つって思ってたのか。どうしてだろう?
「ふふ、ふふふふ・・・期待以上です、シルヴァ・フォーリス。あなたが今降したヴァンクは、この里でも並ぶ物の無い勇士。それをああも圧倒するとは。」
3人目にしてそんな人出てきてたのか・・・
「徐々に強くするって話だったと思うのですが。」
「試合内容によってはもっと小刻みに強くしていくつもりでしたが・・・貴方相手に中途半端な相手を出しても無意味でしょう。ジェドはあれでも新兵の中では優秀ですし、バーレンもまた対人戦闘を得意とする者でした。」
「まあ、そんな感じはしましたね」
特にバーレンは鬼人の中だとかなり珍しいタイプだ。少なくとも、僕は盾を持った鬼人を彼以外に知らない。
「ヴァンクをも倒したとなれば、もはやあなたに敵う兵はいないでしょう。」
「つまり、もう終わりですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。族長とか正直勘弁して欲しい。それに、薬の効果も切れそうだし。
しかし、僕の望みは無駄に品のいい笑いと共に絶たれる。
「何を言っているのですか。最後は族長、と言ったでしょう?」
「ですよね・・・」
許されなかった・・・
まあ、それは良いけど族長はどこにいるんだろう?周りの鬼人の中にヴァンクより大きい人もいないし、遠くからこの闘技場を見られる所にでもいるのかな。
そんなことをぼんやりと思ってた僕の前で、女性がおもむろに頭巾ごと顔の布を外した。
あらわになったのは、腰まで届く美しい銀髪と、それと同じく銀色の双角。そして鬼人としては線の細い輪郭の素顔だ。それによく見ると、肌も他の鬼人に比べると随分と白い。
人種・・・ていうか僕の基準で見ればもの凄い美人だ。
切れ長の目に、スッキリとした鼻と口が気の強そうな印象を与えているが、2本の美しい角と相まってそれがまた神秘的な雰囲気にもなっている。
それぞれのパーツのバランスも綺麗に左右対称であり、間違いなく僕が今まで見てきた女性の中でも一番美しい。
それに先程までは分からなかったけど・・・
鬼人種の中では小柄とはいえ、僕よりも少し高い身長は彼女の鋭い剣のような美しさをさらに強めている。
ローブのような服を来ているため体型は良く分からないが、外に出ている腕は鬼人とは思えない程細い。
もちろんそれでも僕より力は強いだろうし、筋肉が少ないというわけでもないだろうけど。
いずれにしても、控えめに言ってどストライク。
でも、屈強な女性を好む鬼人種の好みには合わなそうでもある。
髪の長さも、近距離戦を得意とする種族の為か女性も短髪の人が多い。そう考えると、この長髪も鬼人にはあまり人気が無さそうだ。
とはいえ、女性の髪は魔法の触媒として優秀なため魔法に適性のある女の人は髪が長いことが多いから特に変なことは無いけど。
突然そんな顔をあらわにした女性に、僕はさすがに戸惑う。恥ずかしながら、一人旅が長いせいでこの手の刺激に免疫が無いんだよね・・・
「こ、これは・・・その、なんというか、とてもお綺麗ですね。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
やばい、笑顔の破壊力強すぎる。
ていうか僕、一応さっきまで余裕あるように振舞ってたくせに、急に挙動不審になりすぎでは?
交渉ってことなら相手がどんな見た目でも気にならないんだけど・・・普通に関わるとなるとそうもいかない。
いかん、話を進めよう。
「で、では次は族長さんですね。薬の効果もそんなに長くはないですし、はやくはじめましょう。」
やりたくないとか言っといてあれだけど、こうなったら早く来てくれ・・・!
そんなふうに挙動不審な僕の前で。
女性は鷹揚に頷く。
「ええ、では始めましょう。構えなさい、シルヴァ・フォーリス。」
「・・・・・・・・・・え?」
え?
当然、僕にそんな「技術」はない。だから攻撃の予測とか出来ない・・・っていうか間に合わない。
ただでさえ高速で戦闘が行われる近距離で、敵が動いてから動き始めていては遅すぎる。
そこで、僕の創った薬の出番だ。
この薬の効果をまとめて言うと、感覚器官の鋭敏化と脳の処理能力の向上。そして脳からの信号伝達速度の高速化、最後に全身の筋肉の連動性の強化である。
まあ、つまりどういうことができるか簡単に言うと・・・
相手の筋肉のどこに力が入っているのか見える。
どこから動かそうとしているのか聞こえる。
まずこれによって相手が体のどこを動かそうとしてるのかがわかる。とはいえ、これは相手が厚着をしていたり環境によって効果は低くなる。
この薬の最大の特徴、それは脳の強化にある。
「では、次の者。前へ。」
それにしても間髪入れずに来るなぁ・・・
次の人は大剣を持ったかなり大柄な男性だ。大柄といってもこの部族では、であり、一般的な鬼人種は彼くらいの大きさが平均だ。武装も鬼人種が好んで使う大剣。あんなもので殴られたら以下略。
・・・これ顎届かなくない?
いやまあ、それならそれでやりようはある。何故か僕の中で顎に対する執着のようなものが生まれ始めていたけど、相手を戦闘不能にさせればいいんだ。
「vanc」
ヴァンク。そう短く名乗ると、彼は大剣を構える。
ヴァンクはバーレンに比べると、力押しで戦うタイプのようだ。
まああれだけ体が大きければそうなるだろう。
もはや余計な駆け引きは不要とばかりに、ヴァンクは大きく踏み込むとその大剣を振り下ろす。鈍重そうな見た目とは裏腹にその斬撃はとても鋭い。怖い。
僕はジェドの時と同様、彼が攻撃に移る段階で既に回避する。
だが・・・暴風のごとき斬撃に、懐に入り込めない。
これこそが鬼人種の真骨頂。近距離戦闘において無類の強さを誇る、攻撃は最大の防御を体現した彼らの戦い方だ。
回避、回避、回避・・・
これが鬼人同士の戦いであればお互いに1歩も引かず切りつけあうか、武器を弾いて隙を作り出すのだが…
僕にそんな力はない。バーレンの時は虚を突いて、しかも盾だったから弾けたがあれでもギリギリだったし。
故にできることは回避のみ。
そう、回避できているのだ。普段の僕にとっては文字通り目にも止まらぬ斬撃。
でも今の僕にはそう、止まって見える。
脳機能の強化。そして信号伝達速度の高速化。
それがもたらす効果は絶大だ。
感覚器官で感知した信号はほぼ0秒で脳に到達し、それの処理もまた一瞬以下の時間で終わる。さらにその副次効果として、情報量を意図的に増やすことで単位時間の情報を圧縮処理できる。まあつまり、スローモーションで見える。
そして脳から出された信号もまたほぼ0秒で体を動かす。
細かく説明するとこんな感じだけど、一言で言えば後出しジャンケンだ。
僕は見てから動いても相手より先に動き出せるし、信号伝達速度が速いおかげで動作のキャンセルも容易。
そして、この動作のキャンセルが地味ながら非常に有用だ。
前に言ったけど、僕はフェイントにことごとく引っかかる。ちょっとでも腕が動いたらそっちに視線が引かれるし、全ての攻撃が致死の一撃だから牽制目的の打撃さえ回避しなきゃいけない。
そんなことしていたらすぐに対応出来るキャパを超える。
しかししなければ相手すら意図していない一撃で死ぬ。
ひどいジレンマだ。だから僕は薬を創る上で、その解消を最優先目的とした。
そしてその成果が、今この状況だ。
「gu,ga,guhuu・・・!」
「ほっ、ふっ、ほいっ」
見えた攻撃の予兆はとりあえず全て避ける。その中で当たるものと当たらないものを選択し、当たらないものに関しては動作をキャンセル。
それにより得た余裕で次の攻撃にも問題なく対処できる。
素晴らしい。さすが僕の『最高傑作』だ。
それに少しづつだけど、僕の体の動きも良くなって来ている。
薬の効果がいよいよ最大に近づいてきたのだ。
では、終わらせよう。舞のようなこの戦いも悪くないが、あいにく僕には時間制限がある。
「ふっ・・・!」
ヴァンクの横なぎの攻撃を、回避ではなくトンファーで受ける。当然普段の僕なら衝撃だけで吹き飛ばされて死だ。でも、今ならその攻撃の力を受け流し、衝撃を利用すらできる。
横向きの衝撃に逆らわず、その勢いさえも力に変えてついに1歩踏み出す。これで、僕も間合いにヴァンクを捉えた。
そしてこの好機を逃すことなく・・・
「はっ!」
最大限に力の乗った一撃を彼の鎖骨に叩き込む。ここがギリギリ届く限界点だ。
鈍い音と共に、僕の手に凄まじい衝撃が返ってくる。痛いなぁ・・・
しかしその成果あり、ヴァンクの右腕は力を失う。
とはいえまだ終わりじゃない。僕はそのまま安全圏となった右腕側から背後に回る。ヴァンクも慌てて振り返るがもう遅い。
僕は全身の筋肉を使って回転し
「よいしょぉー!」
その力を全て込めて彼の膝を後ろから強打する。その予想外の衝撃にヴァンクはたまらず膝を折る。
これでやっと、届く。
回転の流れに逆らわず、左腕側からまた正面に戻る。そこには混乱しきったヴァンクの顔。
そして僕はその顎に、また全力の一撃を叩き込んだ。
クリーンヒット。その一撃でヴァンクは崩れ落ちた。
やっぱり決め手は顎ですよ。
「ふぅ・・・」
全身の筋肉の連動性向上。説明していないこの薬の最後の効果だ。
本来、僕程度の攻撃がクリーンヒットしたところでヴァンクにとっては蚊に刺されたようなものだろう。鬼人種に限らず、僕の攻撃が通用するような相手はほとんどいない。
さっきあの鬼人の女性にも言ったけど、攻撃力の不足は僕にとって一番大きな課題。
それを解決するための方法が、全身の筋肉の連動だ。
武術を嗜む人なら多かれ少なかれやっていることだけど、腕で行う攻撃を脚の筋肉も利用して行うことで威力を上げたりする、そんな技術。
そしてこの薬はそれを少しばかり発展させる。静止状態では大した威力は出ないが、動き回って勢いを乗せた時の運動量を完璧に制御する。つまり、本来自分が出すことの不可能な出力を制御することができる。
これは脳の姿勢保持能力の応用だ。
この効果により、十分な勢いを乗せられれば自分の攻撃力を飛躍的に向上させることが出来る。
更にこれに武器の重さと硬さが合わされば大抵の相手に有効打を与えられる、という訳だ。
・・・ちなみに、攻撃力の強化として身体機能の制限解除も考えたが、あまりに汎用性と継戦能力にかけるので止めておいた。というか作りはしたけど番外試薬レベルの出来だった。
五感の強化、脳の処理能力の強化、信号伝達速度の高速化、そして全身の連動性の向上。
これらの様々の効果を単体で実現し、なおかつ体への負担や依存性を無視できるレベルまで軽減させた。
これこそが僕の最高傑作たるナンバーズの一つ。その名も
第七式統合戦闘強化薬『擬似悪魔化』
ともかく、これで3人目も倒した。恐らくヴァンクはここでも有数の戦士だったんだろう。周りの鬼人達のざわめきも一段と大きい。
しかし、それでも女性に驚いた様子は無い。・・・ほんとに僕が勝つって思ってたのか。どうしてだろう?
「ふふ、ふふふふ・・・期待以上です、シルヴァ・フォーリス。あなたが今降したヴァンクは、この里でも並ぶ物の無い勇士。それをああも圧倒するとは。」
3人目にしてそんな人出てきてたのか・・・
「徐々に強くするって話だったと思うのですが。」
「試合内容によってはもっと小刻みに強くしていくつもりでしたが・・・貴方相手に中途半端な相手を出しても無意味でしょう。ジェドはあれでも新兵の中では優秀ですし、バーレンもまた対人戦闘を得意とする者でした。」
「まあ、そんな感じはしましたね」
特にバーレンは鬼人の中だとかなり珍しいタイプだ。少なくとも、僕は盾を持った鬼人を彼以外に知らない。
「ヴァンクをも倒したとなれば、もはやあなたに敵う兵はいないでしょう。」
「つまり、もう終わりですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。族長とか正直勘弁して欲しい。それに、薬の効果も切れそうだし。
しかし、僕の望みは無駄に品のいい笑いと共に絶たれる。
「何を言っているのですか。最後は族長、と言ったでしょう?」
「ですよね・・・」
許されなかった・・・
まあ、それは良いけど族長はどこにいるんだろう?周りの鬼人の中にヴァンクより大きい人もいないし、遠くからこの闘技場を見られる所にでもいるのかな。
そんなことをぼんやりと思ってた僕の前で、女性がおもむろに頭巾ごと顔の布を外した。
あらわになったのは、腰まで届く美しい銀髪と、それと同じく銀色の双角。そして鬼人としては線の細い輪郭の素顔だ。それによく見ると、肌も他の鬼人に比べると随分と白い。
人種・・・ていうか僕の基準で見ればもの凄い美人だ。
切れ長の目に、スッキリとした鼻と口が気の強そうな印象を与えているが、2本の美しい角と相まってそれがまた神秘的な雰囲気にもなっている。
それぞれのパーツのバランスも綺麗に左右対称であり、間違いなく僕が今まで見てきた女性の中でも一番美しい。
それに先程までは分からなかったけど・・・
鬼人種の中では小柄とはいえ、僕よりも少し高い身長は彼女の鋭い剣のような美しさをさらに強めている。
ローブのような服を来ているため体型は良く分からないが、外に出ている腕は鬼人とは思えない程細い。
もちろんそれでも僕より力は強いだろうし、筋肉が少ないというわけでもないだろうけど。
いずれにしても、控えめに言ってどストライク。
でも、屈強な女性を好む鬼人種の好みには合わなそうでもある。
髪の長さも、近距離戦を得意とする種族の為か女性も短髪の人が多い。そう考えると、この長髪も鬼人にはあまり人気が無さそうだ。
とはいえ、女性の髪は魔法の触媒として優秀なため魔法に適性のある女の人は髪が長いことが多いから特に変なことは無いけど。
突然そんな顔をあらわにした女性に、僕はさすがに戸惑う。恥ずかしながら、一人旅が長いせいでこの手の刺激に免疫が無いんだよね・・・
「こ、これは・・・その、なんというか、とてもお綺麗ですね。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
やばい、笑顔の破壊力強すぎる。
ていうか僕、一応さっきまで余裕あるように振舞ってたくせに、急に挙動不審になりすぎでは?
交渉ってことなら相手がどんな見た目でも気にならないんだけど・・・普通に関わるとなるとそうもいかない。
いかん、話を進めよう。
「で、では次は族長さんですね。薬の効果もそんなに長くはないですし、はやくはじめましょう。」
やりたくないとか言っといてあれだけど、こうなったら早く来てくれ・・・!
そんなふうに挙動不審な僕の前で。
女性は鷹揚に頷く。
「ええ、では始めましょう。構えなさい、シルヴァ・フォーリス。」
「・・・・・・・・・・え?」
え?
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