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第一章
男も女も、意地張るときは命も張る
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またしても間抜けな顔を晒してしまった僕。でも仕方なく無い?どんな凄まじい理由があるのかと思ったら婚活だよ?
いやそりゃ本人からしたら聖戦かも知れないけども。
紛うことなき私情じゃん。ジェド達が気の毒な気がしてきた・・・
それに、その理論だと僕を狙ってることになるよね?しかもあの口ぶりからだと、僕がそれなりに戦えることを知っているみたいだったし・・・うん、ダメだわかんない。
「えっと、まあ伴侶を見つけるのは良いんですけど、それと戦うことになんの関係があるのですか?」
「決まっているでしょう。私の夫ということはこの里で私と同じ立場になるということ。であれば少なくとも、私以外の者よりは強くなくてはなりません。」
「な、なるほど?」
まあ、それは分かる。いやわかんないけどそういうものだと言われたら納得するしかない。
「でも、ヒルダさんははじめから僕がある程度戦えることがわかっていたみたいですよね?どうしてですか?」
僕がヴァンクを倒した時でさえ驚いた様子はなかった。それはつまり、僕がヴァンクに勝つことを想定していたということだ。
でも、自分で言うのもなんだけど僕は決して強そうには見えない。種族もそうだし、その気になれば上位元素を視認できる鬼神種ならば僕が微塵も上位元素を持っていないことがわかっただろう。
では、何故彼女は僕をあそこまで買っていたのか。
「そうですね・・・信じ難いことに、あなたは上位元素の適性が全くありませんね?」
「ええ、まあ。」
やっぱりわかってたのか。
ヒルダさんのその言葉を聞いて、周りの鬼人達がどよめく。まあ、確かに彼らからしたら信じられないことかも知れないけど。上位元素の適性が無いことそのものより、そんな相手に自分達の中でも最強の戦士が敗れたことが、だろうけど。
「しかし、そうでありながらあなたはこんな山奥まで1人で来た。率直に言って自殺行為でしょう。普通ならただの愚か者です。」
「それは・・・そうですね。」
「しかし、あなたは違った。この里1番の射手であるヴェルフラムの射撃を三度も躱し、更に反撃。そして、一般には馴染みのない私達の言語を操り交渉してこの里に来た。今だから言えることではありますが、ヴァンクを降したあなたほどの力があれば、警告無しに攻撃してきた相手を殺すことなど、造作もなかったはずなのに。
故にあなたは単なる愚か者などではない。思慮深く高い教養を持っており、上位元素に頼らずとも一人旅ができるような強者である。そう判断したのです。」
・・・まあ、確かにやろうと思えば殺れた。でも、それをしなかったのは別に寛容さとかじゃなくて、他に目的があったからだからなぁ・・・そこまで持ち上げられると居心地が悪い。
「つまり、僕が一人旅をできる程度に力を持っていることはわかっていたから、更にどれくらい強いか知るために皆さんと戦わせた、ということですか?」
「いえ。あなたがただの鬼人などに負けることなど無いことは分かっていました。
あの戦いは本当に力を示すためのもの。しかしその相手は私ではなく、この場にいる全ての鬼人達です。」
うーん、まあなんとなく言いたいことはわかる。きっと彼女は上位種特有の慧眼で僕の力がわかっていたのだと思う。
でもそれ以外の鬼人からすれば、僕はただの脆弱な人種 (まあその通りなんだけども)なのでその下につくのなんてごめんだろう。
そこで手っ取り早く周囲に認めさせる為にこんな荒っぽい手段をとったのだろう。
言いたいことはわかるけど完全に彼女の都合だよなぁ。なにか事情はあるんだろうけど。
とはいえいろいろ分かってきた。でももう一つだけ、気になることがある。本当に戦うかはともかく、これを聞かないと納得は出来ない。
「ある程度話は分かりましたが・・・最後に一つだけ聞いても良いですか?」
「構いませんよ。それで憂いなく戦えると言うのなら。」
お許しが出たので、遠慮なく聞こう。先ほど彼女は、自分の夫となるものは自分以外の誰よりも強くなければならない、と。
それならば。
「伴侶って鬼人のなかで一番強い人じゃダメなんですか?それこそヴァンクとか・・・」
外部から来るかも分からない夫候補を探すより、よっぽどそっちの方が自然な気がするけど・・・
僕の至極真っ当な問いに、しかし彼女はあっさり首を振る。
「いえ、それはありえません。」
「それはまたどうして・・・」
「だって、鬼人は筋肉質すぎるじゃないですか。それに私より大きいし・・・何よりかわいくありませんし、粗暴です。私より弱いのは良いんです。でもだからこそ守ってあげたくなるような、それでいて思慮深く欲を言えば私を甘やかしてくれるような相手が良いんです。その点で言えばシルヴァ・フォーリス。あなたは言うことなしです。」
「・・・・・・・・え?」
「それに私のことを見て綺麗と言ってくれたのはあなたがはじめてです。私自身は外見に自信があったのですが、鬼人の琴線には触れないようでして・・・みな敬ってはくれるのですがちやほやしてくれないのです。」
「いや、あの・・・」
熱に浮かされたような目をしたヒルダさんから、怒涛の勢いで語られる理由に僕の対応力はパンクする。僕は鬼人じゃダメか聞いただけなのに途中からどんどん話が逸れていく。
「最初はなんとなくありかなって程度でしたが、今はもうあなたが欲しくてたまりません。今後あなたのような人が現れる保証なんてありませんし、あなた以上が現れる可能性なんて皆無に等しいでしょう。
いや、違います。そんな打算はどうでもいいのです。
誰よりも弱く生まれながら、それほどの力を得たあなたはきっと私の想像もつかないような苦労をしてきたのでしょう。
それでもあなたは擦れることも腐ることも無くただ己を磨き続けた。あなたが戦いの前に私達の言葉でジェドに名を聞いたあの時、あの瞬間の感動は言葉に表せるようなものではありません。
その気高き意思に、そして折れることなき覚悟に、私は惚れ込んでしまいました。
そう、だから私はあなたを伴侶とします。もう決めたのです。戦って、気絶させてでも私の下に来てもらいます。
決して、逃がしませんよ」
・・・お、思い込みが激しすぎる!
こんな美人にそんなに想われて嬉しいけど半分以上彼女の主観だ・・・!
・・・まあ、とはいえ。
彼女が僕を認めてくれた、その言葉に僕は正直だいぶぐらついた。
そもそも僕は、僕を弱者と軽んじない人に弱い。それだけでほぼ無条件で好意を抱いてしまう。その上彼女は僕が弱さに抗うために足掻いてきたことを、ほとんど何も聞かずに分かってくれた。
途方もなく、魅力的な女性だ。
恐らく、僕が彼女の求婚を受け入れれば戦う必要も無くなるだろう。
きっと彼女も、こんな方法で僕が受け入れてくれるとは思っていないから、自分と戦えと言っているんだろう。本当に気絶させて、それからゆっくりと距離を詰める。そんなところかな。
そんな強硬手段をとる理由もわかる。
だって、僕は「旅の」薬師。目的を果たせば、この里から去っていく者だ。そしてそれは、言葉では止められないことも分かっているんだろう。
だから彼女は最後に言ったのだ。
逃がさない、と。言葉は乱暴だが、さすがにここまで言われれば察しの悪い僕でも彼女の本音はわかる。
つまり、「行かないで」、だ。
ああ、本当に彼女は思い込みが激しいみたいだ。僕はまだ来たばかりで、いなくなるどころかいつ帰るかすら決めてない。
だけど。僕達はお互いのことを何も知らないはずなのに。
どうしようもないほど、彼女の思いが、想いが伝わってくる。
これを無碍にできるほど、僕は大人じゃない。
でも。このまま彼女を受け入れる訳にはいかない。それはつまり、彼女の言った「あの言葉」を認めることになるからだ。
「ありがとうございます、ヒルダさん。あなたにそこまで想われていること、とても嬉しく思います。」
「そ、それなら!」
僕の言葉に、ヒルダさんは表情を弾ませる。その表情にまた心を揺さぶられる。
でも僕は、静かに小さく首を振る。
「ですが、このままではあなたの想いを受け入れることはできません。」
「っ、そう、ですか。そうですよね。ですが私は、あなたを諦めるつもりはありません・・・!」
ヒルダさんは一瞬だけ悲しそうに顔を歪めるが、すぐに表情を引き締める。先の言葉通り、気絶させるつもりなのだろう。きっと彼女ほどの存在ならば、僕を殺さないようにすることも容易だろう。
でも、やっぱり彼女は思い込みが激しい。
僕はまだ、言葉を伝え終えてはいない。だから、気絶させられる訳にはいかない。
「違いますよ、ヒルダさん。僕はこのままでは、と言ったのです。」
「・・・どういうこと、ですか?」
僕は正直、彼女の想いに応えても良いと思ってる。旅の理由はより強い力を得るためだけど、それは手段であって目的ではない。
僕の目的は究極的には己の尊厳を守ることだ。それは弱者であるが故の意地だったが、なにも世界中全ての人にシルヴァ・フォーリスここにありと示したいわけじゃない。僕を認め、求めてくれる人がいるのならその人と共に生きていくことはきっと幸せなことだ。
でも、僕は今までの人生を、この意地を曲げるような道は断じて選べない。
ああ、彼女は間違いなく僕を認めてくれている。鬼人達も、決して僕を軽んじはしないだろう。
だけど。
「ヒルダさん、あなたは先程言いましたね。『自分より弱いのは構わない』。『守ってあげたくなる』、と」
「・・・・・・え?」
それは、きっと、彼女の中ではそんなに重要じゃないこと。その後の言葉の方が、ずっと大事だったんだろう。
でも、僕は決してその言葉を容認できない。
「僕は、ただ自分の在り方を自分自身に示すために力を求めた。この生き方は、誰のためでもなければ、まして誰かのせいでもない。」
「・・・・・・・・」
「だから旅を辞めるのも、力を求めるのを辞めるのも誰にはばかる必要も無い。だけど。」
僕は背負ってきていた――――戦闘前に隅に置いていた――――荷物に近づき、バックパックを開く。
そして、その中から掛け値無しの『切り札』を取り出す。
「弱さを容認することだけは、他ならない僕が許さない。」
「っ!」
ヒルダさんが息を飲む。
理由は分からない。僕の言葉を聞いたからかもしれないし、僕の表情を見たからかもしれない。
察しの悪い僕には、本当のとこは分からない。
でも、構わない。
いつだって、僕にできることは力を示すことだけだ。
「だから、ちゃんと戦いましょう。手加減をしたあなたに倒されて、その弱さを容認して、そしてぬるま湯のような幸福に浸る・・・そんなのは、嫌なんです。」
根拠はない。でも、不思議と確信がある。今の僕は彼女のことを何も知らないけど、きっと彼女と一緒になれば死ぬまで幸福でいられる。時々喧嘩して、それでも互いを尊重して・・・そんな理想的な関係が築ける。
でも、僕の意地はその未来に待ったをかける。
「でも、あなたの力では例え『神成り』を使わずとも私には勝てない!それはさっきの戦いをしたあなたが一番よく分かってるでしょう!」
ヒルダさんが声を荒らげる。
僕が言ってることの意味がわからないんだろう。それも仕方ない。
「ええ。でも、だからこそやりたいんです。確定していない未来になら、抗える。」
そう言いながら、僕は「準備」を始める。さっきも言ったけど、僕はどんな相手でも諦める気も負けを認める気もない。
普通にやって勝てないなら、それ相応の準備をするだけだ。
「僕はまだ全てを出し切ってはいない。だからどうか、僕に力を示す機会をください。今度は周りの皆さんにでも、そして僕自身にでもなく、貴女に。」
それが出来なきゃ、僕は彼女の隣に立てない。
だから、今できる全てを尽くす。
最高を超えた狂気で、常識を、限界を、殺す。
「殺す気で来てください、ヒルダさん。僕はそのうえで、あなたに僕を・・・『シルヴァ・フォーリス』を認めさせてみせる。」
「わ、私は既にあなたを・・・」
「くどいです」
僕はそう言って笑う。そもそもこの戦いは彼女の事情で始まったんだ。だったら少しくらい、僕の意地を尊重してくれてもいいだろう。
でも、やっぱりまだ迷っているみたいだ。まあ、そりゃそうだろう。下手したら僕は、彼女の呼吸ひとつで消し飛ぶ。僕と彼女は、それくらい生き物としての格が違う。そんな相手に殺す気で来いと言われてもそりゃ二の足を踏む。
だったら、先に僕が力と覚悟を見せよう。
僕が先程取り出した『切り札』・・・。それは二粒の錠剤と、特殊な無針注射器の中に入った液体薬剤。
僕はその錠剤を口に含み、そして注射器を首に当てる。
擬似悪魔化が僕の最高傑作だとしたら。
今から使うこれらは、狂気の産物だ。
無針注射器の引き金を引く。それと同時に、液体が全身に行き渡って行く。
「ぐぅっ・・・!」
全身に酷い倦怠感と、鈍い痛み。体が拒否しているのがわかる、凄まじい副作用。
でも、これは番外試薬では無い。れっきとしたナンバーズだ。
体の痛みなどの即時的な副作用と、強い依存性。およそまともな人間が使うものでは無いが、仕方ない。
これは副作用及び依存性の軽減といった、「余計なもの」を全て削ぎ落とし、演算能力と身体能力を飛躍的に向上させる僕の切り札。その名も
第十三式特化戦闘強化薬 『神殺権』
これは、神をも殺す人間の傲慢だ。
いやそりゃ本人からしたら聖戦かも知れないけども。
紛うことなき私情じゃん。ジェド達が気の毒な気がしてきた・・・
それに、その理論だと僕を狙ってることになるよね?しかもあの口ぶりからだと、僕がそれなりに戦えることを知っているみたいだったし・・・うん、ダメだわかんない。
「えっと、まあ伴侶を見つけるのは良いんですけど、それと戦うことになんの関係があるのですか?」
「決まっているでしょう。私の夫ということはこの里で私と同じ立場になるということ。であれば少なくとも、私以外の者よりは強くなくてはなりません。」
「な、なるほど?」
まあ、それは分かる。いやわかんないけどそういうものだと言われたら納得するしかない。
「でも、ヒルダさんははじめから僕がある程度戦えることがわかっていたみたいですよね?どうしてですか?」
僕がヴァンクを倒した時でさえ驚いた様子はなかった。それはつまり、僕がヴァンクに勝つことを想定していたということだ。
でも、自分で言うのもなんだけど僕は決して強そうには見えない。種族もそうだし、その気になれば上位元素を視認できる鬼神種ならば僕が微塵も上位元素を持っていないことがわかっただろう。
では、何故彼女は僕をあそこまで買っていたのか。
「そうですね・・・信じ難いことに、あなたは上位元素の適性が全くありませんね?」
「ええ、まあ。」
やっぱりわかってたのか。
ヒルダさんのその言葉を聞いて、周りの鬼人達がどよめく。まあ、確かに彼らからしたら信じられないことかも知れないけど。上位元素の適性が無いことそのものより、そんな相手に自分達の中でも最強の戦士が敗れたことが、だろうけど。
「しかし、そうでありながらあなたはこんな山奥まで1人で来た。率直に言って自殺行為でしょう。普通ならただの愚か者です。」
「それは・・・そうですね。」
「しかし、あなたは違った。この里1番の射手であるヴェルフラムの射撃を三度も躱し、更に反撃。そして、一般には馴染みのない私達の言語を操り交渉してこの里に来た。今だから言えることではありますが、ヴァンクを降したあなたほどの力があれば、警告無しに攻撃してきた相手を殺すことなど、造作もなかったはずなのに。
故にあなたは単なる愚か者などではない。思慮深く高い教養を持っており、上位元素に頼らずとも一人旅ができるような強者である。そう判断したのです。」
・・・まあ、確かにやろうと思えば殺れた。でも、それをしなかったのは別に寛容さとかじゃなくて、他に目的があったからだからなぁ・・・そこまで持ち上げられると居心地が悪い。
「つまり、僕が一人旅をできる程度に力を持っていることはわかっていたから、更にどれくらい強いか知るために皆さんと戦わせた、ということですか?」
「いえ。あなたがただの鬼人などに負けることなど無いことは分かっていました。
あの戦いは本当に力を示すためのもの。しかしその相手は私ではなく、この場にいる全ての鬼人達です。」
うーん、まあなんとなく言いたいことはわかる。きっと彼女は上位種特有の慧眼で僕の力がわかっていたのだと思う。
でもそれ以外の鬼人からすれば、僕はただの脆弱な人種 (まあその通りなんだけども)なのでその下につくのなんてごめんだろう。
そこで手っ取り早く周囲に認めさせる為にこんな荒っぽい手段をとったのだろう。
言いたいことはわかるけど完全に彼女の都合だよなぁ。なにか事情はあるんだろうけど。
とはいえいろいろ分かってきた。でももう一つだけ、気になることがある。本当に戦うかはともかく、これを聞かないと納得は出来ない。
「ある程度話は分かりましたが・・・最後に一つだけ聞いても良いですか?」
「構いませんよ。それで憂いなく戦えると言うのなら。」
お許しが出たので、遠慮なく聞こう。先ほど彼女は、自分の夫となるものは自分以外の誰よりも強くなければならない、と。
それならば。
「伴侶って鬼人のなかで一番強い人じゃダメなんですか?それこそヴァンクとか・・・」
外部から来るかも分からない夫候補を探すより、よっぽどそっちの方が自然な気がするけど・・・
僕の至極真っ当な問いに、しかし彼女はあっさり首を振る。
「いえ、それはありえません。」
「それはまたどうして・・・」
「だって、鬼人は筋肉質すぎるじゃないですか。それに私より大きいし・・・何よりかわいくありませんし、粗暴です。私より弱いのは良いんです。でもだからこそ守ってあげたくなるような、それでいて思慮深く欲を言えば私を甘やかしてくれるような相手が良いんです。その点で言えばシルヴァ・フォーリス。あなたは言うことなしです。」
「・・・・・・・・え?」
「それに私のことを見て綺麗と言ってくれたのはあなたがはじめてです。私自身は外見に自信があったのですが、鬼人の琴線には触れないようでして・・・みな敬ってはくれるのですがちやほやしてくれないのです。」
「いや、あの・・・」
熱に浮かされたような目をしたヒルダさんから、怒涛の勢いで語られる理由に僕の対応力はパンクする。僕は鬼人じゃダメか聞いただけなのに途中からどんどん話が逸れていく。
「最初はなんとなくありかなって程度でしたが、今はもうあなたが欲しくてたまりません。今後あなたのような人が現れる保証なんてありませんし、あなた以上が現れる可能性なんて皆無に等しいでしょう。
いや、違います。そんな打算はどうでもいいのです。
誰よりも弱く生まれながら、それほどの力を得たあなたはきっと私の想像もつかないような苦労をしてきたのでしょう。
それでもあなたは擦れることも腐ることも無くただ己を磨き続けた。あなたが戦いの前に私達の言葉でジェドに名を聞いたあの時、あの瞬間の感動は言葉に表せるようなものではありません。
その気高き意思に、そして折れることなき覚悟に、私は惚れ込んでしまいました。
そう、だから私はあなたを伴侶とします。もう決めたのです。戦って、気絶させてでも私の下に来てもらいます。
決して、逃がしませんよ」
・・・お、思い込みが激しすぎる!
こんな美人にそんなに想われて嬉しいけど半分以上彼女の主観だ・・・!
・・・まあ、とはいえ。
彼女が僕を認めてくれた、その言葉に僕は正直だいぶぐらついた。
そもそも僕は、僕を弱者と軽んじない人に弱い。それだけでほぼ無条件で好意を抱いてしまう。その上彼女は僕が弱さに抗うために足掻いてきたことを、ほとんど何も聞かずに分かってくれた。
途方もなく、魅力的な女性だ。
恐らく、僕が彼女の求婚を受け入れれば戦う必要も無くなるだろう。
きっと彼女も、こんな方法で僕が受け入れてくれるとは思っていないから、自分と戦えと言っているんだろう。本当に気絶させて、それからゆっくりと距離を詰める。そんなところかな。
そんな強硬手段をとる理由もわかる。
だって、僕は「旅の」薬師。目的を果たせば、この里から去っていく者だ。そしてそれは、言葉では止められないことも分かっているんだろう。
だから彼女は最後に言ったのだ。
逃がさない、と。言葉は乱暴だが、さすがにここまで言われれば察しの悪い僕でも彼女の本音はわかる。
つまり、「行かないで」、だ。
ああ、本当に彼女は思い込みが激しいみたいだ。僕はまだ来たばかりで、いなくなるどころかいつ帰るかすら決めてない。
だけど。僕達はお互いのことを何も知らないはずなのに。
どうしようもないほど、彼女の思いが、想いが伝わってくる。
これを無碍にできるほど、僕は大人じゃない。
でも。このまま彼女を受け入れる訳にはいかない。それはつまり、彼女の言った「あの言葉」を認めることになるからだ。
「ありがとうございます、ヒルダさん。あなたにそこまで想われていること、とても嬉しく思います。」
「そ、それなら!」
僕の言葉に、ヒルダさんは表情を弾ませる。その表情にまた心を揺さぶられる。
でも僕は、静かに小さく首を振る。
「ですが、このままではあなたの想いを受け入れることはできません。」
「っ、そう、ですか。そうですよね。ですが私は、あなたを諦めるつもりはありません・・・!」
ヒルダさんは一瞬だけ悲しそうに顔を歪めるが、すぐに表情を引き締める。先の言葉通り、気絶させるつもりなのだろう。きっと彼女ほどの存在ならば、僕を殺さないようにすることも容易だろう。
でも、やっぱり彼女は思い込みが激しい。
僕はまだ、言葉を伝え終えてはいない。だから、気絶させられる訳にはいかない。
「違いますよ、ヒルダさん。僕はこのままでは、と言ったのです。」
「・・・どういうこと、ですか?」
僕は正直、彼女の想いに応えても良いと思ってる。旅の理由はより強い力を得るためだけど、それは手段であって目的ではない。
僕の目的は究極的には己の尊厳を守ることだ。それは弱者であるが故の意地だったが、なにも世界中全ての人にシルヴァ・フォーリスここにありと示したいわけじゃない。僕を認め、求めてくれる人がいるのならその人と共に生きていくことはきっと幸せなことだ。
でも、僕は今までの人生を、この意地を曲げるような道は断じて選べない。
ああ、彼女は間違いなく僕を認めてくれている。鬼人達も、決して僕を軽んじはしないだろう。
だけど。
「ヒルダさん、あなたは先程言いましたね。『自分より弱いのは構わない』。『守ってあげたくなる』、と」
「・・・・・・え?」
それは、きっと、彼女の中ではそんなに重要じゃないこと。その後の言葉の方が、ずっと大事だったんだろう。
でも、僕は決してその言葉を容認できない。
「僕は、ただ自分の在り方を自分自身に示すために力を求めた。この生き方は、誰のためでもなければ、まして誰かのせいでもない。」
「・・・・・・・・」
「だから旅を辞めるのも、力を求めるのを辞めるのも誰にはばかる必要も無い。だけど。」
僕は背負ってきていた――――戦闘前に隅に置いていた――――荷物に近づき、バックパックを開く。
そして、その中から掛け値無しの『切り札』を取り出す。
「弱さを容認することだけは、他ならない僕が許さない。」
「っ!」
ヒルダさんが息を飲む。
理由は分からない。僕の言葉を聞いたからかもしれないし、僕の表情を見たからかもしれない。
察しの悪い僕には、本当のとこは分からない。
でも、構わない。
いつだって、僕にできることは力を示すことだけだ。
「だから、ちゃんと戦いましょう。手加減をしたあなたに倒されて、その弱さを容認して、そしてぬるま湯のような幸福に浸る・・・そんなのは、嫌なんです。」
根拠はない。でも、不思議と確信がある。今の僕は彼女のことを何も知らないけど、きっと彼女と一緒になれば死ぬまで幸福でいられる。時々喧嘩して、それでも互いを尊重して・・・そんな理想的な関係が築ける。
でも、僕の意地はその未来に待ったをかける。
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ヒルダさんが声を荒らげる。
僕が言ってることの意味がわからないんだろう。それも仕方ない。
「ええ。でも、だからこそやりたいんです。確定していない未来になら、抗える。」
そう言いながら、僕は「準備」を始める。さっきも言ったけど、僕はどんな相手でも諦める気も負けを認める気もない。
普通にやって勝てないなら、それ相応の準備をするだけだ。
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それが出来なきゃ、僕は彼女の隣に立てない。
だから、今できる全てを尽くす。
最高を超えた狂気で、常識を、限界を、殺す。
「殺す気で来てください、ヒルダさん。僕はそのうえで、あなたに僕を・・・『シルヴァ・フォーリス』を認めさせてみせる。」
「わ、私は既にあなたを・・・」
「くどいです」
僕はそう言って笑う。そもそもこの戦いは彼女の事情で始まったんだ。だったら少しくらい、僕の意地を尊重してくれてもいいだろう。
でも、やっぱりまだ迷っているみたいだ。まあ、そりゃそうだろう。下手したら僕は、彼女の呼吸ひとつで消し飛ぶ。僕と彼女は、それくらい生き物としての格が違う。そんな相手に殺す気で来いと言われてもそりゃ二の足を踏む。
だったら、先に僕が力と覚悟を見せよう。
僕が先程取り出した『切り札』・・・。それは二粒の錠剤と、特殊な無針注射器の中に入った液体薬剤。
僕はその錠剤を口に含み、そして注射器を首に当てる。
擬似悪魔化が僕の最高傑作だとしたら。
今から使うこれらは、狂気の産物だ。
無針注射器の引き金を引く。それと同時に、液体が全身に行き渡って行く。
「ぐぅっ・・・!」
全身に酷い倦怠感と、鈍い痛み。体が拒否しているのがわかる、凄まじい副作用。
でも、これは番外試薬では無い。れっきとしたナンバーズだ。
体の痛みなどの即時的な副作用と、強い依存性。およそまともな人間が使うものでは無いが、仕方ない。
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